道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~

道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~
2024.09.03

④実橋床版の調査研究を通じて学んだこと(名神・阪高との違い、RC床版の劣化度判定法など)

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CORE技術研究所 下地補修ができる浸透型防水工法 全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア

(2)土木学会関西支部で劣化度判定法を提案!

 話題3で述べたように、阪神高速道路で抜け落ち現象は、自動車が走り抜けることによる広義の疲労であると提言した。その証明のため、定点疲労試験で用いる油圧ジャッキを多数の載荷点に移動させて、床版下面に発生する亀甲状のひび割れパターンを再現できた。さらに、床版のたわみ変形量は直交配筋する2方向の鉄筋位置と鉄筋量の違いを考慮した直交異方性版理論によって計算できることを示した。

 その後、輪荷重走行試験機が誕生するまでの5,6年の間に土木学会関西支部における各種調査委員会(京大の岡田先生が委員長のもの、阪大前田先生が委員長のもの等)に参加し、RC床版の維持管理に関する研究を行ってきた。ここに、現在も活用されているRC床版の劣化度判定法を紹介しておきたい。大変な量の現場床版での載荷実験とひびわれ調査に基づいた傑作と確信しているものであるからだ。

昭和51年2月に「RC床版の損傷対策マニュアル」を発行
床版たわみとの関係を調べれば良いのでは?


 国土交通省近畿地方整備局、近畿技術事務所は昭和51年2月に、ひび割れ損傷を起こしたRC床版を補修補強して続けて使用していくために「RC床版の損傷対策マニュアル」を発行した。その「3章 判定」で、表4.1並びに図4.1が特に印象的に映った。


表4.1 / 図4.1


 表4.1のように床版下面に発生しているひび割れの目視観察だけでの判定で良いのか? もっと科学的・物理的な判定法を作れないのか? という初期印象であった。話題3で述べた多点移動載荷実験によって、ひび割れパターンは実橋どおりに再現できたことから床版の劣化は疲労現象とあるとの判断が認められたことで、疲労の進行によって鉄筋の存在が発揮された床版の剛性変化が明確に表れる、床版たわみとの関係を調べれば良いのではと思い付いた。ただし、多点移動載荷では荷重の載荷回数とひび割れの増加との関係を付けるのは難しいと考えていた。

 しかし、図4.2(a)多点移動載荷したA-5の活荷重たわみが双曲線状に増加した後に増加傾向は止まり、その時点でひび割れは亀甲状になっている。その後は鉄筋間隔や床版厚との関係で密なひび割れは起らず、ひびわれ面磨耗や角落ちが起り、適切な補修が必要な状態となる。上記のように増加傾向が止まった後に再急増するのは、ひびわれ面でせん断繰り返し等による摩耗が起り、劣化が進行するためである。


図4.2(a)


寿命比で3つの段階に区分
 実橋床版で調査


 この試験体のひび割れ発生を、横軸に寿命比を取って図化すると図4.2(b)のようになる。


図4.2(b)


 ただし、縦軸は上記の収束した最大密度で無次元化している。この図のようにひびわれ密度の進展は、寿命比で3つの段階に区分できる。すなわち、第一段階は初期ひび割れ発生段階、第二段階は曲げひびわれ進展段階、第3段階は曲げひびわれ発生は収束し、せん断力とねじりモーメントの繰り返しに起因したひびわれ面の磨耗と角落ちの進行による劣化段階の3種である。この横軸で0.8程度の時に、図4.1で示したたわみが再度急増する時点が、床版の使用限界たわみに達したと言っても良いと判断できる。

 ただし、以上の結果は多点移動載荷試験法によるもので、ここで使用限界やその途中で補修等の対策を述べるのは問題である。この方法は荷重の大きさや載荷順序を問わす、単純に床版下面のひびわれを実橋どおりに再現するだけのものであったことを思い出してほしい。常時荷重が走り抜けていないのである。

 そこで思いついたのが実橋床版で調査するのが最良ではないか?に到着した。ただし、当時、実橋でトラックを借りて、交通規制してもらうガードマンを雇い載荷実験をするには100万円程度かかり、かつ、単純な橋でも必ず支持桁を数本含むので、載荷実験時の床版たわみ解析を計算会社にたのむとやはり100万円の費用がかかる。そうした状況を考えると、何もしないでマニュアルどおりに判定すべきと悩んでいた。しかし、道路管理者には問題解決を急ぐことが私以上の問題となるようで、私の悩みは少し薄らぎ、多くの道路機関からの要請と当方からのお願いも併せ14橋37パネルの実橋の調査・実測・解析ができた。また幸いにも私には多くの助け舟があった。学生は勿論であるが、岡村先生の口利きで大阪工大出身の東洋技研コンサルタントの古市亨氏(現㈱古市・研究室長)、石川一美氏(現㈱カナフレックス技術顧問)ならびに、酒井鉄工所の技術部長・石崎茂氏(現㈱SDC取締役)には直交異方性版のFEM解析プログラム・コンポの開発をして頂き、支持桁付きの床版解析が行うことができた。ここに記して謝意を表したい。石崎氏、古市氏には現在も災害科学研究所での社会基盤維持管理研究会の重要役員として活躍して貰っている。私の後の話題にもしばしば名前が出てくると思う。

 さて、実橋14橋37パネルの結果であるが、表4.2に示す近畿地方にある複数桁で支持されRC床版を持つ橋であった。

表4.2


 RC床版に使用されたコンクリートの情報は皆無の状態であったため、コア採取の許可が得られればコアを採取して圧縮試験を行い、許可がえられない場合はシュミットハンマー試験で圧縮強度を得て、既往関係式から弾性係数を求めた。またすべての橋梁は舗装が載っていたので、試験時の気温から舗装の弾性係数を求め、厚さを計測して曲げ剛性への影響を考慮した。ただし、舗装による載荷輪荷重の荷重分配は無視し、ダブルタイヤの接地面積のまま床版中央面で作用すると仮定した。ガードレール高欄を付けた橋梁ではこの影響を無視し、高さ15cm程度の地覆は無視した。壁高欄は曲げ剛性が大きいので、外桁として考慮した。

 以上のような条件で、載荷トラックの軸重をトラックスケールで計った上で、載荷させた。片輪を床版中央に載せ、たわみを計測した。たわみ計は幅方向で25㎝離れた3点に設置した。

 全計測パネルでの結果は表4.3のとおりであった。これらパネルの床版下面のひびわれ密度はトラック載荷の前にスケッチしておき、たわみ計を設置した1m四方あるいは幅員が広い場合では1.5m四方内のひびわれに着目し、ひびわれ密度法によって求めた。

表4.3


明らかになった4つの内容

 以上の結果を図4.3のたわみによる劣化度とひびわれ密度による劣化度との関係図にプロットした。この図から以下のことが明らかになった。


図4.3


① 数橋は川の上にあり、床版下面のひびわれを近接目視観察できないものや、たわみの計測方法に問題があったのものは、予め判っていたので、これのデータの信頼度は少ないとして区別する必要があるとして△の記号を付けた。こえらの△データを除くと,ひび割れ密度とたわみによる劣化度は45°線上に分布してよい相関があることが判明した。よって、国交省が提案したひびわれによる判定は十分な活用精度があると判定できた。

 ② 図4.3によると、全データはたわみよる劣化度とひび割れ密度の関係は2つの直線関係で表されるが、ひび割れ密度が10.5m/m²を超えない。このような床版ではたわみは増加するのはひびわれ面の劣化が悪い方に進行しており、使用限界を超えている。早急な保全対策が必要な状況にあると言える。

 ③ たわみについて見ても、2つの直線は1.0を少々上廻っているが、これもたわみ解析での材料強度や床版厚等に誤差を含んだためと思われる。

 ④ 以上のことから、たわみによる劣化度は活荷重たわみが直交異方性販の引張側コンクリート無視の理論たわみ値に一致するとき。あるいは床版下面でのひびわれ密度が10m/m²になった時であると結論づけられる。

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