まちづくり効果を高める橋梁デザイン

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2024.10.02

vol.3 ヨーロッパの橋、見て歩き(1)

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まちづくり効果を高める橋梁デザイン
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全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア コンクリートを”はつる”

地元の要望で橋梁林の木を使うことにグレンナー橋(Glennerbrücke in Peiden Bad)

 最後に紹介するのは、以前、「橋の役割を考える(中)」の地場材の活用で取り上げたグレンナー橋です。先ほどのクールから、保養施設テルメ・ヴァルスで知られるヴァルスに向かう途中にある橋です。

 もともとこの場所には1892年に建設された鋼トラス橋が架かっていて、補修しながら使ってきたものの、腐食がひどく架け替えることになったようです。設計者であるコンツェットさんは当初コンクリート橋で架け替えることを考えていたそうです。ところがカムンス村の人たちから、村には橋のための共有林があり、それを無償で提供するから木造の橋にして欲しいという要望を受け、木材を用いた橋を検討します。

 架橋位置を変えることや屋根付き橋も検討したようですが、橋のたもとにある村の教会の持つ意味や建設コストの点から、以前と同じ位置で、橋台を再利用して架け替えることになりました。


写真9 2024年9月に撮影したグレンナー橋


竣工から22年経った状況

 グレンナー橋は2002年に竣工していますので、今年で22年経っています。

 カーボンニュートラルや森林資源の循環利用の観点から、橋でも木材をもっと使っていきたいと思っているのですが、当然ながら劣化に対する不安が大きいですよね。そういうこともあり、22年経過した状況を確認したいと思い再訪しました。

 撮影した写真をご覧いただくと、以前に比べて褪色は進んでいますが、目立ったひび割れや腐食は見当たらず、素人目には問題があるようには感じられませんでした(ぜひご専門の方のご意見をお伺いしたいです)。

 ここは、雪もそれなりに降りますし、渓流で湿気もそれなりあると思います。それでもこのような状態を保っているのは、後で詳しく述べるコンクリートの床版が屋根の機能を果たしているのが大きいのではないでしょうか。


写真10 2024年9月に撮影したグレンナー橋の木部


製材で組み上げる工夫+合理的で安価な接合方法

 村の共有林を使うことから、集成材ではなく製材でつくるために、方杖を5つ重ねるアイディアが用いられています。さらに細い方杖の変形を拘束し橋台に軸力を伝えるために、方杖を貫通するように変形を拘束する木材が配置されています。

 福田武雄先生の著書『木構造学11)』を見ると、構桁概説の項目に類似した側面図が掲載されていて、多数の方杖を組み合わせたものをMultiple Trussと呼ぶと記されています。

 寸法を読み取れる図面を入手できなかったので以下は概略となりますが、橋長は24.5mですので、おおむね2m程度に分割されていることになります。方杖の部材断面は、横幅30cm程度、縦は15cm程度だと思われます(大まかな形状はこちらの資料12)で見ることができます)。

 方杖と副桁の接合部も独特で、モルタルを流し込むだけの簡易なものになっています。また桁下面の木材を型枠代わりに用いる工夫もなされています。

耐久性を高める断面構成

 橋の有効幅員は4.8mで総幅員は5.8mです。これに対し、方杖の橋軸直角方向幅をできるだけ抑え、2.2mとしています。これにより1.8mの張り出しを確保し、できるだけ雨に濡れないよう工夫しています。方杖を真ん中に寄せることで生じるねじれは、コンクリート床版を橋台にしっかり載せることで解消しています。

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おわりに

 いろいろと調べながら書いているうちに長くなってしまいました。最後に、今回の記事を踏まえて、コンペと溶接について感じることを述べたいと思います。

 今回取り上げた3つの橋のうち、2つで合計3回のコンペが実施されていました。いずれも方法が少しずつ異なっています。オープンなのか指名なのかといった参加の制約、また審査の回数にも違いがありました。ヨーロッパはコンペの歴史があり、さまざまな知見が蓄積されていると感じます。土木学会の『土木設計競技ガイドライン・同解説+資料集』を中心となってまとめられた富山大学の久保田先生にお声がけいただいて、コンペに関する研究に取り組んでいますが、海外事例を参考にしながらより良いコンペのあり方について発信していけたらと思っています。

 2点目の溶接についてですが、ヨーロッパではボルト接合の橋に出会うことがほとんどありません。今回の2つの橋も、工場と現場の両方で溶接を実施し、全溶接となっています。きっとヨーロッパでは、溶接がスタンダードで、特別なものという意識がないのではと感じています。日本はまったく逆ですよね。

 橋の長寿命化の観点からボルト接合より溶接が優れていることはよく指摘されています。また同じ形状であれば、溶接の方がボルト接合よりも鋼重が軽くなるので構造的な負荷を減らすことにつながります。技術的にも、全溶接ができないわけではないはずです。景観の立場からしても、溶接の方がずっと優れています。構造・維持管理・景観の面で利点があることを考えると、日本でももっと全溶接を増やせるのではと考えてしまいます。全溶接をスタンダードに。そのためには何をクリアしていけば良いのか、議論していけたらと思っています。

 次回は、橋梁予備設計を念頭におきながら、橋の構想デザインをどのように組み込んでいきたいと考えているのかをお伝えしたいと思っています。次回は11月末を予定しています。またご覧いただけますと嬉しいです。

グレンナー橋 脚注・参考文献
11)福田武雄:木構造学,壮文社,1949.
12)Martin Tschanz: Brücke und Ort, Bauen + Wohnen, 2003.
https://www.e-periodica.ch/cntmng?pid=wbw-004%3A2003%3A90%3A%3A1120

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