NEXCO大規模更新シリーズ⑥ 阪和道境谷橋などで仮設鋼床版を用いた床版取替実施
センターホールジャッキは通常の1.5倍、6台を使って丁寧に床版を剥がす
センターホールジャッキは通常の1.5倍、6台を使って丁寧に床版を剥がす
グラインダーの火花飛散を養生するため2重対策を実施
次いで、2日目は、既設RC床版の撤去、仮設鋼床版の設置である。
STEP1 ④端部ブラケット(仮設鋼床版を設置していた場合、既設床版部との境目に設置)、
⑤既設床版のジャッキアップ、⑥既設床版の半断面撤去
まず、センターホールジャッキを用いて床版を撤去する。本現場では一回床版を剥がすごとにセンターホールジャッキを6台使った。通常は高欄を先行撤去するため、床版を剥がすジャッキは4台で行うが、本現場では高欄と一体化した状態で床版を剥がすため、荷重バランスが不安定で、主桁から床版を剥がす際に既設床版コンクリートが割れる懸念もあったため、ジャッキの数を増やし作業時のバランスを安定させ、主桁接続部のコンクリート剥離を大きく起こすことなく、吊り上げることができた。既設の床版コンクリート自体も思ったよりも、ガラは落ちることなくトレーラーへの積み込みができていた。その後トレーラーで場外搬出する際には、ブルーシートおよびネット養生をしっかりと行い、運送の際のコンクリート塊の落下を防いでいる。
本現場では一回床版を剥がすごとにセンターホールジャッキを6台使った
次に、鋼床版を設置するための主桁との接合面(1列に付き4×2支点)の上フランジ上面に研掃を行い、鋼製高欄と予め一体化した仮設鋼床版を半断面ずつ架設していく。研掃においては、主桁ケレン時にグラインダーの火花飛散を養生するため、二重対策を実施(防護板、難燃カーテン)したうえで施工した。
STEP1 ⑦主桁上フランジ上面の処理、⑧分割鋼床版の架設、⑨ボルト締め
端部調整ブラケットで仮設鋼床版と既設RC床版の隙間を埋める
鋼床版上はすべり止めのためFFP表層を施工
さて、仮設鋼床版と既設RC床版との隙間には端部調整ブラケットと呼ばれる鋼製部材を設置し、その隙間を埋めている。仮設鋼床版の側面に高力ボルトで接合する構造で、ブラケット天端に設置している調整プレートで施工誤差を吸収する。調整プレートはボルト孔が長孔になっているため、橋軸方向にプレートをスライドさせて隙間を塞ぐことができる。ブラケット設置後は鋼床版上に仮舗装を施工し、仮供用する。翌日は、端部調整ブラケットを外し、2日目と同様に切断、床版撤去、仮設鋼床版、端部調整ブラケットの設置、仮舗装の敷設を繰り返していく。
工事で予定していた仮設鋼床版を全パネル設置した最終段階では、鋼床版上の仮表層を剥がし、床版上面の表層舗装全てをFFPに打ち換えて、プレキャストPC床版に取替えるまでの期間、その状況で供用を続けていく。
STEP1 ⑩高欄塞ぎ板の設置(鋼床版上には予めグースが施工してある)、⑪仮舗装の施工、⑫1車線開放
STEP2 仮設鋼床版から本設PC床版へ取替
プレキャスト部材はまず全て仮置きヤードに運び、工事当日に現場輸送
第3回集中工事以降は、STEP1とSTEP2を同時施工する形で行っていく。第3回工事では、第1回集中工事の全延長と第2回集中工事のPB6側の大部分(PB6側最外部の1列を除いた)、延長44mを仮設鋼床版からプレキャストPC床版に取替え、PB6側の残部からPB8近傍に至る66mについて、既設床版を撤去して仮設鋼床版に取り替える工事を行った。また、第4回工事では、第2回で仮設鋼床版に取り替えたPB6側の残置1パネルと、PB8側の大部分62mの仮設鋼床版からプレキャストPC床版への取替とPB2~PB4近傍の延長62mを既設床版から仮設鋼床版に取り替える工事を行った。
さて、STEP2の内訳である。まずは床版および壁高欄の輸送である。プレキャストPC床版はオリエンタル白石の滋賀工場、プレキャスト壁高欄はケイコンの山陽工場から運ばれてくる。昨今の働き方改革を考慮すると、工場から直接,現場の往復は現実的ではない。そこで、JVでは、境谷橋から車で15分ほどに位置する紀の川市に仮置きヤード設けて、まずは各工場からそこに集中輸送し、仮置きヤード内で床版と壁高欄を一体化(取り合い部を打設)させた。
紀の川市の仮置きヤードにおける床版と壁高欄の一体化打設状況
そして集中工事当夜に、仮置きヤードから現場に運送することにした。仮置きヤードから現場までの運搬時間は通行止め区間に入場する正規ルートで40分程度であり、プレキャストPC床版荷下ろし後に撤去した仮設鋼床版の積み込み・運搬を併せた時間であっても、ドライバーの働き方改革の労働時間上限値を十分守ることができるようにしている。これは前述の仮設鋼床版も同じで、JFEの津工場で製作した仮設鋼床版を仮置きヤードまで輸送し、それを中継地点として、現場まで運ぶという工程を繰り返している。STEP1とSTEP2が混在すると既設床版の搬出、仮設鋼床版・鋼製高欄の搬入・搬出、プレキャストPC床版の搬入といったトレーラー作業が錯綜する。そのため、距離を詰めて労働時間に余裕を持たせるための施策である。
床版はトレーラーで搬入される / STEP1とSTEP2が混在するとトレーラー作業が錯綜
鋼製高欄を撤去し、次いで仮設鋼床版を撤去
床版の撤去・設置は橋面上の150ATCで全て施工
次いで現場での施工である。まず仮設鋼床版からプレキャストPC床版への取替は、現在までの所、必ず仮設鋼床版に取り替えた範囲の内側で施工している(仮設鋼床版を外側に1列以上残している)。床版の撤去、取替は橋面上に設置した150tATCを用いており、仮設鋼床版を2列撤去した場合は「2列のプレキャストPC床版+仮覆工板」、3列撤去した場合は、「3列+仮覆工板」を設置する作業を繰り返していく。鋼床版は1列あたり長さ2,100~2,450mm、プレキャストPC床版は2,430mmとなっているため、こうした取替方法となる。
STEP2 ①舗装切断、②鋼製高欄撤去、③仮覆工板撤去
さて、施工はまず、鋼床版同士の横目地部舗装を縁切りした後に鋼製高欄を撤去、次いで仮設鋼床版を全幅員で撤去する。高欄付きで撤去できないのは、鋼製高欄内のリブ位置に吊り孔を設けているが、この壁高欄のリブの溶接個所(鋼製高欄のベースプレートとリブの溶接個所)が、溶接サイズを大きくするとひずみがでてしまうため、大きくできず、仮設鋼床版全幅を鋼製高欄付きで吊ると、溶接部が耐力的に持たないためである。
STEP2 ④仮設鋼床版撤去(全断面)、⑤不足スタッド施工、⑥主桁フランジ処理・メタモルシート貼付け
貼り付けられたメタモルシート、スタッドの施工状況(井手迫瑞樹撮影)
仮設鋼床版の撤去状況(井手迫瑞樹撮影)
所定の枚数を撤去した後に、場所によっては仮設鋼床版と主桁の仮接合した位置にスタッドを打たなくてはいけないこともあるため、そうした箇所については、清掃程度を行った後に、スタッドを溶植し、(養生不要な大日本塗料製の)メタモルシートを用いて防錆処理を行う。次いでプレキャストPC床版を架設し、コッター継手のボルト締めを行う。
STEP2 ⑦ソールスポンジ設置、⑧プレキャストPC床版架設、⑨ボルト締め
プレキャストPC床版の架設状況(井手迫瑞樹撮影)
仮設鋼床版と本設プレキャストPC床版との隙間は鋼製仮覆工版で埋める
「ドン付き」状態になるため生じる僅かな隙間はアルミテープで保護
コッター継手のボルト締め完了後は、まず、プレキャストPC床版と、仮設鋼床版との隙間を埋めるために長さ1~1.5m程度の鋼製高欄付きの仮覆工版を全幅で配置する。仮覆工版は仮設鋼床版と異なり、延長が短く、軽量なため全幅を高欄付きで架設・撤去できるのが特徴である。
仮覆工板(井手迫瑞樹撮影)
STEP2 ⑩仮覆工板の架設
仮覆工版の構造は基本的には分割鋼床版と同様である。加えて、新設床版の継手形状(コッター継手、CHA継手)に応じて、端部の構造を変化させている。コッター継手の場合は、鉄筋が張り出していないため、分割鋼床版の構造+調整板の構造とし、CHA継手の場合は、鉄筋が張り出しているため、分割鋼床版と干渉しないように端部をブラケット構造にすることで、新設床版鉄筋の間にブラケットリブを差し込むようにしている。
CHA継手用(左)とコッター継手用(右)で仮覆工板の形状を変えていることが分かる
仮覆工板の調整状況
仮覆工版と架設したプレキャストPC床版との間は、僅かではあるが隙間を生じるため、基本的には端部調整ブラケットと同様に長孔付きの調整プレートでその隙間を埋める。さらに「ドン付き(プレートがPC床版上面と重ね継手になるのではなく、床版端部に付ける形)」であるため、生じる可能性のある数mmの隙間に対しては、仮舗装する前にアルミテープを貼ることでアスファルト混合物の抜け落ちを防護している。
その後、間詰めコンクリートおよび高欄同士をつなぐコンクリートの打設を行い、仮舗装を敷いて、6時に車線開放する。
STEP2 ⑪コッター継手の間詰め工、⑫仮舗装工
この後は調整用の仮覆工版および仮設鋼床版を撤去してプレキャストPC床版を配置し、仮舗装を行うことを繰り返し、所定工事完了直前にBLG(プレキャストPC床版上面のみ)およびFFPの施工を行い、供用する。
伸縮装置部もプレキャストPC床版と一体化した状態で設置
幅、重量ともトレーラーの最大値一杯で製作
床版取替の工程でも、施工時間が短縮できるよう工夫している。1つは伸縮装置をプレキャストブロックと一体化する手法の採用である。現場において伸縮装置と床版の間詰めコンクリートの施工時間を省略(東名阪自動車道の弥冨高架橋などで同様の手法が用いられている)するため、仮置きヤードで予め一体化させておく。ジョイントはKFCジョイント(川金コアテック)を使用している。橋軸方向の長さは伸縮装置を入れて2,500mmとした。輸送に使うトレーラーの荷台幅が2.5mであり、それに合わせて製作する必要があったためだ。床版厚は最大300mm前後(伸縮装置隣接部であるため、ハンチ分の厚みが出る)、従って重さは25tと運べる最大値となっている。
伸縮装置をプレキャストブロックと一体化する手法を採用している状況
間詰めコンクリート 24N/mm2/hで設計。練混ぜ後15分で硬化開始
CHA継手部と壁高欄接続部はエポザクを採用
線形などの調整用として間詰め幅の長いCHA継手を用いたプレキャストPC床版も採用しているが、翌朝までの交通開放に間に合わせるため、1hで24N/mm2の強度を発現させるべく、下表のような配合を行い、合計3分(水+プレミックス材で1分半+さらに骨材を入れて1分半)、練り混ぜ後15分程度で硬化が始まる間詰めコンクリートを使用して打設した。また、間詰材の温度管理として、大型冷蔵庫を準備し、セメント・骨材の温度を管理した。
露出しない鉄筋は全て裸仕様としているが、CHA継手部と、壁高欄の接続部のみは、エポキシ樹脂塗装鉄筋(明希製『エポザク』)を採用している。
CHA継手の施工状況
床版防水は前述の通り、施工時間が極めて短い中での施工となるため、GⅡではなく、BLGを用いる。また、表層舗装は、鋼床版上と同様にFFPを用いている。
路面高は,新設プレキャストPC床版ハンチ下と鋼桁フランジとの離れを無収縮モルタルの充填性から15mm程度以上を確保、舗装厚を80mmとして決定している。日々交通開放となるため、床版取替前に橋梁全体の取替完了後の路面高にオーバーレイを実施し、土工部で擦付けている。擦付け長は40m程度となる。
鋼桁塗替えは9,000㎡で実施
塗膜剥離剤で有害物質を含む塗膜を除去後1種ケレン
床版取替以外では、鋼桁の塗装を9,000㎡で施工する予定である。旧塗膜には鉛等有害物質が含有されているため、塗膜剥離剤による旧塗膜除去後に素地調整1種を施し,重防食塗装を施工する予定である。
支承は劣化状態や反力条件などから取替え不要であるため表面の塗り替えを実施する予定だ。
1日最大人員は200人に達する時も
本工事の契約方式は技術提案・交渉方式(設計・施工一体)を採用している。従って設計・施工は鹿島建設・鉄建建設・JFEエンジニアリングJVが担当している。
主要一次下請は床版取替工が光南、舗装工が鹿島道路、床版切断工がコンクリートコーリング(大阪)、揚重工がサイガおよび大矢運送である。
現状の最盛期である境谷橋下り線の第3回と第4回集中工事では、鋼床版とPC床版取替の2班体制となった際、160人/日の作業員とJV職員40人/日の合計200人/日程度となった。さらに今後は4班体制を予定している回もある。
集中工事は例年4月と11月頃の年2回となるため、暑中時期は集中工事に向けた準備作業がメインとなる。具体的には、床版と高欄の一体化、主桁の路下作業(ケレン、スタッド溶接、防食塗装等)、吊足場組替えなど。暑中施工対策としては、空調服の完全着用、スポーツドリンクの無料配布、各作業場所での送風機・ミスト扇風機の設置などを行っている。