コンクリート打設は失敗から学ぶ

コンクリート打設は失敗から学ぶ
2025.02.01

④危険な横方向ひび割れ

Tag
コンクリート打設は失敗から学ぶ 維持管理 生産性向上
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劣化状況の見える化が可能な剥落防止工 無繊維型高強度透明樹脂 コンクリートを”はつる” わたしたちは 橋梁・コンクリート構造の専門家です!
>平瀬 真幸氏

株式会社ファインテクノ
コンクリート品質改善部
部長

平瀬 真幸

はじめに

 遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。本年もひとりごとのように雑談形式で執筆したいと思いますので、良かったらお付き合い願います。

  近年、よく感じるのですが、新設の道路が短期間で大きな段差や亀甲状のひび割れ等の不具合を生じさせたりするので、これは何が原因なのだろうと感じております。

 これに関連して、20年くらい前でしょうか、ある現場へ応援にいった時、その現場は舗装工事が含まれていました。私は現場を歩いて感じたのは、路床土がとても密に締まっており、悪天候でも雨が上がれば短時間で水が引いて緩まない路床であった事から支持力は高いと考えていましたので、もし路床支持力が規定値に達していないとしても、改良材を少し添加すれば間違いなくクリアすると推測しました。そこで、事前に路床土の試験結果を見せてもらったところ、予測していた5倍以上の改良材の添加量が記載されており驚きました。結果がおかしいので試験担当者に対して「路床は規定の支持力がある状態かもしれない、改良材が必要でも最低添加量で改良すれば規定値をクリアするはずだけど、試験が間違ってないか」と聞きました。試験担当者「何故、そう思うのか」、私「現場を歩いて、密に締まっており足に路床からの反発が強いし、雨天でも緩まないから結果がおかしいのがわかる」といったやり取りをした事があって、結論は、私が感じたように支持力は高く、改良材が必要であっても最低添加量で良かったそうです。

 ここで何が言いたいかというと、何でも勘で判断しましょうと言うことではなく、現場技術者であれば経験上何かしらの勘が働くモノではないかという事、定められた設計や基準を自分のフィルターで通した時、間違いであれば何かしらの違和感に気付いたりする程度になるまでの経験上の思考と対応が可能であり必要だろうという事です。

 基準は大事ですので、それに従って組み立てるのは良い事ですが、常にそれが正しいとは限りません。また、基準が前提としていない不規則な条件にはそれなりの対応が必要であり、様々な協議が必要なはずですが、設計者・施工者もお金になる時は協議、お金にならない事は基準通りとしている事が多くなってきたように感じております。そうしたことが年を追うごとに、度を越したケースが増えてきたと感じております。基準が前提としていない場面では、そのままでは対応出来ない事もあると思うのですが、それでも無理矢理基準通りで進んでいくのは何故かと考えますと、マニュアル化された社会が進行してからだと感じております。私がマニュアルに違和感を持ったのはISOが導入されたあたりで、それから5年程度したときには、「基準通りにすれば間違っていても言い訳できる」といった風潮が全プレイヤーで共通認識とされていったように感じ、違和感がありました。

 実際、現場では施工不可能な設計図面が成果品として納められる事があるのですが、発注者より設計者に対して、次回から施工ができる図面とするようお願いしていただいた事がありましたが、設計者から「基準通りですので対応出来ません」と返された事がありました。基準とは、最低限守ってもらわないと困る事が記述されており、適時現場条件に合わせるよう考えられているかと思います。また、基準が定まった経緯を考えれば、例外なく国益を考えての事ですし、時代が変われば事情も違うので、基準が何時いかなる時も絶対に正しいという事はあり得ないはずです。

 いま、建設業は様々な法改正が前例のない短期間でなされているようですので、現場は混乱するかと思います。前例がない場合、どうのようにしたら良いか私個人の勝手な思いですので参考にならないかも知れませんが、まず、その定められた基準の解釈が分らなければ背景を自分なりに整理、その背景や問題を解決するために何をすればよいか考えて各々が国益を考えた上で発注者と協議して行動するべきだと思います。新しい試みには困難がつきものですが、そもそも建設業の現場では毎日が分からない事ばかりで勉強・気付き・挑戦・改善等の連続で本来そうした業種だと思っておりますので,マニュアルで片付かない事が日々起きえるはずです。いつからマニュアル通りで良いという事が評価されるようになったのか、国益になる思考と行動が評価されたなら毎日が楽しいと思うのですが。

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品質を評価する時は現場で直接、雨天か雨上がりで確認

 ここで話しを変えて、最近気になった現場を紹介したいと思います。

 (写真-1)を見ると、どこにでもある普通のコンクリートに映るかと思います。実際、遠くからでは分りませんが、経験上、この駆体を見た瞬間に悪い意味で違和感があったので観察を始めたところ色々な欠陥があることが分りました。

(写真-1)晴天が続いた状況 2024.12撮影


 

 ここで、コンクリートの見た目の違いについて、晴天と雨上がりの状態を比較したいと思いますので(写真-2)をごらんください。

 

(写真-2)雨上がりから 2024.5撮影


 

 (写真-2)は(写真-1)の数年後のように見えますが、実は(写真-1)より6ヶ月前の写真です。両者の違いはコンクリートが乾いているか濡れているかの差となりますが、ここでは(写真-2)の駆体がコンクリートの空隙に水が侵入して乾きにくいことに加え、劣化因子が侵入するイメージが想像いただけると思います。駆体を雨天の前後に見ると、その駆体が水を侵入させない緻密性が付与されている場合は水を弾いて下方に流れ、空隙の多い場合は水が浸入して水がなかなか下に流れず駆体が吸水し、乾きも遅いことがよく分ります。乾燥した状態と濡れる状況や雨上がりに乾き具合を観察しますと、コンクリートに対する考えも変化すると思います。また、品質を評価する時は現場で直接、雨天か雨上がりで確認いただけたらさらに良く分ると思います。

 

 (写真-3)(写真-3の1)は打重ね線であり、それがひび割れに進展しております。ここで注目いただきたいのは、横方向のひび割れは雨水が天端から流れてくると、水をそのまま駆体に侵入させますので、ひび割れの中が水で満たされるまで雨水の侵入が止まりません。そうした状況を知る上でも直接現場へ行って見ていただきたいと思います。付け加えると、打重ね線は数年後にひび割れに進展する可能性が高く、スランプ8cm程度ですと数年程度経過するとひび割れに進展する事が多いと感じていますが、さらに高スランプだと打重ね線がひび割れに進展するのは工期内や短期間であり、その幅も大きくなる傾向で、コンクリートは緻密となりにくいと思いますので材料と施工にはそれなりの経験で対応いただきたいのですが、現場へ出る時間より書類に追われる状況が増えている状況では、そうした現場での確認や対応が難しいので物造りの醍醐味が失われてきたように思います。

 

(写真-3)打重ね線はクラックに進展し、そこに水が浸入している


 

(写真-3-1)横ひび割れに水が浸入し乾きにくい状況

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含浸剤で仕上がりの評価を見誤らないよう注意

 ここで、他の現場で緻密ではないのに水を弾いて濡れていないように見える状態、一定期間ほぼ汚れないケースを確認しましたので、関係者にしかわからない程度で(写真-4)(写真-4の1)を紹介したいと思います。この現場では遠方からでは綺麗でしたが、近くまでいって確認しますと多数のひび割れ(写真-4の1)が発生していました。

(写真-4)含浸剤塗布で綺麗な駆体


 

(写真-4の1)ひび割れ多数


 

 含浸剤等使用した経験がある方は想像できると思いますが、駆体完成後に含浸剤を散布しますと、成分によっては水を弾きますので、それが効いている期間は雨天時に水が浸入せずに駆体が白く均一に見えるモノがあります。こうした場合、遠くから駆体を見ると綺麗に仕上がっていると感じる人がほとんどではないかと思いますので注意が必要です。もし、そうした駆体で品質を評価する時は、ひび割れや残留気泡の状態で善し悪しを判断すればよいと考えております。含浸剤でひび割れが抑制できても、品質が悪ければ不自然な横方向と斜めのひび割れが発生しますので十分な判断材料となります。この(写真-4)が存在する現場は複数の下部工の中でこの1基だけが極端に白く綺麗で目立ち、あまりに不自然ですので近くで確認したところ納得の仕上がりでした。この駆体は高スランプもしくはスランプ上限要求だろうと想像しますが、そうした場合、遠くからだと綺麗に見えても駆体にひび割れが多い傾向だと感じております。この駆体、おそらくですが脱枠した時は綺麗だったと思うのですが、これだけひび割れが生じているので密度は低いだろうと思いますし、含浸剤の効果が弱まると劣化因子が侵入し易いと思います。ここで参考までに含浸剤を使っていない隣の駆体(写真-5)を紹介します。(写真-4)と同じ現場、同じ時間で撮影しましたが、見た目が全く違います。この駆体(写真-5)も(写真-4)と品質的には同等だろうという仕上がりでしたが、全く違う印象となりますので含浸剤で仕上がりの評価を見誤らないよう注意したいところです。

 

(写真-5)含浸剤不使用で濡れている状態

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