Interview

IHIインフラシステム IIKとのシナジー活かし包括的な橋梁技術を磨く

2024.07.16

吊橋を維持管理するためにも国内外で技術を磨きたい

Tag
大規模更新 維持管理 鋼橋
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技術をもって社会の発展に貢献する 技術をもって社会の発展に貢献する 技術をもって社会の発展に貢献する

働き方改革 成長という意味ではリスクの側面も

取替床版用新型継手「VanLoc」

BMSSを推進 パノラマビューアシステム「Panoca」

――他にはありますか

 上田 取替床版用新型継手「VanLoc」があります。IIKとNejiLawが共同開発した床版の新継手工法です。床版連結と床版の位置ズレの矯正をボルト1本締めるだけの作業で完結できるもので、間詰めコンクリートの幅がほとんどなく、ボルト設置部をモルタルで埋めるだけで済みます。同工法はまだ実績はありませんが、できるだけ早期に、実績を上げたいと考えています。

 ――BMSS(橋梁マネジメントサポートシステム)をIHIグループ全体で開発していますが、その運用状況と今後の展望はどのように考えておられますか

上田 小規模な自治体においては、技術者が少ない、あるいは事務の方がそうした橋梁点検の監督業務にあたっているというところも少なくありません。そうした自治体の中には比較的橋長がなく、重要な橋梁を管理しているところもあり、そのメンテナンスはしっかりとすべきですが、技術的に厳しく困られています。そうした管理者に対して、維持管理業務を適切に支援したいと考えて開発、運用しています。

 BMSSを推進して、 実際いろんなお客様に使っていただくと、色んなニーズが出てきています。写真と調査結果のリンクなど、様々です。例えばパノラマビューアシステム「Panoca」などが注目されており、BMSSがそれらとつながることでより使い勝手が良くなりつつあります。

 ――IHIグループのBMSSを運用することで、自治体の補修補強事業を囲い込むことができるようになるのではないですか

 上田 もちろん、そうなればいいと思うし、橋梁管理システムとしての標準化を狙いたいとは考えています。しかし、自治体の仕事はやはりその自治体に近い業者さんがやるべきだと思います。我々がやれることは限りがありますから。もちろん、包括的に橋梁の維持管理修繕業務を発注する自治体があればぜひ受注したいとも考えています。

 結局、人手が足りなくなっていく中で人的資源のリソースをどこに割くことが効率的であるか、公的機関も民間も問われていると思います。

 地域のインフラ維持については、これが既に起こっていて、その中で効率的な点検や解析、業務発注時の積算などを助けてあげる、ことが結局、仕事の増加という形で我々にも跳ね返ってくるわけです。逆に、これをやっていかなくては、日本の地域インフラが本当にだめになってしまうという底知れない危機感が肌感覚としてあります。

 ただし、現在、弊社としては事業が増加している大規模リニューアル事業に注力します。スキームや規模次第で、自治体の橋梁補修補強業にも参画していく可能性はありますが、先ほど申し上げました通り、まずはその自治体に近い企業がなすべきであると考えます。

技術をもって社会の発展に貢献する 技術をもって社会の発展に貢献する 技術をもって社会の発展に貢献する

働き方改革 成長という意味ではリスクの側面も

ワークライフバランスは重要 メリハリが必要

 ――最後に2024年問題など働き方改革や担い手確保の問題についてどのように考えているか教えてください。特に大規模更新においては、特殊車両やクレーンなど重機の運用をどのように考えるか、そもそも床版を確実に工場から現場へ運べるのか、様々な課題が噴出してくると思います

 上田 今言われた特機や重機の運用や、床版など資材の輸送の問題については、発注者と一緒に解決していくしかないと思っています。例えばクレーンについては、いちいちしまうのではなく、現場に残置できるよう働きかけていくしか、乗員の労働時間内に仕事を終わらせるすべはないと思います。

 床版についてもヤードを確保して、あらかじめ作ったプレキャストPC床版を集積させておき、橋面上での仕事が始まったらできるだけ短い距離を反復して運ばせることでトレーラーの運転手の労働時間を守れるようにする。そうした工夫が必要だと思います。発注者が現在考えているGW後90日間やお盆後90日間程度で仕事を終わらせるには、そうした工夫をしない限り、成り立たないと考えています。

 ――自社の担い手不足への対応や働き方改革については

 上田 団塊世代が抜け、経験豊かな層がいなくなっています。50代はいますが、40代の中間層が極端に少なく、設計などはかなり若い人だらけという状態になっています。

 中間層が全くいないということは、技術の伝承が進みにくいということに他なりません。教える、あるいは学ぶという行為はパワーもいるし時間もかかります。それを担うべき働き盛りの40代がいないということは結構深刻です。今年の「橋梁と基礎」の年頭所感でも、まさにそこを書いたのですが、要は、働き方改革って言いながら、成長したい若い子の芽を摘んでいる感も結構見受けられます。

 本当に働きたい人材、現場を深堀して働いたり学んだりしたい人材については、学ばせてあげたいんです。しかし、画一的な働き方改革による総労働時間の規制は、そうした意欲も抑制しています。長期的に見れば、これは非常にリスキーです。特に海外と競争する時に、技術的な差は即受注ロスとなって跳ね返ってきます。

 ――東南アジアやインドなどは働き方改革のようなものはないのですか

 上田 ありません。海外の技術者の成長のスピードは全然違うんですよ。彼らはいつクビになるかわからない危機感の下で働いているから、自分のスキルを上げることにとにかくこだわります。スキルが上がれば給料増にも直結します。弊社が海外に派遣した若手も、その影響を受けて、非常にスキルアップして帰ってきます。

 しかし今の日本はどうでしょうか。働き方改革は良いことだと思いますが、ルールを守ることに固執するあまり、とことん技術を磨きたい若手の活躍の場を画一化によって消している、そんな懸念にとらわれます。成長しないとこの仕事は面白くありません。年をとっても設計における提案力が不十分だったり、現場のコントロールができない技術者では、その技術者自身が、業界を魅力的と感じなくなってしまいます。成長させてあげられる良い仕組みを見つけたいなと思って、試行錯誤しています。

 ――わかります。20~30代の努力って40代以上の貯金ですよね。体力のあるうちしかできない経験や勉強はあります

 上田 20~30代でどれだけスキルを向上させるか、人と数多く出会って、引き出しを多く作っていかなくては、40代以上になって厳しい現実に直面します。もちろんある程度の水準の仕事をこなすだけでよいという人もいますし、それは否定しません。しかし、レベルを向上させたいという人を何とかしてあげたいという思いは非常に大きくあります。

 ワークライフバランスはもちろん重要です。ですから働くとき大いに働いていただき、休める時は、長期休暇も大いに認めるそうしたメリハリの利いた働き方改革を目指したいと思っています。昇任も能力次第で昔ではありえなかったこともやっていきたいと考えています。

――一方で在宅勤務などはどのように考えていますか

 上田 現在、在宅勤務を行っている社員は5%~10%程度です。子供がいる社員や、介護が必要な家族がいる社員などについて、積極的にそうした勤務を認めています。

 ――外国人の採用については

 上田 海外の優秀な技術者や学生の採用に積極的に取り組んでいます。海外業務の受注という意味でも、会社の多様性を確保し、成長するという意味でも海外人材の採用は必要不可欠であると考えています。

 ――ありがとうございました

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