Interview

国交省九州地整 災害に強く、生活・経済活動の向上に寄与する社会インフラ整備

2024.06.27

森戸 義貴 局長インタビュー

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国土交通省
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「何とか仕事を楽にしてあげたい」 これがDXの原点ではないか?

呼子大橋と天大橋で直轄権限代行により診断・補修

 ――次に基礎自治体の財政力の低下とインフラの老朽化が進んでいます。九州地方整備局が点検代行や修繕代行をおこなった例としては(薩摩川内市の)天大橋や(唐津市の)呼子大橋などがありますが、現在進捗中のそうした構造物について教えてください。また、今後の傾向や基礎自治体のインフラマネジメントの保全支援についても、整備局として行っている効果的施策や新しい取り組みなどがあれば教えてください

 森戸 九州地方整備局は、佐賀県の呼子大橋と鹿児島県の天大橋について直轄診断と修繕代行事業を実施しています。呼子大橋は、全長728mの橋梁であり、箱桁内面側のひび割れ、制震ワイヤの破断、定着部の損傷に対する補修を行う事業です。天大橋は、全長約500mの橋梁であり、橋脚のひび割れ、橋のつなぎ目の沈下に対する補修を行う事業です。地方公共団体への支援として、要請により緊急的な対応が必要で高度な技術力を要する施設については、直轄診断を行い、診断の結果、診断内容や地域の実情に応じ、修繕代行事業を実施しております。


天大橋

呼子大橋


 基礎自治体のインフラマネジメントの保全支援については、インフラメンテナンス国民会議の九州フォーラムで様々な情報を提供しているのが基本的な動きで、九州独自の手法は特に行っていないと思います。

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子育て中の技術者が、家で子育てしながら、実は山の中の重機を動かしている

「何とか仕事を楽にしてあげたい」 これがDXの原点ではないか?

 ――阿蘇大橋付近や阿蘇長陽大橋付近、戸下大橋付近の斜面補修施工は無人化技術などを用いた効果的な取り組みを行っておいでです。国交省ではDXの推進・活用を大きなテーマとしておいでですが、新設や災害復旧はもちろん、維持管理業務においても、点検作業の効率化や立会の効率化など用いている取り組みを教えてください。とりわけ熊本地震において、阿蘇大橋の右岸側では、阿蘇大橋を呑み込んだ大規模な斜面崩壊が生じていました。その復旧の際、斜面補修施工で安全を考えた無人化施工を行い、大きな効果をあげ、今後の前例となるような取り組みを行いました。国交省のDX研究につながる無人化あるいは遠隔施工は九州地整が率先してやってきたと思いますが、いかがでしょうか

 森戸 阿蘇における土砂崩れの無人化施工については、元々九州技術事務所がロボットで遠くから動かすバックホウ「ロボQ」を持っていたということがありました。それがあって全国から見ると前に進んでいるのではないでしょうか。

 一方、DX全体で言うと、長期的に建設業の担い手は確実に減りますから、いかに省人化、省力化を進めるかが必要になってきます。

 遠隔施工、無人化施工、自律施工などの技術はどんどん進んでいます。少なくとも土研では、無人化されコントローラーだけで動かせるものができていますから、それはどんどん進めていきます。

 個人的な意見ですが、最終的には子育て中の技術者が、家で子供をおんぶしながらでも、実は山の中の重機を動かしているーーそうした光景が目指すべき姿ではないのかと思います。九州が云々っていうよりは国交省全体として取り組むべき姿ともいえます。

 点検分野などについてもスタートアップ企業はものすごい技術を持っています。九州地整の局長というよりも本省の技術調査課長的な発言になりますが(笑)、もうこれからは我々が装置とかシステムを作り上げる時代ではなく、民間のそういうスタートアップの人とか、民間企業が作られたそういう仕組みとかシステムを適切に認証し、この工程にはこの要件を満たせば使ってもらっていいですよという風に行っていくべきでしょう。配筋の遠隔検査も今は現地に行って、サンプルとして、決まったボリュームに対して1ヶ所みたいに、写真撮ったり、ノギスで測ったりしていますけど、今の技術は全量写真で取っておけば配筋全量の詳細なデータが出るようになっています。そのデータを保存して、後でビッグデータとして提出してもらえばいいんですね。情報を取得する機械は一つに決めるのではなく、各社が開発した製品を出してもらって、仕様だけ守ってもらい、こういうデータのストレージの仕方ができるものだったら、我々としてはOKですと決める。要は協調領域のデータがちゃんと取れればOKということにする。それが目指すDXの姿なのでしょう。

 実際、鉄筋のシステムについてゼネコンの方と話したことがありますが、なぜこのシステムを作ろうと思ったかと聞くと、写真を撮って帰ってきた若い新入社員が、事務所に戻ってもなお、写真整理をしている姿を見て、何とか楽にしてやれないか? という発想から始まったと話していました。DXの原点はそういうことだと思います。

普遍的なデジタル技術を重用し、研修等を通じて多くの職員にDXを促す

UAVによる三次元データの取得などを推進

 ――そうした考えを九州でもやっているということですね

 森戸 九州地方整備局では最先端の技術より、職員が活用出来る技術をモットーに最先端のデジタル技術ばかりを用いるのではなく、あまねく職員で活用できる普遍的なデジタル技術を重用し、研修等を通じて多くの職員にDXを促しています。

 例としては、災害現場での計測や現場管理に活用できるスマートフォンを利用した三次元計測や、三次元計測のデータ処理に高性能PCを要しないクラウドサービスの利用、AIによる議事録作成システムの採用等です。その他、ウェアラブルデバイスを使用した遠隔臨場については、様々な現場において既に実用で利用するに至っています。


DXによる災害査定①

DXによる災害査定②


 また、TEC-FORCE災害調査のデジタル化として、令和5年6月の豪雨による鹿児島県等での被災状況調査では、TEC-FORCEがドローンやスマートフォン、360°カメラ等を使用して、被災箇所の三次元点群データやスフィア(球体)映像を収集、スカイバーチャルツアーとして報告書を作成し迅速に情報共有を実施しました。

 加えて、災害査定のデジタル化として、令和5年6月から8月にかけて災害を受けた鹿児島県において、デジタル技術を用いた災害査定を社会実装するために、三次元点群データやスフィア映像、これらを合成したバーチャルツアーを用いたDX災害査定を鹿児島県、コンサルタント関係者の協力により9月に実施しています。

 また、令和3年12月に山国川の「かわまちづくり」の住民説明会において全国で初めてメタバース(ゲームエンジンの活用)を利用しました。令和4年2月には、ゲームエンジンを用いたメタバース(仮想空間)での川づくりツールの操作マニュアル(案)を公開しています。さらに令和5年3月には、国道3号博多バイパス事業の着手式において、ゲームエンジンを活用したメタバースで、事業完了後の立体交差部分等の様子を再現した状況を公開しました。


メタバースの活用


 災害調査のDXについては、防災官室と連携して取組を実施しています。TEC-FORCEの災害調査においては、スマートフォンを使用した計測や、UAVによる三次元データの取得などを推進しており、令和6年1月の能登半島地震においては、被災地をドローンで撮影した写真をAI処理して作成した三次元データについて、調査の翌日には自治体や関係機関と共有、その後、360°映像と共に、オープンデータ化して、復旧に携わる企業や学術関係者等に公開しています。



能登地震へのTEC-FORCEの派遣

下関北九州道路 環境アセスメントまで進む

着工に向け手続きは着実に進める

――最後に第二関門橋などビッグプロジェクトについて

 森戸 下関北九州道路は、環境アセスまで進んでいます。着工に向け手続きは着実に進んでいると思います。ただ、一方で事業主体については決まっておらず、まだ超えるべき山が多いと思っています。

 他にも構想段階のビッグプロジェクトとしては、島原天草長島連絡道路や豊後伊予連絡道路などがあります。

 しかし橋をかけたい、高規格道路を作りたいだけでは、やはり物はなかなか進みません。

 課題や目的をはっきりと提示し、いろんな手段を考えて、その結果として橋や高速道路、バイパス、っていうふうにならないと、なかなか世論の賛同も得られにくいと思います。その意味では下関北九州道路は、下関と北九州の一体的な人や物の流れが前提としてあり、しかし今の国道と高速道路と鉄道だけでは、その人の動きの活発性に耐えられないので、そこの容量を増やそう、というところから始まって世論の同意を得られたのだと思います。そういう議論を行わなくてはいけないと思います。繋がった方が良いというのは当たり前です。その上で繋がる意義をもっと突き詰めて積み上げていかないと、なかなかプロジェクトは動かないと思っています。

 通常の新設道路のB/Cでは提示できないにしても、特産品の鮮度などの問題や、地域活性化のための利便性の飛躍的な向上など、地域の特性に基づく道路・架橋の必要性をきちんと具体的に提示できれば、話は動き出すと思います。

 ――ありがとうございました

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