Interview

中部地方整備局 望月拓郎道路部長 インタビュー

2025.10.31

Share
X Facebook LINE
安心で快適な生活環境の創造 安心で快適な生活環境の創造 今までも、これからも、ずっと誠実

新技術と安全管理による次世代インフラ整備の推進

新技術と安全管理による次世代インフラ整備の推進

工事事故の発生を抑制するため、重点対策を実施

 −−新設における新技術・新材料の導入事例について教えてください。

 望月 静岡県内の国道1号藤枝バイパスの4車線化事業で施工している潮トンネルにおいて、360度カメラとHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を活用したトンネル計測管理の効率化を実施しました。トンネル掘削を進めていく中で360度カメラで切羽部や支保工部の撮影を行い、三次元モデルを作成し基準点マーカーを設定することで、測量作業なく計測管理が可能となりました。

 また、東海環状の三重県区間では、国道上の夜間架設において、点群データに時間軸を加えたデジタルツイン空間を再現し、監督・検査に活用しました。作業動線を連続的にシミュレーションできるようになったので、施工時の課題を関係者間で共有し合意形成することが効率的にできるようになりました。

 東海環状の岐阜県区間の庭田高架橋下部工事では、ニューマチックケーソンで自動掘削システムを取り入れ実施しました。実際の掘削は沈設に影響しないケーソン中心部の2m×3mの掘削範囲としましたが、連続した掘削・排土を行うことができ、開発した自動掘削システムの実用性を確認することができた。今後は、本実証の課題を踏まえ、実現場に向け安定して稼働するシステム開発を期待しています。

 −−土木学会では2023年5月に「橋の計画と形式選定の手引」を発刊しました。新設橋の予備設計や道路計画段階時点で様々な形式選定や、リスク管理、新技術の導入などを検討し、しかもプロセスの過程を残しておくことで、後工程に資する橋梁計画や予備設計となることを目指したものです。予備設計段階では、地質や住民との合意形成など不確定要素があり、かつ同時点での新技術についても有望ながら信頼性の点で断念することもありました。しかし、予備設計段階から実際の工事に入るまでは通常でも3~5年程度かかり、その間で所与の条件やより詳細な情報、新技術の信頼性も向上することから、議論の過程を残し、予備設計の最適案も無理に1つにしないことで、後工程の選択の幅を広げるようにしたことが最大のメリットです。同手引きの活用についても今後行っていくか教えてください。

 望月 中部地方整備局としても事業化後の事業費増や工程に対するリスク管理が課題と認識しており、プロセスの過程を残しておくことが後工程に重要と考えており、「橋の計画と形式選定の手引き」で述べられているとおり、基本条件の設定やリスク評価が橋の計画と形式選定に重要なものであると考えています。橋梁設計の実務を担う各事務所にも本手引きの周知を図り、設計実務の参考として活用して参りたいと考えています。

 −−清水立体の事故を受け、「施工中に不具合があった場合に引き返す勇気」や「施工の安全性をより重視する姿勢」が必要だと考えますが、中部地方整備局としてはどのようにお考えか、お聞かせください。また、今後の橋梁設計や施工に生かしている教訓があれば、あわせて教えてください。

 工事事故の発生を抑制するため、重点対策を実施しています。過去の事故では、労働安全規則や土木工事安全施工技術指針に違反している事案が発生しているので、総括監督員をはじめ事務所全体で工事事故防止に取り組むとともに、工事受注者に対して改めて法令遵守及び現場の安全管理について徹底しています。教訓としては、「国道1号清水立体事業の鋼橋架設工時における事故を踏まえた再発防止策」をまとめ、令和5年9月22日に公表しています。

橋梁金物から建設まで、すべてを集約 創業130年を迎えました 価値ある環境を未来に

供用後50年以上経過した橋梁は、2,328橋、トンネルは38トンネル

橋梁は腐食・防食劣化、剥離鉄筋露出等の損傷、トンネルは材質劣化と漏水の損傷が高い割合

 −−保全についてお伺いします。まず現在の管内橋梁とトンネルの内訳を教えてください。全体数、橋種別、供用年次別(10年毎)、延長別なども教えてください。

 望月 橋梁の 全体数は5,625橋です。橋種別は鋼橋が約3割、PC橋が約3割、RC橋が約4割となります。供用後50年以上経過した橋梁は、2,328橋、供用後50年未満の橋梁は、3,297橋となっています。橋長100m以上の橋梁は1,049橋です。最も橋梁の多い路線は国道1号となります。

 トンネルですが、全体数は、144トンネルです。形式別は、山岳トンネル(NATM・矢板工法)が約8割、その他が約2割となっています。 供用後50年以上経過したトンネルは、38トンネル、供用後50年未満のトンネルは、106トンネルです。トンネル長1,000m以上のトンネルは43トンネルです。最もトンネルの多い路線は国道42号となります。



 −−点検を進めてみての管内各路線の橋梁の劣化状況について教えて下さい。

 望月 二巡目点検完了時点において、橋梁の健全度割合はそれぞれ健全度Ⅰが3,173橋(57.7%)、健全度Ⅱが1,812橋(32.9%)健全度Ⅲが516橋 (9.4%)、健全度Ⅳ:0橋 (0%)いう状況です。

 また、架設後50年が経過している橋梁は全2,315橋で全体の約45%を占めており、架設後50年経過橋梁のⅢ判定割合は15%となっています。







 −−橋種(鋼、PC、RC)、部位(桁、床版、橋脚、地覆、高欄など)ごとの損傷傾向とその理由について教えてください。

 望月 橋種別の劣化状況として特徴的なのは、鋼橋であれば、腐食・防食劣化、コンクリート橋であれば剥離鉄筋露出の損傷の占める割合が高い状況です。

 その理由として、伸縮装置が損傷しており、伸縮装置からの漏水の影響により、鋼橋であれば腐食・防食劣化、コンクリート橋であれば剥離鉄筋露出の損傷が発生しております。

 −−桁や床版、橋脚など部位別についても教えていただけますか

 望月 「速やかに補修等を行う必要がある」と判定された割合は、部位別に見ると、鋼上部構造、支承部の割合が高く、次いで排水施設、伸縮装置の割合が高くなっています。

 −−一巡目と二巡目の比較や、損傷度の遷移を教えてください。

 望月 一巡目と二巡目の比較をしても損傷傾向はほぼ同様です。鋼橋であれば腐食・防食劣化、亀裂破断、変形欠損、コンクリート橋であれば、うき、はくり、剥離鉄筋露出の損傷の割合が多くなっています。

 損傷度の遷移に関しては、一巡目と二巡目の点検結果から、健全度ⅡからⅢ判定に遷移した橋梁は、中部地方整備局管内で3%(179橋/全数5,625橋)となっています。一巡目から二巡目にかけて部材の損傷の数が増えたこともあり、橋梁の老朽化による損傷が着実に進んだものと理解しています。

 −−管内各路線のトンネルの劣化状況について教えて下さい。

 望月 二巡目点検完了時点において、トンネルの健全度割合はそれぞれ健全度Ⅰは2箇所(1.5%)、健全度Ⅱは103箇所 (75.7%)、健全度Ⅲは31箇所 (22.8%)、健全度Ⅳ:0箇所(0%)という状況です。また、完成後50年が経過しているトンネルは全38箇所で全体の約24%を占めており、完成後50年経過トンネルのⅢ判定割合は26%となっています。

 −−損傷傾向とその理由について教えてください。

 望月 材質劣化(ひびわれ、うき・剥離)と漏水の損傷の占める割合が高い状況です。経年による覆工コンクリートの材質劣化によりひびわれ、うき・剥離が増加していることが理由です。また、比較的古いトンネルは矢板工法で施工されたものが多くあり、NATM工法に比べて防水性が低く、漏水が増加しています。



 −−一巡目と二巡目の比較や、損傷度の遷移を教えてください。

 望月  一巡目と二巡目の比較をしても損傷傾向はほぼ同様です。損傷度の遷移ですが、 一巡目と二巡目の点検結果から、健全度ⅡからⅢ判定に遷移したトンネルは、 中部地方整備局管内で15%(21箇所/全数144箇所)となっています。

橋梁金物から建設まで、すべてを集約 創業130年を迎えました 価値ある環境を未来に

2025年度は、6橋の耐震補強に着手予定

進捗率は約93%

 −−橋梁など耐震補強の進捗状況(耐震性能2)、および落橋防止装置の設置状況(全数および実施済み数)および2025年度の対策予定について教えてください。 

 橋梁など耐震補強の進捗状況(耐震性能2)ですが、 災害時の救急救命活動や復旧支援活動を支えるため、耐震補強として、速やかな機能回復が可能な性能(耐震性能2)となる対策を推進しています。中部地整管内では、2025年3月末時点において、耐震補強を進めるべき橋梁2,352橋(緊急輸送道路上の15m以上の橋梁)に対して、対策済み2,192橋(単径間の橋梁は対策不要と整理(対策済みに含む))であり、進捗率は約93%の状況です。落橋防止装置の設置状況ですが、耐震補強を進めるべき橋梁の全数において、落橋・倒壊を防止する対策(耐震性能3)は確保されております。2025年度は、6橋の耐震補強に着手予定であり、橋脚の巻立て対策や支承部補強(段差防止構造等)の対策を進めます。



 −−熊本地震や今回の能登半島地震に対応した耐震対策についても知見をもとにどのようなことが改めて必要になっていると考えているか教えてください

 望月 熊本地震や能登半島地震に対応した耐震対策ですが、2016年4月の熊本地震では、跨道部においてロッキング橋脚を有する橋梁が落橋する被害が発生しております。 中部地整管内では、跨道橋を含む橋梁全数において、落橋・倒壊を防止する対策(耐震性能3)は確保されております。また、ロッキング橋脚を有する橋梁4橋(うち1橋は直轄国道を跨ぐ橋梁で国管理であったが、対策後に地公体へ移管済み)については、2019年度までに対策が完了しております。 2024年1月の能登半島地震では、橋脚の補強や落橋防止対策など耐震補強を行っていた道路橋は致命的な被害を回避し、復旧の迅速化に寄与していることから、改めて未対策橋梁の対策を急ぐ必要があることを認識しました。

橋梁金物から建設まで、すべてを集約 創業130年を迎えました 価値ある環境を未来に

Ⅲ判定橋梁は、2019年度から74橋減少

引き続き計画的な補修を実施

 −−橋梁の長寿命化修繕計画にもとづいた対策の進捗状況について教えてください。また具体的な損傷状況と補修補強内容についても例を挙げていただけましたら幸いです。

 望月 橋梁の長寿命化修繕計画にもとづいた対策の進捗状況ですが橋梁の長寿命化修繕計画に基づき対策を進めてきており、Ⅲ判定橋梁については、2019年度から2024年度末までの間に74橋減少しており、今後も引き続き計画的な補修を実施して参ります。

 また、具体的な補修事例は、補修における塗装塗り替え・伸縮装置取替及び補強における支承取替・落橋防止装置の取付があげられます。





 −−トンネルの点検状況、トンネルついて橋梁のような長寿命化修繕計画を企図した補修補強計画の進捗状況を教えてください。

 望月 トンネルの点検状況についてですが、2019年~2023年における2巡目点検結果の結果、Ⅲ判定のトンネルは直轄国道において23箇所であり、全体の19%でした。2024年からは3巡目の点検を実施中であり、2028年までの5年間で管内の全トンネルの点検を予定しております。また、トンネルの補修補強計画の進捗状況ですが、 2024年度は8箇所のトンネルにて補修補強工事を実施しました。2025年度は5箇所のトンネルで実施予定です。

橋梁金物から建設まで、すべてを集約 創業130年を迎えました 価値ある環境を未来に

pageTop