瀧上工業創業130年、150年への展望を聞く
瀧上工業は今年、創業130周年を迎えた。名古屋市の名古屋市西区外田町(今の西区幅下1丁目)で初代の瀧上卯内氏が創業以来、満州への進出とその頓挫などがあったものの、戦後は衣浦大橋(愛知県発注)から本四架橋、名港中央、西大橋など鋼橋・鉄骨の製作や架設を中心に順調に実績を伸ばしており、現在に至る。最近もNEXCO中日本の長良川橋大規模更新工事、国土交通省中部地方整備局の天龍峡大橋や川島大橋の架替え、木曽川大橋の保全工事、面白いところでは喜連瓜破高架橋のPC橋撤去用の仮設桁製作など、様々な現場を担っている。今後の展望について瀧上晶義社長に聞いた。(井手迫瑞樹)
喜連瓜破架設桁(阪神高速)の仮組検査状況
エポックは衣浦大橋の製作・架設、本四架橋や名港トリトンも担う
半田市民への恩返し ⼤⾕徹奘師が講演
エポックは衣浦大橋の製作・架設、本四架橋や名港トリトンも担う
――瀧上工業の創立の経緯および創立からの歴史とエポックとなった出来事を振り返ってください。また、新設・保全の分野でエポックとなった現場についても言及してください。
瀧上社長 1895年に名古屋市西区外田町(今の西区幅下1丁目)で瀧上卯内氏が鍛冶屋として創業したのが始まりです。その後、建築全般の鍛造業として発展(同分野は現在瀧上精機工業として、犬釘や鉄道用締結用スクリューボルトなどを生産、販売している)、鉄骨や橋梁にも乗り出し、現在に至っています。現在の半田市に拠点を移したのは1963年で、これは第二の創業といえる出来事でした。今回、創業130年の記念行事を行いますが、これは半田市民の皆様方への恩返しの意味があります。法相宗大本山薬師寺執事長の⼤⾕徹奘師においでいただき、多様性の推進や、当社の進んでいく方向に明かりを灯していただけるような内容の講演会などを開催させていただく予定です。
エポックといえば、戦前は満州に進出したことですが、これは敗戦により引き上げたため、最終的には大きな損失となりました。しかし、大陸で得た経験をもとに戦後の経済復興の波に乗り、橋梁分野にも乗り出した結果、今日に至っています。構造物としては、まずは愛知県が建設した衣浦大橋(昭和31年完成、10径間ゲルバーワーレントラス)が挙げられます。同橋は当時において、最大の橋長を誇る鋼橋でした。道路橋だけでなく、鉄道橋もあります。例えば、東海道新幹線の六番町付近に架けられた鋼アーチ橋(第2六番町架道橋、昭和38年完成、ローゼ桁、デックガーダー)は、当時としては非常に長く、さらに鉄道橋ならではの精密さを要求された橋梁でした。
建設時の衣浦大橋(瀧上工業提供、以下同)
同橋の左折専用レーンの拡幅も担った
東海道新幹線第2六番町架道橋の架設状況
海洋架橋としては大鳴門橋(昭和60年完成、3径間2ヒンジ補剛トラス吊橋)・撫養(むや)橋(昭和61年完成、4径間連続鋼床版箱桁)・北備讃瀬戸大橋(昭和62年完成、3径間連続補剛トラス吊橋)・生口橋(平成3年完成、3径間連続複合箱桁斜張橋)・明石海峡大橋(平成10年完成、3径間2ヒンジ補剛トラス吊橋)・多々羅大橋(平成11年完成、3径間連続複合箱桁斜張橋)などの長径間吊橋の建設にも参画しています。また、同時期には、名港西大橋(昭和60年完成、3径間連続鋼斜張橋)、同中央大橋(平成10年完成、3径間連続鋼斜張橋)という斜張橋の製作・架設にも従事し、技術力を磨いていきました。名港トリトンについては、その後の耐震補強・補修も担い、地元の長大橋梁の維持管理も担っています。
本四架橋にも参画(写真は大鳴門橋(左)、北備讃瀬戸大橋(中)、生口橋(右))
名港西大橋と名港中央大橋
名港トリトンについては、その後の耐震補強も担っている
人・物・金を有効に使えるように改革
東京フラッグ、菊池鉄工所などを買収、シナジー早期発現へ
――社長のご経歴と、その後の施策について教えて下さい
瀧上 私は三菱銀行(現在の三菱UFJ銀行)に入行し、5年ほどで瀧上工業に入社しました。1990年4月のことです。発注量は入社後に一旦増え続けますが、1995年の90万t強をピークに減り続け、現在は10万tほどにまで減少しています。発注量の推移を考えると苦闘の連続でした。
社長に就任したのは2010年6月です。自分なりに銀行時代から「瀧上とはこうあるべきだ」という考えを持っていました。社長に就任して取り組んだのはガバナンスの再構築でした。人・物・金を有効に使えるように改革したものです。これは少し遅れていたら企業としては大変だったと考えております。
――例えば「金」はどのように有効活用したのですか
瀧上 古くなっていた生産設備の更新、人材や他分野への積極的な投資です。
当社は古くからの設備を大事に使ってきましたが、如何せん50年物の設備も多く、生産の非効率化が顕著になっていました。そのため、設備のリプレイスを積極的に行いました。また、不動産事業にも乗り出し、堅実に収益の見込める不動産を開発、買収することによって、多額ではありませんが確実な収益をもたらしています。当社は公共事業の受注による収益が大きな割合を占めていますが、入札は当たり前ですが取れる、取れないがあり、売り上げが安定しません。それを少しでも埋めることに貢献しています。
また、企業買収も進めました。鉄骨や鋼橋の現場溶接で定評のある東京フラッグ、鉄骨分野で定評のある菊池鉄工所などを買収。従来からの架設工事・鋼橋補強工事で定評がある瀧上建設興業など、グループ会社との連携を強めると共に、新たに買収した会社は、それまでの歴史と経営者の方針を尊重し、それらが持つお得意様との関係も維持しつつも、当社のプロジェクトに参加していただくことにより、相互の強みを生かした技術提案や新たな技術開発に生かしていきたいと考えています。
保全分野はコンストタントに30億の売り上げを出している
木曽川大橋補修補強や川島大橋の架替えも担う
――保全分野についてはどのように考えておられますか
瀧上 実は当社が保全分野に乗り出したのは、結構早く(2014年保全本部立ち上げ)、現在では約30億円の売り上げをコンスタントに出しています。先に上げた名港西~名港中央大橋の耐震補強や保全工事(瀧上工業・エム・エム ブリッジ・カナデビア(当時は日立造船)JV)では、日本最大級のストロークを有する制震ダンパーを用いて耐震補強を行いました。
また、NEXCOの大規模更新工事は名神長良川橋で、三井住友建設、日本ピーエスと共にJVを組み、当社は上下線中央の狭い部分に新たに桁を1本製作・架設する工事や、既存の鋼桁の補強を行う工事を担当しています。
名神長良川橋
中部地整では木曽川大橋の補強を行っています。同橋は過去に一部で斜材の破断が生じました。その補修を行い、現在は床版の補強や増桁を設置する工事も行っています。また、東名高速道路の浜名湖橋では支承の取替工事を施工しています。
木曽川大橋の補強
岐阜県発注の新愛岐大橋の上部工製作・架設(篠田製作所とのJVで受注)も施工しています。
新愛岐大橋上部工の送り出し架設状況
岐阜県が管理し、国土交通省が代行で架け替えを行っている川島大橋は新橋の架設をIHIインフラシステムとJVを組んで担当しています。同橋は5径間のトラス橋でしたが、豪雨により一部の橋脚が洗掘し、それが上部工にも波及、大きな損傷を蒙ってしまいました。今回の新橋は橋建協が提唱するピアレス橋梁の思想にも則ったもので、大胆に径間数を削減(2径間)し、豪雨の影響による落橋や河積阻害による河川の機能低減を防止すると共に、高張力鋼を用いることで、桁高も抑制して周辺景観に配慮する構造となっています。桁の製作は完了しており、今秋から一渇水期で桁架設を行う予定です。
「今までも、これからも、ずっと誠実」
次の柱をつくっていきたい
――瀧上工業の特色と他社にない特徴を教えて下さい
瀧上 「今までも、これからも、ずっと誠実」というスローガンのもと、まじめなもの作りに徹している姿勢が特徴ですが、鋼橋発注が厳しい中で生き抜いていくためには、もっと明確なメッセージが必要ではないかと模索しています。
――具体的には
瀧上 橋梁、鉄骨に次ぐ次の柱をつくっていかなくてはなりません。そのため事業創造本部という組織を設けると共に、ベトナムに現地法人をつくるなどして海外事業の拡大も模索しています。フィリピンでは、アスファルトにエポキシを混入させた添加剤による轍(わだち)ぼれ防止材「ARA」の売り上げが伸びるなど成果が出ている分野も出てきています。
また、伸びて曲がるセメント系材料「RTコート」、「IRコート」も開発しています。粉体状のセメントと液状の特殊エマルジョン樹脂を混合して使用する塗装材料で、コンクリートや鋼材への腐食性因子の浸入を防ぐ表面被覆材です。本材料はセメント系で構成された材料であるにもかかわらず、ひび割れを伴わない柔軟性のある保護層を形成します。外部からの雨水や塩化物の浸入を防ぐとともに、材料内部の水分を水蒸気として外へ放出する性質を有しており、コンクリートの塩害、アルカリシリカ反応、鋼材腐食を防止し、塗膜のふくれを防止できます。
鋼・コンクリート密着防錆材「タフコネクト」も順調に伸びています。コンクリートと付着しない鋼材、特にめっき、ジンクリッチペイント等で防錆された鋼材とコンクリートを密着させて、界面の止水により防食する材料で、コンクリートの鋼製型枠(合成床版や壁高欄などの型枠)、コンクリート床版に埋め込まれる排水桝、 鋼床版のコンクリート地覆などの付着に適用されています。
さらに保全事業は現在、30億円程度で推移していますが、これを拡大していきたいと考えています。ただし、そのためには技術者を確保せねばならず、技術者不足がネックになっています。何とか早期に解消したいと考えています。