超緻密高強度繊維補強コンクリートを用いた橋梁の補修・補強

超緻密高強度繊維補強コンクリートを用いた橋梁の補修・補強
2025.04.01

第3回 ドイツの橋梁コンサルタントとして

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JFEスチール 鋼管 国土強靭化への第一歩! 超緻密高強度繊維補強コンクリート『J-THIFCOM』
>上阪 康雄氏

コサカ設計・アソシエーツ代表
(J-テイフコム施工協会理事)

上阪 康雄

1.ドイツの設計コンサルタントに

  前回10/25号に私はドイツから東京に戻った経緯を書いたが、種々の事情で、1983年末に再びドイツに渡る決心をした。ミュンヘン周辺にて仕事探しをしたものの、就職先は見つからず、シュツットガルトのレオンハルト先生を訪ねてお話をした後、しばらくしてレオンハルト・アンドレー設計事務所(LAP)橋梁部トップのツェルナー氏から、試採用してみようとの連絡があり、橋梁設計に従事できる幸運を得た。事務所は閑静な住宅地に有り、3棟に分かれ、1棟は建築、2棟が橋梁部であり、各棟25名ほどの技師と6-7名の作図技能者それに経理・総務などの構成であった。この当時、大型電算機は建築部に置かれ、当初はキーパンチャーに頼って計算していたが、2年後には各自がPCを持てるようになり、施工ステップ計算も可能になった。ここでは、1室2-3名の技師が机を並べ、10時ころの軽食時と12時頃の昼食時以外は、黙々と仕事に打ち込んでいた。ただ、誕生日会があると、15時頃にカフェ休憩があるものの、ここでは誕生日当人が棟の全員にケーキなどを振る舞い、さらに毎年、秋には森トレッキング行事があり、レオンハルト会長を含めて3棟合同で1日森を歩き、最終地でビアーガーデンに着くと、無礼講が始まった。私は、保育園の息子アンドレーと歩いたこともあり、レオンハルト先生は私の息子と連れ立って歩かれてもいた。事務所には外国籍の同僚も多く、こうした行事をとおしてチームの結束を図っていた。

 担当した橋梁設計で特に印象に残るのは、米国オハイオ州のコロンブス・ディスカバリー橋(5径間連続PC合成桁、L=425m)である。デザインはレオンハルト先生であり、スレンダーなPCシャイベを、側面から見るとアーチ橋に似せていて、周囲の景観に溶け込んでいる(図-1a,b)。米国の橋梁設計は、各州のプロフェッショナル技師資格(PE)を持った技師が主任技師として設計に当たるが、当事務所にはスヴェンソン氏ら数人のPEがいるので、このような設計のチャンスも生まれるのである。

図-1a コロンブス・ディスカバリー橋    図-1b コロンブス・ディスカバリー橋、1992年


 また、トルコの金閣湾(Golden Horn)に1994年に架けられたガラタ橋は、すでに1502年にレオナルド・ダヴィンチが独創的なアーチを提案した橋であり、第4代浮き橋に変えて、地震に対応したPC固定橋と中央部鋼製跳ね橋80mによる全長490m、幅42mの橋として、ドイツ・トルコの友好のシンボルとして建設された。路面には5車線道路と電車路があり(図-2a)、下段デッキにはレストラン街・遊歩道が設けられ(図-2b)、イスタンブール観光に欠かせない橋として賑わっている。私はコンクリート橋部の詳細設計を担当し、地震時応答解析と中央鋼桁部設計は、相部屋の大先輩Ⅾr.コヴァッチ氏が担当された。

 図-2a ガラタ橋遠景           図-2b ガラタ橋レストラン街


 LAP事務所では、設計のみでなく、別の設計事務所が作成した設計計算書および図面の照査の仕事もこなした。ドイツでは、設計照査は認定照査技師の認証が不可欠であるが、レオンハルト先生、ツェルナー氏ら認定照査技師のアシスタントとして、照査にあたるのである。照査の中で、私の印象に強く残るのは、シュツットガルト郊外のオペラハウスである。ドイツでは建築も土木も関係なくDIN規準によるので、DINを根拠に何か所か修正点をあげて相手方に指摘し、修正してもらった。もちろん、最終の照査報告書には、レオンハルト先生が署名される。レオンハルト先生は、時折、私が橋の設計をしている際も、図面をのぞきに来られ、図面のみを見て的確に疑問点を指摘された。図面を見るだけで、PC鋼材・鉄筋の量が的確かどうかを判断されるのである。

 当事務所の私の橋梁部は長大橋部、もう1棟の方は押出し橋梁部として活動していた。橋梁に関する特許も数多く所有し、日本の専門会社からも時おり研修技師を受け入れており、私の橋梁部にも、1年程ピーエスの野村貞広氏が来られていた。私は仕事の上では無関係でいたが、夏休みには家族そろって、オーストリアの山歩きなど楽しんだ。また、ミュンヘンのDywidag社研修中に当事務所に来られる技師もおられ、中でも大林組の安部要氏とはその後も楽しいお付き合いをさせて頂いた。

 担当した鋼橋設計の中、最も印象深いのは、ヴェネズエラ、カロニ河に架けられたアンゴストリタ橋の架設ステップ計算であろうか。この橋は全長468.7m、幅30.4mの道路・鉄道用の鋼連続合成箱桁として設計され、中央径間および両側径間は鋼箱桁、主径間橋脚上の支点部底版にはコンクリートが充填され、全長にわたって場所打ちRC床版が採用されている(図-3)。なお、鋼板とRC床版の接合には、パーフォボンド・シアコネクターが採用された。本橋(図-4)はこうした工夫によって完成した1992年当時、中央径間長213.7mは世界トップで、中央閉合時には仮設計算の成果が実り、両側鋼桁頂部の高低差が許容範囲だったという報告を主任技師のサウル氏から受けた。

図-3 カロニ河アンゴストリタ橋一般図


図-4 カロニ河アンゴストリタ橋


 この橋の設計と同時期に、私は長大コンクリート斜張橋の予備設計および施工時の架設ステップ計算に従事することができた。この橋への取組みは、すでにPC斜張橋の設計者として名高いスヴェンソン氏から、ノルウェー北極圏に位置するヘルゲランド斜張橋の予備設計指名を受けたことに始まる。先ずは、全長1065mの支間割と平面形状のみを示され、完成系のケーブル断面の算定からスタートした。ケーブルの選定は、過去のスヴェンソン氏の斜張橋設計を参考に決めた。架設ステップ計算は、完成系から径間中央部を分離し、仮設の逆順序で、ケーブルを取り外していくのである。架設ステップ計算はこの基本計算を元に、架設が始まると、実際の上げ越し量とケーブル張力から次ステップの上げ越し量などを指示していくことになり、橋付近の気温情報も重要な鍵となる。一般の現場では、上げ超しに合わせてケーブル張力調整もなされるが、本橋の冬季施工では、北極圏ゆえに日中の張力調整は見込めず、現場の温度を足掛かりに上げ越し量を計算した。なお、本橋の風速max. 87 m/sに達する耐風振動解析は、相部屋のDr.コヴァッチ氏が担当された。私は1990年8月夏休みを利用して11歳の息子とノルウェーの現場に向かった。丁度、両タワーが完成し、上棟式が行われていた。すると私と息子を架設クレーンでタワー上部に吊り上げ、炭酸水での乾杯式に誘って頂いた。後日、その記事が載ったノルウェーの地方紙が送られてきた。そこには、ドイツのヘルゲランド橋設計技師Yasuo Kosakaがタワーでの上棟式に参加したとの記事と写真があった(図-5)。改めて写真を見ると、夏とは思えない服装に身を包んでいることがわかる。この旅から帰りしばらくして、私の父が亡くなり、葬儀も終えたとの訃報が入った。私は、親の死に立ち会えなかったと愕然とし、1991年初めに日本に帰る決心をした。その後、1991年夏、ヘルゲランド橋詳細設計を担当した同僚のホップ氏からFaxが届き、中央径間425m中央の左右桁高低差が難なく収まり、閉合が完成したとの連絡を受けた(図-6a,b)。本橋に関心のある方は、土木施工1992/6の“ノルウェーヘルゲランド橋建設工事”も参照されたい。

図-5 ヘルゲランド橋主塔上部にて 1990/8


図-6a,b ヘルゲランド斜張橋

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2.ドレスデン・カローラ橋崩壊事故報告書について

 昨年9月深夜に起こったドイツのドレスデン・エルベ河に架かるPC桁橋カローラ橋の崩落(図-7)については、本誌2024.10.25付けでドイツの情報を紹介したが、その原因報告書がドレスデン工科大学のマルクス教授(図-8a)から発表されているので、その内容を紹介したい。教授によると、施工時のPC鋼材の特徴として、水素脆化に対する抵抗性が乏しかったとある。さらに、交通荷重の繰り返しによる疲労が加わり、現在およそ70%のPC鋼材に細かい亀裂が見られるとしている(図-8b)。なお、1971年に建設されたカローラ橋は、内部に配置されたPC鋼材に、初期段階から部分的な腐食劣化があったと想定されている。

 ドレスデンを州都とするザクセン州では、19橋が同様の材料・工法で建設されており、その内9橋に危険な兆候が認められる。一方、この種のPC鋼材は、旧西ドイツにおいても使用されており、100橋以上の橋梁について、早急な詳細調査が求められる。政治家は、橋の竣工時には喜んで顔を出すものの、その後の維持管理に関しては、予算を躊躇することが多い。既設橋梁に対して有効なのは、モニタリング設備の設置であるが、この予算は非常に乏しい。我々は、カローラ橋の事故を教訓に、今こそ橋梁モニタリングの重要性を訴える必要がある。特に、今後建設される橋梁では、モニタリング設備が不可欠である。これによって、たわみ、鋼材ひずみ、温度変化など、貴重なデータの集積が可能となる。

図-7 カローラ橋の崩落 2024年9月


図-8a ドレスデン工科大マルクス教授   図-8b 蛍光性塗料による細かい亀裂の特定


 報告書によると、崩壊したC橋のPC鋼材の状況は、非常に多くの箇所で腐食による亀裂が確認された。また、A橋・B橋に関しても、調査のために鋼材をはつり出したところ、その部分に数多くの鋼材破断が生じていた。 印象的なのは、外観上ひび割れ無しの部位においても、はつり出してみると、数本のPC鋼材に破断が見つかったことである。取り出したPC鋼材の研究室での詳細調査では、数多くの細かい亀裂が見られ、この状態だとPC鋼材がガラスのようにもろいことがわかった。さらに下部工についても、今回の橋崩落に伴って橋脚は傾き、内部鉄筋にも致命的な腐食損傷が見つかっている。この原因として、冬季に散布される凍結防止剤が、伸縮部から橋脚内部に浸透したと推察される。

 マルクス教授は、カローラ橋の今後の方針を見るための載荷試験は、高額の費用がかかるだけでなく、試験で橋が崩落するケースを想定すれば、それは単なる浪費にしか過ぎず、やるべきでないと報告している。最後に、カローラ橋の崩壊事故は、現状の標準的な方法では予測不可能であったと結論されている。AE(アクステイック・エミッシヨン)法による調査も考えられたであろうが、この調査機器を全橋くまなく配置するのは高額過ぎて、予算が出ることはなかったであろうとされている。1970年代のPC鋼材の標準的な配置方法は、現在のようにPCダクトに鋼線を通した後、ダクトに湿気が入るのを避けるため換気送風することはなく、グラウトが注入される前に鋼線腐食が生じることは往々にしてあったのである。現状のカローラ橋の状態を考えれば、C橋のみでなく、A橋、B橋も安全を確保するのは困難であり、全橋の早急な撤去と新橋への架け替えが推奨されると結論付けされている。

図-9 カローラ橋の撤去工


 全体的に、旧東ドイツ各州の予算は乏しく、今後、カローラ橋の架け替えには、ドイツ連邦政府の予算があてられると思われる。そうした中、私は新橋の重要個所について、モニタリング設備が設置されることを期待したい。なお、私のLAP元上司スヴェンソン氏は、2010年にドレスデン工科大の特任教授となられ、2012年Wiley社から、“Cable-Stayed Bridges”を出版されている。

 なお、図-1a,bはLAP、図-2a,bはIstanbul観光局、図-3,4,5,6a,bはLAP、図-7,8a,bはTU Dresdenコンクリート研、図-9はDresden市によった。

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