高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦

高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
2024.12.01

第4回 「自ら学ぶ力」と「問題解決に使える力」を身に着けさせる

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高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
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鋼構造物の再生と環境の調和 循環式ブラスト工法、循環式ショットピーニング工法 国土強靭化への第一歩! 超緻密高強度繊維補強コンクリート『J-THIFCOM』 劣化状況の見える化が可能な剥落防止工 無繊維型高強度透明樹脂
>玉田 和也氏

舞鶴工業高等専門学校
社会基盤メンテナンス教育センター
センター長

玉田 和也

職員の技術研修もできないような就職先に学生を斡旋することはありません

 第3回における西川理事長のやり残した地方への支援という話を受けて、私の話も進めていきたいと思います。

【地方の現状】
 地方のインフラメンテナンスを考えるにあたり、地方自治体の技術職員の不足が問題となっています。特に地方の市町村においては、正規の土木工学の教育を受けていない人が土木技師の立場で働いていることも珍しくない状態に陥っています。私は高専の教員なので、自治体の職員募集の案内を市町の建設系の幹部の方からいただくことがあります。そんな時には、「技術研修のお誘いをした際『多忙のため職員の参加は難しい』と話されていましたよね、職員の技術研修もできないような就職先に学生を斡旋することはありません」、と返答するようにしています。

 重ねて、「あなたの子供や親戚に、あなたの職場に就くように誘えますか?」と聞くようにしています。厳しいようですが、高専なので5年間かけて育成した学生の人生に係ることですから、高専の先生としても必死なわけです。卵が先か、鶏が先かという話になるのですが、地方自治体の技術職員の不足を解決するにあたっては、地元への愛着だけにすがるのではなく、職場環境や技術者としての成長・展望を見いだせる魅力的な職場にしていく必要があると考えています。まっ、理想論ですけどね。

 職場環境という話になりますと、私がしばしば聞く話として、「自治体職員は、災害対応をはじめ、住民対応や溝蓋の修理や、街路灯の世話など多種多様な仕事をやらなくてはならないので、橋梁技術の勉強なんやっている暇はないし、専門知識が無くてもやっていけるような仕事の仕組みにしないと役所はダメなんです。」とうのがあります。さらに、「2年ごとに異動があって、だれが担当になっても業務ができないとダメなんです。そのために調査費や設計費を支払ってコンサルと契約しているんです。」と、いうのが講習会等に参加しない、または、参加させないための論理展開のようです。確かに一理あると思います。でも、これを言うのは、たいがい技術力の獲得に消極的な方で無為徒食な人生を謳歌されている方のようです。そもそも「働く」という言葉の定義が私とは異なる方なのでしょう。

 委託すれば済むという話、インフラメンテナンスに関して国土交通省やNEXCOならまだしも、私の見ている地方の世界では、アウトソーシングできる技術力を有するコンサルタントは地元に無いし、仮に一流のコンサルタントに委託しても、3軍とか4軍クラスが担当するのが関の山です。どう考えても地方の技術過疎地域では役所の人の技術レベルを上げないとインフラメンテナンスはまわっていかないのです。

 新設工事の場合、第2次世界大戦前までは、役所が設計して現場監督も直営で行い、場合によっては材料支給まで官が行っていました。そして、請負として業者が施工するという仕組みでした。それが、民間の経験と技術力が積み重なるにつれ、官から民へ仕事が移行して、今の仕組みになってきました。新設工事や災害復旧については、自治体職員も地元業者も手慣れたもので、役所は設計や工事を発注する、コンサルは設計する、業者は施工する、ということで何とかなる仕組みが構築されています。

 一方、今のところ、インフラメンテナンスは新設工事や災害復旧と異なり、官も民も経験が浅くて、フローチャートに沿って決めることができるような、画一的な仕事のやり方ではやり切れない仕事であると私は認識しています。市民の負託を受けた役人が市民になり替わって、例えば橋の維持管理の作戦を考えて実行していかなければなりません。そこには、住民目線でないと見えない風景があり、それに寄り添った処方を、資金が不足しているからこそ、工夫して考える必要があると思っています。

 自治体職員の確保については、誰でも出来るような仕事ではなく、高度な知識と経験が必要とされ、住民の安全・安心を保持する崇高な仕事なんだ! ということを堂々とアピールできる職場にしていく必要があるでしょう。アウトソーシングすべきは不毛な書類作成や手続仕事であって、そこにこそDXを導入するべきだと考えます。


昭和16年竣工 相生橋(T断面RCゲルバー桁橋)主桁配筋図
内務省管轄の国道の橋,京都府が材料支給して工事発注・監理した時代の橋

CORE技術研究所 全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア

設計は重要なんだけれども、部屋にこもっていてはダメ

【モノを造るということ】
 橋を造るにしても、橋を修繕するにしても、お金を出さなければ何もできません。お金さえ出せば何でも手に入るとは思わないでほしいのですが、役所の論理でいくと「公金を投入」したからには、それなりのモノが出来ているはず、で失敗はあり得ないそうです。

 私の前職の橋梁メーカーでは、設計と製造、工事が一つの会社のなかにありますので、設計のミスが工場の生産性や現場での工期や安全に影響を及ぼすため、設計技術だけでなくて、製造や現場架設について先輩方から厳しく指導されました。製造現場や架設現場からのフィードバックがあるため、計算や図面のチョットしたミスや勘違いが及ぼす影響を身をもって体験することができました。そんなことで、設計は重要なんだけれども、部屋にこもっていてはダメで、自分が計算し図面を書いた設計が、工場や現場でどのようにしてモノになっていくのか?そこまで知らないとモノづくりとは言えないことを痛感できました。

 特に、メンテナンスの現場では、調査と積算は整合していますが、それに基づく発注と現場の状況や施工性、工法選定のところには齟齬が散見されます。
例えば、伸縮装置の非排水構造の劣化からの漏水対策や、伸縮装置が途切れている地覆部からの漏水対策などの場合は、役所もコンサルも現場施工の人も一緒に現地に行ってちょっとでも良い対策を考えることが出来る体制というか雰囲気が必要で、そのためには役所もコンサルも現場施工の人も全てのプレーヤーが、ふさわしい知識と経験を有している必要があるでしょう。

 また、インフラメンテナンスの現場では、「設計はフィクション、維持管理はリアル」と言われるとおり、設計計算と実際の挙動の間には隔たりがあります。そのため、設計計算上、問題があっても、その隙間のせいで、実際の挙動や問題として見えにくくなったり、問題はなかった、杞憂であったと勘違いされる可能性が排除できません。さらに、付け加えると、それが維持管理現場においても、ややもすると、設計計算を軽視して感覚的なところで判断する傾向も出てきている場合があるように思えてなりません。この不安を解消するには、維持管理に関わる全ての人の技術力の向上と倫理観の醸成しかないのではないか、と思っています。

 私の体験した具体例を挙げると、落橋防止ケーブルを設置するために端対傾構の斜材を切断していました。端対傾構は直接T荷重を載荷して設計する1次部材であって、斜材はT荷重によって設計されているにも係わらず切断されていました。また、RC床版橋の設計計算と発注図の間で鉄筋径とピッチに齟齬があり、設計計算の半分以下の鉄筋しか入っていないRC床版橋が施工・供用されています。それに対して鋼板接着による補強を提案しましたが、新設構造物に補強することは役所の論理的にあり得ない、とのことでした。

 ここまで述べてきましたように、モノを造るためには、それに携わるヒトを育てていく必要がある、と高専教員の私は考えています。読者の皆さん、それぞれの立場で何をやっていかなければならないのか、何をやるべきなのかを考えてみてください。


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「自ら学ぶ力」と「問題解決に使える力」を身に着けさせる

【高専での人材育成】
 高専は15歳~20歳までの5年間で専門教育を実施する学校です。5年間を使ってどのような専門教育を実施していくのか、数学や物理の進捗を睨みながら、実習実験や求めるレポートの内容・レベルを考えながらカリキュラムを組んでいます。高専での人材育成は60年の歴史があり社会的にも評価されていると自負しています。

 しかしながら、AIが社会実装しつつある今、知識を教授することの意義が問われています。単なる知識は外部記憶に任せることになりつつある中で、何を学生に教えていくべきなのか? 知識の定着という意味で暗記も必要ではあるものの、それが本質ではないだろうと考えています。時代とともにそろばん、計算尺、電卓が計算行為の道具として日常的に定着していったように、ネット検索、ウィキペディア、生成AIが情報収集のツールとして日常化するでしょう。その際、高専で何を教えるのか? 一つは、知識・情報をベースとした本当の意味での学力、すなわち「自ら学ぶ力」と「問題解決に使える力」を身に着けさせることではないかと私は考えています。加えて、自身の才能を世のため人のために発揮するんだ! という矜持を醸成すること、土木技術者としての倫理観の醸成を目指したいと考えています。

 そして、このような高専教育の資源を土木技術者へのリカレント教育や土木工学未受講者へのリカレント教育に開放することで、インフラメンテナンスの技術力向上に貢献することがKOSEN-REIMのミッションであると思っています。

 さらに、人材育成を担当する人材としての実務家教員の育成にも注力しています。100年以上の供用期間を有するインフラ構造物を寿命が80年しかない人間が継続的に維持管理するには世代を超えた人材育成の継続性が必要であり、KOSEN-REIMでは、実務家教員育成講座として取組んでいます。

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