Interview

IHによる鋼構造物の防食塗膜剥離施工に関する特徴と課題

2025.01.01

温度環境に左右されない、厚膜でも一気に掻き落とし、粉じんも発生しない

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2025年新春インタビュー IH塗膜剥離 鋼橋 防食
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時代に合った技術を追求し続ける 古い塗装がするんっと剥がれる! 常に安全最優先で質の高い工事を行います

近年は施工性を考慮し、電源の出力装置や冷却装置がコンパクト化

近年は施工性を考慮し、電源の出力装置や冷却装置がコンパクト化

ボルト部の塗膜除去用のIHも……ヒートレッドM-1

 ――IHの種類をあらためてもう少し詳しく教えてください

 廣畑 RPR Technologiesや島田理化工業、第一高周波工業などの比較的出力の大きな機械を使っている工法(IH式RPR工法協会、IH塗膜除去工法研究会)は、大断面のウエブなど塗り替え塗装を想定した塗膜剥離工法となっています。近年は電源の出力装置や冷却装置がコンパクト化されてきており、現場での適用がやりやすくなっており、足場の上に載せやすくなったり、ケーブル長を長くし、取り回しがしやすくなるように改善されています。


IH式RPR工法協会

IH式塗膜除去工法研究会


 また、(一社)IH式塗膜剥離技術協会のビルドメンテックさんの系統(エレクトロリムーバー)は、少し、前者2工法とは使い方が異なります。IHの原理は一緒ですが、出力は小さく、大断面の塗膜を除去するために使うのではなく、塗膜の含有成分調査をおこなうためや、小規模の塗替え塗装や夜間の鉄道跨線橋の軌陸作業車での工事に使用されています。


IH式塗膜剥離技術協会 エレクトロリムーバー

同工法は塗替えの際の事前塗膜成分調査のための塗膜片採取にも用いられている


 

 また、もう一つは、いよ技研さんのボルト部の塗膜除去に特化した「ヒートレッドM-1」工法です。ヘッドにボルトの径に応じたリング状のものを使用し、コイルに囲まれたボルト部の温度を上げることで、塗膜を除去するものです。最近は、いよ技研さんだけではなく、他の工法もヘッドをボルト部除去用のものに変えることで、同様にボルト部の塗膜を除去できるようになっています。


いよ技研 ヒートレッドM-1工法


 ボルト部の場合、IHによる加熱で軸力に影響が出ることが懸念されています。実際短時間で一気に加熱すると軸力が抜け易いため、施工時間を長くして、じわじわと加熱することで、軸力を抜かずに塗膜剥離ができることを実験などで確かめています。

 また、温度の伝わり方を考えて、加熱位置を連続化させないことも重要です。ボルトも隣接したものを順番に加熱するのではなく、千鳥施工などを行い、ある程度離して加熱し、塗膜除去する方が軸力への影響は防止できると考えています。


加熱位置を連続化させないことも重要


 ――隅角部などではどうですか

 廣畑 隅角部などでも直角コイルなどにヘッドを変えることで塗膜を除去することができるようになっています。

 IHの塗膜除去の一例としては、ウエブ⇒隅角部⇒添接部⇒各部位ごとに素地調整ブラスト⇒塗装というような手順になると思います。

 ――さて、IH工法としての他の工法の異なる点を挙げてください

 廣畑 塗膜剥離剤と比較すれば、外気温が低くても施工でき、mm単位の膜厚でも1回で取れる点でしょうか。また、化学物質を用いないため、化学物質由来の事故も起きにくく、安全性でも優れています。一方で専用機械を用いるため、イニシャルコストは(機械を使うため)アップしますし、施工の手法は学ぶ必要があります。

 ブラストに対して申しますと、通常ブラストは研掃材なども特別産業廃棄物に含まれてしまうため、廃棄コストが増大しますが、IHはそれが生じません。ブラストあるいは循環式ブラストに対しては粉塵などが生じません。IHとしては施工時の作業員に対する安全性が高いという特性を活かし、作業員の防護設備や養生を将来的に軽減する方向にもっていきたいと考えています。

国土交通省 新技術情報提供システムNETIS No.KT-210089-A IH塗膜剥離機メクレル RPR工法 塗膜剥離の高度な技術で環境にやさしい工法です IH式塗膜剥離で塗膜採取が何処でも簡単 塗膜分析調査にご協力します

鋼材表面温度が閾値を超えた際には緊急停止

 ――ただし、IHも何らかの理由で鋼材表面の温度が上がりすぎると、既設塗膜内の有害物質が反応し、気化という形で有害物質を生じさせてしまう可能性がありませんか

 廣畑 IH各社には機械的に鋼材表面温度が閾値を超えた際には緊急停止ができるようにしておくことを推奨しています。

 さらにPCBないし塩化ゴムは300℃の温度をある程度保持するとダイオキシンや塩素のガスが生じる懸念がありますが、塗膜剥離に必要な鋼材表面温度は200℃前後であるため、その温度まで上昇することは、まずありません。さらにフェールセーフとして事前の塗膜調査の結果を踏まえて、PCBや塩化ゴムが入っているときは防毒マスク、それ以外の際は防塵マスクを装着したうえで施工しています。

裏面の温度はあまり高くならない

 ――先ほど少しお話ししましたが、加熱面裏側の塗膜への影響について教えてください

 廣畑 部材の板厚、加熱条件によっては裏面もある程度の高温に達する可能性は当然あります。裏面の塗膜を剥離したくない場合は、施工条件を適切に選定すると共に、加熱後の裏面の状態を確認するなどの配慮が必要です。

 IHは急速加熱を得意にしており、IH塗膜剥離では塗膜を除去する側の鋼材表面(板厚方向に0.1~0.5mm程度)を瞬間的に塗膜剥離に適した温度まで加熱します。鋼構造物に使われている低炭素鋼は比較的熱伝導率が小さく(40~60W/m・k程度)、加熱時に温度が高くなっているのは鋼材表面のみ(板厚方向に1~2mm)です。時間の経過と共に板厚方向へ熱が伝わり、最終的には板厚方向の温度が同じとなりますが、与えた熱量が板厚で平均化されるため、裏面の温度はあまり高くなりません。


鋼材裏面への温度影響確認試験


 ただし、心配であれば、IHを行う裏側の温度も事前に試験を行って計測し、キャリブレーションしておくことを推奨します。また、IHも手早く行うことにより、1か所あたりの温度を高く上げすぎないようにすれば、裏側の塗膜に悪影響を与えるようなことにはならないと考えます。


小型放射温度計で鋼材表面温度を測りながら施工

1日当たり施工面積は30~50㎡

塗膜除去面積のシェアを1/4程度に伸ばしていきたい

 ――IHの1日当たりの施工面積はどの程度いけますか

 廣畑 出力50kWの装置の場合、だいたい1班で30㎡程度は施工できます。平滑面のみであれば、50㎡も可能です。


メップ川橋(NEXCO東日本北海道支社管内)のような低温環境下でも施工できるのが強み


 ――今後、IHは鋼橋の塗装塗替え分野でどの程度のシェアを得ようと考えているのでしょうか

 廣畑 鋼橋の塗装塗替え面積は現在、年間約200万㎡程度です。IHへ現在は10万㎡程度で使われていますが。今後は約1/4程度までシェアを上げていければ、と考えております。

 しかし、IH工法は一部の下塗りが残るという課題や、素地調整はそもそも考慮していない工法です。そのため、ブラストなど既存工法と組み合わせることでうまく使っていかなくてはなりません。

 また、状況によっては中塗りや上塗りが劣化していても、下塗りは安定している、という鋼橋塗替えの現場もあります。そうした現場については、塗替え全体の効率化を考えて、(下塗りは安定していることから)素地調整は残っているとみなし、既存の塗料で塗り替えることができないか? ということもIH除去後に試験するなどの取り組みが必要であると考えています。

 ――ありがとうございました

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