コンクリート打設は失敗から学ぶ

コンクリート打設は失敗から学ぶ
2024.05.01

①軟らかいコンクリートと硬いコンクリート

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コンクリート打設は失敗から学ぶ
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全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア 橋梁の床版用防水材に求められる過酷な条件をクリアした高性能床版防水システム ヒノダクタイルジョイントα NETIS QS-210051-A

締固めは、空気が出なくなるまで徹底

 ここで(写真-3)と対照的なモノとして、外観の濃淡により品質が均一に見えないコンクリート(写真-6)を紹介します。駆体は縦方向に上・中・下の3分割となっており、下段のみ鉄筋が縦・横@250㎜で配置されておりますので設計配合は24-12-20BBでしたが、コンクリートを緻密としてひび割れを抑制するために施工前に協議して24-8-20BBに変更、中段・上段は無筋ですので配合は21-8-40BBとなっております。ここでは低スランプで施工したかったのですが、現場が狭い事から中型のポンプ車が現場へ入れられず、圧送能力の低い小型ポンプ車で施工することになりましたので、圧送可能なスランプ8cmとし、さらにその日の条件よって圧送可能な範囲でスランプを下限要求して施工しております。

(写真-6)濃淡のあるコンクリート(スランプ8cm)


 施工時期は7月から11月にかけて打込みましたので、夏場ではスランプ8cm程度、涼しくなってからはスランプ7cm以下程度としました。下段が白っぽいのは真夏の施工であったことから、ポンプ車が詰まらないようにスランプ8cm程度にしたことに加えて、締固め技術をゼロから指導していますので下段では技術不足だったこと、日を重ねるごとに上達したことから中段上段と締固め技術の向上に伴って密実となったことで見た目に影響したかと思います。縞模様が中段・上段で目立つのはスランプを7cm程度としたため、型枠剥離剤が天端へ浮き上がらず表面に残ったのではないかと推測しております。

 この現場では、完成後にひび割れを計測したところ、下段では施工から2~3ヶ月程度経過してからひび割れ(最大幅0.10㎜)が発生しており、中段では5ヶ月程度、上段で11ヶ月程度経過してから僅かな縦割れ(最大幅0.06㎜)を確認しております。ここでの締固めは、空気が出なくなるまで徹底しましたので不具合は皆無といってよく、挙げるとすれば小さいながらもプラスチックコーンの拘束による沈降ひび割れ、型枠の隙間からノロ漏れが僅かに見られる程度となっています。

 ここで(写真-6)のように濃淡により品質が均一に見えない箇所について、施工から約70~170日経過(完成検査直前)した時点で透気試験トレント法(ダブルチャンバー法)3)にて確認しております。試験を完成検査直前とした理由は、コンクリートの含水率が透気係数に影響を与える4)とされることからできるだけ水分の影響を排除するためにギリギリで実施しております。(写真-6)のコンクリートにおいて、全ロットで試験しましたが、品質のバラツキが大きいと推測された色むらが激しい位置(写真-7)にて実施したものを抽出して簡単に紹介します。


(写真-7)色むら透気試験位置(赤○は試験位置)


 まず透気試験の概要について簡単に説明します。試験は、透気試験機(写真-8)のダブルチャンバー(写真-9)をコンクリートに直接あてて、そのダブルチャンバー内を真空状態となるまで吸引し、その後吸引を停止、チャンバー内の気圧が回復するまでの時間によってコンクリートの物質移動抵抗性を評価する仕組みとなっています。


(写真-8)透気試験機/(写真-9)ダブルチャンバー


 評価のグレードは(表-1)の通りです。試験結果から、特筆すべきは含水率が高く5.5%を下回っていない箇所があります。緻密なコンクリートは水分が閉じ込められて散逸するまでに要する時間が長いことが推測できますが、この現場は北向きで日照時間も短いこともあると思います。含水率が透気係数に大きく影響を及ぼす事4)は知られておりますが、丁寧に締固めたコンクリートにおいては、含水率が低下しても透気係数が極めて良い事も報告5)しております。ただし、この論文では、規定ページ数数の縛りから透気係数のみに言及し、含水率についての記述は省略し報告しました。

 透気係数は小さいほどにコンクリートが緻密であるとされています。(写真-7)で調査した結果は(表-2)の通り全てKT値0.01を下回りましたので、品質は極めて良いといえるかと思います。


 ここで、透気試験実施の際に留意していただきたいことを付け加えますが、透気試験は測定位置を少しずらしただけで透気係数が大きく変化することがあります。確かにそうした事があるのも事実ですが、そういった現場は施工も良くないいであろう仕上がりで駆体も密実とは考えられないことが多いです。反面、硬いコンクリートを丁寧に締固めたコンクリートにおいては、見た目が悪い箇所の透気係数ですら0.01以下となる事がほとんどであることを複数の現場で確認してまいりました。
もしこの国の未来で、在るべき姿で施工可能な環境が整う時代が来るとしたら、国内で多くのコンクリートが劣化しないと言ってよいくらいの長寿命な時代がくるかも知れません。そう願ってやみませんが、人と資金があればどうにかなるでしょうが、そうした考えと技術の継承は難しい状況ですので、技術が絶えるのも時間の問題かも知れず、人手不足解消のために効率化が進む現代社会ではそうした取組みが難しいのが勿体ない限りです。

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低品質なコンクリート構造物は発注者と国民は長年にわたり大きな負担を強いる

 個人的に施工と調査を繰り返して集めたデータを見てみますと、一般的に使われるスランプ8cm以上で基準に従って施工した場合、綺麗であれば品質は良いことが多いように感じております。ただし、低スランプである程に、(写真-6)のような縞模様が残り易いと感じておりますが、5年前に低スランプで丁寧に施工したとき、駆体に縞模様が残った現場を透気試験で調査し学会に報告6)したことがあるのですが、品質が悪いと予想した縞模様の箇所で極めて高品質であることが確認できました。ご興味のあるかたは一般公開されておりますので是非ご覧ください。

 ここで、高スランプまたはスランプ8cmの上限要求以上の軟らかいコンクリートを施工して縞模様が残った場合において、その部分がどういう品質であるか経験を基に私見を述べますが、その縞模様はブリーディングの痕ですので透気係数は極劣(KT値10以上)または品質が悪すぎて測定不能になると思います。そうした場合、私が知る限り、脱枠直後から工期内、または近い将来、横ひび割れ(写真-10)(写真-11)に進展しておりひび割れ幅も大きく今まで例外はありませんでしたので、発注者と国民は長年にわたり大きな負担を強いられると思います。


(写真-10)高スランプ縞模様(ブリーディング痕)

(写真-11)高スランプ縞模様で横割れ

国の基準は目安 土木技術者は現場ごとに応じた判断が必要

 私は学生時代に恩師から「一度構築したものは半永久的に使われるが構築時の品質が良くないものは劣化する」と教えられたことがあったことから、運が良く品質にこだわるような考えが自然と育ったように思います。コンクリートが劣化するという考えは、恩師がアメリカで教鞭をとっておられた際、構造物が劣化で脆くなり壊れることを経験しておられていたので私たちに分るよう伝えたのだと思うのですが、なにぶん難しい領域でしたので当時の私にはほとんど理解できませんでした。

 コンクリートに限らず公共構造物はストック効果の最大化1)が求められています。これについてはとても難しい問題かと思いますし、私にも課題尽きませんので今後も取組んでまいりたいと思います。

 最後に、よく聞く話ですが「基準通り」「国が定めた事ですので」といったことを主張する設計者・施工者が多く、そうした主張があると発注者も在るべき姿を主張し難い状況があります。もし、国の基準等が絶対であれば、土木工学を学ばなくとも知能指数が高い中学生をスカウトし、そうした者を建設大学校のようなところで教育すれば事足りると私は考えております。

 私たちの存在価値とは何か、基準以上のモノを構築するのは当たり前ですが、それだけではなく土木技術者としてその現場毎の条件に応じた判断が必要であるから私たちは存在しているのだと思いますし、おそらく皆さんもそうした教えが記憶の片隅にあるのではないでしょうか。私たちは、どのような職業であっても、それが官・民・有識者側どの立場であっても国益を追求し国を豊かにする行動をすべきだと思いますが、皆さんはどのように考えて行動されているでしょう。この世の中は、皆が助け合って成り立っておりますので、万能である必要はなく、自分の得意分野もしくは領域だけ良心に従って行動すれば同志がいますので、特別な技量を必要とする場合を除いては事足りると思います。
まずは一つで結構ですので気付きを得るための挑戦や観察をはじめて、そこで気付きを得られたなら、その気付きが派生的に広がると思いますので、小さなことから挑戦してみると案外難しくないかも知れません。私もこんなことを申しておりますが、実は今が伸び盛りだと感じておりますので、恩師含め周りから「その程度分ってる」と思われていると感じながら日々研鑽しております。いつか、廣井勇博士や吉田徳治郎博士のような偉大な先生方が、もし、現代の材料・技術で構築したとしたら到達するであろう超耐久的な品質を保有する駆体をイメージしながら、それに少しでも近づけるよう頑張りたいと思いつつ、あわせて今後も執筆ができるよう頑張りたいと思っております。


 (写真-6)(写真-7)で紹介した現場は、球磨川の大水害の影響が残る人手もプラントも確保しにくい厳しい条件で施工していただきました。多くのプレイヤーに尽力いただきましたことに感謝申し上げます。いつか、検証した結果を学会で報告した後、詳細な記事を掲載する際に会社名、個人名等を紹介したいと思います。


 第1回の記事から話が二転三転しましたが、私の記事はいつも思いつくままに執筆しております。次回いつ執筆できるかもわかりませんが、今後ともよろしくお願い申し上げます。

参考文献
1) 国土交通省社会資本整備審議会・交通政策審議会交通体系分科会計画部会専門小委員会:「ストック効果の最大化に向けて~その具体的戦略の提言~」,2016.11
2) 土木学会コンクリート委員会:コンクリート構造物の品質確保小委員会(第二期)(350委員会)委員会報告書,コンクリート技術シリーズ,No.124,pp.1-2,2020
3) Torrent, R. : A two-chamber vacuum cell for measuring the coefficient of permeability to air of the concrete cover on site, Mater. & Struct., Vol.25, No.150, pp.358-365, July 1992
4) Kenichiro Nakarai et al. : Long-term permeability measurements on site-cast concrete box culverts. Construction and Building Materials, Vol.198, pp.777-785, 2019
5) 平瀬真幸,佐川康貴:バイブレータによる締固めがコンクリートの強度及び表層品質に及ぼす影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.46,2024採択
6) 平瀬真幸,田村隆弘,徳永幸弘:コンクリートの締固めと表層品質に関する橋台と橋脚での試験施工,コンクリート工学年次論文集,Vol.42,No.1,pp.1210-1215,2020

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