インフラ未来へのブレイクスルー -目指すは、インフラエンジニアのオンリーワン-

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2024.07.01

②悲劇から学ぶ・鋼箱桁落下事故の教訓 ~ 一歩踏み出す勇気、変わらなければ進歩はない ~

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4.おわりに

 ここまで、横浜市で発生した歩道橋デッキの設計ミスと静岡県で発生した鋼桁落下事故について分析し、私の考える事故原因と再発防止策について、具体的にポイントを絞って示した。

 ここで、今回発生した桁落下事故について、架設中の桁がどのような過程を経て落下したかを紐解いて説明する。ただし、私の拙い技術力で分析したことから、真実とは差異がある可能性を含んでいることを差し引いて読んで頂きたい。

落下過程の私見

 私が、清水立体尾羽第2高架橋の桁落下事故について報道で示された事故状況や、公開された資料を確認し統合して考えた落下過程を以下に示す。

 当日の作業として、20時50分にP3側の桁を海側に軌条梁を使って1.1m移動させ、1時間後の21時50分にP3及びP4側の横移動(横取り)作業を開始し、横移動作業から降下作業に事故発生当日の午前2時に桁降下作業を開始している。桁落下事故は、桁降下装置から桁芯調整装置(P4側)に入れ替え、最終調整作業を行っている過程で発生している。第一にP4部分のセッティングビームで吊り、桁仮り受け架台上に据えた架設桁が許容範囲を超えた位置となったことから調整装置によって水平方向に押す方法を選択した。ところが、架設桁は想定通りに動かず結果的に架台から外れ、次にセッティングビームから外れ海側の橋梁端部側に変位し、図-22の上側に示す①の太い黄色矢印の方向にP4側の架設桁が直下に落下した。次に、P4側の架設桁が落下したことで、その動きに引きずられるようにP3橋脚上の仮受け架台等から架設桁のP3側が支承上に落下し、②に示す黄色矢印で示すように、ブラケットと桁の合力方向に傾斜、回転する様に海側に落下、着地し、ほぼ同時にP4側が③の黄色矢印に示す方向に移動し最終位置に停まったと推測する。


図-22 鋼箱桁落下状況:清水立体尾羽第2高架橋


 

基本的な要件さえ守っていれば
緊急時の対応を事前に作業員が共有し行っていれば


 今回発生した桁落下事故について私は考えれば考えるほど、基本的な要件さえ守っていれば、また、緊急時の対応を事前に作業員が共有し行っていれば、事故は未然に防ぐことが出来たはずとの結論に至った。基本的な要件とは、①セッティングビームは水平力に抵抗できる構造とする。②セッティングビーム固定装置を橋軸方向及び橋軸直角方向の両方向に設置する。③橋軸方向の架設桁固定設備は、気温変化の影響による架設桁の伸縮量を算定、把握し、対応可能な遊間を設ける。④架設中に変状が認められた場合には、直ちに架設作業を中止し、その影響範囲にある道路の通行規制や作業規制を行うこと。特に、④は国土交通省道路局から『新名神高速道路有馬川橋鋼箱桁落下事故』発生を受け、事務連絡で全国の事業者に徹底されているはずである。

 今回の話題提供の最後に、私が今回の事故を見て、聞いて、そして過去に発生した同様な桁落下事故から考えた教訓を示す。これは、発生してはならない悲劇的な事故から私が学んだ大きな教訓である。

 

『指定架設』⇒『責任施工』及び『任意仮設』

「施工」へのモチベーションが低下し、監督行為が疎かになっていないか

 今回の桁落下事故の一因として私は、国、地方自治体や高速道路会社などが建設工事を発注する際、基本となっている工事請負者の『責任施工』及び『任意仮設』があると思う。『責任施工』とは、請負者が契約書及び設計図書に基づいて責任を持って工事施工する、発注者から請負者への施工に関する一任行為を指している。『責任施工』に関する発注者側の理解は、請負者自らの責任で施工する基本契約に変わったことから、全ての施工行為を請負者に任せ、工事が完了した時点で発注者側が出来形等を確認し、完成した構築物を引き取ればよいとの考え方である。

 また、『任意仮設』にも一因がある。『任意仮設』とは、構築物建設の設計図書に施工に要する工法や仮設物等に関する指定がなく、施工者が設計図書や現地環境等から自己の判断で施工法、仮設の詳細や配置などを選択し、請負者からそれらを委ねられることである。一昔前は、発注者側の設計図書に工法や仮設等の詳細が規定される『指定仮設』であった。ところが近年、技術革新や新材料、新工法開発が急速に進むことから、国や地方自治体、高速道路会社などの技術職員がそれらを十分に把握することが困難との理由から、『責任施工』及び『任意仮設』が主流となっている。

 当然、今回中部地方整備局静岡国道事務所が発注した、今回事故を起こした建設工事などの多くの架設工事は、先に示す『責任施工』であり、架設方法や架設に使用する機械や治具等は『任意仮設』である。ここで問題は、『責任施工』、『任意仮設』の考え方が進めば進むほど、監督員や技術職員は建設工事の施工に興味が薄れ、モチベーションも低下し、国や地方自治体等、公共機関として必須である監督行為が疎かになっていると私は考える。

 国や地方自治体等が発注する請負工事は、契約で『責任施工』となっていても、発注者として、工事期間中の指示,立会い等によって契約の適正な履行を確認するとともに、施工方法、安全管理、工程管理及び周辺住民等に与える影響について、行政の立場から常に実態を把握し、事業の円滑な実施と安全管理に配慮することを要求されている。私は、過去に行政側の監督員として、専門技術と適切な倫理観を持ち、建設工事の細部まで目を通し、請負者側に施工及び監理まで指示する時代を経験してきているが、当時を振り返って考えると今回のような事故発生は少なかった気がする。

 確かに私としても、先に示す『責任施工』や『任意仮設』の必要性は十分理解できるが、現場では本来の趣旨が伝わらず、発注者や監督員の関与を極力控えることが適切であると解釈され、行政の技術者は職務にあたっているのではと思う。先に示す考え方が進むことによって私は、行政技術者や監督員の意欲は失われ、安全性確保も他人事と考えているようなったと感じる。私は、今回説明した事故発生を受け、繰り返す桁落下事故の対策として、行政側の技術者や監督員の責務について、再度徹底する研修を行うことが必要と考える。

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安全最優先で工事に取り組み、二度とこのような事故を繰り返さないことをここに誓う

 また、同様の事故が発生し続ける理由として、発注者側の問題も考慮する必要がある。発注者側に起因する問題発生の要因として、以下に示すポイントが挙げられる。

 ➀不適切な要求事項:発注者が設計や施工に関して過度なコスト削減を求めることがあり、安全性が二の次にされることを耳にすることがある。十分な時間やリソースを確保せずに急な納期を設定することも、安全管理の不備を招く原因となる。

 ➁リスク管理の不足:発注者がリスク管理を十分に行わず、リスク評価やリスク軽減策が不十分なままプロジェクトが進行することがある。リスクに対する意識や対策が徹底されていない場合、予期せぬ問題が発生する確率が高くなる。

 ③コミュニケーションの欠如:発注者と受注者(施工業者や設計者)との間のコミュニケーションが不足していると、現場の実情や問題点が共有されず、適切な対応が取れないことが良くある。発注者が現場の意見や提案を十分に聞かず、一方的に指示を出すことが事故の原因となることもある。

 ④経験不足:発注者側にプロジェクト管理や安全管理の経験が不足している場合、適切な指示やサポートが行えず、施工現場でのリスクが増大する。専門知識や経験を持った人材を要所に適切に配置しないと、プロジェクト全体の安全性が低下することになる。

 ⑤チェック体制の甘さ:発注者が定期的な監査やチェックを行わず、施工現場の安全管理が形骸化していることが想定される。外部監査や第三者の評価を導入して客観的な視点からの安全管理を行わないと、見逃されるリスクが高まることになる。

 公共機関、行政技術者、業務発注者としては耳が痛いかもしれないが、先に示した発注者側が抱えている問題が複合的に影響し、同様の事故が発生し続けることがある。事故を未然に防ぐためには、発注者側も含めた全関係者が安全意識を持ち、適切なリスク管理とコミュニケーションを行うことが重要である。

 最後に、私がNHKのニュース番組で鋼箱桁落下の原因を解説した、忘れることの出来ない8年前の2016年4月に発生した『新名神高速道路有馬川橋鋼箱桁落下事故』について述べる。本事故について、神戸地方裁判所の倉哲浩裁判長は判決理由で「さしたる根拠もなく地面を踏んだ感覚などから地盤は固いと感じ、調査は必要ないと判断した。安全面に細心の配慮が求められる現場所長として軽率だ」と指摘している。そして裁判長は、地盤沈下の報告を受けたのに工事を続けたとして「落ち度は大きい」と結論付けている。

 建設工事に係る関係者は、架設工事における判断の誤りで発生したと結論付けられた事故の再発防止として、事故発生の2年後に落下現場の国道176号の脇に設置された図-23に示す『工事安全誓いの碑』はどのような意味を持ち、我々に何を語り掛けているのか考えてほしい。工事安全の碑には、「安全最優先で工事に取り組み、二度とこのような事故を繰り返さないことをここに誓う」と書かれている。


図-23 工事安全誓いの碑

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