Interview

土木研究所 RC床版用長寿命化支援AIシステムを公開

2025.01.28

今後も橋梁の各部材の診断AIを順次公開

Tag
AI 床版
Share
X Facebook LINE
キレイに、未来へ 近接目視点検 非破壊検査 おまかせください 道路下面施工が容易で発泡ウレタンの圧縮変形特性を活かした非排水用乾式止水材 プレスアドラー

土研が開発した診断AIシステムはオープンデータ化、ソースコードも公開

入力の際は参考情報を掲出し判断を助ける

 ――これらの入力を適切に判断できる技術者がどれくらいいるのでしょうか

 石田 ですので、判断に迷う場合は、参考情報が掲出され、それをもとに判断が助けられるようにしています。わかっていない人にもわかるように見るべきポイントを診断セット研究会で議論しています。経験が浅い技術者でも参考情報を見ながら着目点を適切に理解し、時間はかかると思いますが一つひとつ確認しながら業務を遂行することで学んでいくことにより、見落としなく入力できるようになると共に、効率的に経験を積めるようになると考えています。


参考情報の表示


 ――例えば凍害については、北海道や東北、長野の山岳部や中国山地などで生じる可能性がありますし、凍結融解も同様に損傷が起きやすい地域があると思います。民間のあるディープラーニングを用いた診断AIは構造物の緯度や過去の気象データなどを入力することで、診断の際の重要な判断指標として用いていますが、今回のAIにはそうしたデータは入力されているのでしょうか

 石田 冬季の最低気温については構造物ごとにチェックシートの項目で入力するようにしており、判断の助けとしています。ただ細かく地域とかまでは判断できるようにはなっていません。将来的には、本診断AIによって点検されたデータを、土木研究所が集めて様々な分析をするということもできればと考えています。

 基本的には変状の有無と合わせて判断するので、例えば漏水が生じているか? 床版防水工がされている? など構造物の特徴も含め、変状と環境を合わせて判断するようになっています。

 ――この診断AIは新しい橋梁定期点検要領にどのように落とし込んでいきますか

 石田 新点検要領は部材を群として評価するなど、新しい考え方が入っています。元々診断AIを作成している中で、点検要領との整合という観点もありましたが、点検要領の書式も変わっており、現在の書式とは別の文章になっています。

 ――新しい点検要領にも自由筆記欄があります。そこに入れることはできないのですか

 石田 技術者の判断によって、診断AIによって得た説明を引用するということはできると思います。ただ、あくまでも部材毎でしか、こちらのシステムでは出力できないので、上部構造全体としてどうか? とかそういった風には書けません。

価値ある環境を未来に 価値ある環境を未来に 人と自然が微笑む社会へ

意見フォームからフィードバックし改良していく

次はコンクリート桁の診断AIの公開を目標

 ――このシステムを活用することによってさまざまな点検結果データを得ることができると思います。使えば使うほどデータを蓄積すれば確度は上がると思いますし、フィードバックによりAIの修正をしていくことも可能になるでしょう。今までは知られなかった未知の知見も出てくれば、さらにAIの精度は高まります。それらのフィードバックとAIの改良の継続をどのように進めていこうと考えていますか

 石田 公表したシステムと合わせて、意見フォームを作っておりまして、寄せられた意見をもとにフィードバックをしていただき、それをもとに改良していきたいと考えています。

 ――意見フォームを使って能動的に意見を伝えない限りフィードバックはされないのですか

 石田 はい。

 ――使用したユーザーのデータを自動収集できないというのはもったいない感もありますね。もちろんノウハウなどの流出につながるため警戒感も生じますが、しかし公的機関である土研が収集するのですから、そこは協調領域と考えていきたいものですが

 石田 本当は自動収集したいという思いもあります。しかし取得した情報の取り扱いの問題や巨大なサーバーが必要であり、セキュリティの確保や予算の問題などでクリアすべき課題があることからめどはたっていません。フィードバックされた意見やデータをもとに、有志で会議体を作って、引き続き、システムの改良をやっていきます。

 ――RC床版以外のエキスパートAIの開発進捗状況を教えて下さい

 石田 システムの元となる診断セットは、いま、こちらの表で示す部材損傷について作成をしています。あとはこれをシステムとして今後熟度を上げていくような段階にあります。

診断セット構成


 ――今回RC床版については診断AIができたわけですが次は

 石田 コンクリート桁の診断AIの公開を目標にしています。その次は鋼桁を考えています。基本的には実橋で何橋か検証した上でリリースしています。毎年度、バージョンアップができればと考えています。

価値ある環境を未来に 価値ある環境を未来に 人と自然が微笑む社会へ

土研が開発した診断AIシステムはオープンデータ化、ソースコードも公開

二次利用を進め、民間の創意工夫を促す

 ――付言して何かあれば

 石田 今回、RC床版用長寿命化支援AIシステムを公表しましたので、ぜひ使って欲しいと考えています。実際に点検しているコンサルタントもですが、道路管理者も現場で使って診ていただき、どういうところが点検のポイントとなるのかを理解しながら、見落としなく点検できますし、出てきた結果、診断の支援として非常に参考になると思いますので、ぜひ使ってもらって、改良すべき点があればフィードバックを教えていただければそれを参考にして、今後改良していきたいと思っています。

 2月5日には、システムの利用を検討している道路管理者や民間企業、研究者の方々を対象に、オンライン説明会を開催する予定です。参加申し込みは土木研究所のWEBサイト(https://forms.office.com/Pages/ResponsePage.aspx?id=4eB9HJl3eUCBvaJsdtKtNWLRICxUhQNNpnC931Kq5-JUNVRESUpHS0c4WE5FTEhWV0tYQU9VVU4zUC4u)で受け付けています。まずは、お気軽に説明会に申し込みをしていただければと思います。

 また、公表したシステムはいわゆるオープンデータになっており、ソースコードも公開しています。例えば構造工学委員会でAI・データサイエンス論文集ができたりとか、結構土木分野でもディープラーニングを使って変状検知とか、生成AIを使ってみるといった研究が進んでいます。

 そういう研究者にぜひ、本AIのソースコードを使って、組み合わせていろいろやってもらいたいという思いがあり、商用利用も含めて二次利用を認めています。

 ――このシステムを踏み台にして、新しいエキスパートシステムみたいなものを、民間の会社が作っても良いということですか

 石田 そうです。ただその診断のコアのロジックは変えてはいけません。勝手にルールを作って、これは健全みたいなことをするのはいけません。但し、例えば入力を自動化できるようにするとか、xRoadからデータ連携させるとか、そういうことは独自にやっていただいても構いません。

 ――エキスパートシステムのこのAIシステムと、各社が作っているディープラーニングよる点検および診断AIをリンクさせることは可能という風に考えてよいのでしょうか

 石田 現在、AI・データサイエンス論文集などでも多いのが、ディープラーニングを用いた変状検知や生成AI活用です。今回開発したエキスパートシステムを用いて推論させるやり方はあまり多くありません。リンクさせることの技術的な課題はあると思いますが、それぞれ異なる目的で開発している技術を組み合わせて、使いやすいシステムになれば良いのではないかと考えています。

 ――ありがとうございました

価値ある環境を未来に 価値ある環境を未来に 人と自然が微笑む社会へ

pageTop