Interview

大阪湾岸道路西伸部 浪速国道、神戸港湾、阪高神戸建設部3者座談会

2025.12.24

神戸港ひいては阪神港を一体化する大阪湾岸道路西伸部

Tag
国土交通省 阪神高速道路
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斜張橋コンセプトは3つのテーマ

1日5万台の交通量、大型車混入率は2~4割を予想

UFC床版 採用にはさらなるコスト縮減が必要

 ――本路線はどれくらいの交通量および大型車交通量を見込んでいますか

 中西 計画交通量としては阪神高速3号神戸線、ハーバーハイウェイ、国道2号などからの交通量の転換も含めて1日約5万台を見込んでいます。大型車の見込みは具体的に算出していませんが、阪神高速3号神戸線や国道2号の大型車混入率を考慮しますと、それらがだいたい2~4割ぐらいの幅ですので、それを見込んで計画をしていかないといけないと考えております。そうしたこともあり、本路線の車線数は6車線で計画させていただいております。


阪神高速3号神戸線、ハーバーハイウェイ、国道2号などからの交通量の転換も含めて1日約5万台を見込む
上写真は六甲アイランド北ICから六甲アイランド北臨港道路を進んでいる状況(井手迫瑞樹提供)


 設計の面では先ほどありましたように合成床版を使うことで大型車が与える疲労損傷にも十分耐えることができると考えています。

 ――床版については六甲アイランド地区では合成床版ということですが、ポートアイランド地区や駒栄地区においても同様の構造となりますか。こうした地区でも概略設計では鋼細幅箱桁で考えられていたと思いますが、こうした箇所ではUFC床版などの使用はありませんか

 糸川 UFC床版に限らず、こうした高強度材料を用いた床版には、様々なタイプが登場しています。西伸部事業では、様々な技術について、大阪湾岸道路西伸部における技術検討委員会の中で、有識者の先生に、ご指導いただいております。2019年2月にまとめられた「中間取りまとめ2」という成果の中にもUFC床版を含む新技術は積極的に採用を検討すべきという見解を頂いております。

 ただ、やはりイニシャルコストがまだ、既存の床版形式よりも高い状況です。委員会の先生の中にはライフサイクルコストを重視すべきとのご助言もありますが、やはりUFC床版を使うというところまでは至っておらず、検討の一つのうちという形にとどまっています。やはり初期コストや、ライフサイクルコストを考えて、最適な床版形式を選ぶ必要があるのかな、と考えています。いずれにせよ本事業は東側から進捗しており、六甲アイランド地区以外の工事着手にはまだ時間もありますので、その時間を活用したいと考えています。その間にUFC床版も徐々に普及していくこともあると思います。沢山使用されればスケールメリットで、価格も安くなっていくと思いますので、そうした状況も踏まえて床版形式は選定していきたいと考えています。



UFC床版は平板型やワッフル型などがある

人・自然・都市を結ぶ 私たちは、循環式ブラスト・ショットピーニングで予防保全型メンテナンスを推進します。 技術の力で、人類と自然の調和に挑む

鋼管集成橋脚 データを取得し、信頼性向上に努め採用を模索

 ――鋼管集成橋脚にも言及されましたが、その採用はポートアイランド地区や駒栄地区ではどのように考えていますか。軽くて、基礎に対して影響を与えないということで、大阪湾岸道路西伸部での採用にまさに適していると考えますが、いかがですか

 糸川 軟弱地盤であるから鋼管集成橋脚ということでは特にありません。鋼管集成橋脚も、元々は阪神淡路大震災で阪神高速道路が大きな被害を出したということもあって、その経験から生まれた新しい橋脚構造です。頑丈に橋脚をつくるのではなく、一部に弱いところをつくって、そこが先行座屈することで、しかし橋梁全体系の耐震性は確保するというコンセプトで設計した橋脚形式です。


鋼管集成橋脚施工例


 大阪湾岸道路西伸部自体もコンセプトをつくっていますが、阪神淡路大震災の教訓を踏まえて、新しい技術を取り入れていこうと考えています。鋼管集成橋脚はUFC床版と異なり、阪神高速以外で取り入れている発注機関はありません。阪神高速でも海老江JCTで2橋脚、また西船場では、通常の荷重は受けず、L2地震時の荷重だけ受ける形の耐震橋脚として数橋脚にのみ使用している状況です。実績はこのように積み上げていますが、データも実橋で地震計を付けて、実際の挙動の裏付け測定も継続的に実施しています。それらをまとめて、実際の橋脚と変わらず耐震性能を発揮できるという技術的所見を得た上で、設計時の形式選定において検討していきたいと考えています。

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斜張橋コンセプトは3つのテーマ

デザイン、色彩もテーマに沿ったものに

 ――斜張橋における建設上のコンセプトと課題について

 糸川 コンセプトは、阪神淡路大震災の教訓やみなと神戸の地域特性、これまで建設してきた道路橋梁等の知見を踏まえて、3つのテーマを提示しています。


3つのテーマを提示


 1つは「災害時においても、人流・物流ネットワーク機能を確保できる道路」ということで、これは耐災害性の観点から、設計の想定と異なる状況に対しても、致命的な状態となりにくいこと、非常時においても、地域の道路ネットワークとして速やかに機能できること、これまでの橋梁技術の知見の蓄積に、先進的な技術を組み合わせ、より効率的に性能を確保できる構造にすること、などを細かな項目として示しています。

 2つ目は「みなと神戸にふさわしい世界に誇れる景観を創出する道路」ということで、同テーマでは景観性を重視すると共に、百年先の土地利用の変化も考慮された橋梁・道路とすることを示しています。

 最後に「将来にわたって健全な状態を維持し、時代の変化に対応できる道路」ということで、維持管理性を追求することを示しています。

 このコンセプトに加えて、経済性などを考慮して、総合的に評価し、橋種や橋脚形式の選定などを行っています。

 海上長大橋の新港・灘浜航路を跨ぐ橋梁につきましては、令和5年8月に基本構造を決定しております。一番目立つのは主塔部のデザインですが、神戸の都市景観との調和、シンボル性、走行空間からの眺望性や演出性などに着目し、構造性能を踏まえた主塔の断面形状などのデザイン案を選定しました。


新港・灘浜航路を跨ぐ橋梁


 具体的には、斜張橋の主塔の塔頂部を面取りし、充腹部をへこませる形状にすることなどを、技術検討委員会での議論を経て決定しました。


形状やデザイン、色彩も配慮


 色彩につきましても、神戸の都市景観と調和させるということで、明るくモダンな印象となるようにベージュ系を基本として、他の橋梁との連続性も加味して色合いを決めています。

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最大級のクルーズ船が通ることのできるクリアランスが必要

 ――港湾としては、長大橋について望むことは

 石原 港の利用の側面から申し上げますと、神戸港はクルーズの寄港地として多くのクルーズ船が来訪されています。近年そのクルーズ船が非常に大型化しておりまして、最大級のクルーズ船は、神戸港ではポートターミナル駅の東側に停めることになります。

 その状況を踏まえると、新港・灘浜航路部の斜張橋ができた場合には、最大級のクルーズ船が問題なく通れるように桁下の空間を取っていただかなくてはなりません。現在のアジアに配船されている最大級のクルーズ船の桁下空間必要高さである約65.7mを確保するよう設計しています。これは明石海峡大橋の桁下空間高とほぼ同じになっています。

桁下空間必要高さである約65.7mを確保


 ――こうしたクルーズ船の停泊数は年間どれくらい入っていますか

 石原 約100隻程度が入港しており、全国で7番目に多い港湾です。

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斜張橋基礎 従来とはけた違いの調査を実施

 ――斜張橋の基礎についてお聞きします。斜張橋は摩耶断層や和田岬断層を跨ぐ位置に計画されている橋梁で、その断層を避けた位置に主塔基礎を持っていくことはマストであり、設計にもそれは反映されていることは存じております。これに加えて基礎の撓曲変位や傾斜角をどのように考慮するかが、新港・灘浜航路部においても神戸西航路部においても重要になってくると思いますが、その辺はいかがですか

 石原 もともと、大阪湾は洪積層が多くあって、基礎の支持層となる洪積砂層は砂中心の部分と、少し粘度の上がっている層の2つが互層となって構成されています。その地層構造では基礎の先端支持層をどこにするかが、大きな課題でした。薄く挟まっている粘性土をどう評価するか、検討委員会の先生方の中でも議論が分かれました。


洪積砂層は砂中心の部分と、少し粘度の上がっている層の2つが互層となって構成


 設計にあたっては普段とはけた違いの地盤調査を事務所で実施しております。各主塔基礎予定地で10本以上のボーリングと、合わせて、現地での実際の支持力を確認するために杭の鉛直載荷試験として、衝撃載荷試験を行った上で、最後に押し込み載荷試験と2つの試験を行い、実際に現地に杭を打って、支持力を測定しています。


杭の鉛直載荷試験


 その結果、1P主塔部では-66m、2P主塔は-68m、3P主塔は-57m、4P主塔は-68mの深さに達します。基礎は鋼管矢板井筒基礎を予定しており、杭の長さは60~70mを超える規模に達すると考えています。さらに主塔基礎の寸法は最大の2Pで橋軸50m×橋軸直角47mとなっています。

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試験施工では杭は苦労することなく貫入

矢板形状での複数本の施工で問題なく入っていくかは今後の課題

 ――杭の長さが50~60mを超えるということで、杭の打設時の管理や、鉛直精度の管理が非常に難しくなってくると思います。国土交通省関連で記憶に新しいところでは、徳島河川国道の新町川橋基礎工でも60mを超える杭を打設しましたが、その際に、潮位変動や粘性土の固結により、杭が貫入しなくなってしまうというアクシデントがありました。鉛直精度の管理についても、50mを超えると通常の手法では管理できず、新町川橋下部工では、専門業者の経験と独自技術により精度管理を行っていました。ここではどうしますか

 石原 試験杭を施工していますので、杭を打つこと自体は、それほど難しいことではないと考えています。実際の打設では、バイブロハンマーと油圧ハンマーで施工し、50mを超える杭長が全長貫入できています。施工は50m超を一気に打つのではなく、何段かに分けて溶接で継手して打設していく形を想定しています。ただ、試験施工は1本打ちであり、矢板形状に杭を組み合わせて打っているわけではないので、その辺の照査は今後の課題です。


載荷試験の流れ

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鉛直支持精度も今後の課題

安全対策も詳しく照査

 ――杭の鉛直支持精度の確認については

 石原 有識者の先生も、そのあたりは懸念事項として挙げられています。施工時においては、しっかりと鉛直性も含め打設時のデータを取得し、確実に施工できるようにしていきたいと考えております。

 ――杭径はどのくらいになりますか

 石原 φ1,500mmです。

 ――本現場の鋼管矢板井筒基礎は、国土交通省が過去施工したものを入れても最大級といえますか

 石原 鋼管矢板井筒基礎は、国土交通省でも比較的沢山やっていますが、規模としては気仙沼湾横断橋などと並んで最大級の規模といえます。

 ――基礎の進捗状況は

 石原 入札公告は既に終えており、11月下旬に入札予定で、年内に受注者が決定する予定です。

 ――現場に入るのは

 石原 受注してから、しばらくは杭の製作期間に入りますので、現場入りは来年度といった状況です。

 ――航路に近い現場での作業ということで、施工時の安全対策について教えて下さい

 石原 もともと事業着手した時に、我々神戸港湾事務所がまず手を付けたのは航路の切り替えです。左図の白い点線が、旧航路でして、今回その旧航路の上に基礎が立ちますので航路の切り替えを行わなくてはいけません。赤いハッチングのかかった第4防波堤南と第5防波堤西側の一部を別途撤去して浚渫し、航路の切り替えを完了しています。

 浚渫土は六甲アイランドの沖の土砂処理場に捨てたり、一部は兵庫運河に持って行って、浅場をつくってアマモを育てたりすることに使っています。


航路移設関連工の整備


 施工に並行して船の安全を確保しなくてはいけないので、学識経験者、海事関係者、海上保安庁からなる、船舶航行安全対策検討調査委員会を実施していただき、工事の安全対策について検討してもらいました。具体的には工事の際の作業船や警戒船の配置などについて、問題ないか検討していただきました。また、並行して、どういう標識を付けるかとか、そういうこともご指導いただきました。

 糸川 阪神高速では、昨年12月に斜張橋工事を2工区に分け、技術提案交渉方式により詳細設計業務の契約を行っています。現在、架設の施工計画や全体解析に向けて調整をしていますが、船舶航行安全対策検討調査委員会において、阪神高速が施工する斜張橋の主塔や主桁の架設に際して、航路にどういった支障を来たすのか、航行の安全性を阻害しないかなど、詳細設計の中で検討していきます。新港航路と灘浜航路の大きな航路2つがあるほか、航路を通過しない小規模な船(漁船など)もありますので、そうした船舶にも連絡体制を構築して周知できるようにして行きたいと考えています。

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