高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
第18回 KOSEN-REIMの教育はなぜステップアップ型なのか ―橋梁点検(基礎編)講習会の制度設計―

香川高等専門学校
社会基盤メンテナンス教育センター センター長
林 和彦氏

舞鶴工業高等専門学校
社会基盤メンテナンス教育センター
特命准教授
嶋田 知子氏
はじめに
これまで17回に渡り、高等専門学校(高専)が実施しているインフラメンテナンスの取組み「KOSEN-REIM(高専レイム)」について紹介してきました(リンク:バックナンバー)。各回では個別の講習や制度の詳細を解説してきましたが、連載開始から1年半が経過した今、改めて私たちの活動の全体像と、その制度設計の考え方について、5回にわたり整理したいと思います。
本連載の構成(全5回)
本連載の構成(全5回)
1.KOSEN-REIMの教育はなぜステップアップ型なのか ―橋梁点検(基礎編)講習会の制度設計―(2026年3月)
2.応用編と専門講習群の役割 ―中核技術者をどう育てるか―(2026年4月)
3.実務家教員という挑戦 ―教える技術と継続教育の設計―(2026年5月)
4.教育の質をどう担保するか ―高専での少人数教育と体験型学習の価値―(2026年6月)
5.制度を回し続けるということ ―協議会・財団・継続性の設計―(2026年7月)
本連載の内容は、2026年2月発刊の日本コンクリート工学会 会誌「コンクリート工学」掲載のテクニカルレポート【参考文献1】を基礎としつつ、講習会の実際や制度設計の意図について、テーマごとに再構成して紹介するものです。
1.KOSEN-REIMとは何か
KOSEN-REIM(高専レイム)とは、舞鶴高専、福島高専、長岡高専、福井高専、香川高専の5高専が連携し、インフラメンテナンス分野における社会人技術者の育成と、実務家教員の育成を両輪とする仕組みの総称です。単なる講習会の集合ではなく、育成体系と質保証、そしてその持続性を担保する制度全体を指します。
橋梁点検(基礎編)および橋梁点検(応用編)は、5高専共通のカリキュラムとして各キャンパスで開講しています。その上位に位置する橋梁診断講座や各種専門特修講座、さらに実務家教員育成研修プログラムは、5高専が連携しつつ舞鶴高専を拠点に実施しています。資格認定試験の合格者には国立高等専門学校機構としての共通の資格を認定・登録をしており、受講者は異なる高専の講習会を段階的に受講することも可能です。
また、この制度の持続性を担保するため、一般財団法人高専インフラメンテナンス人材育成推進機構(リンク:KOSEN-REIM財団)を設立し、運営体制の整備を進めています。現在は他高専への展開も図っており、2026年2月には岐阜高専において橋梁点検(基礎編)を試行的に実施しました。
図1に、KOSEN-REIMにおける教育プログラム体系を示します。本体系は、橋梁点検から橋梁診断へと段階的に接続する構造と、それを支える専門講習群から構成されています。さらに、教員育成や財団運営を含む多層的な仕組みも、本体系の継続的な運営を下支えしています。

図1 ステップアップ型の教育プログラム体系
2.橋梁点検(基礎編)の位置づけ
橋梁点検(基礎編)講習会は、2014年に舞鶴高専で開講され、2021年度からは福島・長岡・福井・香川を加えた5高専で定常的に実施してきました。これまでに累計1,780名が受講し、准橋梁点検技術者として認定された登録者は884名に達しています(2026年2月28日時点)。
本講習は、橋梁点検の基礎的素養を体系的に俯瞰することを目的としています。自治体の橋梁担当者や、今後点検業務に携わる民間企業等の技術者にとっての「入口」として位置づけており、実務に直結する高度な判断を扱う前段階として、橋梁メンテナンスの全体像を理解することに重点を置いています。
本講習は、単に知識を詰め込むことを目的とするものではありません。インフラメンテナンスの制度背景を知り、実橋梁や模型、試験装置に触れながら、今後自ら学び続けるための道筋を示すこと、さらに高専教員や講師の考え方に触れ、受講者同士が議論を通じて視点や人脈を広げることを重視しています。
講習は定員10名の少人数制で実施し、事前のeラーニングに加え、2日間の対面講習会では体験型学習を中心に構成しています。実物を見る、触れる、議論するという経験そのものに意味があります。実際に、講習の趣旨を理解した経営者からは、新入社員研修の一環として継続的に受講させたいとの評価をいただき、継続的に参加している企業もあります。
講習の最後には到達度確認のための資格認定試験を実施し、合格者は准橋梁点検技術者として認定されます。この資格は、次段階である橋梁点検(応用編)を受講するための要件ともなっています。ただし、この試験は選抜を目的とするものではありません。事前のeラーニングと対面講習会での学修内容の理解度を確認し、自らの現在地を把握するための仕組みです。
一方で、実務経験や土木工学の基礎知識を伴わなければ合格が容易ではない内容としているのも事実です。それは第4回で述べる「質の担保」に関わる設計思想によるものです。
人口減少が進み、土木工学を専門的に学んだ人材が不足する状況の中で、全国各地の行政や民間のインフラメンテナンス従事者をボトムアップすることは喫緊の課題です。本講習は、その基盤を広く支えることを目的として設計しています。
「地元のインフラは地元で守る」。この言葉を本気で実現しようとすれば、いきなり高度な資格だけを目指す仕組みでは足りません。まずは足場をつくること。その発想からステップアップ型の制度が生まれました。

写真1 実習フィールドでの講習(舞鶴高専)
3. なぜ、いきなり応用に進まないのか
橋梁点検の導入編や基礎編を入口に据えているのは、単に難易度を段階化しているからではありません。私たちは、いきなり応用段階に進むことが、必ずしも技術者の成長につながるとは考えていないからです。
応用編では、橋梁を点検して損傷図を書く技術、損傷の判定理由を説明する力、調書として記録をまとめる力が求められます。これは、単なる知識量ではなく、基礎的な理解と実務経験の積み重ねの上に成り立つものです。判断の根拠となる知識・技術が曖昧なまま実践的なスキルだけを扱えば、形だけの理解にとどまり、現場での再現性を欠く恐れがあります。
また、土木工学以外の異分野から参入する技術者や、実務経験の浅い若手にとっては、橋梁の構造形式や損傷の種類、点検の目的そのものを体系的に整理する機会が不可欠です。その整理を経ずに応用的な議論に進むことは、結果として自信の喪失や、点検実務への過度な萎縮につながる可能性もあります。
ステップアップ型とすることで、まずは共通の土台を築き、その上に応用的な判断力を積み上げていくことができます。基礎編はそのための「足場」にあたります。足場が不十分なまま高みに手を伸ばすのではなく、しっかり固めてから次の段階へ進む。その考え方が、KOSEN-REIMにおけるステップアップ型育成の根幹です。
したがって、基礎編は応用へと接続するための前提条件を整える重要な段階であり、制度全体を支える基盤です。いきなり応用に進まないのは慎重だからではなく、長く続く育成のかたちを考えた結果です。

写真2 座学の様子(福井高専)
4. eラーニング
対面講習会に参加する前に、全9章から成るeラーニングを受講します。各章にはチェックテストを設けており、一定の理解に到達しなければ次の章へ進むことができません。日常業務と並行して受講することは容易ではありませんが、橋梁工学、コンクリートおよび鋼構造物の損傷、劣化メカニズム、点検要領など、共通の基礎知識の全体像を学ぶことは不可欠です。
図2は基礎編のスケジュールを示したもので、事前のeラーニングと対面講習会の内容を対応させ、両者の関係が分かるように整理しています。事前に基礎的な理解をそろえることで、対面講習会では説明に時間を費やすのではなく、議論や体験に時間を充てることができます。
また、本eラーニングは講習修了後も視聴可能としており、実務の中で疑問が生じた際の再学習にも活用できます。さらに、土木学会の継続学習教材(土木学会CPD20単位付与)としても提供しており、個人単位で受講することも可能です(※土木学会経由でeラーニングを受講した場合、本講習の受講料減免はありません)。

図2 橋梁点検(基礎編)の講習項目とスケジュールの一例






