Interview

国交省九州地整 災害に強く、生活・経済活動の向上に寄与する社会インフラ整備

2024.06.27

森戸 義貴 局長インタビュー

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国土交通省
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>森戸 義貴氏

国土交通省九州地方整備局
局長

森戸 義貴

概要動画Overview Video

 九州地方整備局は、アジアの玄関口として、道路、港湾、空港などあらゆる面で社会基盤インフラの充実が望まれている。その反面、熊本地震や地球温暖化の影響による台風や線状降水帯による豪雨水害などが発生するなど災害の多い地域でもある。さらにはシリコンアイランド九州構想や製鉄、自動車産業など産業が集積した地域でもある。阿蘇や高千穂、別府や霧島など観光資源も多く有し、インバウンドの面でも脚光を浴びている。そうした豊かな地域をどのように発展させていくか、森戸義貴局長に聞いた。(井手迫瑞樹)

コンクリート二次製品の総合メーカー YAMAX コンクリート二次製品の総合メーカー YAMAX キレイに、未来へ

直轄国道2,400km、河川20水系1,300kmを管理

鋼コンクリート接合部変形性状の挙動を研究

八王子城跡トンネルでは水対策に腐心

 ――森戸整備局長の建設分野にご興味を持たれたきっかけは

 森戸局長 そもそも最初は土木より建築工学科に行きたかったのですが、建築での合格はちょっと難しそうだからということで、土木を受けたのがこの世界に入ったきっかけです。決して土木工学に進みたかったわけではありません(笑)。でも作るという意味では一緒だな、と考えて土木の道に進みました。

 ――大学時代に学んだことは
森戸 研究は、4年生のときの卒論も修士論文も一緒なのですが、鋼とコンクリートの接合を行うスタッドジベルの引き抜きの試験を行っていて、その変形性状など鋼とコンクリートの接合部の挙動の実験と解析を行いました。本四の生口橋が初めて鋼とコンクリートの接合で作る話がありまして、当時一つのテーマになっていました。指導教官は福本唀士先生でしたが、実質指導していただいたのは元神戸大学准教授の大谷恭弘さんです。大谷さんは当時大阪大学の助手でした。

 ――(大阪大学名誉教授の)松井繁之先生とも親しくされておられますよね

 森戸 松井先生とは研究室が一緒で、斜めの上司みたいな関係でした。松井先生の言わゆるゴンゴロ号(床版の疲労を測る輪荷重走行試験機)の供試体の入替は研究室総出でやるので、良く手伝わせていただいたことを覚えています。和歌山県の県土整備部長時代にも非常にお世話になりました。1991年に大阪大学大学院の工学部土木工学専攻修士を修了しました。

 ――当時の建設省入省後のご経歴や心に残っている現場など

 森戸 建設省入省後は、関東の勤務が最も多く24年間に及びます。勤務地は東京都内が約20年、それから横浜が2年3ヶ月、さいたま新都心が1年半ぐらいです。東京は霞が関の本省と、大手町(関東地方建設局:当時)と八王子の3ヶ所です。その後、和歌山県庁県土整備部技監と部長で計3年、近畿地方整備局に1年、本省に3年、中国地方整備局の局長、現在は九州地方整備局の局長であり、入省34年目になります。

 心に残った現場ですが、関東地方整備局で八王子の勤務が2回あり、圏央道の整備で八王子の中央道とのジャンクションの地元調整等を課長時代に行いました。北側区間の八王子城跡トンネルというウォータータイト(トンネル壁面の全周を防水シートとコンクリートで巻く止水覆工を施した構造)(参考リンクhttps://www.mlit.go.jp/chosahokoku/h19giken/program/kadai/pdf/innovation/inno2-09.pdf)のトンネルがあるのですが、その工事の終盤時の所長でした。できた後は非常に感無量だったことを覚えています。

 もう一つ、教訓としている出来事としては和歌山県の県土整備部長時代に豪雨により、県で施工していた区間において、土砂崩れおよび斜面崩壊があって1人お亡くなりになったことがありました。自分が関わる現場でそうした災害、被害はこの1つしかなかったのですが、胸に刻んでいます。

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直轄国道2,400km、河川20水系1,300kmを管理

水害からの復旧復興が大きな仕事、3つのダムプロジェクト

 --次に九州地方整備局の2024年度の道路、河川、港湾の管理状況と、九州という地域特性を踏まえた事業計画について、予算規模と、概要と主要事業を教えてください

森戸 直轄国道は2,400km、河川は20水系1,300kmを管理しています。また港湾は、直接管理はしてないですけど、いわゆる国際拠点港湾が3港、重要港湾を25港、ここまで場合によっては直轄事業とすることがあります。直轄海岸は建設系で7km港湾系で35km。航路は開発保全航路を5航路、空港は北九州、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島の施設整備を行っています。


道路・空港・港湾関係概要図/河川関係概要図(九州地方整備局提供、以下注釈なきは同)


 今年度の予算は直轄が約2700億、補助事業が約5500億で合わせて約8200億円です。昨年度からは当初予算でいうと少し減っておりますが、補正予算を前年度の補正予算と合わせた数字で比較すると、ほぼ1.0です。

 重要事業はいろいろありますが、九州自体は自然災害がそもそも多いことから、防災減災、国土強靭化など安全安心のための仕事が一つ大きな柱になっています。

 一方で、アジアに近い地域特性もあり、さらに(熊本に)TSMCさんが進出してきたということもあり、「シリコンアイランド九州」など社会経済活動を支える基盤の整備など社会インフラの整備には熱い視線が注がれていると感じています。


新たな九州圏広域地方計画を策定中


 河川においては、4年前に球磨川で大水害があったり、その前にも、九州北部豪雨や佐賀県武雄の水害などの被害に関する復旧復興が一つの大きな仕事になっています。


近年の豪雨などによる被害状況


 近年の大規模な水害を踏まえて、流域治水プロジェクトを直轄20水系を対象に策定し、取り組んでいます。ダムについても、阿蘇立野ダムが完成し、3月の試験湛水を経て、4月から管理に移行しました。1月に補償基準を妥結した城原川ダム、現在、本体工事の発注手続きを行っている本明川ダム、流水型ダムの川辺川ダムという、三つのダムプロジェクトも直轄で担当しており、しっかりと事業を進めて参ります。


試験湛水中の立野ダム(令和5年2月)

立野ダムの前を走る南阿蘇鉄道(令和5年2月)


 道路で言うと、高規格道路では東九州自動車道、九州中央自動車道、南九州西回り自動車道、西九州自動車道などそれぞれ事業化してるところをしっかり進めていきます。このうち、南九州西回り自動車道と、東九州自動車道は全線事業化となりましたので、1日も早い全線開通に向け、事業進捗して参ります。一方で西九州自動車道や九州中央自動車道では未事業化区間がありますので、事業中区間の進捗状況などを踏まえながら、早期事業化も含めて進めて参ります。


道路事業


 また、中九州横断道路や有明海沿岸道路などの事業もしっかりと進めていきます。有明海沿岸道路は、福岡県内が全線開通いたしました。これからは熊本、佐賀両県の未開通区間の整備を進めて参ります。現在、九州地方整備局では、クロスからリングへ九州リングネットワークという基本方針を策定しましたので、今後、九州内主要都市や空港・港湾・主要駅など交通拠点をつなぐ広域道路ネットワークの形成・強化をしっかり進めて参ります。

 港湾・空港では、クルーズ船対応だとかあと離島航路もありますので、施設老朽化対策とか、あるいは津波や地震に対する機能強化を進めていきます。個別の大きな事業としては、北九州空港の滑走路延長などが主要な事業のポイントじゃないかと思っています。


港湾・空港整備例

北九州空港 滑走路を500m延長し、3,000mに

河川対策 「もう一段上の準備」は欠かせない

 ――北九州空港の滑走路延長はすごいですね

 森戸 着工式を昨年末に行いました。既存2500mを3000mに延長するものです。

 ――九州の特性としては、先ほど局長がお話しされた中にもありましたが、滝室坂などが大きく被災した水害(平成23年)の時に、その時行われた土木学会の報告会で九州大学の塚原先生が有明海の温度上昇の話をしていて、台風の勢力が衰えても、また有明海で水蒸気を吸ってしまって勢力を回復させ、さらにそれが九州山地にぶつかって、水害が起きるっていうことが今後常態化してくる可能性を話されていました。大変なことではないか、と思いましたが、実際その塚原先生がおっしゃったことが、かなりの頻度で九州を襲っています。朝倉等を襲った九州北部豪雨、球磨川や佐賀、武雄の水害もありました。九州の水害が起きやすい地域に住んでいる人たちもかなり緊張している状況になっていると思います。その辺を踏まえて、流域治水プロジェクトについてかいつまんではなしていただければ、と思います

 森戸 塚原先生が以前お話しされた内容やその是非は論じる立場にありませんが、おっしゃるように、ここ数年、毎年のように大規模な降雨による被害が発生しているというのは事実です。昨年も局長赴任直後、久留米で大規模な浸水があり、さらには唐津で土砂崩落があったりして、お亡くなりになった方も出てしまいました。その際に、久留米市長からも毎年、浸水被害を被っているということを伝えられました。確かに被害は起きています。


滝室坂の被災状況(平成24年7月)

滝室坂仮復旧状況(井手迫瑞樹撮影)(平成24年9月)

滝室坂本復旧状況(平成26年3月)


 一方で、平成29年の豪雨で河川氾濫や土砂崩れなどにより大きな被災を受けた朝倉市長からは、昨年7月の豪雨後に「ちょうど6月に平成29年豪雨対応の災害復旧が完了していたため、当時大きな被害が起きた河川においても、今回の豪雨はすごく安心できた」と言っていただけました。実際に同じぐらいの降雨量でも、今回の豪雨では浸水戸数が大きく減っているという実感をいただけました。


洪水対策の効果の一例
国土交通省九州地方整備局筑後川河川事務所ホームページ掲載資料より抜粋


 事業の効果は確実に出ています。ただ、本省の水管理・国土保全局も言っていますが、気候変動の影響で平均気温が上がると、降水量が増える予測がありますので、そこは流域治水プロジェクトも気候変動の影響を踏まえて、降雨量や河川の流量を見直し、洪水の発生頻度が上がる想定の中で治水対策を考えていく必要があります。計画をアップグレードし、「もう一段上の準備」は欠かせません。


緊急治水対策プロジェクト

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