Interview

第二関門橋の期待も高まる九州地方整備局

2024.07.16

球磨川沿いの道路・橋梁の復興をスピード感をもって進めていく

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国土交通省
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既設橋りょうの耐震補強設計は、当社の最も得意とする分野です。 株式会社インフラネット 未来をつむぎ人とのつながり 我々は、社会に貢献する企業として”しあわせ”を追求し続け、地球環境の創造を目指します

設計中は橋梁30橋、トンネル2か所、今年度は10橋程度の設計業務を発注

設計中は橋梁30橋、トンネル2か所、今年度は10橋程度の設計業務を発注

工事発注予定は橋梁上部工が21橋、トンネルが1か所

 ――2024年度の主要橋梁・トンネル事業の計画と進捗状況について、まず設計中のものから教えてください

 三保木 現在設計中の橋梁については約30橋あり、今年度は約10橋程度の設計業務を発注予定です。また、今年度工事発注予定の橋梁(上部工)については鋼橋9橋、PC橋12橋を予定しています。


 このうち、有明海沿岸道路の大島高架橋(P14~P17)については、橋長253mの鋼3径間連続鋼床版箱桁橋で、送り出し架設+トラッククレーンによる架設を予定しており、今年度発注し、R8年度までの3か年による工事を予定しています。


有明海沿岸道路大島高架橋の現況

有明海沿岸道路川副1号橋桁架設状況


 現在設計中のトンネルについては、2トンネル(蘇陽五ヶ瀬:長崎TN・油津夏井:1号TN)あり、今年度は1トンネルの設計業務を発注予定です。(油津夏井:3号TN)。また、今年度工事発注予定のトンネルについては1トンネル(松浦佐々道路:江迎2号トンネル、L=463m 工期:R6~R8)を予定しています。

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施工中の橋梁上部工は37橋 日南油津道路では送り出し架設を予定

滝室坂トンネルは覆工施工中、鹿児島東西トンネルは慎重に掘進

 ――同様に施工中の構造物は

 三保木 現在、上部工に着手している橋梁については37橋あり、内訳は鋼橋が20橋、PCが17橋です。

施工中の主要橋梁一覧


 日南・志布志道路の日南油津大橋については、橋長383mの鋼4径間連続鋼床版箱桁橋で、最大支間長が100mを超える曲線橋であり、送り出し架設による架設を予定(R7.8月頃予定)しており、難易度の高い工事となっています。


 現在施工中のトンネルについては9トンネルあります。内訳は山岳トンネル(NATM)が8か所、シールドトンネルが1か所となっています。

施工中トンネル一覧

国道218号五ケ瀬高千穂道路 童里トンネル工事 掘進状況


 熊本57号・滝室坂道路で施工中の滝室坂トンネルについては、本坑延長L=4834m、避難坑L=4898mのトンネルであり、阿蘇火砕流堆積物で脆弱な地質を貫くトンネルでありましたが、昨年6月に貫通を迎え、現在覆工等の工事を行っています。


滝室坂トンネル(左:波野側坑口、右:坂梨側坑口)


 また、鹿児島東西道路で施工中の東西トンネルは、延長L=2319mで九州地方整備局の道路トンネルでは初めてとなるシールド工法を採用し、市街地部で住宅地やJR直下を施工する難易度の高い工事となっています。

 ――滝室坂は非常に長大なトンネルであり、掘進の時も苦労されたことと思います。さらに覆工も長区間に渡りますが覆工トンネルの施工効率化や品質確保の面で、工夫していることを教えてください

 三保木 非常に脆弱な地質部、高透水性区間にあたるEパターン区間においては、覆工の構造強化を目的に鉄筋が過密な構造となっているため、棒状バイブレーターによる締め固めが困難となるため、高流動コンクリートを採用しました。


滝室坂トンネルの覆工施工状況①
(左:本坑覆工セントル(起点側から望む)、右:本坑防水シート、鉄筋状況(起点側から望む))

滝室坂トンネルの覆工施工状況②(避難坑(中間ポンプ室))


 ――鹿児島東西トンネルはシラス土質であり、非常に難しい地盤と聞いています。さらにお話の通り、その地上部には住宅地やJRもありますが、現在の進捗状況と施工上の安全対策、施工時の振動・騒音対策について教えてください

 三保木 進捗状況は現在53mほどです。おっしゃる通りの施工条件ですので非常に慎重に掘り進めています。今後は1日10~15mほどのペースで掘進していく予定です。


鹿児島東西トンネル(左:発進ヤード、右:発生土積込み状況)



鹿児島東西トンネルの掘進状況


 安全対策については、地表面計測モニタリングや、騒音・振動計測モニタリング等を定期的に実施し結果を公開しており、安全面をはじめ、周辺環境への配慮にも努めています。

 施工は大成・大豊JVです。

第2関門橋は環境アセスの段階 万全かつスピード感をもって手続き進める

 --第2関門橋や、豊予海峡ルート、桜島架橋(トンネル)、天草架橋の鹿児島ルートなどビッグプロジェクトについて

 三保木 それぞれ熟度や、あるいは地域の盛り上がりも異なります。大規模プロジェクトは地域だけで何とかできるものではありません。整備コストも桁違いにかかりますから国民的なコンセンサスを得ることが非常に重要です。「必要だよね」と国民の皆様が言ってくれる環境が整わないといけない。そこをいかに盛り上げ、後押しをいただくかが非常に重要と思っています。そういう意味では下関北九州道路(第二関門橋)は、地方公共団体や経済界を始めとして力強いご支援がある中で、今まさに環境アセスの手続きに入ったわけです。この手続きを万全かつスピード感をもってしっかり進めていくことが重要だと思っています。

 ――今、日本において、海洋の道路用大規模吊橋は、広島県道路公社が作った豊島大橋が2002年に架設供用されて以来、もう20年以上実績がありません。下北道路にかかる第2関門橋、これは1㎞をはるかに超える長大吊り橋になると聞いています。我が国は若戸大橋を皮切りに関門橋、本四架橋などにおいて長大吊り橋を製作・架設する技術の蓄積があったわけですけども、その技術を知る人間がどんどん退職されている状況で、技術の継承が困難になっている状況があります。このままいくとか海洋の超大吊り橋が作れなくなる。IHIや横河ブリッジなどは外国で、そういう吊橋を造っていますから、まだ技術は残っていますが、国内においてもそういうつり橋の強度に耐えうるケーブルを作る会社も少なくなってきています。そういうところがあって、技術を継承し発展させるという意味においても期待が高まっています。そうした点についても少し言及していただけないでしょうか

 三保木 技術の伝承は非常に重要ですし、それは維持・更新の時代についても必要だと思います。日本は島国であり本州と各島同士が海峡によって隔てられ、形も大変細長く、しかもそれぞれには中央に険しい山脈が連なっています。その国土を繋いでいく手段としては、トンネルと橋がメインになるしかないわけです。

 その手段を磨き続けることは新設のみならず維持管理の点でも重要です。そのためにも下北道路について早期実現するように、手続きを瑕疵なく丁寧に、しかもスピード感をもって進めていきたいと思います。

架設時の省力化・省人化や出来形計測の生産性向上を進める

 ――新設における新技術・新材料の導入事例について

 三保木 新技術導入の事例として、福岡201号黒木原橋上部工工事において「架設時における技術等を活用した安全管理の省力化・省人化手法」をテーマにした鋼橋架設工事を実施しました。桁架設時においては、作業ヤード境界からの吊荷の越境による第三者災害を防止するため、監視員などを追加配置する必要があることから、安全を確保した上で、省力化・省人化を図ることが求められます。(上部工施工は大島造船所)


黒木原橋


 これに対し、3DモデルやICTを活用したDX技術を用いながら作業エリアからの吊荷越境を監視することで、安全を確保しながら省力化・省人化を図ることができます。本工事では、レーザーシステムを用いて供用中の道路へ吊り荷等が越境しないように監視したり、クレーンに設置したAIカメラによる自動検知により、作業員等がクレーンに接触しないよう監視するなどして、監視員の省人化を図りました。

 上記の内容を反映した3Dモデルの施工シミュレーション動画を用いて、危険要因(作業手順)の確認と安全教育への反映により、2次元で把握しづらい危険作業が視覚的なイメージで理解・共有しやすくすることで、作業効率の向上・省力化を図りました。

 PC上部工工事においては長崎497号松浦8号橋上部工(上り線)工事で「プレキャスト部材の出来形計測の生産性向上」をテーマに、現在取り組みを行っているところです。PC構造におけるプレキャスト部材の出来形計測は、複数人でのメジャー等による計測を行い、出来形検測調書作成しているのが現状であり、大きな負担となっています。


松浦8号橋


 これに対し、レーザー測定機等を用いた測定精度の高い計測システムや自動帳票作成システムの活用により、プレキャスト部材の出来形管理における受発注者双方の省人化・省力化が可能となるものです。

 個々の計測機器等を用いて、出来形計測等の正確さや作業にかかる員数等を、従来方法と比較・検討し、その効果を検証する予定としております。(施工は安部日鋼工業)

 ――鋼橋分野においては福岡201号新朝倉橋(上り線)外上部工工事の新朝倉橋において、CO2排出量をマスバランス方式により100%削減したグリーンスチール鋼材を使用し、カーボンニュートラルの実現を図っていると聞きますがどのような工事ですか

 三保木 国道201号香春拡幅事業の一環として、呉川に架かる新朝倉橋(上り線)(橋長58m)の上部工工事と、JR日田彦山線を跨ぐ鏡山跨線橋(上り線)(橋長54.5m)の製作を行う工事です。いずれも、橋種は鋼単純鋼床版箱桁橋になります。(施工は横河ブリッジ)

 ――土工部においては、西九州道(伊万里道路)を施工中の現場(佐賀県伊万里市)で、ビッグカルバートを大規模に採用した現場があると聞きます。この構造及び工法内容と使用目的について教えてください

 三保木 脇田函渠工事です。盛土工により構築する本線の下を通る県道を構築するために、プレキャストアーチカルバート構造による幅15m、高さ10.1m、延長48mのカルバートを施工しました。

 工場で5分割に製作されたカルバート部材を現場に輸送し、アーチ部の3部材を現地で組み立てて起こし、設置箇所の両側に据え付けた脚部材に、クローラクレーンで据え付けるものです。現場打ち底版との併用による剛結構造のアーチカルバートであるため、漏水対策が不要で、上載荷重がボックスカルバートに比べて軽減され、15m程度までの土被りにも有効です。

 橋梁、現場打ちBOXとの比較により、経済性、工程等の観点で本構造が優位であったことから選定しました。(施工は松尾建設)


脇田函渠

「道路橋の設計における諸課題に関わる調査」を予備設計に用いる

亀割山防災事業の小廻橋(橋長430m)に採用

 ――土木学会では2023年5月に橋の計画と形式選定の手引を発刊しました。新設橋の予備設計や道路計画段階時点で様々な形式選定や、リスク管理、新技術の導入などを検討し、しかもプロセスの過程を残しておくことで、後工程に資する橋梁計画や予備設計となることを目指したものです。予備設計段階では、地質や住民との合意形成など不確定要素があり、かつ同時点での新技術についても有望ながら信頼性の点で断念することもありました。しかし、予備設計段階から実際の工事に入るまでは通常でも3~5年程度かかり、その間で所与の条件やより詳細な情報、新技術の信頼性も向上することから、議論の過程を残し、予備設計の最適案も無理に1つにしないことで、後工程の選択の幅を広げるようにしたことが最大のメリットです。同取り組みには国総研の玉越委員、松村政秀委員(熊本大学教授)など、国土交通省、九州管内の大学に属している方も幹事として策定に参加されています。こうした取り組みの活用についても今後行っていくか教えてください。

 三保木 「橋の計画と形式選定の手引き」(土木学会2023年5月、以下「手引き」)では、構造物のリスク評価や新技術の導入が、橋の計画や形式選定のプロセスに必ずしも十分な形で組み込まれていない等が課題として指摘されています。

 国総研でも、同じような問題意識から「道路橋の設計における諸課題に関わる調査」(No.1162)を公開し、橋の計画と形式選定についての新たな枠組みを提示し、特に橋の計画における基本条件の設定やリスク評価について内容を示しています。

 本手引きは、この国総研資料との整合を図りつつ、これを補完する資料として位置づけられており、橋種選定における実務の参考資料として相互に連携しているものです。

 当整備局では、上記国総研資料に則り実施する橋梁予備設計を昨年度から試行的に取り組んでおり、新たな取り組みに対する課題等の抽出を行っているところです。

 ――具体的にはどこですか

 三保木 鹿児島国道管内の亀割山防災事業において小廻橋(橋長430m)の予備設計に用いています。

4,625橋、176トンネルを管理

Ⅲ判定の橋梁は増加傾向、トンネルは減少傾向

 ――次に保全についてお聞きします。まず、現在の管内橋梁・トンネルの内訳は

 三保木 橋梁は4,625橋、トンネルは176箇所管理しています。

九州地方整備局が所管する橋梁及びトンネル(路線別)



 ――点検を進めてみての管内各路線の劣化状況について詳しくお答え下さい(橋種(鋼、PC、RC)、部位(桁、床版、橋脚、地覆、高欄など)ごとの損傷傾向とその理由についてお答えください。また、一巡目と二巡目の比較や、損傷度が遷移(悪化、2→3になった事例などがどれくらいあるか、それはなぜか)。 同様にトンネルについてもお答えください

 三保木 1巡目点検のⅢ判定は5年間で303橋でした。2巡目点検のⅢ判定は4年間で458橋であり、増加傾向となっています。前回点検でⅡ判定であったが、最新の点検でⅢ判定が確認された損傷は、鋼主桁の腐食、コンクリート床版の剥離・鉄筋露出、コンクリート橋脚のひびわれ、鋼製支承の腐食など水が原因と考えられる損傷が主となっています。


橋種別、延長別、経過年数別橋梁数


 このため、このような損傷を防ぐには、日常管理等において、適切に排水処理を行うことが重要です。

 同様にトンネルについては、1巡目点検のⅢ判定は、5年間で43箇所。また、2巡目点検のⅢ判定ですが、4年間で15箇所となっています。


工種別、延長別、経過年数別トンネル数


 前回点検でⅡ判定であったが、直近の点検でⅢ判定が確認された損傷は、ほぼありません。損傷状況は、経年劣化(小規模うき等)、補修材の劣化、漏水等となっています。

耐震性能2は約9割の対策が完了

能登半島地震の状況を踏まえ土工部について対応も

 ――橋梁など耐震補強の進捗状況(耐震性能2)、および落橋防止装置の設置状況(全数および実施済み数)および2024年度の対策予定についてお答えください。また、熊本地震や今回の能登半島地震に対応した耐震対策についても知見をもとにどのようなことが改めて必要になっていると考えているかお答えください

 三保木 災害時の救急救命活動や復旧支援活動を支えるため、緊急輸送道路上の橋梁について、優先した耐震補強を推進しているところです。落橋・倒壊を防止する対策(耐震性能3)は、対象橋梁すべて完了しています。現在は速やかな機能回復が可能な性能を目指す対策(耐震性能2)を進めており、九州管内は約9割の対策が完了しているところです。


耐震補強例


 緊急輸送道路上の橋長15m以上で耐震性能2を満たすべき橋梁は1,718橋あります。うち193橋が対策未完了となっております。

 今回の能登半島地震の構造物の被害状況については、道路技術小委員会でも議論されています。その中で、石川県内で落橋した橋梁は現在のところ確認されていません。耐震設計基準が大きく変わった兵庫県南部地震以後に設計された橋の本体は概ね軽微な被害でした。一方で、周辺盛土や堤防の変状により変状に伴って橋台に異常変位が残留する例が散見され、本復旧の対応の遅れにつながる可能性もあり、基準の改定の方向性も示されたところです。九州地方整備局としては、本省での議論を踏まえ、適切に対応していきます。

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