Interview

IHIインフラシステム 鋼・PCの垣根を超えた良質な橋梁を提供

2025.11.28

保全と新設の割合を7対3に 海外橋梁も積極受注

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鋼橋
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>井上 学氏

株式会社IHIインフラシステム
代表取締役社長

井上 学

 IHIインフラシステムは、IHIインフラ建設を11月1日に正式に合併し、鋼・PCの橋梁、水門などを事業分野とする新生「IHIインフラシステム」となった。その統合のシナジーの詳細や今後の成長分野となる海外事業や保全事業への取り組み、新しい技術の開発、人材の採用・育成など多岐にわたって井上学社長に聞いた。(井手迫瑞樹)

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新設が減少し、保全の割合が増加する中で鋼・PCの領域が重なる状況に

入社後4年は国内、その後は一貫して海外橋梁分野

メッシーナ海峡大橋は計画から携わる

 ――社長の現在までの経歴から教えて下さい

 井上社長 2000年4月にIHIの前身の石川島播磨重工業に入社しまして、以降、橋梁の仕事にたずさわってきました。入社から3、4年は国内の橋梁に携わりましたが、それ以降はずっと海外の橋梁プロジェクトに関わってきました。

 例えばイタリアのメッシーナ海峡大橋(イタリア半島のカラブリアとシチリア島間のメッシーナ海峡を渡す長大吊橋、中央径間長3,300m、主塔高399mは世界最大)は入札時から携わっています。また、トルコのイズミット湾横断橋、ロシアのウラジオストックの斜張橋、さらにはルーマニアのブライラ橋も入札から施工の途中までですが携わりました。斯様に長大吊橋を中心として、海外のエンジニアリング部門で長く携わり、3年前に日本に戻ってきてからは、国内橋梁部門のマネジメントを建設部門の部門長として担い、国内橋梁部門担当取締役を経て,4月からIHIインフラシステムの社長に就任しました。

 ――国内ではどのような橋梁に携わりましたか

 井上 ゆりかもめの鋼橋や、東雲の東京都発注の道路橋、JHの新東名や東北道の橋梁計画などにも携わりました。

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新設が減少し、保全の割合が増加する中で鋼・PCの領域が重なる状況に

人的・技術的なリソースを効率的に活用した方が良いと判断

 ――次いで、IHIインフラ建設との合併で狙うシナジーについてお聞かせください。総合力を効率的に発揮できるという反面、リスクは増えますが

 井上 市場の変化に応じて我々も変わっていく必要があります。IHIグループ内で橋梁会社を2社有していた理由は、今までは新設が7割という状況であったからです。新設領域においては、鋼橋とPC橋のすみわけはある程度はっきりしており、2社有するという必然性がありました。しかし、現在は保全が大体6割、新設が4割という発注比率になっています。また新設についても、4・6車線化といった中規模あるいは小規模な案件が増えています。一方で保全分野は鋼・PCが重なり合っている領域が多く、すみわけはほとんどありませんし、鋼・PCが協力しなければ保全というのは成り立ちません。そのため、鋼・PCの垣根をつくらず、橋梁技術者という形で立ち戻る。そうした時代に入っているというふうに認識し、より力が発揮しやすいように合併したという認識です。


川崎港東扇島~水江町地区臨港道路整備事業の主塔基部施工状況

同上部工施工状況(いずれもIHIインフラシステム提供、以下注釈なきは同)


 合併前ももちろん、グループとして両社の垣根を低くする施策は行ってきました。しかし、最後まで残った課題が人的リソースの活用におけるラグの存在でした。人員のやり取りはやはり、いろんなルールが途中で入り、出向によって現場代理人や監理技術者として(出向先で)働けるようになるのも3か月後というルールがあり、リソースを効率的に活用するには一緒になった方が良いという帰結になりました。

 もちろん、(事故などによる指名停止などという)リスク分散に対する意見もありましたが、それは安全を第一に、絶対的に追及することを大前提として、シナジー効果を発揮し、社会により貢献し強くなっていくために今回の決定をしました。

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海外では鋼橋よりコンクリート構造が一般的

吊橋技術を失うというのは国として大損失

 ――合併後の会社の他社にない特徴についてについて教えて下さい。とりわけ、IHIは日本で唯一、長大吊橋の製作・架設を海外でとはいえ、継続的に行っています。その取り組みは今後の本四を中心とした長大吊橋の保全や第二関門といったビッグプロジェクトに対しても発揮できると思うのですが

 井上 IIS発足前のIHI時代から我々は海外の橋梁プロジェクトに継続的に取り組んできました。脈々と受け継いできて、今日では技術伝承の場としても役立っています。また、我々の得意な分野を、世界中場所を選ばずに、相手方の少し欠けている技術やマンパワーをうまくマッチさせて補うことで続けて来られたと感じております。日本は地震国という特徴があり、さらには鋼鉄が簡単に手に入る国であるので、鋼橋が比較的多くなっていますが、世界的にはコンクリート橋の方が圧倒的に多い状況です。

 そういう点からも今回の合併により、鋼・コンクリート両方にさらに柔軟に対応できるようになるのは非常に強みになると考えています。実際私が携わったルーマニアのブライラ橋は吊橋の主塔高は約200mに達しますが、コンクリート製で設計し、しっかりと施工しました。

 吊り橋技術の伝承という面でも、自国の中にビッグプロジェクトが少ない状況下において、技術をしっかり繋いでいくことは大事です。ケーブル技術は、今から施工する阪神高速の斜張橋にも生かせます。さらには、島国日本ということを考えた際には、吊橋技術を失うというのは国として大損失だと考えています。そうした意味でも技術の継承は必ず国内外問わずプロジェクトを受注し、続けていきたいと考えています。

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統合後の売り上げは約1,000億円

生産規模の適正化にも着手する

 ――次に過去3年のIHIインフラシステムとIHIインフラ建設を含めた両者の売り上げと利益についてお答えください。

 井上 水門を入れると約1,000億円になります。橋梁部門だけで申し上げますと、2022年度は売上額が745億円、営業利益が58億円、23年度は同612億円、同23億円、24年度は同541億円、同6億円となっています。変動幅が大きいのは、国内の受注が増加している一方で、海外がコロナの影響により発注が止まった影響で、海外の受注額が激減したことがあります。今後は海外の発注も回復し、その分、売り上げ利益とも増加していくと考えます。

 国内では、受注環境が大きく変わっています。新設と保全の比率は5対5にまで変化しています。新設の受注も引き続き維持していきますが、やはり保全の方を伸ばして行きたいと考えています。将来的には受注比率は保全6対新設4さらには同7対3ぐらいになると考えています。
その一方で、生産規模の適正化にも取り組みます。堺工場で橋梁を中心とした鋼構造物を製作していますが、昨年度は鋼橋発注量が13万t程度に留まりました。現状では、もはや30~40万tの発注量には戻る見込みはありません。一方で、鋼橋ファブの総生産量は35~40万tに達します。堺工場の生産能力も約3万5千トン程度ありますが、実際の年間生産量は1万5千t~2万tと受注量に比べて生産能力が過大となっています。これを一早く適正なサイズ、適正な配置にしていくことが必要です。

 単なる規模の適正化ではなく、老朽化対策や装置の入れ替えをうまく絡め、さらにはCO2削減といった環境面も考慮します。さらには省人化を進め、人手不足にもうまく対応できるような効率的な工場の再構築を目指します。

 ただ、一方で効率化は変動に強い工場にもなると考えています。

 ――というと

 井上 1.5~2万tをベースにしつつも、1万tに減っても、あるいは2万5千tに増えてもペイできる強さを持ちたいということです。それは、実際には弊社だけではできないと思っています。協力会社との連携をより強め、工場は可能な限り自動化、単純化を進め、本当に技能とか技量が必要なところを選別し、その面は人を適正配置し、場合によっては増やしていく。そういうことである程度は対応できるかなというふうに思っています。

――つまり簡単な構造、薄い構造は地域の隣接した工場や協力会社に委託し、メインの構造や部材、技術的に難しい部材は自社で行うということですね

 井上 概略的にはそうですね。そうすることで冗長性を増したフレキシブルな体制を構築していきたいと考えています。

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保全事業中心にリソースシフトを進めていきたい

伸びしろは海外 橋梁だけで約1,000億円の売上目標

 ――一方でリサイズは当然人員の配置転換が必要になってきます。その対応は

 井上 保全事業中心にリソースシフトを進めていきたいと考えています。単に人を移しただけでうまくはいきません。現在は課題や利点を考えながら試行錯誤している状況です。

 1年から1年半試行し、その結果を反映して第2次、第3次の異動を考えています。

 ――工場生産における優秀な技術者を海外プロジェクトでJVを組んでいる会社や協力会社の工場に派遣して、その技術力を向上させて、品質を確保するという取り組みも考えられると思いますが、そのあたりはどうですか

 井上 例えばインドのプロジェクトは今まさに動いていますが、7~8か所の現地工場でトラス橋を製作するため、一定程度の品質を確保すべく、各工場に堺工場の熟練生産技術者がスーパーバイザーとして張り付いて、指導しています。海外に堺工場から桁など主要部材を製作して運搬して架設するというのはコスト面から現実的ではないので、元々橋梁は作ってないが、造船は行っているような工場を使って、そこで指導して、成功に繋げていくというのはこれまでもずっと行っています。そういった意味ではリソースシフトの一つの選択肢だと思っています。

 ――そうした取り組みの結果として中期的にどれくらいの売り上げを目指していきますか

 井上 成長の伸びしろは海外だと考えています。現在はコロナ時期に発注が止まっていた影響もあり、一時的に停滞していますが、もう一度、我々自身を見つめ直したうえで、今後の飛躍に向けて戦略を立てて一きたいと考えています。国内においては保全分野を拡大していき、まずは中期で売り上げ1,000億円程度達成を目指していきます。

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