東京都港湾局 歴史的名鉄道橋『晴海鉄道橋』が遊歩道橋に生まれ変わる
景観性と機能性、安全性を備えた歩道橋にリニューアル
ウッドデッキ 安全性とバリアフリーを考慮してフラットに
――ウッドデッキの設置は軌条のデザインを活かす形にしていると話されましたが、軌条の機能を生かす形には出来なかったのですか
水飼 橋上は24時間、歩行者が利用できる形にしています。利用者には様々な方がおり、ベビーカーなどで移動されている方もいらっしゃいます。このため、安全性とバリアフリーを考慮してフラットにしています。
先行してウッドデッキを設置した豊洲側と設置中(5月下旬)の月島側、設置後、色は落ち着いていく(井手迫瑞樹撮影)
――橋上のレールは、現在、ショーボンド建設が歩道化およびリニューアル工事を行うための資材運搬用トロッコとして活用しています。安全面を考えて最終的にはウッドデッキで埋め、フラットにしてレール上面だけを露出させる方向ですが、元鉄道橋としてイベントなどにおいて活用することはできないのでしょうか
水飼 面白いアイデアだとは思いますが、現状ではそうしたことは構造上難しいと考えています。ウッドデッキの耐久年数が約30年ですので、そうした活用は、次のリニューアル時に考えることができそうですね。
資材運搬用トロッコ(井手迫瑞樹撮影)
――30年後は、建設後100周年の節目を迎えますから、周年記念としては最適ですね
水飼 100周年ですか。その時点でのアイデア次第ですね。
高欄 存在感を極力意識させない、均一部材で構成するバラスター式の縦桟
色彩をダークグレー(N3.0程度)に調色 遠望から高欄を視認しにくく
――鉄道橋は、地方においてサイクリングロード化されるなどの再利用事例はありますが、旧晴海鉄道橋の再利用は、それらと全く違います。何しろ利用人口が違いすぎます。
水飼 今後は晴海側でも様々な開発が進んでいくと思います。この橋を利用する方は、その分も含めて、かなり多くなると思います。
――本線軌条と護輪軌条の間の狭い空間は、どのように軌条とのフラット性を保つようにするのですか
水飼 厚さ数mmのゴム材とスペーサからなる高さ調整材をウッドデッキの基礎にかませてフラットになるよう調整しています。
等間隔で配置されている高さ調整用のスペーサー(内外軌条の中間にある凹型の部材)(井手迫瑞樹撮影)
ビスを使って止めていく
内外の軌条桁内は長さ2m程度の木材をはめ込んでいく
――高欄は鉄道橋ですから、元々はついていないものですよね。これは景観的にどのように工夫しているのですか
水飼 高欄は遊歩道橋化するにあたり安全性の必要から新たに設置しました。鉄道橋にはもともと設置されていないため、遠くからの景観に配慮して、高欄の存在感を極力意識させない、均一部材で構成するバラスター式の縦桟に加え、「溶融亜鉛メッキ仕上げに表面をリン酸亜鉛処理」を行い、色彩をダークグレー(N3.0程度)に調色することで、外側から見た際に高欄が視認しにくくなるよう配慮しました。
高欄は歩道化に際して安全性向上のために設置したが、遠景において存在を主張しにくい色彩とした(井手迫瑞樹撮影)
PC桁、鋼桁の損傷もそれほど進んでいなかった
橋台部の支承のみ海水の影響で著しく腐食、耐震補強も必要
――工事にはいつから着手したのですか
水飼 下部工の補修および耐震補強工事は令和3年2月~令和5年4月まで施工しました。上部工の遊歩道化工事は令和5年1月から着手しており、現在は支承の取替や補修、桁の塗装、ウッドデッキの設置などを行っています。今年7月までに橋梁部の遊歩道化工事を完了し、橋詰部の公園取り付け工事後に、歩道橋としての供用を開始する予定です。
――まず損傷状況から教えて下さい
水飼 上部工のPC桁は、過年度に所々補修を行っており、概ね健全性を保っています。鋼桁は全面的に錆が出ていましたが、ブラストしてみると、それほど腐食は進行していませんでした。リベット継手を採用していますが、リベットについても取り替えが必要な損傷はありませんでした。損傷が大きかったのは橋台部の支承で、これについては、下沓部が海水の影響で著しく腐食しており、取替えの必要がある状態でした。橋脚部の支承も錆は生じていましたが、補修で対応できる状態でした。
PC桁はおおむね健全だった(井手迫瑞樹撮影)
耐震性については、不足している箇所があったため対策の必要がありました。
――まず下部工の耐震補強の内容から教えて下さい。
水飼 橋脚については、ポリマーセメントモルタル吹付工法による耐震補強を行いました。重量増による基礎補強を避けるため、できるだけ薄く・軽く補強したかったのが採用理由です。さらに海上に位置する橋梁であるため、補強鉄筋は全てエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用しています。
支承はA1、A2橋台については、下沓を取り替えましたが、当時の景観を再現するため鋳鉄製の支承を特注して交換しました。橋脚部の支承について溶射を用いた若返り工法を採用しています。
耐震補強①(仮締切工)
耐震補強② 橋脚の表面処理、配筋、乾式PCM吹付の施工状況(船舶が航行するため補強断面積を減らしている)
耐震補強③ 水平力分担装置の設置を行うためのコア削孔およびアンカーボルト設置状況
同上 部材を搬入、設置、取付完了状況
耐震補強④ 落橋防止装置の取付状況
同上 実際の運用状況
塩分を含んだ水の影響を受けやすいアバットの支承は損傷が著しく進んでいたため取替対象となった
支承取替状況① 支承撤去
支承取替状況② 支承搬入および据付け完了状況
橋脚部の支承は金属溶射および塗装による防食で対応した
PC桁も一部の損傷個所で断面修復を施した
――上部工の補修補強については
水飼 まず補修についてはレールや枕木、バラストなどを一時的に撤去し、その上で、PC桁のひび割れ補修およびコンクリート被覆を行いました。
レール、枕木およびバラストは一時的に仮撤去し、上部工の補修後にレールは全部、枕木、バラストは一部を再設置した
実際のレールおよびバラストの一時撤去状況
PC桁のひび割れ補修
PC桁床版面の防水工(表面被覆)施工状況
次いで、鋼橋の耐震補強を実施しており、下横構については、強度の高い補強部材に交換を行い、さらに水平力分担構造および落橋防止装置を設置しています。
着手前の下横構(オリエンタルコンサルタンツ提供)
下横構については、強度の高い補強部材に交換
既設塗膜除去はリユースブラストを採用
全延長を一度に施工せずに、半分ずつにすることで航路幅員を確保しながら施工
――塗装も塗替えていますね
水飼 鋼桁は全面を塗替えました。既設塗膜には鉛が含まれているため循環型のブラスト工法の一つであるリユースブラストで施工しました。塗替え面積は2,225㎡です。重防食塗装を用いており、膜厚は一般部で250μmとしています。ブラスト施工にあたっては、養生シートを設置して、飛散を防ぎました。気密性が高いことから、塗替え品質も非常に高いものになりました。
塗替え工施工前の鋼桁部
養生シートを設置して、飛散を防いだ。気密性が高いことから、塗替え品質も非常に高いものとなった(中、右は井手迫瑞樹撮影)
リユースブラストの設備設置状況(井手迫瑞樹撮影)
実際のブラスト施工状況
研削材の集積、回収、補充(ショーボンド建設提供)
塗替え塗装状況
――現場を見ると全延長の半分ずつの施工になっていますね
水飼 鋼桁の直下は運河の航路になっています。そのため、耐震補強および塗り替えにあたっては桁下足場の設置を考慮し、全延長を一度に施工せずに、半分ずつにすることで航路幅員を確保しながら施工しています。資材や補強部材等は、基本的にクレーン付き台船により海上から搬入しています。
施工は橋長の半分ずつ施工し、航路を確保していた
――桁下足場内の作業スペースは十分なクリアランスを確保できているのでしょうか
水飼 下フランジから約80cmの離隔を確保できています。
――ウッドデッキについては腐食などの問題は生じませんか
水飼 溶融亜鉛メッキにより防食性を向上させた鋼製床組の上に、ウッドデッキを載せています。ウッドデッキにはブラジル産のイペ(ノウゼンカズラ科)材を用いています。イペ材は耐久性と強度、密度が高く、野外用のデッキ材としてよく使われており、防腐剤や防蟻剤も必要のない環境にやさしい無垢材を使用しています。耐用年数は約30年を見込んでいます。
溶融亜鉛メッキにより防食性を向上させた鋼製床組
レールの再設置状況
ウッドデッキの設置状況(下2枚は井手迫瑞樹撮影)
――工事において特に気を付けたことがあれば教えて下さい
水飼 PC桁部の地覆に、勾配や凹凸が多数存在していたため、ウッドデッキなどの仕上がり高さを一致させるよう、地覆天端高さを詳細に把握した上でウッドデッキおよびレールの設置高さを決定するなど、段差のない仕上がりに配慮しました。
――最後に設計会社および施工会社について教えて下さい
水飼 基本設計および詳細設計についてはオリエンタルコンサルタンツ、下部工の耐震補強については新井組と松鶴建設、上部工の補修工事(下横構の設置など)はJFEシビル、支承補修や取替え、塗装などの遊歩道橋化工事についてはショーボンド建設(※)にそれぞれご担当していただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。
――ありがとうございました
※現在施工しているショーボンド建設の施工体制は、 塗替え塗装が清水塗工、床組み設置、レール設置、高欄設置、支承補修がきじま建設、ウッドデッキ設置がモクラボ、ガラス床設置が草野産業となっている。