大阪湾岸道路西伸部 浪速国道、神戸港湾、阪高神戸建設部3者座談会
神戸港ひいては阪神港を一体化する大阪湾岸道路西伸部

国土交通省
近畿地方整備局
浪速国道事務所
所長
中西 健一郎氏

国土交通省
近畿地方整備局
神戸港湾事務所
所長
石原 洋氏

阪神高速道路
神戸建設部
部長
糸川 智章氏
概要動画Overview Video
今、おそらく土木業界で最も元気のよい地域を挙げれば、だれもが関西圏を挙げるだろう。そして橋梁業界で注目すると言えば、大阪湾岸道路西伸部が、まず思い浮かぶ。2橋の大型海上斜張橋が神戸港を横架し、さらに陸上部には延々と高架橋が建設されていく、その様はまさにビッグプロジェクトである(関西圏はこれに加えて、新名神の建設や、4・6車線化、淀川左岸線があるのだから日本の土木業界においては、今風の言葉でいえば「チート」といってもよいかもしれない。その大阪湾岸道路西伸部を担う、国土交通省近畿地方整備局浪速国道事務所の中西健一郎所長、神戸港湾事務所の石原洋所長、阪神高速道路神戸建設部の糸川智章部長3者の座談会の模様を今回はお届けする。(井手迫瑞樹)

5号湾岸線を西に14.5km延伸し、渋滞解消や港湾へのアクセス改善を企図
5号湾岸線を西に14.5km延伸し、渋滞解消や港湾へのアクセス改善を企図
構造物は橋梁が大半を占める 駒栄側に開削トンネル
――大阪湾岸道路西伸部の目的と事業概要および各事務所の事業分担について、中西所長からよろしくお願いします
中西 大阪湾岸道路西伸部は大阪湾岸道路の一部を構成する道路で、現在は阪神高速5号湾岸線が六甲アイランドで途切れていますが、そこから西側に14.5km伸ばしていく事業となっています。
狙いは、神戸市中心部の渋滞の緩和、また定時性の確保、代替路の確保や災害時の交通確保といったところを目的としております。

西側に14.5km伸ばしていく(国土交通省及び、阪神高速道路提供、以下注釈なきは同)
特に神戸市内は、全国の都市高速道路の渋滞損失においても、阪神高速3号神戸線の上り下りで全国ワースト1、2位を占めているなど、酷い渋滞が発生している状況であります。国際コンテナ戦略港湾である阪神港もあることから、物流拠点へのアクセスの定時性確保というところも非常に求められています。そうした課題を解決することも大きな事業目的です。 この事業は浪速国道事務所と、神戸港湾事務所、阪神高速道路(株)(神戸建設部)3者の合併事業ということで進めさせていただいております。
主な役割分担は、陸上部の上下部工を浪速国道事務所、海上部の基礎については神戸港湾事務所、陸上部における有料道路との接続部の上下部工と海上部の主塔および上部工を阪神高速さんが分担しています。
――では次に構造物比率について教えて下さい
中西 構造物比率は全体14. 5km中、橋梁が13. 9kmと大部分を占めています。 一部トンネルが0.4kmと掘割の土工が0.2kmという構成になっています。
進捗率は予算ベースで13%となっています。一番進んでいるのが六甲アイランド工区で、こちらは詳細設計が完了して、工事に既に着手し、上下部工の施工が進んでいます。次にお隣の新港・灘浜航路部の進捗状況を申し上げますと、こちらは海上部ですが、橋梁形式や基本構造の決定が完了しており、現在、阪神高速さんの方で詳細設計を進めているところです。
同海上部の主塔基礎については神戸港湾事務所が担当していますが、詳細設計が完了しており、工事公告をしている段階になってございます。
さらに同航路部対岸のポートアイランドから西側につきましては、詳細設計が未了であり、これから詳細設計を進めていくという状況になっています。
もう少し、詳しく申し上げますと、六甲アイランド地区は、PE-1からPE-17間の下部工が概ね完成しておりまして、順次上部工に着手していく状況です。昨年から上部工に着手しており、一部では、写真のような橋らしい姿が徐々に出てきています。


六甲アイランド地区は、PE-1からPE-17間の下部工が概ね完成
橋梁形式は六甲アイランド地区から申し上げますと、阪神高速5号湾岸線との接続部付近に架けられる予定の六甲アイランド第一高架橋は西行が橋長672m、東行きが橋長655m、(全幅13.5~14.9m、鋼重約11,000t)の鋼8径間連続4主合成細幅箱桁橋となっています。床版は合成床版を採用しています。橋脚構造は、PPE-1~PPE-7が鋼製橋脚(門型・T型)でPE-1のみ、柱がRC、梁が鋼構造の複合構造橋脚となっています。基礎はPPE-1、2、3、4、6が鋼管矢板井筒基礎、PPE-7がニューマチックケーソン基礎、PPE-5とPE-1が鋼管杭基礎を採用しています。設計は大日本ダイヤコンサルタント、施工は基礎工及びPE-1の下部工を大成建設、PE-1を除く鋼製橋脚工とPE-1の鋼製梁部及び上部工をカナデビア・JFE・日ファブ・川田JVがそれぞれ担っており、阪神高速さんの施工区間となっております。


ニューマチックケーソンの施工

鋼管杭基礎の施工
次いで六甲アイランド第三高架橋は基礎工、下部工が完了し、上部工に着手しています。橋長504m、鋼重約4,000t、全幅26.4mの鋼8径間連続4主合成細幅箱桁橋であり、こちらも床版は合成床版を用いています。基礎には経済性、地盤条件を踏まえ鋼管ソイルセメント杭を選定しました。PE-7~PE-9までの2径間の桁・合成床版底鋼板の架設、本締め、塗装が完了し、臨港道路の南側道路を一時的に、北側道路に交通をシフトさせ、南側道路のスペースを地組ヤード兼、工事用の切り回し道路として用い、お盆明けから道路の付け替えを行い、切り回し道路部及びベント部の地耐力調査などを行いました。現在はベントの架設を行い、上部工の桁架設を進めています。設計は綜合技術コンサルタント、上部工はIHI・瀧上JVが担っています。

基礎工施工時の状況

六甲アイランド第三高架橋の地組及び架設


南側道路を使いながら桁架設を進めている。(11月27日、井手迫瑞樹撮影)
六甲アイランド第四高架橋は、基礎工、下部工が完了し、上部工を今後施工していきます。橋長335mの鋼5径間連続4主桁細幅箱桁橋で、合成床版を採用予定です。ここも基礎には鋼管ソイルセメント杭を採用しています。上部工の発注時期は現時点で未定です。




第3高架橋の西側はまだ下部工が施工されている状況である(11月27日、井手迫瑞樹撮影)

さらにその向こうは海、ここに斜張橋が架設される(井手迫瑞樹撮影)
六甲アイランド第五高架橋は橋長565mの鋼8径間連続3主桁細幅箱桁橋で、合成床版を採用予定です。六甲アイランド西ランプの一部を施工している段階で、本線の基礎及び下部工はまだ全ては完成していません。PE-15~17は鋼製梁を用いたRC橋脚、PE-18~19はPC梁を用いたRC橋脚、PE-20~21はRCラーメン式橋脚、PE-22はPC梁を用いたRCラーメン式橋脚を予定しています。設計は長大と綜合技術コンサルタントが担っています。


下部工の施工状況


上部工の進捗状況
また、六甲アイランド第五高架橋を挟む形で予定している六甲アイランド西ONランプ、同OFFランプ(ONランプ橋長360m、OFFランプ橋長355m、上部工:鋼5径間連続開断面箱桁橋(合成床板)、下部工:逆T式橋台及びRC張出式橋脚、基礎:鋼管ソイルセメント杭)は、現在橋脚及び橋台の基礎工事を進めています。施工は株本建設工業、神崎組、香山組が担っています。
橋梁上部工は全て鋼橋形式
防食は基本的に重防食塗装
――橋梁上部工は全て鋼橋形式ですね
中西 コストや地盤条件などを考慮して最適な橋梁形式を選定しています。
――海に近い地に架けられる橋梁ですが、鋼部材の防食方法はどのようなものを採用していますか
中西 基本的にはトップコートにふっ素樹脂塗料を用いた重防食塗装(C-5)を採用しています。桁端部や下フランジなどについては、現場が湿潤環境にあることを踏まえて、下塗りを一層増し塗りして膜厚を厚くする対応をとっています。 下部工のRC構造部については、海岸線から近いことを踏まえて、示方書に準じ、鉄筋かぶり厚を厚くする対応を行っています。

六甲アイランド第三高架橋の上下部工(井手迫 瑞樹 撮影)
――溶射やエポキシ樹脂塗装鉄筋などは使っていませんか?
中西 溶射は特に使っておりません。示方書に準じ、塩害影響区分に応じた鉄筋かぶりを確保しているため、エポキシ樹脂塗装鉄筋は採用していません。
陸上部基礎 埋立地盤の厚さは20mぐらいまで分布
鋼管ソイルセメント杭を基本的に適用
――陸上部の高架橋について埋立地、また人家連坦地に橋梁を建設するという状況を踏まえて、基礎の構造的な対応はどのように行っていますか。また、阪神高速が開発した鋼管集成橋脚の採用などは考えておられませんか。また上部工の形式選定の理由についても改めて教えていただけましたら幸いです
中西 六甲アイランド地区の国土交通省分担分の基礎工は、鋼管ソイルセメント杭(右写真)を採用しています。深さは45~50mに達します。六甲アイランドは人工的に作られた埋立地ですので、表層から約20mの深度まで軟弱な地層が分布しています。また、詳しく地盤を調査した結果、地中内の礫径が結構大きいということが分かりました。 そのような地盤条件を踏まえ、鋼管ソイルセメントが、経済性や施工性も考慮して、一番適しているというとことで採用しています。
下部工は、住民の方と整備する前にいろいろ意見交換した際に、景観に配慮してほしいという意見が多く出ました。景観的に圧迫感を与えないで欲しいなどの意見です。下部構造には景観への配慮と基礎構造への影響を踏まえ、RC2柱式橋脚やラーメン式橋脚を採用しています。
――2柱式のRC橋脚の採用というお話でしたが、国土交通省担当区間においては、鋼製橋脚はないということですね
中西 鋼製梁を使っている下部工はありますが、鋼製橋脚は国土交通省分担部にはありません。
――鋼管ソイルセメント杭を使う時に、人家連坦地や左右の道路に対する影響の工夫は
中西 工法的には、そうした振動・騒音の悪影響が一番少ない工法として採用しています。最も、それは発注者や施工者の感覚ですので、そもそも何もなかった箇所で基礎工事を行うわけですから、住民の皆様にとってはゼロから(振動・騒音が多少)増えるわけです。そのため、きちんと説明することが、当たり前ですが大事です。施工に携わる受注会社さんは、いずれも工事に入る前に説明用のビラをつくって周知すると共に、工事中も高頻度で住民の方々に周っていただいて、工事期間や工法の周知をしていただいています。設計や工法でカバーすることはもちろん、住民への周知という一見、対人的、アナログ的な取り組みの両面が工事をスムーズに行うための工夫であると、改めて感じています。


同下部工(基礎は鋼管ソイルセメント杭を採用、高炉スラグを使っている)(井手迫瑞樹撮影)

進捗状況と基礎の選択


鋼管杭基礎の施工

鋼製橋脚や鋼製桁の施工ステップ

鋼製梁の施工
上部工は、スパン長が70~80mと長いため鋼細幅箱桁形式で設計・施工しています。施工方法は基本的にトラッククレーン+ベント架設です。施工の際は550tのクレーンを使っております。
クレーンの規模も大規模で、桁長も大規模ですので、見る機会も少ないことから、市民の皆様への広報活動を広報誌やX・YouTubeによる広報を行っています。市民の皆様への周知はもちろん若い方への建設業界への興味を持ってもらうための、端緒になればと考えております。

広報誌やX・YouTubeによる広報を行っている




