高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
高専とKOSEN-REIM
高専(高等専門学校)は我が国独自の高等教育機関で、KOSEN-REIMは、高専を活用してインフラメンテナンス人材を育成しようとする事業、およびその事業を支援する法人の名称です。高専がどのような教育機関なのか、そして、その役割はということについては、この特集の第1回に玉田先生が触れておられますが、私からもう少し補足させて頂きます。
高専については、建設業界でも既に多くの卒業生が活躍していますので、ご存じの方も多いと思いますが、1962年、我が国の高度成長を支える実践的な技術者が必要であるという経済界の要請に文部省(当時)が応え設置したものです。
現在、国立の高専は北海道から沖縄まで全国に51校(55キャンパス)、公立高専は東京、大阪、兵庫(神戸)の3校、そして、私立高専は4校あります(図4)。このうち、土木や建築など建設系の学科やコースがある高専は、国立高専では31校、公立高専では2校、私立高専では3校です。現在、滋賀県が高専設置に向けて準備していますので、まもなく公立高専は4校になります。
図4 全国高専の配置図(出典:国立高専機構、著者が加筆修正)
高専全体では約55,000人の学生が在籍し、毎年1万人の卒業生を出しています(建設系の卒業生は毎年約1,500人程度)。これまで50万人以上の卒業生を輩出しています(建設系は約7万人程度)。
中学校を卒業した学生を受け入れるので、一見、高等学校と同様に見られてしまう高専ですが、法律上は大学と同じ高等教育機関です。中学卒業後、5年間の一貫教育で大学と同等の専門性を身につけてもらう早期実践的専門教育高等教育機関ということです。現在、ほとんどの高専(全ての国立高専)が5年間の本科の上に2年間の専攻科を置いていますので、高大一貫教育の高等教育機関ともいえます。専攻科修了生は、大学卒と同じ学位が得られます。多くの高専が日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定を受けていますので、この認定を受けた高専の専攻科修了生は、「修習技術者」として認定され、技術士補となるための技術士一次試験が免除されます。
高専は大学と異なり、教員の研究成果よりもむしろ人材育成のための教育がメインテーマです。ただ、高等教育機関ということで教員には研究力が求められ、そして、研究を通じて学生を実践的問題解決型の人材に育成します。また、共同研究や受託研究、そして、市民講座やリカレント教育など教員の研究力を地域や社会のために活用することも求められています。
今から62年前に国立の高専が全国に配置された理由として、全国各地の優秀な人材を我が国の発展のために活用しようとすることがあったと思います。現在でも各地の高専で優秀な人材が育成され、そして、日本のために、あるいは世界中で活躍しています。しかし、これからの我が国の発展を考えるときには地域創生が重要であり、まさに全国各地に配置された高専の役割は重要となっています。
KOSEN-REIMの誕生
こうした高専の事業である高度専門人材の育成、リカレント教育、地域貢献などと、我が国の課題である安心安全な社会、持続可能な社会基盤、インフラの長寿命化対策、インフラメンテナンス人材の必要性等々のキーワードが相まって、また我が国の社会ニーズに応える形でKOSEN-REIMが設立しました。
ただ、そうした社会的ニーズも高い業種ですが、これから就職しようとする高専の学生たちにとっては、構造物を新設するという仕事に比べてメンテナンスという仕事は地味で、なかなか人気の出ないところかと思います。その意味でも、社会基盤を維持するためにメンテナンスが大切であることを伝えなくてはいけないし、また、そうした業務に携わる人を厚遇する社会でなくてはならないと思います。
日本の地理的環境は北欧のそれとは異なり、インフラ構造物にとっては、地震、津波などの外力だけでなく、塩害、凍害などの環境面、あるいは、アルカリシリカ反応といった材料面からの劣化、そして、長年に渡って繰り返し荷重を受けることによる疲労問題などについて理解した上で対応しなくてはいけません。
多くの問題は、先人による調査研究によって原因や対応方法が明らかになっていますが、実戦となると、やはり、専門性の高い知識や技術を備えた技術者による点検・診断が必要になってきます。KOSEN-REIMでは、そうした点検・診断業務を行う人を育成するために設立しました。
KOSEN-REIMの事業
第2回の玉田先生の寄稿にもあるように、インフラメンテナンス人材育成事業として、KOSEN-REIMでは、現役高専生への教育と社会人へのリカレント教育をテーマとしています(写真9、写真10)。
研修会場は高専です。現在事業をおこなっている5つの高専では、業界各方面の協力をいただき各種教材をコレクションしています(写真11)。実践的なプログラムの講義内容や受講コース、獲得できる資格等は、玉田先生が第2回の寄稿で詳細に説明しておられますのでご確認ください。
講師は、高専の教員と現場経験豊かな技術者で構成していますが、KOSEN-REIMの講座の中で、本事業の講師を育成するプログラムも準備していますので、ぜひ、多くの方々に講師になっていただきたいと考えています(高専の先生には、公開講座の講師としてご協力いただいていますが、学生指導やクラブ活動で忙しいので、いささか疲れ気味です)。もちろん、講師の方には相応の報酬を準備しています。
写真9 全国高専の配置図(出典:国立高専機構、著者が加筆修正)
写真10 劣化教材を使った研修(福井高専)
写真11 劣化教材(舞鶴高専)
おわりに
国交省は、地方公共団体に向けて「国土交通省登録資格を活用していただくために」といったリーフレットを配布し、点検・診断等(維持管理)業務に活用できる登録資格を示しています(参考6)。KOSEN-REIMが提供している資格として、道路部門の鋼橋とコンクリート橋のそれぞれにおいて橋梁点検技術者と橋梁診断技術者が登録されているので、これからという方はぜひKOSEN_REIMをご検討ください。
参考6:国土交通省_国土交通省登録資格を活用していただくために
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001590175.pdf
おわりになりましたが、KOSEN_REIMは、多くのご支援によって運営しています。本事業にご賛同いただいております多くの企業の皆様には心より御礼申し上げます。
国立高専機構の谷口理事長は、「高専は社会のお医者さん、ソーシャルドクターを育てます。」といつもおっしゃられます(参考7)。KOSEN-REIMでは、まさにインフラメンテナンス分野の点検、診断を行うソーシャルドクターの育成を行います。
ぜひ、これからもご支援並びにご活用頂きますようよろしくお願いいたします。
参考7:国立高専機構ホームページ(理事長挨拶)
https://www.kosen-k.go.jp/about/president_message