Interview

能登復興事務所 地震そして豪雨からの復興

2025.05.21

昨夏の豪雨による被災は146箇所

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国土交通省
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>杉本 敦氏

国土交通省
北陸地方整備局
能登復興事務所
所長

杉本 敦

 国土交通省北陸地方整備局能登復興事務所は、2024年正月に起きた能登半島地震からの復興を迅速に行うために設立された事務所である。職掌は道路・河川・砂防・海岸など多岐にわたり、2024年梅雨時期までの河川の仮復旧や道路の啓開および仮復旧が迅速に進められてきた。そして本復旧に取り掛かろうか、という矢先、同年9月20~23日に奥能登地方を集中豪雨が襲った。大雨による通行止め箇所は24路線47箇所に及び、国道249号沿岸部における大雨による被災は146箇所、うち増破(地震で被災した箇所の拡大)は45箇所、さらには新規被災が101箇所も生じた。中屋トンネルの坑口付近での斜面では災害に巻き込まれた死傷者も出てしまった。こうした豪雨の影響は「文字通り振出しに戻った」(杉本敦所長)状況を現出した。そのような困難な状況にも対応し、復旧・復興を進めている同事務所の杉本敦所長に現状を聞いた。(井手迫瑞樹)

前回インタビューはこちら

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能越道の復興および延伸、国道249号の復興も担当

6河川の応急復旧、5河川は本復旧も担う

能越道の復興および延伸、国道249号の復興も担当

 ――昨年9月の水害を受け、所掌はまた拡大していると思いますが、詳細を教えて下さい

 杉本所長 道路は能越自動車道と国道249号の2路線を担当しています。あとは河川、砂防、地滑り、海岸の復興工事を担っております。

 河川は当初、河原田川のみでしたが、昨秋の水害を受けて、塚田川、町野川、鈴屋川、珠洲大谷川の応急復旧、本復旧工事と、南志見川の応急復旧工事を担当しています。南志見川の本復旧については県が担われるスキームとなっています。


河原田川水系の対策(国土交通省北陸地方整備局公開資料より抜粋、以下注釈なきは同)

町野川水系の対策

町野川水系鈴屋川の応急復旧状況(石川県輪島市町野町鈴屋ユの五里分付近、2025年2月18日 井手迫瑞樹撮影)

塚田川水系の対策
 
珠洲大谷川の損傷状況(井手迫瑞樹 2025年2月18日撮影)


 

 ――砂防および地滑り関連の土砂災害対策箇所は

 杉本 10箇所が該当します。地滑り工事の直轄対応は珠洲市の清水地区、仁江地区、輪島市の曽々木地区、大野地区、同権限代行対応は輪島市の渋田地区、名舟地区、深見地区、砂防工事の直轄対応は町野川、塚田川、河原田川となっています。


土砂災害対策箇所

地滑り対策スケジュール例① 名舟地区と大野地区

同② 曽々木地区と清水地区

同③ 仁江地区、深見地区、渋田地区


 ――海岸は

 杉本 宝立正院海岸地区の1地区(6,873m)となっています。これは当初から変わりません。

 ――上下水道関連は

 杉本 当事務所には能登上下水道復興支援室があり、そこで石川県や七尾市、輪島市、志賀町、珠洲市、能登町、穴水町の上下水道事業について技術的な支援を対応しています。

 ――能越道と国道249号など道路事業の管掌範囲の詳細を教えてください

 杉本 能越道は穴水IC~(仮称)輪島ICまでの約18kmの復興および延伸を担当しています。穴水IC~のと三井ICまでの区間が地震による損壊からの復興、のと三井IC~(仮称)輪島ICまでが新設延伸事業です。


能越道穴水道路 被災・復旧状況(能登復興事務所提供)


 ――国道249号復興事業は

 杉本 約53kmを所管しています。輪島市門前町浦上~洲市若山町の区間です。

 ――復旧復興の進捗状況を教えて下さい。昨年の正月の地震で生じた道路の自然斜面やのり面、あと盛土部、トンネル、橋梁などの道路構造物、河川などの損傷と復旧進捗状況を詳しく教えてください。また、9月には豪雨による再度災害(奥能登豪雨)が生じ、非常に大きな被害がおきましたが、その被災状況と復旧状況について教えて下さい

 杉本 道路については、年末の時点で国道249号を全区間で走行できるように仮復旧を完了しました。これは地域に明るい話題が出せたと思っています。現在は、順次できるところからのり面の本復旧を進めています。河川については、概ね地震後、昨年の梅雨時期前までに、応急復旧は終わっており本復旧の検討をしていた矢先に、9月の奥能登豪雨が起こり、再度河川が大きく傷んでしまました。現在は今年の梅雨時期前までに再度応急復旧を完了させるべく一生懸命施工しています。

 ――残念ながら、昨今の異常気象を考慮すると再々度の豪雨が生じる可能性は排除できません。そうした事態を踏まえ流量を大きくするあるいは流木、流石のできうる限りの排除などを考慮した応急復旧としているのでしょうか

 杉本 河川はとりあえず元々あった川幅まで戻します。また、砂防の方は土砂がこれ以上河川に流れ込まないように、砂防堰堤を作っています。

 さらに今言われたように、撤去できずに残っている流木はまだあります。また生きているように見えても根が腐っていてほぼ死んでいる木は再度大雨が起きた時に倒木し、新たな流木となって河川を破壊する材料になりえます。そのため危険な箇所はワイヤーネットなどを設置して、河川内に入らないようにする対策をまず急いでいます。

 ――河川の対策というよりも山の対策ですね

 杉本 そうですね。河川の閉塞している箇所や護岸がかなり傷んでいる所があります。仮復旧では護岸は土嚢になってしまいますが、これ以上護岸が洗堀されないように対策しつつ、最低限これまでの河川の断面は確保していきます。

 ――本復旧、例えば九州地整の大分河川国道事務所管内の玖珠川に並行して走る国道210号の日田市天瀬町赤岩地区では、令和2年7月豪雨で護岸ごと道路がえぐられました。それを赤岩防災事業で直しましたが、そこで行ったことは仮復旧の土嚢を抱き込む形で本復旧する工法(ジャイロプレス工法)を用いて、本復旧までの工期を大幅に短縮しています。そうした工法を採用する余地はありますか

 杉本 統一的なやり方を採用するのは難しいです。今後の河川流量をどのように考えていくかで断面は変わっていきます。損傷の場所や度合いにより施工法も変わる余地があります。現在は今回の豪雨にたいして流域治水の考え方を取り入れて、奥能登地区をどうしていくかということを検討し、石川県、市町、関係機関と「奥能登地区緊急治水対策プロジェクト」を策定し、取り組んでいくところです。本復旧の計画が固まるのは少し時間が必要です。仮復旧においてはまずは、梅雨時期までに損傷前の流量を確保できる河川断面で行う方針です。

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流域治水を考えていく 地震で橋も山も損傷を受けた所に豪雨で橋が流失

河川の本復旧計画をどのように行うのかで橋の架替えも変わっていく

 ――以前、沖縄総合事務局の山田局次長のインタビューを行った際に、沖縄の河川は掘り込み式のため、豪雨が起きる土地柄にもかかわらずほとんど河川の被害は生じないとお話しされたことがあります。内地の河川は堤防が多いですが、掘り込み式を考えることはありませんか

 杉本 これはその土地の特性によって変わってくるので、一概に言えません。河床は山からの土砂の供給量や流れ込む海岸の水位など様々な影響があり、そこにどう結びついて流れるかという所で決まると思うので、掘った方が強い、盛った方が強いっていうわけではないのかなと思います。

 元々、能登地域の河川は大きい堤防がある箇所は少なく、、多くは河床掘削で対応している箇所が多い地域でした。掘り込み河川でも護岸が崩れてしまうと侵食が進み大きな被害が発生します。状況は堤防方式とあまり変わらず、溢水して護岸が大きく崩れ、大変なことになるっていうのは変わらないのかなとは思います。

 ――流域治水ということを話されていましたが、遊水地などの計画はあるのですか

 杉本 石川県では手取川で霞堤など、昔から、氾濫しても被害の拡大を防ぐことで流域全体の治水を総合的に考える気風があります。また、河川だけでなく、田んぼダムなどにご協力いただくことで、降雨がすぐに川に流れ出す量を減らすことも考えられ、流域治水として関係機関と様々な取り組みを進める必要があり、奥能登でもそうした考え方を取り入れて緊急治水対策プロジェクトを策定しています。米作田を有する箇所の方々にはご迷惑をおかけすることにはなりますが、それでも最大限どこを守っていくかっていうところをしっかり流域全体で考えていく必要があります。


流域治水の考え方を取り入れていく


 ――国道や県道の橋ではありませんが市町道の橋が多く流されていました。地震の時には段差が出る程度で持っていた橋も水害で流失、一部流失したケースが多く見受けられました。これは河積阻害率が高いゆえだと感じます。今後の河川の本復旧に際して、こうした橋をどのように直していきますか。

 杉本 まだ正直なところ計画は持ち合わせていません。ただ、豪雨だけであれば、これほど流木が発生することもなく、今までの橋梁でも持っていたと思います。ただ今回の豪雨は地震でまず橋自体が傷んでおり、山も地震の影響によりボロボロで、地震で倒木があったにも関わらず、その処理がほとんどできない中での豪雨というのが大きかったと思います。通常よりも多く流木が河川に流入し、橋脚や桁に引っかかって損傷を拡大したという事が大きかったと思います。


橋の一部流失例、残置したままでは再度水害で大きな被害を河川堤防にもたらす可能性がある(2025年2月18日 井手迫瑞樹撮影)


 河川の本復旧の際に川幅を拡げる計画になれば、それに合わせて橋長も変えることになります。(架け替える際は)河川内橋脚はできるだけ減らした方が良いですが、それも場所によって対応していくことになろうかと思います。

 ――九州北部豪雨や西日本豪雨の例を見ると、基本的に流された橋を架替えする場合、現状復旧ではなく橋脚数をできるだけ減らし、H.W.Lを新しくし、桁下クリアランスの余裕高を広くとり、さらに堤内橋台も徹底し、再度災害を防止するようにしています。能登復興事務所もおそらく権限代行などで流失橋の架替えも担われることになろうかと思いますが、考え方を聞かせてください

 杉本 流失した橋梁は県ないし市町が管理する橋ですから、まずどこが直すのかという議論をしなくてはいけません。ただ、仰られたような構造的な対応や、架替え位置の選定、何より河川の本復旧計画をどのように行うのか? ということがベースになってくると思います。

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現道が大きく被災している所は別線のトンネルで貫く

奥能登の観光資源を考慮して道路の復興を考える必要がある

 ――次に道路の自然斜面、のり面や盛土、トンネル・橋梁など道路構造物の本復旧はどこまで検討が進んでいるでしょうか

 杉本 本復旧については技術検討委員会で案を検討してきました。最終的なルートや構造案は地域に住まわれている方のご意見を聞きながら、今後、国として安全かつ生活や産業に資する復興道路案となるよう、令和7年3月26日に復旧方針を公表しました。

 ――具体的には

 杉本 現道が大きく被災している所は別線のトンネルで貫くことも検討しています。但し例えば千枚田や大川浜工区では、隆起している海岸を使って仮復旧道路を作っている箇所がありますが、そのような場所を活用し本復旧にするという手段もあると思います。地域の皆様の意見も聞きながらやっていく必要があるかなっていうふうには考えています。現道で復旧しようにも千枚田などでは既にかなり大きな地滑りがあり、さらに潜在的に滑る可能性が否定できません。そこを無理やり現道に戻すよりは、最低限の斜面の対策を行い、隆起した海岸部に道路を設置する方が良いと考えます。


千枚田工区と大川浜工区の復旧状況(能登復興事務所提供)


 もちろん安全性を重視すれば全部飛ばしてトンネルという案もあります。しかしそれで美しい風景を愛でながら走行するという、奥能登の観光資源を無くしてしまいます。国総研や土研など技術的に優秀な人を集めていろんな意見を聞く場があるので、そういう人たちのアドバイスを聞いて、安全な道路と美しい風景の両立を図っていきたいと考えています。

 本復旧に当たって技術面だけではなく、奥能登の絶景を残していこうという事で、絶景海道を考える検討会というのも立ち上げています。ただただ作って元通りではなく、復興後の観光などを考え、自転車専用路を作る、適切な場所に休憩施設を設ける――そうした内容を入れた石川県が唱えている創造的復興の具体的な内容も織り交ぜた形の道路の復旧・復興を進めていきたいと考えています。

津波や高潮の想定高さを考慮して道路の本復旧を行う

 トンネル⇒明かり部(切土ないし補強盛土)の繰り返しのような構造に

 ――内容的には首肯すること頻りなのですが、反面、課題もあると思います。例えば現在、八代復興道路では球磨川沿いの護岸道路と、橋梁の架替えを行っています。橋梁の架替えにあたっては、大部分の橋が旧橋のデザインを尊重した形で、構造的には強いものにするなど、景観性と安全性を両立した構造を実現しています。ただし、八代復興事務所管内の球磨川沿いの道路復興は、八代~人吉間が高速道路で結ばれているというリダンダンシーが根底にあります。一方で奥能登は延伸部を含めても自動車専用道路は輪島までしかなく、珠洲方面にはリダンダンシーがあまりありません。そこで千枚田のような隆起した海岸部を道路として活用するというのはシーニックバイウェイの観点からは良いのですが、津波や高潮が起きた時、道路が寸断されるという懸念は否めません。それでも常の営みの絶景海道としての機能を優先し、津波や高潮時には道路を止めて、また復旧・復興するということを飲むコンセプトという風に理解して良いですか

 杉本 津波や高潮の想定高さは出ており、本復旧時はそれをクリアする道路は最低限作っていかなくてはいけないと考えています。隆起した海岸部を利用する道路であっても、その考え方が大原則としてあります。

 また、輪島から珠洲に向かっては山の中を通る「珠洲道路」があり、さらに249号は半島をぐるっと回っていく道路になっていますので、全体のネットワークとして、珠洲までの道路のリダンダンシーを考えていく必要があります。そのときに大事なのがこれから法定計画にしていくといっていたのを、啓開計画みたいなところが肝になっていくのかな、と考えています。半島全体のネットワークの安全性、啓開計画を考えながら、今復旧する道路は、津波や高潮、雨量などの条件は全てクリアできるような道路で、かつ、現地で生活し、仕事をする地域の皆さんがある程度の満足できるような道路としての折り合いをつけるという事を考えて、住民の皆さんの思いも汲んだ道路を考えていいきます。

 ――今のお話ですと、トンネル⇒明かり部(切土ないし補強盛土)の繰り返しのような構造になるという事ですかね

 杉本 そうですね。場所によっては土工部が橋梁構造になることもあるのかな、と思っています。

 ――自然斜面やのり面、盛土部などの本復旧状況っていうのはどうなんでしょう。

 杉本 技術検討委員会で話を聞きながら進めていますが、小規模の損壊箇所はのり枠など通常の災害復旧で発注できるものは発注して復旧を進めています。一方で、大規模な崩壊を起こした箇所などは、しっかり調査し、委員の皆様のご意見を聞いて、しっかり調査および設計を進めているという感じですね。


砂防工事や地滑り工事の進め方

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