インフラ未来へのブレイクスルー -目指すは、インフラエンジニアのオンリーワン-
① 跛鼈千里の思いと行動で成果を得る ‐ 理不尽な発言にもめげず、最後まで自分の考えを突き通す ‐
(一般社団法人)日本構造物診断技術協会 顧問
アイセイ株式会社 エキスパートアドバイザー
髙木 千太郎氏
1.はじめに
新たにインフラ情報サイト『R2SJ』が始まった。I氏肝いりの『R2SJ』に連載を依頼された私は、これまで私が提供してきた話題提供などを評価してくれた読者に感謝すると同時に、これから始まる新たなサイトで、何をどのように私の意図を読者の方々に伝えれば良いのか、大きな不安と責任感を強く感じている筆者、髙木である。
インフラ情報サイト『R2SJ』には、3つのポイントがあり、➀公平公正で正確な情報発信、➁動画を活用した情報発信、そして③建設業界の発展に貢献する情報発信発である。私の話題提供はどこに該当するかは不明であるが、地方自治体の行政技術者、地方自治体第三セクターの技術者、そして高速道路㈱第三セクターの技術者と三つを渡り歩いた私が読者に提供する信念は、常に公平・公正であり、誰かに忖度して内容をすり替えることは決してないことを約束する。私は、常に忖度なしの態度と考えで話題提供することから、社会では私に反感を抱く人が数多くいると聞いているし、私も逆の立場であると筆者に対しそう思うと先の評価に納得もしている。
話題は『R2SJ』に戻るが、「アールツーエスジェイ」何でこんな名称にI氏がしたのかよく理解できないが、「まずは読みにくい、何のサイトか分からない」が私の受けた感想である。本サイト『R2SJ』は、責任者であるI氏の肝いりでスタートしているが、彼の主導で取り纏めていた以前のサイトと同様に多くの読者が集まり、行政や関連企業が注目に値すると評価する存在となるか、I氏の望みとは裏腹に消えゆく運命の一途を辿るかは、私自身も全く予想がつかない。しかし、一つ言えることは、I氏のこれまで、我が国の北は北海道から南は沖縄まで、橋梁等に関係する建設、修繕、メンテナンスまで情報収集に飛び回り、数多くの記事を提供してきた熱意と行動には頭が下がる。また、I氏の活動に同感し、連載を引き受けてきた多くの著名な筆者を拝見するに、橋梁等の土木分野におけるI氏の存在は非常に大きいと評価せざるを得ない。
先に示したように当該分野で存在感の大きいI氏と私の付き合いは数十年前に遡る。I氏が橋梁専門紙、私が地方自治体『東京都建設局』の時代であり、私のI氏に対する当初の印象は、「何を考えているか分からない、生意気な記者だな。人にはそれぞれ立場があることを理解もせずに土足で上がり込む、記者として付き合いたくない最悪のグループだ!」であった。しかしその後、I氏に対する私の評価も徐々に変わっていった。それはI氏自身が、自分の務めている会社を変えても、社会基盤施設に関する情報収集する熱意と行動、そして正しい方向へ導こうとする努力は変わらず、私自身何時しかI氏に協力して記事を書いてあげよう、との前向きな姿勢に変わっていった。
私は、今回、I氏が前社を退社し、自らが経営責任者となる会社を興したことに対し、とうとうここまで来たか! と呆れると同時に、彼の『七転び八起』の決意は聞いていて素晴らしいと評価はしているが、果たしてI氏の心身が持つのか? との親心からの余計な心配もある。それはそれとして私はI氏に強く言いたい。今回は自らが会社の代表責任者、まさかと思うが途中で投げ出すようなことは決してしないことを決意してほしい、それが主催者の義務である。
そんなかっこ良い話をする私自身も、14年間務めていた一般財団法人首都高速道路技術センターを退職し、先進的な種々な技術に取り組む意欲に感心した岩佐氏の『アイセイ株式会社』と、以前からお付き合いのある松村代表理事の『一般社団法人日本構造物診断技術協会』に転職することになった。一般的な人々の判断としては、行政技術者を退職して5年程度は仕事をするが、私のように、その後70歳を超えるまで第一線で仕事を続ける人は少なく、これまで私の個人的な種々な業務を快く認めてくれていた『一般財団法人首都高速道路技術センタ―』には感謝すると同時に、自由人である私を長い間認めてくれたことにお礼を述べたい。
先に示した個人的な理由もあって、I氏が始める『R2SJ』からの連載依頼に対し、私自身ポジティブに捉え、新たな気持ちで執筆することとした。連載を始めるからには最も重要なのは連載の名称をどうするかである。これからどの程度書けるかは全く分からないが、読者にとってプラスとなる内容をとの思いから、連載名を「インフラ未来へのブレイクスルー」、そして副題名を「目指すは、インフラエンジニアのオンリーワン」とした。この表題を新企画の連載で使う私の趣旨は、インフラストラクチャーの分野、特に我が国のメンテナンス分野の近年の動向を考えた末の提案である。我が国の現状は、新たな技術や材料は数多く提案されてはいるが、それによってインフラメンテナンスに関する社会的評価は全く変わらず、低空飛行のままである。現状打破を考える私としては、微力ながらであっても私が発言せねば、誰が問題提起するのかとの思いが一杯である。また、インフラ建設の分野でも、ICTやAIを活用した提案はされるが、それが実態改善には全く結びつかず、残念ながらインフラに関連する事故は繰り返し発生している。「インフラ未来へのブレイクスルー」は、現在我が国が抱えている課題や制約を打破し、未来の持続可能な発展を促進させることを意味し、今までの常識や枠組みにとらわれず、革新的なアイデアや手法をポジティブに導入することで、インフラストラクチャーの向上や発展を目指すことを示唆すると理解してほしい。
副題名に「目指すは、インフラエンジニアのオンリーワン」としたのは、私のこれまでの発言の多くが、公的組織の国や地方自治体に所属する行政技術者に向けて苦言を呈してきたことにあり、苦言だけではなく、実践に役立つアドバイスが必要であろうとの強い思いからである。これまで私が発言してきた多くに対し、読者や聞き手から「髙木さん、苦言ばかり言われてもな~、何をどうすれば良いのかを具体的に示してくれなければ、変わろうと思っていても出来ません」との声が聞こえてきていた。であるから、今回は苦言と提言を示そうと思っている。
私が所属する組織が変わったこともあり、これまで少しは遠慮していた高速道路会社に所属する技術者に対する発言も制約が無くなったこともある。所属組織が変われば人も変わり、当然、私の発言も変わるのである。新たな連載表題を使うからには私自身気分も新たにし、表題に相応しい内容を読者の方々に提供しようとは思っているが、果たしてそうなるかは分からない。ひょっとしたら、執筆者のベースが同じであることから変えられないのかもしれないが、私がここまで言うからには変わるかもしれない、提供する話題がどのように変わるのかこうご期待である。
2.跛鼈千里で勝ち取ったウルトラファインバブル洗浄効果
新規連載の初回に提供する話題は、ここ数年私が取り組んでいる『ウルトラファインバブル』が含有する水による構造物の洗浄について話題提供しよう。
『ウルトラファインバブル(以降、UFB)』による構造物洗浄の本題に入る前に読者の整理をしよう。私は、新たに始まった『R2SJ』に触れる読者の方々には、以前私が執筆していたNET媒体でUFB水による構造物洗浄の連載記事を読んでいる人と、今回初めて連載を読み始める人と2分類できると考える。初めて私の記事を読んだ人は、UFBとは何か、UFB洗浄に着目した理由とUFB洗浄検証実験について全く分からないと思う。そこで、まずはUFBに関する基本的な事柄について、理解を深めるようにおさらいをする。これ以降、前述したNETで2回にわたって話題提供したUFB水による構造物洗浄についての基本的な話をするので、既に読まれている方々は、申し訳ないが次のセクションまで飛ばし読みをお勧めする。これまでの話題提供では表題に、・・・チャレンジ、百折不撓で取り組む・・・を使い、そしてとうとう今回は、跛鼈千里で勝ち取った・・・である。なんとまあ、素晴らしいポジティブ熟語の連続、さぞかし内容が豊富で得るものが多いと思って読者の多くが飛びつく、とほくそ笑んでいるのは、自己過大評価な筆者、私のみの可能性大だ。
2.1 ウルトラファインバブルと洗浄原理
ウルトラファインバブル(UFB:Ultrafine Bubble)とは、通常の気泡よりも極めて小さな微細な気泡を指し別名、ナノバブルと呼ばれることもある。微小な泡とは、泡の直径が100㎛未満をファインバブル、白濁して目視可能な直径1~100㎛の微細な泡をマイクロバブル、無色透明で目視不可能な直径1㎛未満の微細な泡をウルトラファインバブルと定義されている。UFBは、一般的に見かける気泡とは異なって、水中における上昇速度が非常に遅く、水中に長時間存在できる特性を持っている。UFBは、洗浄効果、保湿効果やコーティング効果などがあることから、様々な分野で活用され、日本初のイノベーション技術として注目度は高く、UFB活用の可能性は多岐に渡っている。UFBの洗浄原理は、UFB自体表面張力が減少することから狭隘部分にUFBが入り込み易く、プラスに帯電している汚れや塩分をマイナス帯電しているUFBが吸着、離脱させ、マイクロバブルがそれらを吸着、水面上部へと引き離し再吸着を抑止することで、効果的に汚れや塩分を除去することである。また、UFBは、水や液体中に均一に分散する特性がある。
2.2 ウルトラファインバブルに着目したポイント
私自身、構造物、特に鋼道路橋塗装の耐久性を如何に向上させるかについて深く考えている時代があった。塗装の耐久性向上策としては、塗料、塗装方法、塗布後のメンテナンスなどに区分される。そもそも塗装とは、鋼材表面に形成された塗膜が酸素や水、塩化物イオン等の腐食を促進する物質を遮断することで鋼材を保護している。その塗装は、目的を達成するために数種類の塗料を組み合わせた塗装系を目的に応じて選択する。
塗料について説明すると、塗料とは、塗膜を形成する物質のビヒクルと色彩のある粒子である顔料が溶剤に分散され、これらに塗料の性質を調整するための添加剤が加えられているのが一般的である。ビヒクルは、塗膜性能に与える影響が大きく、腐食環境の厳しさや使用目的で選定され、油類を使うものを油性塗料、合成樹脂類を使うものを合成樹脂塗料と言っている。溶剤には、有機溶剤が使われていることが多いが、溶剤に水を使い界面活性剤で合成樹脂を小さな粒子にして分散させた水性塗料がある。現在数多く使われている合成樹脂塗料は、樹脂成分によって、アクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、ふっ素樹脂塗料などがある。塗装系は、防食機能を有する下塗り塗料、下塗りと上塗り塗膜の付着性を確保する中塗り塗料、中塗りと下塗り塗膜の紫外線などによる劣化を防止する耐候性に優れた上塗り塗料を塗重ねたもので鋼材を保護している。
塗装に耐久性向上を求める場合は、重防食塗装系の選択が好ましく、積層して塗膜形成を行なう、下塗りには犠牲陽極作用のあるジンクリッチペイント、その層を水と酸素の遮断能力が高いエポキシ樹脂塗料で保護し、耐食性で大きな役割を果たす中塗りと上塗りには、耐候性の高いポリウレタン樹脂塗料や耐候性が極めて高いふっ素樹脂塗料を使う事例が多い。塗料の劣化因子は、樹脂結合を破壊する紫外線、樹脂を劣化させる熱(太陽光の赤外線)、塗膜のひび割れや変色の原因となる水が主要因である。また、塩分や塵埃(ダスト等)は、塗膜劣化の主因では無いが、鋼材腐食を促進させる因子となる、このようなことから、塗料塗布後のメンテナンスにおける耐久性向上策としては、塗料劣化の主原因である紫外線や赤外線等の遮断、鋼材腐食促進の因子を適切に削除することが好ましく、耐久性向上策の一つとして塗膜洗浄がある。
鋼道路橋の洗浄については、東京都在職時に自動車の排気ガスによる汚れが大きな問題となった時期があり、私が中心となって橋梁洗浄に取り組んだ過去がある。また、私が滞在していた米国の東海岸の州では、凍結防止剤として散布する岩塩による塗装の劣化や鋼材の腐食が著しく、数多くの道路橋を対象に定期的に橋梁洗浄が行われていた。
私のこれまでに行ってきた橋梁洗浄の経験では、我が国の場合、洗浄水の周辺への飛散と洗浄後の汚水処理が課題となり、確かに効果はあるが断念した過去がある。都市内橋梁の橋梁洗浄理由は、第一は、鋼桁外面の排気ガスによる黒色の汚れを取ること、第二の理由は付着塩分やダスト等除去による鋼材の耐久性向上であった。
今回のUFB水による構造物洗浄の取り組みは、著名な先生からの話が発端で、一般水よりも汚れの洗浄能力に優れたUFBとUFBを製造する生成装置それぞれについてトライアルすることを提案し、既設橋梁等を対象として洗浄効果検証実験を開始している。
(1)全く洗浄効果を示せなかった簡易型UFB生成装置
人間の肌や髪について、洗浄効果が示されているUFBを製造する原理は数多くある。一般社団法人ファインバブル産業会の公開資料によると、UFB製造原理として、液のせん断による気泡の破砕による旋回液流式、エゼクター式とベンチュリ―式、微細孔式及びスタテックミキサー式、液中溶存ガスの析出による加圧溶解析出式及び加温析出式、蒸気泡の急凝縮による蒸気直接接触凝縮式に区分されている。私が簡易型と区分したのは、UFB生成装置がハンディタイプであるか否かであり、原理的な区分ではない。第一に洗浄効果検証実験を行ったのは、F社が製造している簡易型UFB生成装置Be.でUFB製造原理は、旋回液流式である。
UFB水による洗浄効果検証実験は、図‐1に示すハンディタイプの生成装置Be.(装置寸法5.5×11.5㎝、個体重量670g)を高圧洗浄ノズルの基部に取り付けて図‐2に示すように対象面の洗浄を行い、付着塩分をどの程度の量を減少したかを計測し、効果を判定した。UFB生成装置による構造物洗浄は、図-3,4 に示すように一般水(水道水)とUFB水の差異は全くなく、UFBは構造物洗浄には適さないとの結論となった。今回示す図表には、一般水、水道水、通常水が入り混じっているが、基本的には全て一般家庭で使われている水道水であり、一般水と統一して記述していることを了解していただきたい。
図-1 UFB生成装置B.の外観/図-2 UFB水による洗浄効果検証実験
図-3 洗浄効果検証実験結果:低圧(1Mpa)
図-4 洗浄効果検証実験結果:高圧(5 Mpa)
(2)生成装置を変えて再度行った洗浄効果検証実験結果
生成装置Be.洗浄を装着したノズルを使っての洗浄効果検証実験や検証結果資料を見ながら私は、「UFB水による構造物洗浄は、一般巣水と比較して差異は無い」との結論を出す考えが優位となった。しかしその時、テレビで放映されている「シャワーヘッド」の画像と効果説明が流れるのを見ているうちに、わたしが行った今回のUFB水洗浄効果検証実験には何か大きな誤りがあり、洗浄効果を説明できなかったのでは、との思いが強くなった。
そこで、先の洗浄効果を示すことが出来なかったF社のBe.生成装置販売会社に再検証について相談したところ、「これ以上、洗浄効果検証を行わなくて結構です」と断わられ、UFB水による洗浄効果検証実験も終息させる方向へとなった。
その時、私自身の頭の中では「もうUFBに関する種々な資料をもう一度見直し、その後判断すべき」との考えが頭を擡げた。こんな時に役立つのは、テキストマイニングである。UFB関連資料をインターネットで調べるうちに、西日本高速道路株式会社が公表している図‐5に示す資料がヒットし、そこに私が考えていたUFB水による構造物洗浄の報文があった。「ウルトラファインバブル水よる洗浄:橋桁洗浄において、UFB水では、通常の水に対して比較的早く塩分除去が可能となっていることが確認され作業効率も向上します。このため橋桁洗浄で使用する水は、UFB水による導入を開始しています。」の記事である。
図-5 UFBの洗浄効果:西日本高速道路株式会社資料
当該資料を見る限り、UFB水による洗浄効果がある。そこで、先の報文に付帯している資料を確認すると、UFB水生成装置BUV.が記載されていた。生成装置BUV.は、先の簡易型とは異なり、水道水を内部循環させ、マイクロバルブを生成し、マイクロバブル水を再度装置に通すことを繰り返し行うことでUFBを生成、UFB濃度の高いUFB水を生成する仕組みである。当該装置のUFB生成方式は、高速旋回液流式と先の生成装置Be.とUFB製造原理は似通ってはいるが、大きな違いは、装置内でUFB生成水を循環させる仕組みであり、図‐6に示すように装置が大型化(W650×D500×H768mm、重量70㎏)する点である。UFB生成装置BUV.によって生成したUFB水による構想物洗浄した結果を図-7に示す。
図-6(左) UFB製造・生成装置BUV.等:西日本高速道路エンジニアリング関西/
図-7(右) UFB水洗浄効果検証実験(第2回目)結果
UFB生成装置を変更し、再度効果検証実験を行った結果で明らかとなったことは、一般水と比較して明らかに洗浄効果に差異があることであった。これは、第1回の検証実験で行った時と比較すると明確であり、第1回、第2回と計測して検証実験を行っているメンバーや効果検証実験に立ち会った私や東京航空局の職員にとって衝撃的であった。図‐8に同様なUFB水を使って洗浄面とノズルの離隔距離、吐出圧等を変えて効果がどのように変化するかを確認した結果を示す。驚きであったのは、UFB水吐出圧3Mpa、離隔距離2mで洗浄すると付着塩分量が0となったことである。
図-8 UFB水洗浄効果検証実験(第2回目)結果:吐出圧及び離隔距離
(3)第2回UFB水効果検証実験が疑問視された第3回効果検証実験
先に示したように1年目に行った第2回UFB水洗浄効果検証実験では、定量的にUFB水による構造物洗浄は効果があることを示すことが出来たことは良かったが、次年度には成果を活かして実務でUFB水による構造物洗浄を具体化し、業務発注する動きが活発となった。業務発注するためには第一に、『ウルトラファインバブル水のよる構造物洗浄マニュアル』の作成が必要である。また、先にも示すように、UFB水洗浄効果検証実験結果が1回目と2回目の差異が大きかったことから、UFB水洗浄を推奨しようと考えていた私自身一抹の不安を感じていたことを払拭する必要がある。そこで、マニュアル作成と私自身が抱えているUFB水に関する不安を払拭するために、翌年再度、第3回UFB水による洗浄効果検証実験を行うこととした。第3回UFB水による洗浄効果検証実験は主目的として、UFB水による構造物洗浄を適切に行うために必要な種々な条件や規定を取り纏め、より確実な成果を積み重ね、マニュアル化する目的で行うこととした。
ここで検証実験継続に大きな問題が持ち上がった。それは、第1回の失敗にめげずに、私と第2回にチャレンジしてくれたO担当者を他の部署へ異動させるとの話が私の耳に入った。組織としては、一つのポストに長く在籍する事よりも、将来を見据えて、多くの経験を積ませる考えは分かるが、私にとっては大打撃である。O担当者の上司としては、成果を得ることが出来た後の検証実験には誰でも良いとの判断が働き、担当者の異動に合意をしたとも考えられる。しかし、この担当者変更が後に大きな問題となって帰ってくるとは誰が予想したであろう。第3回UFB水による効果検証実験結果からは、O担当者からK担当者への変更が原因とまでは断定できないが最悪の結果となり、全てが振出しに戻る事態となった。このような事態となった原因を追究する過程で、組織の抱えている問題が明らかとなり、ここまでUFB水洗浄を進めてきた私に大きな責任として降りかかった。
第3回UFB水による洗浄効果検証実験を振り返り、第一に行なったのは、UFB水生成装置の選定である。先にも示すように、UFBを製造する原理は、種々あり、いずれの装置もUFBを製造することが可能であるが、確実に構造物洗浄に適した個数濃度のUFB水を短時間に、そして経済的にUFB製造が可能となる機器を決定することである。公共機関の業務発注について分からない人に話すが、公共機関が発注する業務において、特命随意契約や機器指定、工法指定等は公平・公共の原則から基本的には避けることが原則である。このような公共機関の理由から、UFB生成装置についても生成能力を検証した生成装置Buv.のみでは業務発注できないのである。そこで、生成装置Buv.以外の採用も考慮し、新たな製造原理である図‐9に示すキャビテーション方式(ベンチュリ―式)のM社の機種UFB320EWのUFB製造検証実験を行った。
図-9 UFB製造原理:キャビテーション方式
キャビテーション式は、先の高速液旋回流による気相の粉砕によってUFBを製造する原理ではなく、一般水を通す管路の急激な収縮と拡大による気相の粉砕による製造原理である。
M社技術陣の説明では、装置に1度一般水を通過させるだけで、数億個/㎖のUFBが製造できるとのことであった。M社はインフラ関係の種々装置、特に消火器等製造メーカーとしては一流企業であり、技術陣の資料説明、質疑応答では私が問題とする内容等は全く無く、参加者の判断は信頼性が高い企業であるとの評価であった。しかし、期待したM社技術陣立ち合いの基、ご推薦の『UFB320EW』を使ってUFB水製造を試みたが、結果的には装置を1回通過させる方法による製造ではUFB個数濃度2,900万個/㎖と、期待を大きく裏切る結果となった。
図-10 UFB生成装置:UFB320EW
M社技術陣の説明通りであれば、第2回で採用した生成装置BUV.の様にUFB製造に時間を要することが無く、装置自体も小さく既設橋梁等の洗浄条件としては、良いことづくめで採用となるはずであった。結論としては、M社のUFB生成装置を使う場合も生成装置BUV.と同様に生成水を循環させることで、UFB個数濃度を高くすることが必要との結論となった。図-11に、M社ご自慢の生成装置でUFB水を生成した結果を示すが、20巡回してようやく1億個/㎖確保が可能となる装置であった。ここでも、私としては貴重な経験をした。それは、人や会社の外見や発言を鵜吞みにしてはいけない、信頼すべきは自分の眼や耳で確かめることが重要で、不安を抱いた場合には、自らが納得するまで検証することが不可欠であるとの結論である。
図-11 UFB製造結果:UFB320EW
第3回UFB水による洗浄効果検証実験は、洗浄面とノズルの離隔距離、洗浄速度、洗浄吐出圧力、洗浄ノズルの種類、ノズル噴射角度、洗浄方法などについて分類し、最適な洗浄方法の選択を含めて行うことになった。再検証実験を開始して種々なデータを取ることが出来たが、肝心のUFB水洗浄効果が期待通りの数値にどうしてもならない。結果的には、UFB水洗浄検証実験は、想定外の結果となり、UFB水による構造物洗浄に黄色ランプが灯ることになった。実橋を対象に洗浄効果検証実験結果を表‐1に示す。
表-1 第3回UFB水による洗浄効果検証事件結果:実橋対象
示した表‐1で明らかなように、A橋の場合UFB水塩分除去率83.71%、水道水(一般水)塩分除去率89.78%、B橋の場合UFB水塩分除去率91.17%、水道水(一般水)塩分除去率86.37%、C橋の場合UFB水塩分除去率88.75%、水道水(一般水)塩分除去率87.75%であり、3橋の平均塩分除去率は、UFB水が87.88%、水道水(一般水)が89.97%と、A橋及び3橋平均値でUFB水よりも一般水の方が塩分除去率において優れている結果となった。実橋を対象に実務でのUFB水による洗浄業務を発注するには、あまりにも洗浄効果検証結果が想定外であった。果たしてこのままの検証結果で自信をもってUFB水による洗浄が鋼道路橋の塗膜耐久性向上に寄与するかと聞かれれば、誰でもが首を横に振る結果である。何故このような結果となったか自問自答しているうちに新たな年度を迎えることとなった。
ここまでが、他社の連載でUFB水洗浄効果検証実験について話題提供してきた概要である。第3回のUFB水による洗浄検証実験結果は、第2回の結果を踏まえてより精度の高い検証結果を示そうとの強い意志で行ってきたことから、説明資料の取り纏めについては自分としてはグレーな気持ちで後ろ向きな表現が多く、ネガティブな気持ちで外部説明を行わざるを得なかった。