国土交通省 東北地方整備局 西村拓局長インタビュー
概要動画Overview Video
東北地方整備局は、道路は直轄国道約3,270km、河川は12水系約1,660km、港湾は国際拠点港湾1港と重要港湾13港を所管している。東北地方は、脊梁山脈によって地域が分断され平地が限られる一方、豊かな自然と文化に恵まれた地域でもある。しかし、東日本大震災をはじめとする大規模地震のリスクに加え、近年は豪雨や台風による水害、土砂災害の発生頻度が高まっており、さらに多くの地域が豪雪地帯に位置するなど、厳しい自然条件を抱えている。人口減少と高齢化が全国に先駆けて進むなか、地域の持続性をどう確保していくかも大きな課題となっている。
このような状況の中で、地域の安全・安心を支えるインフラ整備、激甚化する水害や地震への備え、老朽化が進む構造物の維持管理、さらにはDXの活用による業務効率化・高度化など、東北が抱える課題は多岐にわたる。それらにどう向き合い、どのような方向性で施策を進めているのか。西村拓局長に話を聞いた。(インタビューは令和7年9月に実施)
東北地方整備局の2025年度事業計画と防災対策
防災・港湾分野で関わってきた主な取り組み
高知の地震津波対策、東京湾広域防災拠点、港湾法改正に携わった経験
−−土木の分野に興味を持ったきっかけなど教えてください。
西村拓局長 大学の教養課程のときに、社会基盤に関する講義を受けたことがきっかけです。国島先生の講義で、国内外のインフラの写真が大きなスクリーンに映し出されていたのですが、それを見て率直に「かっこいいな」と感じました。インフラには造形美があり、スケールが大きい。そして形として残り、地図にも残る仕事です。そうした点に魅力を感じ、土木インフラの世界に強い興味を持つようになりました。
−−研究室ではどのような研究をされていたのでしょうか。
西村 研究室は橋梁研究室を選びました。現在は城西大学の学長を務めておられる藤野要三先生が、東京大学で教授になられたばかりの頃でした。橋梁を選んだ理由は、橋という分野が構造とデザイン(景観)の両方を必要とする分野だと考えたからです。構造力学を中心とした技術が必要なのはもちろんですが、橋は造形美の象徴でもあり、景観などのデザイン面も非常に重要です。そうした両面を学べる点に魅力を感じました。研究自体はかなり専門的で細かい分野になりますが、有限要素解析を用いた研究を行っていました。橋そのものを対象にしたというよりは、解析手法を中心とした研究です。
−−大学で土木を学ばれた後、国への進路を選ばれた理由は何だったのでしょうか。
西村 橋梁を研究していたことと旧運輸省との間に、直接的なつながりがあったわけではありません。当時、日本ではウォーターフロント開発が盛んになり始めていた時期でした。欧米では、サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフや、ボストンやボルチモアのインナーハーバーなどを中心に、港湾を核とした都市再生が進んでいました。その流れを受けて、日本でも神戸港のハーバーランドやメリケンパーク、大阪港の天保山ハーバービレッジ、横浜のみなとみらい21など、各地でウォーターフロント開発が活発になっていました。当時の運輸省港湾局では、「豊かなウォーターフロントを目指して」という長期政策を掲げており、港湾を核にしたまちづくりや都市再生に取り組んでいました。そうした考え方や取り組みに大きな魅力を感じ、旧運輸省港湾局への入省を志望しました。
−−入省後、特に印象に残っている仕事はありますか。
西村 それぞれのポストで印象に残っている仕事は数多くありますが、まず挙げると、高知港湾・空港整備事務所長を務めていた時期です。40代の頃になりますが、当時は南海トラフ地震対策が非常に大きな課題でした。高知港や高知市中心部における地震・津波対策について、大枠の考え方と事業スキームを検討し、「三重防護」と名付けたコンセプトを構想しました。浦戸湾の地形に合わせ、防波堤、海岸堤防、浦戸湾内部護岸を組み合わせ、港湾事業と海岸事業を連携させて地域を守っていく考え方です。東日本大震災の直後に赴任したこともあり、高知県では特に津波に対する意識が非常に高まっていました。黒潮町では最大34メートルの津波が想定されるなど、県全体が強い危機感を抱いていました。その中で、地震・津波対策の初期スキームづくりに携われたことは、非常にやりがいのある仕事でした。
そのほかでは、30代半ばの頃、本省で専門官を務めていた時期に携わった都市再生プロジェクトも印象に残っています。当時は小泉総理の時代で、都市再生が国の大きな政策テーマでした。その中でも中核的なプロジェクトが、「東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点」の整備です。首都直下地震が発生した際に、東京湾臨海部に防災拠点を整備し、そこを起点に支援活動を行っていこうという構想でした。都市側では有明の丘に拠点を整備しましたが、港湾側では川崎市の東扇島において、海上からの支援物資を集積する拠点を整備しました。海上から運ばれてくる支援物資を一度集約し、東京湾沿岸部へと展開していく役割を担う拠点です。
−−事業化に向けた調整も多かったのではないでしょうか。
西村 そうですね。特に川崎市との費用分担については、なかなか簡単には合意に至りませんでした。そのため、事業スキームを整理し、費用分担の考え方を提案しながら、関係者との調整を重ねていきました。結果的には比較的早い段階で事業化され、このプロジェクトに関われたことは、大変良い経験となりました。
−−制度づくりに関わられたご経験も。
西村 本省で室長を務めていた際には、港湾法改正のプロジェクトチームリーダーを任されました。法改正ということでプレッシャーは非常に大きかったのですが、優秀なチームメンバーに支えられながら取り組むことができました。この改正では、港湾区域内における洋上風力発電の導入・促進に関する制度整備や、クルーズ船振興のための支援措置などを盛り込みました。港湾の新たな役割を広げていくという意味で、印象に残っている仕事です。
また、国内の仕事とは別に、アジア開発銀行に出向した経験もあります。スリランカのコロンボ港における大規模プロジェクトへの融資に携わったほか、港湾分野に限らず、インドの国道や地方道、鉄道といったインフラ整備に対する融資プロジェクトにも関わりました。港湾だけでなく、道路や鉄道を含めたインフラ全体を俯瞰的に見ることができ、非常に良い経験でした。
東北の「安全」と「未来」を支える2025年度インフラ事業計画
豪雨・豪雪・人口減少時代に対応する河川・道路・港湾の主要事業
−−東北地方整備局の2025年度の道路・河川・港湾の管理状況と、地域特性、それらを踏まえた事業計画について、予算規模・概要と主要事業を教えてください。
西村 東北地方整備局では、道路は直轄国道約3,270km、河川は12水系約1,660kmを管理し、港湾については国際拠点港湾1港と重要港湾13港を所管しています。令和7年度の当初予算は、一般会計の直轄事業費が2,601億円、補助事業費が1,527億円、社会資本整備総合交付金等が1,899億円、さらに東日本大震災復興特別会計として直轄事業費40億円、社会資本整備総合交付金等487億円が計上され、合わせて約6,555億円となりました。

東北地方の特徴としては、脊梁山脈によって地域が分断され、平地や盆地に人口が分布するため、大都市圏のように人口が集中せず、主要幹線道路沿いに都市が点在する分散型の地域構造が挙げられます。



豊かな自然環境や文化、美しい景観に恵まれている一方、東日本大震災をはじめとした大規模地震に加え、近年は豪雨や台風による水害が頻発しています。令和6年7月には秋田県や山形県で河川の氾濫や土砂災害により甚大な被害が生じるなど、気候変動の影響は深刻化しており、治水・防災分野の強化は喫緊の課題です。


また東北地方の多くは豪雪地帯であり、積雪や寒冷環境への対応も重要となっています。さらに、全国に先行する形で人口減少と高齢化が急速に進み、地域産業の停滞や社会保障費の増大、行政サービスの縮小など、地域社会全体に影響が及びつつあります。



こうした背景を踏まえ、河川分野では、水害が頻発する状況を受け、被災河川において「緊急治水対策プロジェクト」に基づいた復旧が進められています。また、12水系で策定されている「河川整備計画」に基づき、事前防災を重視した事業を展開しています。北上川では治水の要である「一関遊水地」の整備が進み、令和8年度の運用開始を目指しています。ダム事業では「成瀬ダム」「鳥海ダム」「鳴瀬川総合開発事業」が建設段階にあり、「北上川上流ダム再生事業」では治水機能増強検討調査が進行中です。




道路分野では、東北地域の分散型構造に対応するため、4つの縦貫軸と7つの横断軸で構成する「格子状骨格道路ネットワーク」の形成を進めています。物流機能の強化と日本海・太平洋の両海側を活かしたルート確保を目的とし、ミッシングリンクの解消が最大のポイントとなっています。縦軸では、日本海沿岸東北自動車道や東北中央自動車道の整備が進められ、事業中区間が開通すれば、概ね縦方向の高規格道路ネットワークが完成する段階にあります。一方、横軸については未着手区間が多く、新庄酒田道路、新潟山形南部連絡道路、宮古盛岡横断道路などにおいて現道に課題が多い区間から優先的に整備を進めています。

港湾分野では、地域経済の基盤であると同時に、災害時には物資輸送の拠点として重要な役割を果たします。洋上風力発電の導入を促進するため、青森港と酒田港では基地港湾整備が進み、令和9年度の完成を目指しています。また、港湾の強靱化として、久慈港、仙台塩釜港石巻港区、能代港、秋田港、小名浜港で防波堤の整備・改良が進行しており、宮古港と相馬港では気候変動に伴って必要となる防波堤の嵩上げ工事を進めています。加えて、仙台塩釜港石巻港区では、大規模地震発生時の緊急物資輸送拠点としての機能を強化するため、耐震強化岸壁の整備が進んでいます。

東北地方整備局では、地域の特性と課題に応じて、河川・道路・港湾の各分野にわたり、防災力強化と地域の持続的発展を見据えた事業を総合的に展開しています。







