IHIインフラシステム IIKとのシナジー活かし包括的な橋梁技術を磨く
IHIインフラシステムは、国内外で吊橋を受注し、技術力を維持しようと努力している。それは「技術力を磨かなければ本四架橋なども維持しきれない」という危機感があるからだ。新設は20万tを大きく切り、15万t程度となっている状況であり、同社も大規模更新に舵を切り、IIKと技術者同士の会話をしやすくするため、東西の事業所を統合するなどシナジーの発揮に努めている。技術の伝承や働き方改革なども含め上田和哉社長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
吊り橋 ある程度継続して建設しないと維持管理をする力すらなくなる
吊り橋 ある程度継続して建設しないと維持管理をする力すらなくなる
――国内では、生産トン数的には絞られている状況ですが、今後は大阪湾岸西伸部の鋼上部工発注が本格化してきます。また、第二関門橋についても環境アセスメント手続きに入り、より事業が進展してきており長大吊り橋が期待されています。吊り橋は2000年代初頭に広島県道路公社が建設した豊島大橋以来となります。
上田 日本は結構吊り橋があるのに、ある程度継続して建設しないと維持管理をする力すらなくなります。
――IHIは国外でもたくさんの吊橋を手掛けておられますね
上田 その危惧を見据えて、あえて挑んでいるところはあります。
新設市場は厳しい状況 2023年度は15万tを切る状況
保全事業へのシフトはしていかざるを得ない
――さて、ここ数年の売り上げ及び利益の推移について
上田 2021年度は受注高788億円、売上高600億円、営業利益39億円、22年度は同401億円、745億円、58億円、23年度は同402億円、612億円、24億円となっています。
新設市場は厳しい状況です。私も理事を務めている橋建協では年間20万tの発注を求めていますが、2023年度はついに15万tを切る状況に至っています。高速道路の4・6車線化事業の推進や大阪湾岸道路西伸部の本格化、第二関門橋の進捗という光明もありますが、この発注量の減少は正直、工場を動かしていかなくてはならない弊社のような鋼橋ファブにとっては厳しい状況です。
間違いなく保全事業へのシフトはしていかざるを得ない状況だと思っていますけど、やはり最低限、20万t程度の発注量があればありがたいですし、弊社としても橋建協全体としても訴えていかなくてはなりません。
市場の変化によって保全へ技術者もシフトする必要がありますが、それでも弊社としてはまず新設を経験させて、保全に向かわせたいと考えています。
事業のセグメントとしては、昨年に水門や制振・免振分野をIHIインフラ建設(以下、IIK)に移管したため、弊社は鋼製橋梁の新設・保全の設計・製作・工事に特化した専業となっております。ただし、私自身はIHI本体の橋梁・水門SBU長ですので、弊社だけではなくIIKも統括しており、全体を見ています。昨今の豪雨災害により災害を防止するダムの建設なども増える可能性があり、その状況を注視しています。付け加えると、水門事業自体はIIKに移管しましたが、水門の製作は引き続いて堺工場で行っております。複雑な部材の製作や架設はどうしても弊社が(下請の形で)行う必要があります。
一方、弊社は海外の案件も多くこなしています。トルコでは海峡部の長大橋を手がけましたし、現在はインドでも橋梁工場のスーパーバイザーとして職長を派遣しています。
ルーマニア国内最大の吊橋「ブライラ橋」を建設
ミャンマーにおいても長大橋の建設及び解体工事を進める
――インドの高速鉄道向けですか
上田 インドは公共インフラの投資意欲が旺盛です。MTHL(ムンバイ湾横断高速道路)は去年開通しました。職長を派遣しているのは同事業における関係企業の(鋼桁生産工場の体制)立て直しを図るためのものです。
そういう製造技術者の技術能力の高さは弊社の強みです。そこは大事にしていきたいと考えています。
――インド以外は
上田 最近ではトルコ国内において長大吊り橋の耐震補強、ルーマニアのブライラ橋(長大鋼吊橋)の建設を行いました。
ブライラ橋
ブライラ橋は、ルーマニア東部の主要都市であるブライラ市と、対岸のトゥルチャ市をつなぐドナウ川にかかる吊橋(1,974.30m,中央径間1,120m,4車線)、アプローチ高架橋(両端約110m)および接続道路を含む,総延長約23kmの道路・橋梁整備事業で、ルーマニア道路インフラ公社から、2018年1月にデザインビルド(設計・建設一括請負)で受注したものです。イタリアの会社であるWebuild SpAとのJVで受注しましたが、吊り橋部の工事に関しては、JVの中で主体的に全体をリードしたことに加えて,JVの下請けという形で全ての上部工架設を取り仕切りました。
ミャンマーにおいても東西経済回廊整備事業(パッケージ2)における「ジャイン・ザタピン橋」および「アトラン橋」の新設工事および「ジャイン・コーカレー橋」を含む既設の3橋解体工事を受注し、工事を進めています。
新設橋は、ジャイン・ザタピン橋(斜張橋,全長797m,4車線)、アトラン橋(斜張橋,全長480m,4車線)、解体する橋梁はジャイン・コーカレー橋(吊橋/全長400m)、②ジャイン・ザタピン橋(吊橋/全長884m)、アトラン橋(斜張橋/全長433m)というビッグプロジェクトです。
また、バングラデシュのバンガバンドゥ橋(ジャムナ鉄道専用橋)なども現在施工しています。
――海外受注橋梁の桁製作は
上田 基本的に現地の会社に委託しますが、バンガバンドゥ橋はIHIグループのベトナム工場を使用して桁を製作しました。ミャンマーにおいては、一部JFEエンジニアリングの現地工場でも桁を製作していただいております。
東西の拠点をIIKと一体化
大規模更新や複合構造の提案にシナジーを発揮
――保全については
上田 国内の保全については、PC橋や、鋼橋の小さな保全についてはIIKが行っており、弊社は鋼橋の大規模な耐震対策や、高速道路の大規模更新における床版取替などの分野を施工しています。
ただ、最近はその境界が曖昧になってきているため,技術者のグループ内における流動性も高める必要があると感じています。とりわけ大規模更新はプレキャストPC床版を用いることも多いわけですから、PC専業であるIIKと技術力を合わせていく方が合理的であると考えました。そのため、堺の新社屋が完成した昨年のGW明けから、大阪はこの堺、東京は豊洲のIHIビルにそれぞれ事業所を統合し、技術者を集めて共同で作業させています。保全市場の実際に合わせて、より両社の技術者のコミュニケーションが取りやすくしたということです。
堺の新社屋
大規模更新における床版取替については、ゼネコン各社も参入してきています。その中で競争に勝つためには、鋼橋の設計における技術的な強みや道路供用時において安全・安心を守りながらいかに低コストかつ短工期で更新方法を提案できるというのがIHIグループの強みですので、そうした強みを生かせる案件を中心に保全も拡大していきたいと考えております。鋼PC複合橋の提案など新設においても積極的にこのシナジーを発揮していきます。
――将来的には綜合橋梁ファブとして統合することも視野に入れているのですか
上田 今のところ考えていません。ただ、私が技術者として携わったバングラデシュのバンガバンドゥ橋(ジャムナ鉄道専用橋)においても、2年近く現場にいましたが、IIKにフーチングやアバット、橋脚の建設などで助けられることが多くありました。
海外では、吊橋・斜張橋のコンクリートのタワーなども、IHIグループとして元請けとして施工しています。IIKのコンクリート技術は大きな事業遂行上の助けになっています。今まで物理的に遠かった距離感を縮めてコミュニケーションをとれるようにしたことで、技術的返答のインターバルをより短期化できるようにしています。
――国内市場においても、今後は既設合成鈑桁の取替やPC合成桁の架替えなどが増えていく傾向にあります。こうした工事はPCとの複合的な技術や工程が伴うわけですから、そうした環境整備も必要ですね
上田 やっぱり物理的に近くにいると全然違います。気楽に話が出来たり、技術的なコミュニケーション以外でも、納涼祭や忘年会などのイベントを一緒に行える。そうした人間的な関係を紡ぎ、その信頼感で業務も行えるということが良いと考え、両社の新社屋を一緒にしました。
――堺の新社屋は見違えましたね。昔の社屋のイメージが強かったものですから、よけいびっくりしました
上田 (苦笑)。まあ、そうですよね。
――1階は広々としたスペースがありますね。これは社員食堂として開放しているのですか
上田 昼食時は社員食堂ですが、普段はミーティングの場としても使っています。