道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~

道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~
2024.10.16

⑤輪荷重走行試験機1号機が阪大で誕生・・・・・動的実験実験前の前哨戦!

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道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~
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CORE技術研究所 エンジニアリングがつなぐ人とインフラ 全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア
>松井 繁之氏

大阪大学 名誉教授
大阪工業大学 客員教授
工博

松井 繁之

(1)阪神高速道路での陥没事故後の委員会活動

 昭和47年に発生した阪神高速道路の床版陥没事故について、阪神公団内の委員会で原因について激論があった。この内容について前報までに述べたとおりであるが、京都学派の委員からは材料と施工に問題があったと意見陳述された。これに対し、大阪組の大工大・岡村教授、大阪市大の園田教授、ならびに大阪大の松井は、これまでのひびわれ調査によるひびわれの進展を見ると、広義の疲労(鋼材の疲労は1点の応力で説明できるが、コンクリート構造では、どの応力も正しく挙動は説明できないので、載荷荷重をその部材が有する耐荷力による無次元量で疲労の評価を行うのが一般的であるので、広義の疲労と言う)と言えると反論した。その後、委員会は非常に穏やかに進み、主催者である阪神高速道路公団側の委員は次々と重要なデータの提示と新しい課題を挙げ、委員会は表5.1に示したように約15年間も続いた。


 上記の疲労であるとの証明のため、国土交通省委員から提出された現場切出し床版のたわみ結果に対し引張側コンクリートを無視した直交異方性版理論に基づいた解析を行い、図5.1を提出できた。


図5.1(a)  一定点載荷の試験による床版下面のひびわれ状況

図5.1(b)現場切出し床版のひびわれ状況

図5.1(c)定点載荷による静的・疲労試験時のたわみ挙動と現場切出し床版のたわみ挙動の比較


 すなわち、床版下面のひびわれが格子状になった状態に至るとたわみの特性値はこの理論値と良い一致を示した。一方、新規に作成した床版で、床版中央に載荷版を置き、静的に破壊まで載荷させるとたわみの特性は左側の曲線となり、たわみは引張側コンクリートも有効な等方性版理論値に近似した結果にしかならないこと、更に、このような新規製作床版に疲労荷重をかけても静的試験値より僅かに増えるだけである。このような結果から我々大阪組は、陥没事故は広義の疲労現象と考えるものであると述べた。この報告に対して京大学派からの反論は無かったので安心した。

 その夜、大阪組は美酒を頂きながら、さらに良い説明が出来ないかと終電近くまで議論した。2、3回の反省会をやり、岡村先生は非線形解析をすすめていると話され、松井は今あるローゼンハウゼン試験機のジャッキを多数の載荷点に移動させて疲労試験する案を披露した。園田先生は解析屋であり、岡村先生の話に相槌をされていたが、実験するとの提案には反応は無かった。

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(2)多点移動載荷法の考案

 しかし、図5.1に示した報告書作成時には、園田先生も陰で多点移動載荷の実験をされていたことが分かった。後日判ったのであるが、移動載荷の考えは松井先生のアイデアであると周りの人たちに話されていたのである(この報告書執筆の中で、輪荷重走行試験もこそっとされていたのが、外部への論文発表は全くされていなかった。それで、そのデータを頂き、S-N曲線の作成に使わせて頂いたこともここに紹介しておきたい。本年に園田先生は亡くなられた。ご冥福を祈念します。)

 ローゼンハウゼンのジャッキを移動するには、これを梁に取り付けているM30のボルト8本を緩め、2台のチェーンブロックを用い、滑らせて次の載荷点まで滑動させ、再度ボルトを締めつける作業を繰り返し行う必要があるので、この作業を日中だけ行うとしても日に5回行う必要があり、学生らに頼むのはパワハラそのものであった。


写真5.1 移動載荷を効率化させた十字架梁装置


 しばらくして、写真5.1に示すような十字架風の3本の鋼梁を供試体の上側に配置し、長い中央のはり下の載荷点だけ移す機構を造った。この長い梁の先端をチェーンブロックで引き揚げ、載荷板とロードセルだけ移せば、所要時間僅か10分程度で、次の載荷点での載荷が出来るようになった。この長い梁のお陰で、載荷点を9点に増やしたが、学生らから文句が出なくなり、自主的に交代で、停止時間ほぼゼロで多点移動載荷実験ができた。

 このような方法をとったかどうかは不明だったが、大阪市大、ならびにこの試験方法を教えた日本道路公団試験所の藤田氏らも多点移動載荷の実験を進められた。両者の載荷点は幅方向にも設けられ。これらの実験結果を纏めたのが図5.2である。この図でも判るように、回数が進むと、たわみは引張側コンクリート無視の直交異方性版理論値まで増加した。もちろん供試体下面のひびわれは格子状になったことは言うまでもない。


 この実験で載荷をしつこく続けると、床版からキイキイという音が発生したので中の鉄筋が疲労破断したと判断し、載荷を終了して中央部のコンクリートを取り除き観察すると、3本の主鉄筋が疲労破断していた(同様な音の発生を非合成の実橋で聞いたことがあり、管理者にスラブアンカーが切れいるのではないかと伝えたところ、すくに調べられて、私の推測どおりに、スラブアンカーがフランジ上の溶接端で破断していたと悦ばれた)。上記の主鉄筋破断は、コンクリートがせん断破壊する実橋床版と異なる破壊結果となった。

 この現象は多点移動載荷中に生じたものであるが、一つの載荷点での繰り返し載荷数が多く、その累積によって、鉄筋が多数回の曲げモーメント作用を受けて曲げ疲労破壊に至ったと言えた。やはり、実橋のように上に乗る自動車が走り抜ける実験方法が必要と痛切に感じた。多点移動載荷では各載荷点に1万回程度の繰り返し荷重を与えて、5点あるいは9点の載荷点を変える試験法であるので、荷重の移動は5万回あるいは9万回の合計載荷毎に1回移動するだけとなる特殊の方法であったと言える。

 多点移動載荷の実験では床版下面に格子状のひびわれ網が形成されると引張側コンク―ト無視の状態に至らしめることは出来て、移動する荷重による疲労現象であるとは言えたが、実橋のような破壊の再現は無理であった。結果として、荷重が動的に移動する方法は無いのかと苦悩する日が続いたのである。

(3)新しい試験方法の模索

 私は時間があれば新しい試験方法を考えており、ある時、蒸気機関車の車輪の動きがヒントになり、1つの車輪を長いアームで動かせばできるのではないかと気付き、早速ポンチ絵を描いて、前田教授に相談に行った。教授は私の話を聞くと即座に、夢のような思い付きの話を聞いている時間は無いし、君ね! 床版の解析研究もしていないので実験の話はしないでほしいと言われた。失意は無かったが、分かってもらえなかった無念さを味わいながら、すごすごと教授室を退出した。自室で林先生がコーヒーで癒してくれた。

 その後、これまでの実験経験と異方性版の解析結果、ならびに実橋での載荷実験経験を基にして、RC床版の劣化度判定法の論文を書き上げ昭和57年度土木学会関西支部「既設橋梁構造物およびその構成部材の健全度,耐久性の判定」に関するシンポジウム論文集に、道路橋RC床版の劣化度判定法に関する研究を公表し、若干なりとも先生の不信感を取り除けた感じであった。この劣化度判定法は現在でも多くの研究者が使用してくれている。

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