第二関門橋の期待も高まる九州地方整備局
国土交通省九州地方整備局は、直轄国道22路線、道路延長約2,391km(うち自動車専用道路:約380km)、4625橋、176か所のトンネルの管理を行っている。台風や豪雨の常襲地帯であり、活火山が多く、地震も多く発生する。熊本地震やここ最近の豪雨災害も記憶に新しい。熊本地震の復旧がようやく終わった矢先の球磨川水害では護岸上にあった道路や鉄道が大規模に損壊し、橋梁も10橋が流される未曽有の災害となった。一方で熊本に台湾のTSMCが進出、シリコンアイランド九州の復活として脚光を浴びている。もともと製鉄や自動車産業など九州の工業はポテンシャルが高い。さらにアジアに近い地理的特徴は観光分野や農業分野でも大きな潜在力を発揮できる可能性を秘めている。こうした状況に道路行政がどのように対応していこうとしているのか三保木悦幸道路部長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
球磨川流域災害復旧 橋梁は下部工全橋着手 上部工も進む
海外経験も豊富、九州・四国で事務所長を務める
--最初に、道路部長のご経歴について教えてください
三保木道路部長 元々最初の勤務地が九州で、福岡の国道事務所に配属になりました。そこから警察庁や、本省の道路局、また政策全般や社会資本整備重点計画などを担当する政策課にも在籍しました。
整備局としては九州以外に四国を経験しており、高知県内の国道事務所長を務めました。自治体には宮城県大崎市の副市長という立場で平成30~令和2年度に出向しています。その後熊本河川国道事務所の所長を経て現在に至ります。
海外にも2回ほど赴任しています。一度目はアフリカのエチオピアの大使館勤務で3年、もう一つはフィリピンにJICAの専門家として2年勤めました。
――海外ではどんなことをなされたのですか
三保木 エチオピアでは、大使館の経済協力班としてODA担当、特にインフラ整備とNGO支援などを主に担当しました。また、当時でも珍しい案件として、現地の日本庭園の修復も担当しました。もう一つのフィリピンでは、道路計画の専門家として、DPWH(公共事業道路省)に出向しました。当時のドゥテルテ政権は「Build, Build, Build」の名の下、インフラ整備が最重要政策の一つであった中で、ダバオのバイパスにおけるトンネルプロジェクトをはじめとする道路関係のODAプロジェクトや技術協力に携わりました。また、当時フィリピンの高速道路の整備と管理は、主として民間主導で行われていたため、政府が全体計画を策定するべく、日本の支援による調査の実施に向けた準備や調整なども行いました。
球磨川流域災害復旧 橋梁は下部工全橋着手 上部工も進む
再度災害防止を意識して道路計画
――2020年7月豪雨で寸断された球磨川流域の道路の復興状況について。国道部及び県道部の復旧の進捗状況と、橋梁架替えを行う各橋梁の形式、発注及び工事進捗状況について教えてください。また洪水時に同じように橋が流されないため、施している構造上および工事上の工夫について教えてください
三保木 「令和2年7月豪雨」において、熊本県南部から九州北部に至る広い範囲で記録的な豪雨となり、球磨川流域では甚大な被害が発生しました。
同年5月の道路法改正による、国が県道などの災害復旧が可能となる制度を初適用し、同年7月には球磨川に架かる流出した道路橋10橋と両岸道路100㎞の復旧工事に着手しました。その約1か月後には、主要地方道人吉水俣線の西瀬橋について、応急組立橋を用いた仮橋の架設により通行を確保、翌年5月末までに、相良橋、坂本橋、鎌瀬橋の3橋においても仮橋を架設し通行を確保しました。
本復旧については、有識者で構成される「球磨川復旧技術検討会」を設置し、「流失した橋梁の被災原因と被災メカニズムの推定」や「再度災害防止の観点」から、架橋位置や構造に対する助言を頂いたうえで橋梁構造を決定し、下部構造に被災がなく上部工1径間の新たな架設で復旧可能であった西瀬橋については、通学路や生活道路としての機能を早期に復旧させるため先行して工事を行い、令和5年2月に本復旧いたしました。
そのほかの橋梁につきましては、令和4年12月から坂本橋をはじめとする5橋の工事に着手、翌年11月には深水橋をはじめとする残り4橋の工事にも着手しています。現在は残る9橋全ての復旧に向けて工事を推進しています。
国道219号の対岸道路については、再度災害防止を大前提に、避難計画やまちづくり計画などを踏まえるとともに、計画高水位や余裕高を考慮して、嵩上げ工事や狭小区間の拡幅など、道路の各種条件に合わせて復旧を行うことにしています。ここについてはスピード感を持って、しっかり進めていきます。
――各橋梁の形式と進捗状況を教えてください
三保木 深水橋は橋長165mの鋼単純アーチ橋です。現在下部工を実施中で、上部工についてはこの3月に契約が完了し、準備を進めています。
深水橋(左:イメージパース、右:2024年5月の状況)(国土交通省九州地方整備局、以下同)
(写真配置は以下の球磨川架替橋も同じ)
坂本橋は橋長156mの鋼2径間トラス橋です。下部工のうち、A2橋台が完成し、A1橋台は現在施工中です。A2側から上部工の架設に4月16日に着手したところです。
坂本橋
鎌瀬橋は橋長200mの鋼単純アーチ桁です。現在下部工が完成し、上部工の架設に向けた準備作業を進めているところです。
鎌瀬橋
神瀬橋は橋長137mの鋼単純アーチ橋です。現在下部工を施工中であり、上部工についてはこの3月に契約が完了し、工事着手に向けて準備を進めています。
神瀬橋
大瀬橋は橋長131.5mの鋼2径間連続鋼床版箱桁橋です。現在は下部工を施工中であり、上部工については架設に向けた準備作業を進めています。
松本橋は橋長146mの鋼2径間連続鋼床版箱桁橋です。現在下部工が完成し、上部工は架設に向けて桁を工場製作中です。
松本橋
相良橋は橋長235mの鋼2径間トラス橋です。現在下部工を施工中であり、上部工についてはこの3月に契約が完了し、工事着手に向けて準備を進めているところです。
相良橋
沖鶴橋は橋長182mの鋼2径間鋼床版箱桁橋です。現在A2橋台を施工中であり、上部工については、今年の6月にA1側からの架設に着手する予定です。
沖鶴橋
天狗橋は、橋長192mの鋼単純アーチ+鋼2径間鋼床版箱桁橋です。このうち、橋台1基の構築と、落橋した側径間部のみの架替えを行うものであり、現在下部工については施工中であり、上部工についてはこの3月に契約が完了し、工事着手に向けて準備を進めているところです。
天狗橋
西瀬橋については、先ほどお話ししました通り、被災から2年7ヶ月のR5.2に本復旧を完了しました。
西瀬橋
――橋梁の構造上の工夫などについては
三保木 橋梁復旧技術検討会の議論も踏まえ、「狭窄部、水衝部、支派川の分合流部を回避した位置」、「背後地に土石流や土砂流出、法面崩壊等が発生もしくはその恐れがある範囲は回避」、「桁下高さは、治水対策実施後の水位(計画高水位+余裕高相当)以上とする」などの工夫に取り組んでいます。
深水橋、神瀬橋、鎌瀬橋につきましては、「流水部に橋脚を設置する場合、現地条件によっては工程上出水期にも大規模な仮設構造物を存置する必要があり、施工中に被災の懸念を伴う場合橋脚を有しない構造を選定」を行いました。
天狗橋については、現行法令に合致しない構造であるため、河川流下断面内に設置されていた橋台を撤去し、流下断面外に設置しました。
――JR九州の肥薩線の復旧方針が決まりました。現在、道路や橋梁の整備は、かなりの部分において肥薩線の路床を工事用道路として用いています。今後肥薩線の復旧っていうものが始まってくると、ただでさえ狭いところで、切り回しが必要になってきます。どのような時間的スパンで事業を進めようとしているのか教えてください
三保木 現在、県道などの対岸道路の施工にあたっては、現地の厳しい地形条件や可能な限り通行止めを回避する等の観点からJR九州と協議を行い、災害によって不通となっている隣接する鉄道敷地を迂回路や工事用道路として活用させていただくことで、復旧工事を円滑に進めさせてもらっています。工事用道路となる鉄道敷地は、一時的にお借りしておりますので、対岸道路の復旧状況や今後の肥薩線の復旧スケジュールを見据えながら、敷地の返還方法や時期について、協議していくことになると思います。
肥薩線は大切な地域の足です。国としても復旧に向けてできる支援は行っていきたいと考えておりますが、どういう形で鉄道が復旧されるのか、これから関係者間で具体的な復旧方針が検討されることになります。現時点で復旧の時期を明確にすることは難しいですが、関係機関と連携して、一日も早い復旧を目指して、事業を進めて参りたいと考えています。
都城志布志道路(都城IC~乙房IC)間が開通予定
国道220号南郷奈留道路、国道57号大津道路が新規事業化
――次に2024年度の重点道路事業建設の計画と進捗状況、また新規事業化区間の区間、延長、構造物比率、特徴などについて教えてください
三保木 九州は火山の噴火や梅雨前線・台風上陸に伴う豪雨、また今後発生が予想されている南海トラフ巨大地震など多様な災害リスクを抱えています。将来に向け更なる発展のためには、防災・減災対策、高度成長期以降に整備されたインフラの老朽化対策が喫緊の課題となっています。
令和6年度の九州地方整備局関係予算については、「令和2年7月豪雨等からの復旧・復興」、「国民の安全・安心の確保」、「持続的な経済成長の実現」、「個性をいかした地域づくりと分散型国づくり」に重点をおき、施策効果の早期発現を図ることとしています。
直轄事業については、近年の災害の激甚化・頻発化を踏まえた、強靱で信頼性の高い国土幹線道路ネットワークの構築や平常時・災害時を問わない安全・円滑な人流・物流を支える道路ネットワークの構築を推進するため、大きなストック効果の発現が見込まれる道路整備に重点投資するなど、計画的な事業実施に必要な額を配分しています。
今年度は、都城志布志道路の「都城IC~乙房IC」間(L=5.7km、宮崎県都城市高木町~都城市乙房町、R6当初事業費:22.61億円)などが開通予定です。
都城志布志道路①(左:都城IC~高木原跨道橋付近、右:都北IC付近)
都城志布志道路②(左:都北~乙房(大淀川橋付近)、右:乙房IC付近)
今回、鹿児島県で事業中の志布志福山線志布志道路(L=3.2km)とともに都城志布志道路(L=約44km)の全線が開通するため、都城ICから国際バルク戦略港湾である志布志港が直結し、日本有数の畜産地である都城市の地域産業活性化や、新たな企業立地、広域的な医療活動の支援などが期待されています。
国道201号の2車線区間でボトルネックとなっている、国道201号八木山バイパスの「篠栗IC~筑穂IC」間(L=5.7km、福岡県糟屋郡篠栗町篠栗~飯塚市弁分、R6当初事業費:52.39億円)が4車線化予定です。今回の開通により、事故や積雪時のスタック車両等による交通規制リスクが軽減され、物流の速達性および定時制の確保が期待されています。
八木山バイパス①(左:福岡側入口(鳴淵ダム入口交差点)、中:黒木原橋、右:花廻第一橋)
八木山バイパス②(左:篠栗本線料金所、右:筑穂TN起点方)
なお、4車線化工事の完成にあわせて、一般国道201号 八木山バイパス(篠栗IC~穂波東IC)の管理が国土交通省からNEXCO西日本に移管され、料金徴収を開始する予定です。
次に、今年度の新規事業化区間ですが、東九州自動車道の一部を構成する国道220号南郷奈留道路(L=13.3km、全体事業費:650億円)が事業化されました。今年度は、調査設計を実施予定です。本道路の整備により、並行する国道の寸断時に発生する広域迂回を解消し、災害時の救援活動に機能するとともに、走行性及び速達性向上による医療活動支援や地域観光振興に寄与する安全で円滑な高速ネットワークの形成が期待されます。
また、中九州横断道路の一部を構成する国道57号の大津道路(L=4.8km、全体事業費:340億円)が事業化されました。今年度は、調査設計を実施予定です。本道路の整備により、走行性の向上や所要時間の短縮が図られ、半導体関連産業をはじめ、沿線の更なる地域活性化や新たな企業立地が期待されます。
国道3号の博多バイパス(下臼井~空港口)は、主要交差点の立体化により交通渋滞を緩和するとともに、道路利用者の安全性向上に資する事業です。令和4年2月に都市計画決定し、現在設計などを進めており、今年度より用地買収に着手する予定です。また、本事業と交差する福岡北九州高速道路公社が実施している福岡高速3号線(空港線)延伸事業では、国道3号の空港口交差点を都市高速がアンダーパスする構造となり、福岡空港へのアクセス向上が期待されています。