首都高速道路の技術革新2024
~舗装設計施工要領の大改訂、CO2削減への取組み、耐震補強技術やLSF舗装の開発、景観性の向上、BIM/CIMやVEの進展~
20年以上にわたってVEを続けてきた首都高速道路
3次元モデルの詳細度レベルの見直し 20highと40lowを追加
新大宮上尾道路や日本橋区間地下化事業では、設計段階からBIM/CIMを適用
――次にBIM/CIMの活用について教えてください
加古 国交省に続いて首都高でも、2020年にBIM/CIMに関わるガイドラインを制定し、本格的な取り組みを開始しました。首都高のBIM/CIMの特徴は、既に運用中のスマートインフラマネジメントシステム(i-DREAMs)との連携を重視していることと、事業のプロセス全体における関係者間での情報共有に最も主眼を置き、事業段階や目的に応じて、3次元モデルに拘らず、2次元や点群データのモデルも選択できる仕様になっていることです。
ガイドラインの制定・改訂状況
運用中のマネジメントシステム(i-DREAMs)との連携を重視したBIM/CIM
また、3次元モデルを活用する場合でも、一律に同じ詳細度でモデルを作成する必要がないことから、より合理的な仕様にするために、2022年10月に土木編ガイドラインを見直しました。その結果、部分的な補修工事であれば、工事箇所のみ詳細度を高くし、全体としては詳細度の低いモデルを目的に応じて採用できるよう工夫したところです。
――詳細をもう少し具体的に聞かせてください
加古 例えば3次元モデルの詳細度レベルの見直しでは、首都高の設計フローへの対応、ならびに不要なモデルの作り込みを避けることができるように詳細度のレベル区分を見直し、首都高の設計フローにおいて“概算設計”に相当するレベル(20high)と、詳細モデルにおいて干渉確認など部分活用を見込んだレベル(40low)を追加しました。さらに施工後は各レベルで修正・反映できるものとし、現実の形状を表現するレベルを廃止しました。
3次元モデルの詳細度レベルの見直し
また、事業段階と活用目的に応じて詳細度選定をできるように目安となる表を追加しました。あわせて、各詳細度レベルで表現する部材の明確化についても目安となる表を追加しています。
詳細度選定表(一部抜粋)
RC床版の適用例
――首都高におけるBIM/CIMの活用状況は如何ですか
加古 新大宮上尾道路や日本橋区間地下化事業では、設計段階からBIM/CIMを適用しています。加えて、今後ますます重要になる維持管理段階での活用として、9号深川線木場付近の補修・補強工事においてBIM/CIMを適用し、試行検証を実施しました。具体的には、3Dモデルを用いて様々な位置に発生している損傷の情報を一元管理するとともに、3DモデルとMR(複合現実)デバイスを組み合せて、複雑な工事計画を現場に重ね合わせることで、生産性の向上に寄与できることを確認しました。
活用事例
ICT建設機械による舗装切削作業を試行的に実施
GNSSやセンサーを用いた自動制御によって切削精度を向上
――首都高におけるDXの推進状況と首都高独自の技術や施策について教えてください
加古 これまでに現場を支援する技術としてi-DREAMs、インフラドクター、インフラパトロールなどを開発し、現場に実装しています。GISプラットフォーム上で迅速な資料収集が可能になるとともに、システム上で寸法計測など現場状況の把握ができ、維持管理の基本となる初動対応にかかる時間が従来と比べて1/10程度と大幅に短縮するなど、業務の生産性向上に大きく寄与しています。また、さらにもう一段先のDX推進を目指して、社内ではDX推進室が中心となって、間接部門も含めた全部門が結集して、具体的なDX施策のアクションプログラムを作っています。今年度後半ぐらいから効果が表れてくると思うので、ご期待ください。
首都高DXビジョンの5本柱/首都高DX ビジョンの各柱のテーマと2030 年代に実現したい姿
GISプラットフォーム
――ICT施工については、どのように進めておられますでしょうか
加古 2023年4月に首都高で初めて、高速湾岸線西行き臨海副都心付近の舗装打換え工事で、ICT建設機械による舗装切削作業を試行的に実施しました。
舗装打換えの切削において、施工機械の位置をGNSS(衛星測位システム)で測位するとともに、高さ方向をセンサーで計測しながら切削厚を管理し、切削ドラムを自動制御するシステムを使ったものです。
ICT建設機械による舗装切削作業を試行的に実施
試行工事の概要/「RD-MC」
マシンコントロールシステムはトプコン社「RD-MC」を用いており、自走しながら路面のアスファルトを切削することが可能です。
GNSSやセンサーを用いた自動制御によって、不陸がある場合でも切削厚をきめ細かく管理できるため、切削精度の向上を図ることができました。また、これからの労働者不足や熟練技能者不足に備えて、熟練した人でなくても作業ができるという点に主眼を置き、施工精度の向上を図りつつ、今後は橋梁区間への展開も目指していきます。
GNSSやセンサーを用いた自動制御
施工フロー
検証結果
20年以上にわたってVEを続けてきた首都高速道路
「コストと機能の兼ね合いの中で如何にして価値を最大化するか」
――最後にVE(Value Engineering)の活用状況について教えてください。最近は土木の世界でVEの話題を聞くことが少なくなりましたが、首都高では長年VEの取り組みを続けておられます。現在の状況などを聞かせていただけるでしょうか
加古 首都高の中でVEの実践はもう当たり前のことになっていて、機能本位の柔軟な発想といったVE的思考が社内に根付いている点が、2002年から20年以上にわたってVEを続けてきたことの最大の成果だと思っています。いろいろな悩みや苦労を乗り越えないと、本当の意味で定着には至らないですね。社内にVEが定着するまで丸10年かかりました。
20年間VE活動を継続実施してきた
2002年から最初の3年間は導入期ということで、技術系の管理職全員を対象にした2日間のVE管理者研修と、一般社員全員を対象にした3日間のVE基本研修を実施しました。また、実務上の課題をテーマにしたVE実践研修として、約半年間のチーム活動を導入しました。それと、この時期の特徴は、VEを実業務の中に取り込んでいったことと、社員にVE関連の資格取得を促し、社内でVEをリードできる人間を少しずつ増やしていったことです。
VE導入の変遷
導入期に続く実践期では、技術系社員のほぼ全員がVE基本研修を受講済みとなりました。また、社内に「VE推進委員会」や「VE推進事務局」を設置し、年間の活動サイクルを整えながら経験値を積み重ね、実施体制を定着させました。
その後の定着期では、VE関連の資格保有者も増え実務課題に密着したVE活動が行えるようになりました。ここまで来るのに導入からおよそ10年です。
このような経過を経て、日本バリューエンジニアリング協会から2011年に「マイルズ賞特別賞」、2021年に「普及功労賞(個人)」を受賞しました。また2022年には、20年にわたり社内でVE活動を総合的に推進してきた功績が認められ、当社のVE推進事務局が「VE活動優秀賞」を受賞しました。
――首都高では以前から社内インストラクターの制度も設けておられます。VE関連の資格取得者数と内訳を教えてください
加古 社内の資格保有者は現在36人です。内訳は、最高位で国際的な資格であるCVS(Certified Value Specialist)が1人、VES(VEスペシャリスト)が2人、VEL(VEリーダー)が33人です。VE活動の実施にあたっては、VE推進事務局の他に、社内の有資格者やVE経験豊富な社員を「VEインストラクター」に任命し、VEチームをバックアップします。VEインストラクターは現在14人おり、経験者も合わせると60人近くになります。社内にVE経験者は大勢いるので、インストラクターも固定せず、ある程度の期間でローテーションしています。昨年度はVE検討チームが7つ、インストラクターは1チームに2人で活動を支援しました。
VE推進のための体制構築
――VEは首都高でどのように役立っているのでしょうか
加古 実務上の課題に対して毎年いくつもの検討チームを編成し、部長級と課長級がそれぞれ「VE推進責任者」、「VE推進マネージャー」としてチームの旗振り役になり、中堅から若手のチームメンバーがVE活動に一生懸命取り組んでいます。その結果、単なるコスト削減ではなく、「コストと機能の兼ね合いの中で如何にして価値を最大化するか」というVEの本質を社員全員が理解し、VE的思考法が今や首都高の組織風土にまで浸透していると言えます。
検討のテーマも導入当初は建設関係のものが大半でしたが、新規建設事業の減少に伴って保全関係や交通安全、工事安全、渋滞対策といったテーマも増えてきました。また、最近では事務系社員も加わって、業務システムの改善や働き方改革といったテーマにもVEを適用しています。導入から20年を経て、現場の技術的課題だけでなく、いわゆるコーポレート部門の課題にまでVEが広がってきたことは、「首都高式VE」の誇るべき点だと思います。
VE検討テーマも変わってきている
VE検討事例
――本日はどうもありがとうございました。