コンクリート打設は失敗から学ぶ

コンクリート打設は失敗から学ぶ
2024.05.01

①軟らかいコンクリートと硬いコンクリート

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コンクリート打設は失敗から学ぶ
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スクラップ&ビルドからストックマネジメントの時代へ 人々の「当たり前」を守る パシフィックコンサルタンツ株式会社
>平瀬 真幸氏

株式会社ファインテクノ
コンクリート品質改善部
部長

平瀬 真幸

はじめに

 今回、新しいサイトにて執筆の依頼をいただきました。このような機会をいただいたことに深く感謝申し上げます。
 ここでは雑談形式で執筆するつもりですが詳細は決めておりません。コンクリートの品質向上やストック効果の最大化1)に対する取組みを軸に、日々の気付きや閃き、いままで考えてきたこと、など思いついたままひとり言のように執筆するつもりですので、話もコンクリートに限らずあちらこちらに飛んでしまうかと思いますが気軽にお付き合いいただけたらと思います。

 私は愛知県で生まれ幼少から高校まで鹿児島県で育ちました。進学のため上京し、学費・衣食住の全額を新聞配達で捻出して卒業しました。ここまでなら立派な話に聞こえるかも知れませんが、実は高校3年まで勉強をほとんどせず進学すると決めましたので、想定した通り両親から難色を示されたことから、「費用は全部自分で出す」と約束し、それを公言実行したに過ぎませんでした。働きながら勉強しましたので、授業にも身が入り尊敬する先生の授業は待ち遠しくもあり、その教えの一部は30年以上経過した今も色褪せることなく鮮明な記憶として残っています。反面、興味をもてなかった授業で教わったことは、理解もほぼできなかったと思いますし、そうした講義内容は授業直後から卒業までにほとんど忘れるといった感じで、忘れたものの最上位に難解だったコンクリート工学も含まれております。

 コンクリートについて学びはしましたが、それについて良く理解できなかった事、躯体工事は優秀な人材が携わるものと考えていた事もあって、コンクリートについて真面目に勉強せず就職に至りました。躯体工事は大手ゼネコンの分野だから自分に関係ない、例え自分にお役が回っても小構造物だからどうにかなるだろうと言う誤った考えです。思惑は一部で当たり、就職先でも本格的な躯体工事は15年以上経験する事なく小構造物ばかり施工していました。当時は、ひび割れ・ジャンカなどの不具合は、あまり問題になる事がなく、発注者が指摘しない限りは放置もしくは目立たないよう勝手に補修するのが当たり前、そんな状況でしたのでコンクリートの仕上がりや品質で困る事もありませんでした。さらに生コン打込みにおいては、施工のしやすさやポンプが詰まらぬように、今では考えられませんが、当時は良かれと思ってスランプの上限要求・加水も日常的でした。

 そんな若かりし頃、コンクリート打設の現場で人が全く足りない状況下、無理矢理集められた土工さんは全て私の祖父母世代という日のことです。コンクリート打設開始と同時に、年長者の方から「コンクリートが硬いからジャンカが出来るし作業も捗らない。水を入れて欲しい、できないならすぐ帰る」と強く言われたので慌てて加水しました。これを見ていた職長さんに「平瀬君、軟らかいコンクリートはあまり良くないと言われているから、出来るだけ水を入れない方が良いよ」と優しく注意されたのですが、コンクリートについて無知な事、上司も同業者も当然のように加水していた事、作業員の体力から加水しなくては打込みが難しいと考え、その時は苦笑いで済ませてしまいました。

 しかし、親心として私にコンクリートについて理解して欲しかったのでしょう。その後の施工で、硬めのコンクリートを職長さん自ら丁寧に締固め、脱枠した時の事は今も忘れられません。美しく輝いたコンクリートを見ながら「ピカピカ黒く光って綺麗じゃの~、綺麗なコンクリートは気持ち良いじゃろう、どう思う」等々感慨深げに言われたのです。当時の私は、ことの重要性が分らずに軽く相槌を打ったのですが、あの時なぜひと言お礼を言えなかったのか、30年経った今でも対応の不味さが鮮明に思い出され、今さらながら反省しております。その時の写真はありませんが、頭に残っているイメージに近い状況(写真-1)を他工事の写真を借りて紹介します。あれから30年以上経ちましたが、職長であった小林さん、コンクリートのご指導まことにありがとうございました。感謝。


(写真-1)黒く輝くイメージ

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仕事の在り方に大きな疑問

 話を変えますが、私は新入生の頃から仕事の在り方に大きな疑問をもっておりました。学生時代に、恩師より「現場では教科書で片付かない難しい問題がよく起こる。そうした時、教科書・基準は役に立たない。であれば、基準の目的、執筆者の意図、時代背景等の諸条件を君ら個人で考えて解決しなければならない」等々と教育されましたので,現場ではそうした事をすると考えていました。

 ところが、社会人となりモノ造りの会社に入社したつもりが、新入生の私は現場に従事していましたが先輩方は基準通りに施工したかのような書類作りに多くの時間が費やされ、仕事ができる人材ほど書類作りに忙殺されて現場に出難いこと、その結果、モノ造りとして社会貢献していると実感できないと思うようになりました。そして年を追う毎に基準等が絶対に近いかのような風潮は強まり、基準通り施工する以外の選択肢が年々狭まる状況が公益を損ないかねないのではないかと強く考えるようになりました。加えて、我々施工者でさえ現場に出難い状況に加え、複数の現場を監督される発注者が現場にでる時間はさらに確保し難しい。そうした状況は施工者にとっては都合良く,基準さえ理解できれば技術力が低くても楽に仕事ができるとの勘違いを生じさせ、そうした基準内でしかモノ造り出来ない状況にこれで良いのかと疑問に感じておりました。こうした考えは、幼少から周りの大人達から言われ続けた「人の役にたつ人間になりなさい」といった言葉がベースとなり、それが恩師の土木哲学の解釈に繋がったことから今の取組みに進化しているかと思いますので、何をするにも意識付けが大切だと感じております。

 前述の通りコンクリートはとても苦手でしたので、それなりの失敗を経験しております。そこで、若い頃に失敗した話をひとつ紹介させていただきたいと思います。
 先ほどの現場が終わって1年後、若輩者の私に造成工事調整池の管理道路のコンクリート工事が回ってきました。当日は快晴炎天下でしたが、路盤紙も敷設せずただ作業員と一生懸命打設したコンクリートにおいて、施工が終わらぬうちに多くのひび割れが発生しました。

 この時、初めてコンクリートで大失敗したと自覚し、反省するとともにコンクリートの恐ろしさを知る事となりました。経験がない上に知識不足であるのに教科書すら見ておらず、発生したひび割れに猛省することに。その現場を30年程度経過した後に確認してきましたが、大きなひび割れからは立派な草木(写真-2)が生い茂り、恥ずかしくもあり、この失敗はずっと忘れないと思います。実はこれよりさらに驚くような大失敗があるのですが、それはまたの機会に紹介したいと思います。


(写真-2)ひび割れの隙間に草木

打設時スランプの違いでコンクリートはこうも変わる

 私は直近10年程度でしょうか、時間を見つけてあちこちでコンクリートを見て歩いております。そこで感じることは、地域によって温度差が大きいものの、ここ数年程度において構築されたコンクリートが、ひとむかし前と比較して遠くから見たときに綺麗に見えるような駆体が徐々に増えてきたように感じております。あえて「遠くから」と申し上げたのは、遠くから綺麗に見えた駆体を近くで確認するとひび割れ等が意外と多いこと、反対に遠くからですと綺麗に見えないモノでも、近くから見た時に品質が圧倒的に良いと感じることもあり、両者を比較すると時間の経過と共に駆体の経時変化にも大きな違いが生じることを確認してきたからです。

 ここで対照的なスランプ12cm(スランプ8cm上限要求含む)で構築され遠くから見て綺麗な躯体(写真-3)と、遠くからは良く分りませんが近くで確認すると品質が良いスランプ8cm以下で構築した躯体(写真-6)について紹介したいと思います。
 遠くから見て綺麗なコンクリート(写真-3)ですが、これを望遠レンズで拡大すると縦方向の大きなひび割れ(推定幅0.5㎜程度)(写真-4)が発生していることに加え、横方向のひび割れ(写真-5)が確認できます。ここには写っていませんが、全体的に縦・横方向に多数のひび割れが発生しておりました。


(写真-3)遠くから見ると白くて綺麗なコンクリート(スランプ12cm)

(写真-4)縦割れ(望遠レンズ)/(写真-5)横割れ(望遠レンズ)


 この駆体で使用したコンクリートのスランプは12cmだったようですが、こうした高スランプで構築された駆体は脱枠時に綺麗であっても完成後から発生するひび割れが多い傾向で、その数と大きさも低スランプと比較して圧倒的に目立つと感じております。皆さんのご経験から、高スランプで構築した駆体のひび割れが多く大きい、もしくは完成から数年以内に大きく進展しているといった経験はないでしょうか。コンクリートのスランプは特記仕様書に記載がありますが、そのスランプは絶対ではなく施工者が決定できるようになっておりますので、ひび割れを避けたいのであれば可能な限り低スランプに変更し丁寧に締固めることをお薦めします。
と理想的なことを言っても、良い品質への評価が難しい現状で人員等の費用をかけて丁寧に施工するメリットが感じられないでしょうか。コンクリートのライフサイクルコストはコンクリート打ち込み当日でほとんど決まります。学会においても建設時の品質が確保されていればその寿命は半永久的である2)との見解もありますし、不具合やひび割れが生じた後に補修しても手遅れです。ここは皆さんの良心・技術力で品質を確保していただければ、その構造物は半永久的に供用可能で、将来的にかかるであろう莫大な予算を抑制できますので、可能であれば是非とも密実で長寿命な駆体造りに挑戦していただきたいと思います。

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