Interview

NEXCO西日本 橋梁8,418橋、トンネル906チューブを管理

2024.05.16

大規模更新と耐震補強を着実にこなしていく

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>小笹 浩司(おざさ こうし)氏

西日本高速道路
取締役常務執行役員 保全サービス事業本部長

小笹 浩司(おざさ こうし)

 NEXCO西日本は関西以西の高速自動車国道および一般有料道路など3,600㎞超を管理している。構造物としては橋梁8,418橋、トンネル906チューブを所管しており、30年以上経過している構造物は橋梁で7割、トンネルで6割に達している。現在は中国道の関西・中国支社管内、阪和道、九州縦貫道、沖縄道などを中心に大規模更新を進めているが、今後はこうした箇所に加えて西名阪道などにおいても床版の取替などを行っていく。一方で橋梁の耐震補強も進めなくてはならない。NEXCO西日本の管理延長はNEXCO東日本の約9割であるものの、耐震補強対象の橋梁数はNEXCO東日本の1.6倍程度と多く 、それだけ上下部工の補強数は多くなっている。こうした課題や保全・管理分野での人材育成について取締役常務執行役員保全サービス事業本部長の小笹浩司(おざさ・こうし)氏に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)


NEXCO西日本の供用経過年数別構造物数と割合

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高速道路診断士、高速道路点検士の資格を創設

供用後30年が経過すると健全度Ⅲの割合が増加傾向

 健全度Ⅲで30年を超える割合は、橋梁が91%、トンネルが77%

 ――NEXCO西日本の構造物の劣化状況と補修補強の進捗状況について

 小笹本部長 当社管内の構造物の状況について、代表的に3つのパターンが見られます。1つ目は中国道の山間部などで、凍結防止剤などの影響で変状するスピードが速くなっています。2つ目は沖縄道で、海風にさらされているため、飛来塩分の影響が顕著に表れた変状が生じています。3つ目は関西支社管内の中国道で、あまり雪が降らない地域ではありますが、東西幹線を担う交通の要所で、大型車の割合が高く、道路の変状が激しくなっています。この3つの路線が、当社で一番劣化スピードが速い区間であると捉えています。
 平成26年度から改正道路法に伴う定期点検が始まりました。そして今年の3月でちょうど定期点検の2巡目が完了した状況です。2巡目の点検のうち令和元年度~4年度については、点検結果と修繕結果をホームページで公表しています。


令和元年度~4年度の点検結果

令和4年度の橋梁とトンネルの点検結果


 令和4年度に点検した橋梁は全管理橋梁8,418橋のうちの1,727橋ですが、健全度Ⅳ(要緊急補修)はなく、Ⅲは267橋(約15%)でした。トンネルは全体で906チューブありますが、令和4年度には167チューブの点検を行いました。そのうち57チューブが健全度Ⅲと判定しました。今後、1巡目、2巡目の点検結果の分析を精緻化していく必要があります。ただし全体的な傾向として、供用後30年が経過すると健全度Ⅲの割合が増加していく傾向があります。具体的には、健全度Ⅲで30年を超える割合は、橋梁が91%、トンネルが77%にものぼります。


中国道(比較的交通量の多い関西支社管内)の床版損傷状況



西名阪道 藤井寺高架橋の床版損傷状況

凍結防止剤散布の影響などで損傷した中国道(中国支社管内)の壁高欄や床版損傷状況

沖縄道(九州支社管内)の鋼桁や床版の損傷状況

鋼構造物の再生と環境の調和 循環式ブラスト工法、循環式ショットピーニング工法 ホイールローダ遠隔操作システム Tunnel RemOS-WL 高強度繊維モルタルを用いた橋梁用排水溝 YNタフドレーン

NEXCO3社 高速道路診断士、高速道路点検士の資格を創設

 熟練と若手技術者がともに点検することで、鍛えられる

 ――人材育成の方法について

 小笹 JHが民営化した際、NEXCOは維持管理4業務として日常的な補修や草木の伐採、点検、料金収受、パトロールカーによる巡回などについて、それらに対応する子会社を設立し、当社グループ内で内製化して維持管理点検を行うこととしました。関西、中国、四国、九州地区にそれぞれ対応した子会社を設立し、橋梁やトンネル、のり面、舗装などの点検を実施した結果と、その対応策を提案し、最終的にはNEXCO側がそれを承認あるいは修正する形で決定を行い、措置をしていく流れになっています。
 この流れに対応するためには、まずは点検を正確に行える技術者が必要です。道路法には「点検の技能を有する者」という定めがありますが、我々はNEXCO3社で高速道路診断士、高速道路点検士という資格を作りました。橋梁調査会などでも橋梁診断士などの資格を創設していますが、それとの違いは、橋だけではないことです。トンネルやのり面、舗装など高速道路に関する点検を全て行えるようにした資格です。

 実際は橋梁やトンネルなど構造物ごとに分けて点検して回っています。各点検班には、資格を有した者が複数人います。経験の浅い人には、こうした有資格者と一緒に現場点検を行うことで経験を積ませ、資格を取得させて、一定のレベル以上の点検ができるようにしていきます。

 実際、点検従事期間の長い社員から「点検マイスター」を選定し、マイスターが講師を務める講習会を行う独自の取り組みを行っています。

 構造物点検の実地研修も行っています。やはり座学だけでは不十分で、実際の変状をしっかりと確認して、何がどう悪いのかを把握できるようにしなければいけません。橋梁の場合だと、実際に点検を行うエンジ各社の点検員に同行して、点検の取りまとめについても一緒に考察するなど、実践的な学びの場を作っています。
 また、茨木技術研修センター(通称:I-TR(アイトレ))も有効活用しています。色々な構造上のメカニズムがわかるような実構造物を展示しており、そうした実物から勉強ができるようになっていて、実際に触って点検の着目点や、維持管理上の留意点を学ばせています。
 さらに強みは、他のNEXCO2社にない設計コンサルタント子会社『NEXCO西日本コンサルタンツ』を保有していることです。同社では実際に橋梁設計をやっていて、知見を重ねながら、あるいは、いろんな取り組みを始める際に、同社に設計の先鞭をつけてもらっており、彼らの役割は年々高くなっています。

 我々NEXCO西日本は発注者の立場として、設計業務をコンサルタントに発注して打ち合わせをしなければならないのですが、せめてその打ち合わせのレベルに到達できるような技術力が求められます。しかし、構造計算ソフトを用いるなどして実際に設計するような仕事までは出来ていないのが現状です。

NEXCO西日本コンサルタンツという強み

 維持管理の手間は橋梁が一番かかる

 ――インハウスエンジニアリングが存在するということですね

 小笹 その通りです。NEXCO西日本コンサルタンツには、そうした業務ができる技術者がいるわけです。そのため同社でNEXCOやグループ社員も同社において実地研修をさせています。すでに40人近くが研修を受けています。大学で座学を学ぶ以上に、設計の実務を学習することが効果的だと考えています。
 ご承知の通り、維持管理の世界で、結局のところ橋梁が最も手間がかかっているわけです。耐震補強もそうだし、点検して補修をする頻度についても、リニューアル工事にしても大半は橋梁の仕事です。一方で、まだまだそれらに携わる技術者の数は少ないと言わざるを得ません。しかし、可能な限り技術レベルが高くなるように、耐震設計や動的解析なども学びながら、実設計ができる技術者を育成していかなければなりません。同社での取り組みを継続しながら、人材をうまくはめていくことによって、優秀な技術者を生み出すようにできれば良いなと考えています。

点検~設計をグループ会社に内製化

 関空連絡橋へのタンカー衝突事故の復旧検討では、う回路設計も行う

 ――NEXCO西日本コンサルタンツは、旧ドーユー大地を買収する形でできたわけですが、奏功しましたね

 小笹 点検はエンジ会社がしているわけですが、例えばPC連続合成桁橋 の床版を切削するとPC床版の鋼線が損傷しているのが見つかるとします。その時にNEXCO西日本コンサルタンツの設計技術者にすぐに現場に来てもらって、構造の計算、残プレストレス量や耐荷力などの評価をしてもらい、橋上に車両を通せるか否かのジャッジが直ちにできます。これは当社にとってものすごく貴重な技術的資源となっています。

 以前、関空連絡橋にタンカーが激突して、一部区間を架け直した事例がありました。桁の架け替えに皆さんは注目されましたが、実は料金所を通過できるよう関空島内にう回路を作る設計及び工事も重要でした。そういった緊急事態でもNEXCO西日本コンサルタンツが設計を実施しています。また、災害で4車線の片側2車線が通行不可となった際には、通行可能な2車線を生かして、対面通行を行うための渡り線を設計しなくてはなりませんが、NEXCO西日本コンサルタンツがいることで迅速に設計し、施工に着手できます。


関空連絡橋の損傷状況写真

関空連絡橋の復旧桁架設状況写真


 ――NEXCO西日本コンサルタンツの現在の人員規模は

 小笹 約80人です。

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