インフラ未来へのブレイクスルー -目指すは、インフラエンジニアのオンリーワン-

インフラ未来へのブレイクスルー -目指すは、インフラエンジニアのオンリーワン-
2024.04.22

① 跛鼈千里の思いと行動で成果を得る ‐ 理不尽な発言にもめげず、最後まで自分の考えを突き通す ‐

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2.3本当にウルトラファインバブル水に高い洗浄効果があるのか?

 第3回UFB水洗浄効果検証実験を終えた私は、周囲が期待していた成果を示すことが出来なかったことから、この2年間は何をやっていたのかと自問自答し、心に整理がつき再出発するまでにひと月半を要した。時は経過していくが私自身の心の中は一向に晴れず、UFBやマイクロバブルを活用するシャワーヘッドの宣伝やUFB洗浄効果を全面に押しだしたTOSHIBAの洗濯機の宣伝を見るたびに不快な気持ちが大きく膨らみ、遣る瀬無い気持ちが一杯な状態となった。肝心のUFB水洗浄について何とかしなくては思い悩んでいる時に、UFB水による構造物洗浄フィールドの提供と検証実験費用を捻出していただいた東京航空局のH職員から話があった。「髙木さん、UFB水による洗浄ですが、上司のS部長がUFBの洗浄効果に大きな疑問を抱いています。「今年度から開始を予定している実橋を対象とするUFB水洗浄を業務として行って本当に大丈夫なのか?」と確認されているのですが? 髙木さん、本当にUFB水による洗浄に効果があると断言して大丈夫ですか?」であった。確かに、第2回目の検証結果はともかく、A課長とH職員立会いの基行った第3回UFB水による洗浄効果検証実験は、先にも示したように優位性を示すことは全く出来なかった。

 逆に、UFB水よりも一般水の方が洗浄効果において優位となる結果もあったことから、構造物洗浄を実務として執行する部署としては、UFB水洗浄に疑問を抱くのは当然の評価・判断である。これまで私が積み重ねてきた東京航空局に関するインフラメンテナンスに関する強力な支援行動や適切な判断力に対する評価と信頼関係が無ければ、東京航空局としては、UFB水による洗浄は「NO!」との結論が下されていたと考える。最悪の状態に追い込まれたその時、私に何時もの「とことんやろう!」が舞い降りてきた。考えれば考えるほどUFBに対して忖度するような自分は無い、「自分が納得するまで、徹底的にトライアルしてやろう。ここで諦めたらこれまでの苦労は水の泡だ」との気持ちが頭を擡げ、もう一度初心に帰って取り組んでみようとの気持ちが私の中で一杯となっていった。その後は、私としては、如何に第4回目となる実証実験費用(初年度に2回、次年度1回)を捻出するか、そして、最も重要となる、どのような方法で第2回目の検証実験で得たUFB水洗浄の効果を明かにするチャンピオンデータを再現させるかに向っていくことになった。

 そこで私は、第1回、第2回、そして第3回の検証実験の何処に差異があるのかを全データを基に比較に入った。UFB水による検証実験結果を示す図‐12と一般水の結果を示す図‐13を見比べている時、第1回の検証実験結果と似通っていることに気が付いた。読者の方々も確認のために第1回UFBによる洗浄効果検証の図-3を見てほしい。また、UFB水を4倍希釈(個数濃度が1/4)した洗浄水による検証実験結果である図-14を見た時、何故効果が示せなかった理由が明らかとなった。鋼板塗装面に付着している塩分を除去するには、ある一定の個数濃度が必要であり、第3回のUFB水による効果検証実験では、UFB個数濃度が不足していたのである。洗浄効果が期待通りとならなかった理由が明らかとなれば、第4回UFBによる洗浄効果検証実験で行うことは明らか、UFB個数濃度を高めたUFB水を生成し、UFB個数濃度が減少しない条件(UFB水を放置するとUFB個数濃度が減少する等)で洗浄効果検証実験を行なえば良いとの結論である。


図-12 第3回UFB水による効果検証実験結果その1/図-13 第3回UFB水による効果検証実験結果その2

図-14 第3回UFB水による効果検証実験結果その3

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2.4 跛鼈千里で勝ち取った洗浄効果

 さて原因が明らかとなると、私自身がUFB水による洗浄検証実験に関する全ての段取りに首を突っ込み、背水の陣で取り組まざるを得ない状況となった。私が第一行うことは、過去に行った検証実験や課題を整理し、確実にUFB水の洗浄効果を確認できる実験方法を提案することである。過去の資料からUFB水による洗浄効果を示す結論は、①確実に規定固定濃度を確保したUFB水を生成すること、➁コンタミの含有量を極力抑えた水道水を原水とすること、③UFB水の洗浄効果が発揮できる圧力とすること、この3点と考えた。①の理由は、F社の生成装置の場合も第3回の検証実験に使った生成水の場合も、効果が示せなかった原因として1億個/㎖を大きく下回るUFB水であったことにある。➁の理由は、コンタミが多く混入することで、コンタミがプラス帯電で大型であることからマイナス帯電のUFBを周辺に引き付け、付着塩分や塵埃を吸着、離脱させる肝心のUFB量が減少することにある。③の吐出圧力については、高圧(5~10Mpa)とした場合、洗浄面にUFBが留まる時間が少なくなることから、十分なUFBの洗浄能力を発揮できないことにある。先示す3つの課題を踏まえて第4回UFB水構造物洗浄検証実験計画の策定に取り掛かった。私にとって計画策定について、所属先では部下がいるわけでもなく、頼りとなるのは、関係業務を東京航空局から受託したPコンサルタンツのN氏とN氏の部下のみである。洗浄検証実験の計画策定には、私とN氏は土日抜きで、深夜まで取り組みようやく実行計画を策定することが出来た。今思えば、休みなしで連絡し、相談する私について、N氏は大迷惑であったと思う、「大変申し訳ない」と紙面を借りてお詫びする。

(1)模擬鋼板を使ったUFB水による洗浄効果検証予備実験
 予備実験とは、実橋での検証実験を適切に行うために必要な設定条件を決定する模擬鋼板を使った洗浄検証実験である。模擬鋼板の大きさは、本来であれば、最低1m以上の大きさが欲しいところであるが、第3回UFBによる洗浄効果検証実験時に作成した30㎝×30㎝の模擬鋼板を使うことした。1m以上必要であると考えた理由は、UFB水を約2mの離隔距離から吹き付けると仮定すると、30㎝では吹き付けた洗浄水が流れ落ちる上下の距離が不足しているとの考えである。そこで今回は、噴射開始を模擬鋼板の上、30㎝上方としてある程度UFB水が流下することが可能な環境とした。

 予備試験に使用する模擬鋼板には、事前に塩分を付着させるが、第3回UFB水による洗浄検証実験の際は、濃度4.1%の塩水に試験板を5秒間浸漬し、引上げた後、自然乾燥させ、付着塩分量を計測した。付着塩分は最小50~1543mg/㎡最大とばらつきが大きかったが、平均で436mg/m2の塩分が付着していた。
第4回目となる検証実験では、失敗に終わった第3回目の反省点として、模擬鋼板による予備試験において、初期塩分付着量のバラツキが大きかったことを考慮し、塩分の付着方法について、供試体毎及び供試体平面位置内で差が生じないような方法とすることとした.下記にそのポイントを示す。

 ・塩分付着方法は、漬け込み方式から噴霧器方式に変更する。
 ・噴霧方式は、模擬試験体の洗浄対象面に繰り返し塩水噴霧し,安定した付着塩分量確保を目指す。
 ・目標塩分付着量は、200mg/㎡±5%を条件とする.

 模擬試験体の塩分付着量の一定化を行なう理由は、第3回のUFB水による洗浄効果検証実験結果を確認した見識者から、模擬試験体の塩分付着量の大きなばらつきは、検証実験の信頼性に大きなマイナスとなると指摘を受けたことによる。しかし、何度かの噴霧方法のトライアル(模擬鋼板の傾き、噴霧方向、噴霧回数など)を試みてみたたが、最小92.7~最大238.3 mg/㎡、平均170.3 mg/㎡と目標値を満足する結果とはならなかった。模擬試験体の付着塩分量の一定化については、今後更なる検討が必要と考える。第4回UFB水による洗浄効果検証実験は、模擬試験体による検証はあくまで予備試験であることから、ある程度ばらつきは許容することとして検証実験を継続した。鋼板塗装面に対するUFB水洗浄試験結果を一般水表-2に,UFB水を表-3に示す。

(左)表-2 第4回UFB水による洗浄効果検証実験結果(模擬試験体):一般水
(右)表-3 第4回UFB水による洗浄効果検証実験結果(模擬試験体):UFB水



 模擬試験体を使った検証実験では、一般水は第1回目の平均値が塩分除去率82.0%、第2回目が87.8%であった。一方、UFB水は第1回目の平均値が塩分除去率82.7%、第2回目が96.6%と塩分除去率はUFB水が優位である結果を示すことが出来た。

 第4回の模擬試験体を使った洗浄検証実験結果としての考察は、UFB水の洗浄効果は一般水と比較してあると判断できるが、明確な差異とは言えない。この理由は、UFBの洗浄原理が確実に働く条件で無いこと、具体的にはUFB水の洗浄面における濡れ時間が短時間であることが挙げられる。また、模擬鋼板への塩分付着力は、噴霧器で鋼板表面に吹き付け乾燥させたのみであることから、鋼板表面への付着力が小さいと予測される。実橋梁における塩分付着力は、数十年間の雨水や飛来塩分の繰り返しによる積層であることから大きいと推定される。以上のことから、ある程度の優位性は確認できたが不十分であるとの結論に至り、実橋による検証実験に期待することとなった。

(2)実橋によるUFB水洗浄効果検証実験
実橋を対象に行なう検証実験は、第1回、第2回、第3回を行った橋梁と同一橋梁を選択し、未だ洗浄試験を行っていない箇所を対象に行なうこととした。その理由は、他の橋梁を対象として実験を行った場合、既存の塗装膜、塗膜の経年劣化、飛来塩分の付着の仕方などが異なり、過去に行なった検証実験との対比が困難となるからである。実橋対象の検証実験は、先行して行った予備試験結果や第2回UFB水による洗浄効果検証実験結果を参考に洗浄面との離隔距離、洗浄幅、洗浄速度、洗浄方向等を決定し、行った。

 実橋を対象に洗浄効果検証実験を行った一般水による結果を図‐15に示す。

図-15 第3回UFB水による効果検証実験結果:実橋・一般水


 一般水の場合は、吐出圧3Mpaで噴射角10度の場合は、1回洗浄で塩分除去率94.7%、2回洗浄で塩分除去率95.1%であった。噴射角30度にすると、1回洗浄で塩分除去率46.5%、2回洗浄で塩分除去率83.0%と噴射角度の影響があり、10度の方が好ましい結果となった。初期付着量が多い場合の結果は、吐出圧3Mpaで噴射角10度の場合は、1回洗浄で塩分除去率92.1%、2回洗浄で塩分除去率96.5%、3回洗浄で96.7%と完全除去には困難との結論である。問題のUFB水による結果を図‐16に示す。


図-16 第3回UFB水による効果検証実験結果:実橋・UFB水


 UFB水の場合は、吐出圧3Mpaで噴射角10度の場合は、噴射角30度にすると、1回洗浄で塩分除去率83.3%、2回洗浄で塩分除去率84.7%と一般水と同様に噴射角度の影響があり、10度の方が好ましい結果となった。再度吐出圧3Mpaで噴射角10度の場合について実験を行った結果は、1回洗浄で塩分除去率94.2%、2回洗浄で塩分除去率99.6%と付着塩分をほぼ除去できる結果となった。そこで、UFB水による洗浄効果を再確認する目的で再度吐出圧3Mpaで噴射角10度ついて実験を行った結果を図‐17に示すが、1回洗浄で塩分除去率97.0%、2回洗浄で塩分除去率99.8%と高い塩分除去率を示した。先に示すUFB水洗浄効果検証実験結果から、第2回の結果とほぼ同様な効果確認が出来たと判断した。


図-17 第3回UFB水による効果検証実験結果:実橋・UFB水その2


 次に新たな洗浄効果検証実験を行うことを追加した。実務で橋梁洗浄を行う場合、今回の検証実験のように上から下への1方向洗浄は行うことは少なく、一般的な構造物洗浄の場合には1往復させるのが多いとの実作業者からのアドバイスを受け、離隔距離、噴射角度、吐出圧、洗浄速度を同様にし、洗浄効果検証実験を行った。検証結果を図‐18に示す。


図-18 第3回UFB水による効果検証実験結果:実橋・UFB水その3往復洗浄


 第1回目の結果は、1回の洗浄で塩分除去率は、99.1%、第2回目の結果は、98.9%と何れも高い洗浄効果を示した。第4回のUFB水による洗浄効果検証実験結果の考察を纏めると、一般水と比較してUFB水による洗浄効果が優れていることが明らかとなり、UFB水による鋼道路橋塗装面の洗浄を離隔距離2.0m、ノズル噴射角度10度、ノズル移動速度200mm/secで1往復洗浄することで、付着塩分等を確実に除去することが出来ると判断した。
私としては、今回のUFB水による構造物洗浄に対する取り組みは、ブレークスルー(breakthrough)、正に表題の困難や課題の打破する判断と行動に相応しい話題提供であったと自画自賛している。

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