Interview

NEXCO西日本 橋梁8,418橋、トンネル906チューブを管理

2024.05.16

大規模更新と耐震補強を着実にこなしていく

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耐震補強対象の橋梁数は、西日本は東日本の1.6倍程度と多い

耐震補強の対象橋梁数はNEXCOの他会社と比べて多い

 耐震補強未発注は1,628橋

 ――次に耐震補強の進捗について状況を教えてください。また、特殊長大橋の耐震補強などについても教えてください。

 小笹 NEXCO3社の道路延長は東日本と西日本がほぼ同じくらいですが、橋梁延長は東日本の1.2倍程度となっています。そういった背景もあり、西日本の(耐震性能2を満足するための)耐震補強対象橋梁数は、東日本の1.6倍程度と多い状況です。これまで一生懸命耐震補強を行ってきましたが、未だ残っている数が多い状況で、そうした状況を踏まえ会計検査院から指摘を受けました。


NEXCO3社の橋梁数と橋長、耐震補強対象橋梁の違い


 指摘の中には、耐震性能2を有していない区間について、上下線のうち片側だけでも耐震補強を進めなさいという内容があります。上下線のどちらか片側だけ耐震補強を進め、後からもう片側を耐震補強するというのは、特に山間部の橋梁については、大規模な仮設路や作業足場を複数回にわたり設置・撤去する必要があるため、非常に不経済であり、当社としては上下線をあわせて補強することとしていました。しかし今後はご指摘を踏まえ、緊急輸送道路としての機能を早期に確保するため、片側を優先して進める方針に切り替えて、耐震補強を進めてまいり ます。

 耐震性能3については全橋梁で完了しており、現在は耐震性能2の進捗を図っています。全体橋梁数は6,466橋(15m以上の橋梁、上下線) あり、耐震性能2を新たに確保しなければならない対象橋梁は2,358橋あります。そのうち令和4年度末時点で、142橋が完了しています。令和5年度末で完了予定がさらに208橋が完了する予定です。令和5年度末の対象橋梁数は2,008橋となります。さらに380橋が発注済みで着手しております。未発注は1,628橋でこれを今回の新たな実施計画で捌いていきます。


耐震補強実施例①

耐震補強実施例②


 ――優先的に耐震補強していく橋梁数はどの程度になりそうですか

 小笹 精査中でまだ話せる段階ではありません。1つはまず地域性ですが、これは国の機関である地震調査研究推進本部が公表している今後30年間で震度6弱以上の激しい揺れに襲われる確率が26%以上ある地域と、南海トラフの影響が懸念される和歌山や高知への自衛隊等の進出ルートとなる高速道路を足したものを最優先で耐震補強を行うべく発注計画を定めていきます。その上で片側の耐震補強を進めていくやり方ですが、単純に上り線又は下り線どちらかに統一して片側だけ耐震補強していくと渡り線を何か所も作らなくていいわけですが、中には非常に不経済になってしまう箇所もあります。そのため渡り線の計画も含めて、どんな形で耐震補強していくのかということを路線あるいは区間ごとに、整理する作業を年末までにやっていきたいと考えています。

 ――熊本地震や能登半島地震はいわゆる26%未満の地域で起きた大地震でした。高速道路における耐震補強対策の効率的な進め方に関する検討委員会でも、26%未満の地域であっても遅滞なく耐震補強を行っていくべきではないかという指摘がありましたが、その点はどう考えますか

 小笹 我々としては国の機関である地震調査研究推進本部が出している地震発生確率に基づき優先順位を定めて、まずは進めていくしかないと考えています。仮に能登半島地震などの知見を踏まえて国の基準等の見直しがされた場合、柔軟に対応していきます。

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関空連絡橋の耐震にも着手

 L1地震動に対しては耐震性能1、L2地震動には同性能2を期待した耐震補強

 ――特殊長大橋については

 小笹 特殊長大橋の耐震補強は設計も施工も大変です。個別に取り組みしっかりと対策を施していかなくてはなりません。基本的には現行の示方書に基づいて淡々と設計施工していきます。
 ただし関西空港連絡橋(橋長3,750m)は、建設時の成り立ちが特殊なこともあり、苦労しています。

 ――どのように手がかかっているのですか

 小笹 同橋は在来線の鉄道を抱えた国内最大の橋(鋼床版箱桁+鋼床版トラス)です。同橋が開通したのは平成6年ですが、設計時の適用道示は昭和55年版を用いています。しかも同橋は、現在こそ我々が管理していますが、当初は空港施設として造られた橋です。道路法上の道路ではありませんでした。そして鉄道橋はもちろん鉄道橋の示方書を用いて設計されています。同橋の中間部はトラス構造、側径間は鋼床版箱桁構造となっており、道路と鉄道が一体化した構造となっています。

 今回の耐震補強に当たっては、当初、京都大学名誉教授の土岐憲三先生に関わってもらいました。土岐先生は同橋の建設時にも深く関わった地震工学の大家です。平成21年に当社が関空会社から同橋を買収しましたが、鉄道橋はJR西日本および南海が新関空会社から委託される形で運営しています。同橋に関係する会社を一堂に会して耐震補強計画を進める委員会を作ろう、ということで、土岐先生のお力を借りて平成25年に委員会を立ち上げました。

 検討した結果、L1地震動に対しては耐震性能1を求めます。鉄道が通っているため、勾配変化の許容度が道路よりも並外れて小さく、このような性能を求めました。L2地震動に対しては耐震性能2を期待した耐震補強を行うことにしました。
 同橋は工事発注もすでに行っています。


耐震補強の概要


 ――IHI・横河・三井住友建設鉄構エンジニアリングのJVが受注していますね

 小笹 共用部の施工はJRや南海との協議が必要であるため手がついていませんが、道路専用部については、すでに支承取替などの施工が始まっています。


支承取替の施工状況


 ――NEXCO発注の工事では鉄道橋部分範囲に含まれるのですか

 小笹 道路・鉄道共用部は範囲に含まれます。鉄道専用部は別途、鉄道会社が発注する予定です。

 ――共用部の施工は大変ですね。道路橋と違って少しの勾配変化でもアウトですから

 小笹 大変です。ですからまだ工事計画を検討している段階です。
 本四高速の瀬戸大橋における道路・鉄道との共用部には緩衝桁というものがあります。鉄道が通る際、緩衝して鉄道桁の動きを緩衝するための桁です。関空橋にもそういう特殊な設備があるので非常に難しい状況です。そのため鉄道会社も一緒になって設計・施工の検討を進めています。

大規模リニューアル事業 中国道池田~神戸間などで事業進捗

 九州自動車道の宝満川橋では車線分離規制下での床版取替を実施

 ――大規模更新・大規模修繕事業の取り組み状況と床版延命化の新技術、新たな知見の具体的内容の進捗について教えて下さい

 小笹 高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会が発足し、その場でトンネル・橋梁などの構造物の更新・修繕について基準を作りました。当初は総額3兆円の事業計画が立てられ、当社も1兆円の事業として計画されました。課題だったのは社会的影響を極力最小限にしつつ、リニューアル事業をどのように進めるかでした。まず取り掛かったのは、凍結防止剤の影響で床版の損傷が激しく、早急な対応が求められた中国支社管内の中国道でした。幸い交通量が比較的少ないこともあり、当該路線では上下線のうち、片側を対面通行にし、片側を全面通行止めして床版取替を行うことができました。そして、飛来塩分や内在塩により損傷している沖縄道 でも同様の手法で行いました。
 一方で、私が関西支社の保全サービス事業部長時代に、新名神の高槻JCT~神戸JCT間が供用するのを目の前で見ていて、そのタイミングでいよいよ中国道の吹田JCT~神戸JCT間のリニューアルに取り掛からねばならない、と強く思いました。当該区間は、当時一日当りの交通量が10万台を超える東西交通の大動脈であったため、新名神による広域的なう回路が完成して、はじめて同区間のリニューアル工事に着手できる前提が整いました。吹田JCT~中国池田IC間は、終日通行止めを行って床版あるいは桁ごと取り換えるリニューアル工事を行いました。6車線があるところは、4車線を確保しながら2車線分ずつ取り替えていく、という基本概念を作って事業を計画しました。こうして交通量の多い都市部でもリニューアル工事が始まりましたし、九州でも、交通量の多い6車線区間にある久留米高速道路事務所管内の九州道の宝満川橋で、NEXCO中日本が東名多摩川橋のリニューアル工事の際に採用した、「車線分離規制(3車線の中央車線部分を規制して施工を行う。工事、規制両面で非常に難易度が高い)」による床版取替を行いました。


宝満川橋の床版撤去・架設状況


 今後は西名阪や、さらに交通量の多い近畿道などでの施工が控えていますが、具体的な規制計画・工事計画を構築してリニューアル事業を進めていきます。その先駆けとして阪和道の松島高架橋や境谷橋のリニューアル工事を進めています。松島高架橋は特に夏場の休日の混み方が激しい箇所です。


阪和道における松島高架橋の施工状況①

松島高架橋の施工状況②(中央分離帯には幅が薄いハイブリット仮設防護柵を採用した)

阪和道における境谷橋の施工状況①

阪和道における境谷橋の施工状況②



 ――和歌山県の観光地である白浜に行く道ですからね

 小笹 そうです。何とか4車線を確保しながら施工できないか警察協議を行いつつ、施工方法を検討しました。その結果、1車線あたりの幅を3.0mにして4車線を確保しました。50㎞/h規制としていますが、大型車が並走することは難しく、実態として前後に譲り合いながら通っていただいています。これにより、現在の用地幅内で、中央分離帯を触って幅員を確保する手法を採用することができました。

 ――阪和道の松島高架橋は規制計画がかなり緻密でしたね。出入り口も従来のような規制区間を極力減らすひし形規制ではなく、あえて前後を長くとり、入り口を広げることで事故が起きにくくしていました。また、仮設防護柵も極めて幅の狭い下部が鋳鉄、上部がコンクリートのハイブリッドタイプを採用していました。 将来的には近畿道も視野に入ると思いますが
 小笹 現実的には交通量が10万台を超える重交通路線であり、交通量が減少する時間は夜間に限られることから、特に4車線区間は大規模更新に着手するのは非常に難しい状況です。お金と時間をかければ夜間の時間帯だけ通行止めしながら、少しずつ更新することもできますが、様々な制約条件を踏まえながら今後検討していきます。

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