高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦

高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
2025.03.01

第7回 橋梁診断で求められる設計施工のスキル修得(専門特修講座:施工技術と施工管理)

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高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
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わたしたちは 橋梁・コンクリート構造の専門家です! スクラップ&ビルドからストックマネジメントの時代へ
>林 和彦氏

独立行政法人国立高等専門学校機構
香川高等専門学校
建設環境工学科
准教授
社会基盤メンテナンス教育センター
センター長

林 和彦

【第1章 段階的に学ぶ橋梁メンテナンス講習】

 近年、道路や橋梁などのインフラが老朽化する一方で、建設業界では人材不足と技術者の高齢化が深刻化しています。そのため、土木分野の経験や専門教育を受けていない方、あるいは異業種から転職される方が増え、十分な現場経験がないまま点検や補修に携わるケースも少なくありません。

 こうした課題に対応するため、舞鶴高専・福島高専・長岡高専・福井高専・香川高専の5校では、「KOSEN-Recurrent Education of Infrastructure Maintenance(KOSEN-REIM)」を共同で実施し、橋梁メンテナンスに関するリカレント教育(学び直し)講習会を行っています。これらの講習は、(独)国立高等専門学校機構の資格認定を受けており、共通のカリキュラムに沿って進められます。

 「橋梁点検(基礎編)」は点検や維持管理の基本を学ぶ講座、「橋梁点検(応用編)」では、実際の点検調書作成方法を学ぶ講座です。いずれも5つの高専が実施し、応用編に合格すると国土交通省が認定する「橋梁点検技術者」の資格(鋼・コンクリート分野)を取得できます。ちなみに、基礎編を受講した高専とは異なる高専で応用編を受講することも可能です。

 さらに、その上位レベルとして「橋梁診断講座」があり、これを受講するには4つの「専門特修講座」を先に履修する必要があります。それが、「施工技術と施工管理」「構造物の詳細調査」「橋梁長寿命化対策」「建設ICT」です。これら4講座は単独受講も可能で、必ずしも橋梁診断技術者を目指す必要はありません。橋梁診断講座に合格すると、国交省認定の「橋梁診断技術者」の資格(鋼・コンクリート分野)が得られます。

リンク:ステップアップ型講習会の概要(第1回・第2回の紹介ページ)
https://r2sj.net/search?sw=KOSEN-REIM

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【第2章 道路橋定期点検要領改訂と診断の重要性】

 令和6年3月、国土交通省が「道路橋定期点検要領」を改訂し、「点検」と「診断」の役割分担がより明確になりました。国の方針では大きな変更点はないとされていますが、「見立て」の項目が追加され、機械的なパターン認識による健全性評価を防ぐ仕組みが強化されています。そのため、現場では「見立ての書き方がわからない」という声も多く聞かれます。

 橋梁点検は、橋の損傷や異常を発見する調査で、目視や計測機器を使って行います。一方、橋梁診断では、点検結果を踏まえて橋の健全度を評価し、どのような補修が必要なのかを判断します。道路橋定期点検要領では、この「診断」の要素が一部点検業務に含まれており、診断スキルによって成果物の質にばらつきが見られました。

 診断スキルを身につけるには、多様な事例や手法を学ぶ必要があります。たとえば鉄筋コンクリート構造物の支点付近に発生するせん断ひび割れの危険性を「知識」として覚えるだけでなく、設計規準や材料特性、ひび割れ発生のメカニズムまで理解しておけば、暗記に頼らず適切に判断できます。そこで私たちは、橋梁診断に必要な知識を体系的に学べるように「専門特修講座」を整備しました。 本稿では、その中でも「施工技術と施工管理」を中心に解説し、それ以外の講座については今後の連載で紹介します。

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【第3章 点検・診断を支える設計・施工の知識】

 点検や診断を適切に行うためには、構造物がどのように設計され、どのように施工されてきたのかを正しく理解することが不可欠です。診断の過程では、点検で発見された損傷の原因を特定し、適切な補修・補強方法を判断する必要があります。しかし、設計や施工に関する知識が不足していると、損傷の現象を表面的に捉えるだけになり、その背後にある要因やメカニズムを見落とす可能性があります。構造物の設計規準は時代とともに変遷しており、損傷の発生を契機として規準が改訂されるというサイクルを繰り返してきました。そのため、過去の設計規準や施工技術を理解することは、現存する構造物の点検や診断においても非常に有効です。点検の際、「どの部位に注目すべきか」「特に慎重に調査すべき箇所はどこか」を把握しているかどうかによって、点検の精度に大きな差が生じます。そのため、点検・診断技術者には、構造物の設計・施工の背景を理解する能力が求められます。

 土木工学において「学び続けること」は不可欠ですが、業務に携わる際に事前にどの程度の知識を求めるべきか、その線引きは容易ではありません。そこで、本講習会では、開発担当者の独断ではなく、技術評価委員会のアドバイスを受けながら、カリキュラムの設計と教材開発を進めてきました。

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【第4章 施工技術と施工管理の講習会の流れ】

 ここでは、毎年1回、舞鶴高専で開催されている「施工技術と施工管理」講習会の内容と、その開発の狙いについて説明します。本稿では、2024年度の講習会をもとに解説しますが、将来的に改良される可能性があります。
 図に示すとおり、2日間の対面講習で1日目は鋼橋、2日目はコンクリート橋を取り上げ、施工技術と施工管理の基礎を学びます。施工に特化した講習会は非常に少ないことと、一般には、鋼橋とコンクリート橋が別々に扱われることが多いため、両方をまとめて学べる機会は珍しいといえます。

 受講者は、事前にeラーニング(約10時間)で基本を学び、確認テストに合格してから対面講習に参加します。 対面講習は定員10名の少人数制で、講師との密なコミュニケーションができるのが特長です。座学と実習を組み合わせたカリキュラムとなっており、動画教材や実物教材を活用しながら「見て」「触れて」「考える」という学習スタイルを取り入れています。高専のキャンパス内に橋梁点検実習フィールドがあり、撤去された実構造物が多数展示されており、生きた教材で学習します。

 講師陣には高専教員だけでなく、KOSEN-REIM実務家教員(今後の連載で詳細を紹介します)の資格をもつ企業の現役技術者も含まれており、現場経験に基づいた実践的な指導が行われるため、施工に関する学びにも安心感があります。


図 施工技術と施工管理の対面学習カリキュラム
図 舞鶴高専の橋梁点検実習フィールド(5高専それぞれに有する)

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