中部地方整備局 望月拓郎道路部長 インタビュー
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国土交通省中部地方整備局は、直轄国道約1,900km、5,625橋、144か所のトンネルを管理している。中部地方は、愛知県を中心に製造業が盛んな地域であり、全国の製造品出荷額の約4分の1を占めるなど、日本経済を支える重要なエリアとなっている。また、首都圏と関西圏の中間に位置し、東西の物流や人の移動をつなぐ日本の大動脈としての役割も担っている。こうした中で、構造物の老朽化対策や防災・減災、さらにはネットワーク機能の強化など、道路行政には多様な課題への対応が求められている。中部地方整備局が今後、どのような方針でこれらの課題に取り組もうとしているのか。望月拓郎道路部長に話を伺った。
(※インタビューは8月4日に実施。本文は特記のない限り最新情報に更新している。構造物名称は仮称、予算は億円単位で四捨五入している)
直轄国道約1,900km、5,625橋、144か所のトンネルを管理
災害に強い橋を目指して
被災原因除去の観点から橋脚数が1つの2径間アーチ橋を選定
−−大規模な風水害や地震などが全国各地で生じています。洪水や斜面崩壊に対して橋や道路が損傷させないよう施している構造上、工事上の工夫について教えてください。
望月拓郎道路部長 令和3年5月の出水により、岐阜県が管理する一般県道松原芋島線の川島大橋が被災し、橋体が大きく傾斜する被害を受けました。被害規模が大きかったことから、復旧については国が権限代行により実施することとなりました。被災前の川島大橋は河川内に橋脚が4つある5径間連続下路トラス橋でしたが、被災原因除去の観点から橋脚数が1つの2径間アーチ橋を選定したほか、洗堀の危険性を低下させるため、澪筋を避けた橋脚位置にする等、再度災害の防止に努めました。
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川島大橋完成パース(中部地方整備局提供、以下注釈なきは同)
名神高速道路と東海北陸自動車道をつなぐ新たなネットワーク
物流・観光・地域の利便性向上へ
−−2025年度の重点道路事業建設計画と進捗状況新規事業化区間について(2025年度の区間、延長、構造物比率、特徴)教えてください。
望月 東海環状自動車道ですが、令和7年度当初事業費約330億円(令和6年度比:0.96)となっており、区間別では、関~養老間(関広見IC~養老IC)が約125億円、養老~北勢間(養老IC~いなべIC)が約160億円、北勢~四日市間(いなべIC~新四日市JCT)が約45億円となっています。8月30日に本巣IC~大野神戸IC間6.8kmが開通したことにより、東海環状自動車道の開通延長は約135km(約9割)となりました。
現在、残る区間の養老IC~いなべIC間において、改良工事、橋梁工事を推進しています。
本巣IC~大野神戸IC間を含め、山県IC~大野神戸IC間が供用したことにより、名神高速道路と東海北陸自動車道をつなぐ新たなネットワークが形成されました。このことにより、物流や観光、また地域の生活や医療の面で自動車交通の動きが変わり、利便性が向上することが期待されます。また、東海環状自動車道の周辺では、製造業などの企業立地が盛んであり地域の活性化に寄与していると言えます。
なお、養老トンネルでは相当量の湧水が発生し続けており、これまでに専門家の意見を踏まえて水抜きボーリングや止水のための補助工法を追加して着実に工事が進められるよう努めてきたものの、掘削した区間で新たに盤ぶくれ等の地盤変状が発生しており、掘削に時間を要しています。また、この先も断層破砕帯を通過することが想定されるため、湧水や地盤変状リスクの可能性もあり工事完了時期が見通せない状況です。
東海環状自動車道(本巣IC東から西)(R7.4)
東海環状自動車 田切川橋(R7.4)
中部縦貫自動車道ですが令和7年度当初事業費約37億円(令和6年度比:0.81)となっております。区間別では、高山東道路(平湯~久手)が1.00億円、高山清見道路 が約 36億円なっております。高山清見道路は、延長約24.7kmのうち、約15.2km(約6割)が開通済みです。現在、残る高山IC~丹生川IC(仮称)間の約9.5kmの改良工事、橋梁工事、トンネル工事等を推進しております。
静清バイパスは、令和7年度当初事業費約52億円(令和6年度比:0.78)となっています。現在、清水立体区間の改良工事、橋梁工事、舗装工事等を推進しております。
三遠南信自動車道は令和7年度当初事業費約133億円(令和6年度比:0.83)となっております。区間別では、飯喬道路が約47億円、青崩峠道路が約27億円、水窪佐久間道路が 約8億円、佐久間道路・三遠道路が約50億円となっております。延長約100kmのうち、現道改良区間を含め約60km(約6割)が開通済です。2019年度に、水窪佐久間道路(延長14.0km)を新規事業化したことにより、三遠南信自動車道(約100km)は全線事業化(県の現道改良区間整備あり)となります。佐久間道路・三遠道路(延長27.9km)のうち、残るミッシングリンク区間の東栄IC~鳳来峡IC間(延長7.1km)は、2025年度開通予定に向けて、改良工事、橋梁工事、舗装工事等を推進しております。
三遠南信自動車道3号橋(R7.4)
三遠道路・東栄IC(R7.5)
西知多道路についてですが、令和7年度当初事業費は約83億円(令和6年度比:1.28)となっており、区間別では西知多道路(東海ジャンクション)は約50億円、西知多道路(長浦(ながうら)~日長)は 約32億円となります。現在、西知多道路(東海ジャンクション)は改良工事、橋梁工事等を推進しております。
西知多道路 東海JCT南西側(R7.4)
近畿自動車道紀勢線ですが、令和7年度当初事業費は約73億円(令和6年度比:1.40)となっており、熊野道路は約62億円、紀宝熊野道路は約11億円です。2019年度に、紀宝熊野道路(延長15.6km)を新規事業化したことにより、近畿自動車道近畿線(近畿地整管内を含め延長約335km)は全線事業化しております。熊野道路について、改良工事、橋梁工事、トンネル工事等を推進しています。
2025年度の新規事業化ですが、国道22号名岐道路(一宮~一宮木曽川)となります。名古屋市と岐阜地域を最短で結ぶ自動車専用道路ネットワークを構築し、高速道路 ボトルネック箇所や国道22号等の渋滞緩和、地域産業の活性化、交通安全の確保等に寄与します。全体事業費は2,700億円、延長:6.9km(橋梁6.9km 100%)、2025年度当初予算は約1億円となります。現在、調査設計を実施しております。
−−名岐道路ですが、全延長が橋梁構造となっていますが、そのような構造を採用する理由、また、地盤や交差物(道路、河川、鉄道など)を踏まえ、どのような構造種(鋼、PC、斜張橋、アーチなど)をお考えか、教えてください。
地域交通と通過交通を分離することで、産業・物流拠点間の高速アクセス性・時間信頼性を向上させるとともに現道の渋滞や事故に対する課題解決するため全線を立体構造で整備します。国道22号沿線は、市街化やまちづくりが進展しており、国道22号上以外での整備は困難なことから交差物の状況も踏まえ橋梁形式としています。今後、下部工の設置位置等を踏まえ橋梁形式を検討する予定です。
−−今お話しいただいた構造物で施工上の障害となる点および克服のために用いた手法について、お聞かせいただけますか。
望月 国道247号西知多道路では、ケーソン基礎工事において、想定していなかった周面摩擦力の高い地質や軟弱地盤が確認されたため、高止まりや傾斜が発生したことから、周面摩擦低減のためパーカッションドリルによる削孔などで対応しています。
2025年度 主要橋梁・トンネル事業の計画
交通ネットワークの強化と地域防災力向上を目指して
−−2025年度の主要橋梁・トンネル事業の計画と進捗状況を教えてください(以降の内容は8月4日インタビュー時点)。
望月 主要な橋梁事業として、国道247号西知多道路を進めています。権限代行により東海ジャンクション部の延長2.0km区間の整備を進めており、今年度は橋梁設計業務、Eランプ橋下部工工事、Hランプ橋上部工事等を行う予定です。
その他の主要な橋梁事業としては、近畿自動車道紀勢線の熊野道路において、橋梁上部工事の新規工事発注を予定しています。
2025年度設計予定のトンネルは、三遠南信の水窪佐久間道路におけるトンネル詳細設計を予定しています。
また、国道19号薮原改良においては、薮原トンネル工事の発注を予定しています。これまでに測量、地質調査、設計を実施しており、2025年度には山岳NATM工法による延長1,446mのトンネル工事を発注する予定です。

上部工で施工中の橋梁は38橋。鋼橋が29橋、PC橋が9橋
トンネル工事は10箇所に着手
−−施工中の主要橋梁の概要を教えてください。
望月 上部工で施工中の橋梁については、38橋あり、内訳は鋼橋が29橋、PC橋が9橋になります。

国道1号清水立体は、国道1号静清バイパスの2.4kmを高架構造にする事業であり、現在は上部工架設を進めているところです。
静清バイパス 清水立体 庵原高架橋(R7.4)
国道1号伊勢大橋は約90年が経過し、雨水や塩害の影響による劣化と共に老朽化が進んでおり、新橋への掛け替えによって、災害に強い道路機能の確保につながります。現在、上部工工事の架設に向けた準備をしているところです。
伊勢大橋(R7.4)
−−施工中のトンネルの概要を教えてください。
トンネル工事については、現在、着手しているのは10箇所になります。

国道42号熊野道路において、現在施工中の熊野第1トンネルは、三重県熊野市大泊町から木之本町に至る延長866mのトンネル工事です。また、熊野第2トンネルは、三重県熊野市木本町から井戸町に至る延長1,307mのトンネル工事となっています。
熊野第1トンネル(R7.4)
熊野第2トンネル(R7.4)
三遠南信自動車道 青崩峠道路の青崩峠トンネルは、中央構造線の影響を受けた脆弱地盤が出現することに加え、土被りが600mを超える厳しい条件下での施工が必要とされたトンネルです。掘削には約4年かかりましたが、令和5年5月に貫通しています。
青崩峠トンネル(R6.4)
青崩峠トンネル(R7.4)
――現在、熊野道路や三遠南信自動車道など、複数のトンネル工事が進められていますが、進捗状況を教えてください。
望月 現在、熊野道路では「熊野第1トンネル」(延長866m)と「熊野第2トンネル」(延長1,307m)の掘削を進めています。4月末時点で、第1トンネルは全長の約98%にあたる852mまで到達しており、まもなく掘削完了の見込みです。第2トンネルについては、約6割強にあたる611mまで進んでおり、安全に配慮しながら慎重に施工を進めているところです。
また、国道153号「新伊勢神トンネル」(延長1,900m)では1,474m、国道156号「清水山トンネル」(延長439m)では11mの掘削が完了しています。
新伊勢神トンネル (R7.4)連谷(終点側)坑口
――掘削が完了したトンネルについてはいかがでしょうか。
望月 三遠南信自動車道の「青崩峠道路」では、「青崩峠トンネル」がすでに貫通しており、飯喬道路の「6号トンネル」や、河津下田道路(Ⅱ期)の「河津2号トンネル」、中部縦貫自動車道の「坊方トンネル」も掘削を完了しています。いずれも、地域の連携強化や観光・物流の円滑化に大きく寄与することが期待されています。
河津下田道路Ⅱ期 2号トンネル(R7.2)
――新たに着手されるトンネル工事はありますか。
望月 現在は国道41号の「門原1号トンネル」や、三遠南信自動車道「飯喬道路2号トンネル」が掘削準備段階にあります。引き続き、地質条件の調査を進め、安全性を最優先に工事を進めていく予定です。






