まちづくり効果を高める橋梁デザイン
アーチリブや桁断面の形状を決める
構造形式と支間割が決まったところで、単弦のアーチリブを箱形式にするか、ブレース形式にするかについて議論していきました。既往の事例を見比べると、箱形式の単弦アーチはやや単調でそっけない印象を受けたことから、基本的にはブレースドリブが良いと考えました。ただ国内の事例を見ると、上下弦材が斜材に比べてかなり太くなってしまう事例があり、バランスを取るには上下弦材を箱形状にするのが良いのではないかという議論になりました(図1)。
それに合わせて作成したのが、写真12です。作成したことで、斜材は上下弦材よりやや細いくらいが良いバランスであること、上下弦材のフランジをエッジとして際立たせることできれいなアーチラインが浮かび上がることが確認できました。
また作成して初めて気が付いたのは、上下弦材を箱形状にしたことで、昼間と夜とで表情が大きく変わることでした。これは上下弦材を箱形状にすることのアピールポイントだということになり、提案資料や審査会でのプレゼンで、写真13のように紹介しています。
図1 アーチリブ断面(実施時)
写真12 アーチリブ+基部検討模型(縮尺1/15)
写真13 昼と夜の光の当たり方で印象が変わるアーチリブ(模型写真に空を合成・縮尺1/15)
こうした検討を踏まえて(実際にはまだあるのですが)、全体に反映したのが写真14です。これを見ながら大きな課題がないかを確認し、提案を確定しました。
写真14 提案時の全体模型(縮尺1/300)
細部の形状を決める
コンペで選定案に選定された後の詳細設計でも、継続して模型による検討をおこなっています。写真は、縮尺1/50の詳細模型で、渡河部の半分程度を作成したものですが、全長が4m近くあります。この縮尺でこのサイズの模型は、滅多に作ることはないと思いますが、選定された喜びで設計チーム一同盛り上がり、その勢いで製作を決めた記憶があります。写真15は、広島市との打ち合わせの際の記念写真です。設計チームのメンバーと比べるとその大きさがお分かりになると思います。
写真15 全体詳細模型1(縮尺1/50)
ただ1/50の模型のおかげで、側面から見た主桁と歩道部の重なり具合、歩道の支持構造の連続的な見え方の変化、歩道吊下区間のケーブル千鳥配置の見え方、主桁の間の楕円形の光取り窓の効果など、きちんと確認できたことがたくさんありました。
またアーチ基部と橋脚の接合部が斜角により捻れて見えることにも気がつき、ねじれを小さくする修正もおこなっています。
その他、ケーブルの定着部などの細部についても模型を用いて検討を行っています。
写真16 全体詳細模型2(縮尺1/50)
写真17 全体詳細模型3(縮尺1/50)
製作や施工の協議でも役立つ
太田川大橋では、形状の検討だけではなく、製作や施工の協議においても模型が大活躍しました。写真18のように、アーチ基部は、基部に埋め込んだ鋼板とアーチリブをスプライスプレートでボルト接合するのですが、写真19左のように上下弦材の形状変化と接合部分について模型で確認したり、写真19右のように下弦材の箱内部の溶接について、原寸模型を作成して可能なことを示したりということもしています。
ちなみに、写真18はアーチの一括仮設の様子ですが、100mを超えるアーチリブを、わずか3センチほどの隙間にはめ込む施工技術のすごさに圧倒されたのを今でもよく覚えています。
写真18 アーチの一括仮設、写真19と比べて見てください
写真19 アーチ基部の構造模型+下弦材箱内部の溶接可能性の確認(写真の人物は、太田川大橋の設計で大活躍だった故・渡辺康人くん)
総工費の0.1%以下で買える安心
こうした模型を用いて検討を進めたことで、竣工した橋は、ほぼ検討時のイメージ通りに出来上がりました。模型にかかった全費用をきちんと把握できてはいませんが、太田川大橋の総工費を考えると、その0.05%も超えていないと思います。
橋梁の整備費を考えると、スタディ模型の費用が、総工費の0.1%を超えることはほぼないのではと感じます。
行政担当者のみなさん、総工費のわずかな金額で、確信を持ちながらプロジェクトを進めることができると思えば、こんなに安い買い物はないと思いますが、いかがでしょうか?
ちなみに、太田川大橋でこれだけ模型を使って検討できているのは、土木デザイン事務所(イー・エー・ユー)がチームに加わっていることと、模型を外注していないことによると思います。
後者についていえば、アルバイトの学生の手を借りながら、社内で製作することで、模型を見ながらの議論を増やせますし、その場での修正もでき、費用も抑えることができます。土木系大学でも、景観分野の教員がいる大学であれば、その研究室の学生はある程度、模型の訓練を積んでいます。学生にとっても、実際のプロジェクトに関わる機会を得るのは貴重です。すでに取り組んでいる会社もありますが、模型を通じた建設コンサルタントと大学の連携をもっと広げていくのも大切だと思っています。