瀧上工業創業130年、150年への展望を聞く
「売れるモノが良いモノ」という意識改革を進める
今年度は利益が急速に回復
橋梁が8割弱の売り上げを占める
――過去3年の売り上げと、利益(全体およびセクション別)と今後中期的に橋梁・鋼構造分野を取り巻く現状と、中期的な目標を教えて下さい
瀧上 売上高は2024年3月期が233億2,800万円、25年3月期が238億4,000万円です。26年3月予想は、少なくとも230億円には到達すると考えています。経常利益は24年3月期が12億1,900万円、25年3月期が3億3,700万円、26年3月期予想は9億円と考えています。26年3月期の予想要因は大型工事の竣工が見込まれており、木曽川大橋、長良川橋床版取替工事など保全分野も堅調で採算がとれていること、さらには前期で利益が落ち込んだ理由である鉄骨工事の膿出しができたことです。
今後は、新規鋼橋案件で、ファンダメンタルが少しづつ良くなってくることや、保全分野も比較的堅調であることから、現状維持または少し上向きの推移を期待しています。ただ、建設投資を本予算で6兆円を超える額を確保するような積極的な財政支出の施策を政府には取ってほしいと考えます。
――セクションごとの売上比率は
瀧上 橋梁が8割弱、鉄骨が2割弱、不動産が2~3%であり、橋梁(保全含む)が圧倒的なシェアとなっています。当社単独の売上は180億円ほどで、新設や保全工事を行う瀧上建設興業が20億円、丸定産業が15億円などで続きます。
瀧上建設興業については、保全事業の更なる強化と当社との協議も模索して参りたいと考えています。さらに東京フラッグ、菊池鉄工所などM&Aを行った会社との早期のシナジーを実現していきます。
「売れるモノが良いモノ」という意識改革を進める
車座を行い、職場の風通しを良くする
――さて、次の150周年に向けての瀧上工業のイメージはどのようなものでしょうか
瀧上 厳しい事業環境ではありますが、それを乗り越えて社員が楽しめる会社になっていることが理想です。そのためには「一皮むけた」、想像力にあふれた技術者になってほしいと考えています。「良いモノが売れるモノ」ではなく、「売れるモノが良いモノ」という意識に改革することも重要です。そのためには、技術は技術者が作るものであるという観念を捨て、営業や事務に至る社員全員がアンテナを立て、会社全体で創造力を持つことが必要です。また、いったん当社を辞めたものの、帰参するカムバック社員も積極的に受け入れています。
車座(社員との対話の会である、通称「車座」)も各セクション、事業所、現場ごとに行っています。そこで出てくる要望は、できるだけ検討し、実現できるものはしていきます。介護や育児などの福祉面やジェンダーに関わらず働きやすさを助長するための要望から、技術的な改善など、前向きな提案が多く、風通しを良くすると共に、会社の成長に役立っており、毎回開くのが楽しみです。
車座も各セクション、事業所、現場ごとに行っている
要望は実現せねば意味が無く、実現することで喜びを分かち合う体制を整えていきます。
夜間施工の計画を昼間施工にし、安全性を向上
社内で架設時の構造力学の勉強会も開催
――新しい技術や分野の開拓について取り組んでいることは、また大規模更新への対応について
瀧上 保全の成長につながる技術、施工現場の役に立つ技術です。例えば、タフコネクトや、改築工事で実績のあるPCF壁高欄は保全工事で大変役立っています。橋梁保全分野では、塗装の塗り替えの際に、粉じんと有害物質を含む塗膜をどう除去しつつ、さらにフラッシュラストの発生を軽微に抑え、塗替えを行えるかが課題となっています。そうした現場の負担を軽減できる手法の開発を図っています。また、架設は人海戦術的な現場が多く、これからの担い手不足を考えると、早急に省人・省力化を図らねばなりません。そうした現場の効率化を目指す技術の開発も行っています。
――鋼橋上部工の架設は、最近、事故が相次いでいます
瀧上 担当役員の安全パトロールの頻度を増やし、現場の緊張感を保たせるほか、抜本的な安全対策向上のための提案も行っています。
――どのような提案ですか
瀧上 東海環状道の海津高架橋では夜間架設を昼間架設に変更する提案を行い、認められました。夜間に事故が起きやすいのは手元の暗さや非常に限られた時間内の工事を強いられることなどが原因です。直下の道路の交通量を考えれば、ガードマンを適切に増員し、規制を行うことで昼間施工を可能とし、安全に架設することができるようになりました。こうした提案も積極的に行っていきたいと考えています。
東海環状道の海津高架橋では夜間架設を昼間架設に変更する提案を行い、認められた
また、社内で構造力学の勉強会も開いています。特に重要視しているのは架設時の構造力学です。過去においては、2カ月に一回、熊本大学の山尾敏孝名誉教授にご来社いただいて講演していただきました。現在では、社内の経験豊かな技術者にも講師を担ってもらい、若手中堅の知識や知見を高めています。
BIM/CIMは10年以上前から取り入れており、今後はデータ連携の試行工事を積極的に受注していきたいです。
外国人・女性を積極的に採用
アカデミアンを育成する
――働き方改革、担い手確保について
瀧上 工場については、もはや外国人労働者無しでは考えられません。彼らの雇用を維持し、うまく処遇・補充しながら人員体制を維持していく必要があります。技術者は中韓の国籍の方々が以前はいたのですが、定着には至りませんでした。現在は、中国、ウガンダ、アフガニスタンなどから技術者(国立大学の博士前期課程修了者も)を雇用しています。技術的には高水準ですが、言語の壁が高く、何とか本人・会社共に解消しようと頑張っています。
先ほど申し上げましたが、卓越したアカデミックな技術者を育成したいと考えています。京都大学(指導教授は杉浦邦征現名誉教授)には1人派遣しており無事学位を取得しました。現在は、横浜国立大学の藤山知加子教授の研究室に1人派遣して勉強をさせていただいております。
――御社では松村寿男氏が床版委員会(松井繁之先生の系譜)に積極的に参加し、優秀な技術者として認知され、交流もされています。松村さんのような技術者を増やしていきたいということですか
瀧上 そうです。学会活動もアカデミアンたる人材には積極的に行ってもらい、そこで得た知見や人脈を会社にフィードバックしてもらいたいと考えています。
また、職場のローテーション積極的にも進めています。各技術者とも志望はあろうかと思いますが、10年程度で現場(架設・保全)、製作、設計の少なくとも2つを経験させようと考えています。設計のみ、製作のみでは良いものは作れません。様々な分野を経験して吸収した後、自分が志望するもしくは会社が適切と考えたセクションに配置されたとき、はじめて、技術者としての成長が実感できると考えています。
担い手不足については、深刻な課題です。女性、外国人を積極的に採用していく必要があります。また、既存社員も携わった設計については架設計画から現場に至るまで担っていくような懐の広い技術者も育てていく必要があります。
――ありがとうございました