高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
第5回 高専の役割、KOSEN-REIMの役割
KOSEN-REIM専務理事
都城高専校長
田村 隆弘氏
新年、あけましておめでとうございます。
昨年の元旦には、能登半島地震が発生しました。大変多くの方々に被災され、今なお、ご苦労されておられます。本年がそうした方々も日常を取り戻されて平和な年になりますようお祈り申し上げます。高等専門学校(以下、高専)の中でも、石川高専が大きな被害を受けましたが、学生たちは昨年11月に両国国技館で開催されました全国高専ロボコンでも元気に活躍してくれました。本当に高専生の困難を乗り越える姿にはいつも教えられる思いです。
さて、オムニバスで掲載させて頂いています本特集ですが、第5回目を担当させていただきます都城高専校長の田村です。KOSEN-REIMでは専務理事を担当させて頂いております。本稿では、まず私自身の経歴とコンクリート構造物の品質確保に関する取り組み、インフラ長寿命化に対する考えを述べ、中でも最も重要な人材育成の観点から、高専およびKOSEN-REIMの役割について紹介したいと思います。よろしくお願いいたします。
私の研究歴
最初に私自身と、そして、KOSEN-REIMとの関わりをご紹介させて頂きます。
専門はコンクリート、博士論文のテーマは、“コンクリートのせん断破壊”でした(写真1)。1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災で阪神高速道路のコンクリート橋脚が軒並みせん断破壊を起こし、特にピルツ式橋脚では17基の橋脚が連続的に北側に横倒しになりました(写真2)。この倒壊のトリガーとなったのが先頭の橋脚の段落とし部でのせん断破壊であろうとも言われていますが、同年3月に長岡技術科学大学で行われた学位授与式に参列する際には、車窓から倒壊した家屋やインフラ施設を目の当たりにし、コンクリート構造物の安全性を研究する者としての使命を痛感しました。
写真1 せん断破壊の実験の様子
写真2 せん断破壊した阪神高速
1998年から2年間、博士論文でお世話になった長岡技術科学大学で人事交流させていただきました。この時は、鋼構造の長井正嗣先生の研究室とコンクリートの丸山久一先生の研究室でお世話になり、丸山先生には、土木学会のコンクリート研究委員会(303委員会:耐震研究小委員会)で、学会の運営や示方書等の作成について学ばせて頂きました。ここでの経験は、その後、徳山高専に帰って来て、「コンクリートよろず研究会」という勉強会を立ち上げるのに大変役に立ちました。
2003年5月に、技術士の資格を得ましたが、こちらも建設現場での課題など実践的な研究に取り組む上で、人脈を拡げる上でも良かったと思います。
コンクリートよろず研究会
「コンクリートよろず研究会」は、コンクリートに関係する施工者から生コン製造者など様々なプレーヤーが集まって、実践的なテーマで勉強する会です(写真3)。これまで2度大きなテーマで活動しましたが、最初のテーマは、「コンクリートのひび割れ」。この頃、山口県では、国土交通省が2001年に出した「土木コンクリート構造物の品質確保について(国官技第61号)」に基づき、ひび割れ発生状況の調査及び記録を施工者に義務付けていましたが、建設していたコンクリート構造物で多くのひび割れが発生することが問題となっていて、この研究会のテーマとなりました。コンクリートよろず研究会は山口県と協力して、この問題に取り組むことになり、2005年からは産官学で協力して試験施工を行うなどして、コンクリートのひび割れ問題に取り組み、「山口システム」と言われるようなひび割れ対策手法を開発しました。現在、この取り組みが功を奏して、山口県のコンクリート構造物では有害なひび割れがかなり抑制されています(写真4)。
研究会の2つ目のテーマはコンクリートに使用される「混和剤」。コンクリート用混和剤は近年著しく性能が向上すると共に多様化しています。例えば、最近では、運搬時間が長い場合においてもスランプの低下を抑制する高性能な混和剤が開発されており、これらを現場で正しく使用して頂くためにテキストを発行するなどしました(写真5)。
写真3 コンクリートよろず研究会(左)、研究会による講習会(右)
写真4 山口県のひび割れ抑制対策(ひび割れ幅を0.05mm以内に抑制した)
写真5 コンクリートよろず研究会(混和剤研究風景:左)、混和剤テキスト(右
学会活動
山口県のひび割れ対策や、混和剤の研究成果は学会からも高い関心を寄せて頂きました。土木学会やコンクリート工学会では、コンクリート構造物の品質確保(耐久性確保)に関する委員会を設置させて頂き、活動成果はコンクリート標準示方書にも取り入れられました(写真6、写真7)。
写真6 JSCE350委員会報告書(左)写真7 JSCE229委員会報告書(右)
品質確保に関する委員会活動では、劣化の要因が構造物の初期品質にあることや、補修が適切に行われないために再劣化を繰り返し、多額の補修費用を投じているケースが確認されました。委員会ではこうした結果から、補修と再現性や再劣化についても考察しました(図1)。また、建設工事における品質確保の問題については、コンクリートの問題と技術の伝承や人材育成といったマネジメントにおいても課題があることを認識できました。
図1 劣化と補修の関係