新しい時代のインフラ・マネジメント考

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2024.10.16

⑥ぬけているもの

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>植野 芳彦氏

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人 国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

1.はじめに

 今年の夏は、異常に暑かった。そして、ゲリラ雷雨。台風。と皆さん、ご無事でしょうか? 自然界が異常な状況になっている。これも我々にとっては大きなリスクである。結局は、設計も施工も運用、維持管理も、リスクとの戦いなのであることを改めて思う。しかし、特に降雨量は、ここ数年明らかに、一時に降る量が増えており、50年に一度とかつて言っていたものが毎回来る。それぞれの立場があるが、変化しているものに対しては、迅速に対応できなければマネジメントは成り立たない。さらには地形や地盤に対するリスク分析が必要である。地質や地盤、地形に関する事項に関しては非常に難しい問題であり、なかなか究明は難しい。

鋼構造物の再生と環境の調和 循環式ブラスト工法、循環式ショットピーニング工法 道路下面施工が容易で発泡ウレタンの圧縮変形特性を活かした非排水用乾式止水材 プレスアドラー 全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア

2.どうもおかしい・・・・

 知り合いの大学生が、インフラに興味を持ち、いろいろと活動している。東京都のスタートアップ人材育成事業の一環として、私も多少お手伝いしている事業の参加メンバーの1人であるが、直接役所に行ったり、コンサルにから聞き取りをしている。そこで、相談があった。「ある自治体に行ったら点検が大変だ。」と言っていた。さらに、そこで紹介されたコンサルに行ったら「点検の発注金額が安くて困る」、「点検が大変だ」と言っていた。それを、彼は社会問題化しようとしていて相談を受けたのだが、「点検はそんなに大変か? まあ、金額は安いだろうな?」しかし、考えてみよう。前にも書いたように点検は、重要なのだが導入部分である。一方で確かに複雑な橋梁や難しい橋梁も存在する。なので、技術系費をどのように考えるかしっかりした考えを発注者は持つべきである。

 点検にも高度な技術力がいるような、特殊な橋梁や難しい橋梁もある。これはこれで別物である。しかし、一般的な橋梁に関しては、そうではないだろう。ここでもランク分けが必要である。業務である以上、どんなものでもきちんとやらなければならない。そして何よりも専門家に発注しているはずである。プロに出しているはずなのだ。

 一時期、ドローンがもてはやされた。しかし、最近あまり聞こえてこない。これは私にだけか? 前回の点検要領の改定の際に、ドローンの使用に対して意見を聞かれた。私は「橋梁に関する十分な知識を持って、判断できる人間が点検に使用するのはよいが、そうでない場合はよしたほうが良い」と言った。しかし、ドローンも、どこどこでやっているではなくて、どこどこの“誰”がやっているから、成り立つのである。ここで役所の弱点である人事異動で移動してしまえば」それは崩れ去る。この辺のことがわかっているのかね?

 こんな感じで、点検自体3巡目に来た。もうそろそろ次のステージに行くべきである。

 しかし、実際に見ていて、私が一番疑問だったのは、まず1巡目の時に詳細点検の必要を言ってくるコンサルが1社もなかった。富山市は2,300橋あるので、年間に400橋から500橋を点検しなければならないのだが、それだけ見て1橋も詳細点検の話が出てこない。おそらく「何の疑問も持たずに点検という行為だけしているな!」であった。ひび割れは、幼稚園生でも見つけられる。しかし、ひび割れの性状から、何が原因か? を考察しなければならないはずだ。診断協議をすると、分からないものはすべて「ASR」にしてしまう。これはコンサルも職員も同じ。見てわからなければ、さらに深堀してみようと思うのが、技術者であるはずだが、それがない。ということは点検にかかわっているのは、素人か技術者ではない者、もしくは手抜きであると感じた。多いのは構造物の素人である。


高速道路上のオーバーブリッジ(すでに撤去済)
このクラックは、ASRではない!わかりますか?PC橋は「メンテナンスフリー」と言われたが???


 2巡目になると、さすがに職員のほうから詳細調査や試験などの提案というか、「やってもよいか?」ということが言われ始めた。これは大きな成長であった。なぜ、やるのかを聞いてみて、明確に考えていたり、経験としてやらせたほうが良ければ、大体はやらせたが。点検をしたら疑問を持つことが重要であるのだ。

 これは設計でも同じである。なぜそういう結果になるのか? を考えることが重要なのである。そうすれば大きな間違いはしない。かつて、標準設計を馬鹿にしていたような人たちはおそらく理解できていない。世の中の多くの橋は標準的な橋なのである。

 点検は点検なのである。維持管理そのものではない。維持管理とは、状況を見極め、手立てをしていく。できれば安全に長持ちさせることである。まずここで、何らかの手立てであるが、ひび割れしか拾えてないから馬鹿みたいに「ひび割れ注入」をやろうとする。ひび割れ注入をする意味と効果、コストパフォーマンスは、果たして「あなたの自治体、顧客のニーズと合っているのか?」なので、この辺を考えてほしい。安易な断面補修もそうである。


 維持管理とは、長い道のりで無くならない。物を作れば必ず発生し、無くなるまで、継続しなければならない。メンテナンスフリーなどという発想そのものがおかしいのだ。そして、最初に(イニシャル時)にどう造るかが、その後に大きな影響を与える。

3.ぬけているもの

 現在の維持管理、インフラのマネジメントにおいて、私が感じている一番重要なものは、イニシャル~いわゆる初期の~品質と健全性である。どう作るかである。最初から欠陥や問題があるものでは、維持管理が非常に厄介になっていくことが議論されていない。現在の考え方は、現存するものは、「すべて健全だ。正しい」という前提に基づいて点検を行っている。しかし、結構な量の初期不良が実は存在する。

 かつて、作る時代でも、1つ1つの「(構造物などの)品質」が重要だったはずである。しかし、工程をよく理解できない人たちによって脆弱なものが作られてきた。「経済設計」という名を借りた不必要なまでの断面の縮小間違った効率化、生産性の向上という品質の低下メンテナンスフリーという虚偽の、まやかしのPRに乗った、ほったらかし、と構造物をいじめてきたわけである。そしてその議論はなかった。

 これは、自分の経験からも明らかに感じていた。そして先日、ここにも書かれている、九州の平瀬真幸さんのお話を聞き、3日間現場を一緒に見て説明を受け感銘した。多くの方は、机上で計算すれば設計は終わりだと思っているかもしれないが、そうではない。材料をどうするのか? 配合の問題もある。衝撃だったのはスランプ比によって構造物の出来が大きく違うことである。私はこれまで、スランプは水セメント比に現れ、緩いと構造物に良くないことになるというのはなんとなくわかっていたが、スランプとバイブレーターの締固め時間が大きく影響するようだ。机上の話ばかりをしていると、現実が見えなくなる。なんとなく高流動コンクリートは寿命に影響しているとは考えていたのだが、省力化ということが寿命にも影響してしまう。施工手間を考えると確かに、施工工数や時間が縮小される。しかし、それによって得られる効果は大きいと感じた。鋼橋などでも、逆ひずみや、ひずみ直し、面取りなど細かな配慮をする業者もいればそうでない業者もいる。単なる無知なのか?手抜きなのか?


手間をかけてしっかりとしたコンクリートを打設すれば、耐久性の高い構造物はできる


 「良いものを安く」というのは基本ではある。しかし「手抜きで安く」はいただけない。「長寿命化」や「予防保全」と言ってはいるが、粗悪なものを管理していくには大きな手間とコストがかかる。そこを理解したうえで、実行しているのであれば仕方がない。結果的に高コスト社会を受け入れるということなる。

 やはり、できるだけ、イニシャル時にきちんとしたものを作ることが重要なプロセスである。同様に、長持ちするものを作ることである。これがあったうえで、「予防保全であり長寿命化」が可能になる。イニシャルコストを下げるのではなく、イニシャルの構造物を適正に作ることが重要である。ひび割れはだれでも見れば見つけられる。問題はそれが何でできたか? 老朽化なのか初期不良なのか?さらには鉄筋量の不足なのか? 最低鉄筋量というものを知らないコンサルもいる。

 今の机上論では、これが完璧にできている仮定の下に維持管理を行うのである。まずは計画時の不備があり、現場の状況を把握しきれていない。そして設計時には、様残な不確定要素が発生していることを気付いて設計しているだろうか? 断面を決める行為そのものでも、正解値はない。私がかつて疑問に感じていたのは、公団系でよくあった「許容応力度の余裕をゼロにしろ」という指示。当時私は、鋼構造が専門だったので、「そんな理不尽な! 板厚を1mm動かすとどれくらい変化するかわかっているのか?」と申し上げたところ「工夫しろ」であった。これは、当時の担当者が、相当の時間と労力を要することがわかっていたのかいないのか? そのうえ、脆弱な構造物が出来上がる。本来であれば社会的損失である。

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