Interview

IHIインフラシステム IIKとのシナジー活かし包括的な橋梁技術を磨く

2024.07.16

吊橋を維持管理するためにも国内外で技術を磨きたい

Tag
大規模更新 維持管理 鋼橋
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技術をもって社会の発展に貢献する 技術をもって社会の発展に貢献する 技術をもって社会の発展に貢献する

20代の若手も派遣して経験を積ませる

ブライラ橋 エアスピニング工法を用いて架設

20代の若手も派遣して経験を積ませる

 ――技術的なトピックは

 上田 海外においてはやはりルーマニアのブライラ橋です。主塔間の支間長は1,120mもあり、ルーマニアの国内の橋梁としては最長となります。

 ――同橋における技術的な特徴は

 上田 吊り橋ケーブルの架設におけるエアスピニング工法です。日本で現状最後の長大吊り橋である豊島大橋も同工法で施工されています。国内の長大吊り橋においてはプレハブストランド工法が主でした。

 国外においてもカザフスタンのセミパラチンスク市で弊社が建設したイルテッシュリバー橋(2000年供用)以来、施工例がありませんでした。ブライラ橋は国外において、久しぶりにその技術を使うことにより、技術を再確認することできました。若手にも携わる場を与えたことで、技術伝承することができ、その意味でも非常に意義のある仕事ができたと感じています。

 ――同橋の建設には、どれくらい若手を派遣したのですか

 上田 ずっと現地で仕事をこなしていたのは30代~40代前半の技術者ですが、20代の若手も派遣して経験を積ませています。

 主塔の基礎、建て込み、ケーブルの設置から補剛桁架設、ケーブルのラッピングから塗装まですべての工種を行い、技術者に経験させました。

 ただ、ブライラ橋の完工により、吊り橋の新設工事が、弊社としてはなくなっている状態になっています。吊り橋の新設は、技術者の育成や、国内吊り橋の維持修繕技術の維持のためにも、今後も続けていきたいと考えております。

技術をもって社会の発展に貢献する 技術をもって社会の発展に貢献する 技術をもって社会の発展に貢献する

斜張橋間の主塔間は525m エクストラドーズド橋のようなシルエット

関空連絡橋の耐震補強 道鉄併用橋の難しさ

 ――国内の新設事業における技術トピックは

 上田 川崎港臨港道路東扇島水江町線の主橋梁部(斜張橋)があります。主塔間は525mとなっており、その半分をIHI・JFE・横河のJVで施工しています。現在は主塔部の架設を進めています。大阪湾岸西伸部も控えていますから、それに向けて、斜張橋をしっかりと建設する技術を磨いていきます。また、構造物としての特徴は、羽田空港が近いため、橋長に比して主塔高が低く、側面から見るとエクストラドーズド橋のようなシルエットになっています。


川崎港臨港道路東扇島水江町線の主橋梁部(斜張橋)の主塔架設


 また、同橋ではDXも活用しています。現場には事業を説明する部屋が設けてあって、工事の内容を理解してもらうためにVRなどの技術を活用しています。

 保全分野のトピックスとしては関空連絡橋の耐震補強工事があります。

 ――道鉄(道路・鉄道)併用橋ですね。鉄道橋は勾配に対する過敏さが道路橋の比ではないので、工事はかなり難易度が高いですよね

 上田 そうです。関空連絡橋は関係機関が多く、その協議・調整が必要です。最近は、NEXCO西日本様のご尽力のおかげで、工事が動き出している実感があります。

 ――完成系としての勾配変化に対する過敏さもさることながら、供用しながらの施工ですよね。鉄道橋の供用しながらの施工というのは非常に気を使うと思いますが

 上田 その通りです。通常の道路橋での伸縮装置や支承取替えも結構気を使いますよね。

 伸縮装置取替の際のレベリングや、供用中の端支点での支承取替はすごく気を使います。ロックジャッキを使ってほんの少しだけジャッキアップして既設支承を抜いて新しい支承に取り替える作業ですが、それを鉄道橋は道路橋以上に、勾配や段差を過敏にチェックしておかないといけません。下は海です、漁業関係者もおられますし、単なる耐震補強ではない安全面で非常にグレードを高くしなければいけない難しい工事であると認識しています。

 さらに空港に極めて近接しているため、クレーンの上空制限も非常に厳しく制約されています。本当に一般的な保全工事では経験できないような内容が数多くあり、弊社の保全技術の強化っていう意味でも、非常に寄与する案件であると思っています。

 ――2018年夏にタンカーが激突して、関空連絡橋のA1~P2間に激突し、桁損傷したものを取り替える際、私もIHIインフラシステムや高田機工の工場の桁製作や現場架設を取材に行きましたが、あの時も非常にタイトで、プロジェクトマネージャーを務めていた内田裕也さんなどは非常に腐心されていたことを思い出します

 上田 あの時は本当にタイトでした。私も建設部長を務めていましたが、まさに国家を挙げたプロジェクトでした。関係機関や地域のステークホルダーの皆様に全面的に協力いただけたからこそ、非常に短期間に桁の撤去・架替えができたと感謝しています。弊社としても関西国際空港という近畿地方の空の玄関口のインフラを正常な形に復旧させるため、24時間体制で取り組みました。みんなやる気に満ちていました。プロジェクト自体は、本当にしんどかったですが、「自社の技術力を発揮する時は今だ!」みたいな雰囲気が充満していて、弊社としては、非常に前向きに取り組めた案件でした。

皆瀬川橋の耐震補強 足場の組み立て・解体や設置時の荷重にも配慮

一番技術力があるメンバーを集めて解析および設計を行う

 ――最近では東名皆瀬川橋もなかなか大変な工事のようですね。様々な工程に対応するため、足場を組み直さねばならず、足場工もずっと確保しなければならない厳しい工事のようですね

 上田 皆瀬川橋の耐震補強工事は、足場の組み立て・解体や設置時の荷重にも配慮しなければなりません。また、工事は道路を供用しながら施工することが求められるため、いかに安全を確保しながら、各工程を進めていくかという条件に配慮しながら、設計や架設が一緒になって計画し、補強方針を決めていきました。

 そうした設計及び計画策定が、ある意味皆瀬川橋の耐震補強自体はピークであったといえます。また、施工計画を現実に進めるためには、現場に工事用道路がない箇所もありましたのでインクラインを設置したり、足場の設置・解体の工事を積めたり、地味な部分が多いのですが、実はものすごく技術的に難しい工事でした。


皆瀬川橋の耐震補強


 設計も架設も、弊社で一番技術力があるメンバーを集めて解析および設計を行いました。淀川大橋のリニューアル工事(近畿地方整備局発注)や長大斜張橋のケーブル取替などの経験があるメンバーをそろえています。

 保全って、結局設計時に、現場として何ができるかをしっかり条件付けしなければ、設計は進みません。一方、現場でできる限界をしっかり示してあげると、挑戦的な判断ができるようになります。そうした設計と現場の対話の充実を会社として大事にしています。
(※編注:皆瀬川橋の記事は7月29日に詳細を掲載します)


 ――大規模更新については、先ほど伺った通りIISとIIKという鋼とPCの専業を持っているIHIグループ全体のシナジーを活かしていく必要があると思います

 上田 弊社はそこで貢献するしかないと思っています。大規模更新がやりやすい、比較的難易度の低い工事は少なくなってきています。一方で半断面以上の断面施工が必要な交通量の多い現場や、合成桁など難しい構造の橋梁にフェーズが移っています。そうした箇所で我々が新設時代から培った、構造系全体に対する技術力に基づいた、合理的な提案を発揮していきたいと考えています。

2種類の床版取替機を開発・運用 床版を下面から補強するFSグリッド工法

画期的な足場「ラピッドフロア」

 ――新技術とかですね、新工法の開発、運用については

 上田 保全をターゲットにしたものが多くなっています。例えば大規模更新においては、「sphinx」や中国道の空頭制限が厳しい箇所で運用したものなど、2種類の床版取替機を開発・運用しています。


「sphinx」


 また、床版を下面から補強するFSグリッド工法もIIKと栗本鐵工所が共同開発しています。FSグリッドは、多くの実績を有するISパネルの補強部材を鋼板からFRPに変えることで軽量化、高耐久化(FRPのため腐食などの発生がない)し、補強性能は維持したまま設置しやすくしたものです。近年は床版取替も予算が厳しくなっています。損傷度がある程度大きい床版についてもFSグリッドを使用することで、床版の延命化を行うことができ、床版取替までの時間的スパンを稼ぐことで、床版取替予算を平準化させることにも寄与すると考えています。

 もう一つはラピッドフロアという新型足場です。

 ――ラピッドフロアはどのような足場ですか

 上田 高強度かつ安全性、施工性を向上させたシステム足場です。職人さんが使うに当たって、吊り足場のチェーン間隔をできるだけ長くし、かつ保全工事に寄与するように、平滑かつ、重量物を載荷できるような足場が欲しかったわけです。 そのニーズに応えられる足場を日建リース工業と共同開発しました。吊りチェーン間隔が縦横1.8mと足場内での作業スペースを広く確保できるうえ、トラス構造のメインフレームと高強度チェーンを使用することにより、従来品の約4倍の強度を実現しました。また、床材は従来品である鋼製布板を使用できる構造としているため、積載荷重200kg/m2を確保しつつ、コストを抑えることができます。

 施工性においても、足場上から張出し施工による組立・解体作業が可能なため、高所作業車の使用を極力少なくすることができ、安全性向上、作業日数短縮、コスト削減を実現しています。

 現在は夢洲南高架橋(新設)などで試験施工的に使っていますが、この採用実績をどんどん増やしていきたいと考えています。

 ――システム足場は、先行製品が3、4製品ほどありますが、あえて開発した意図は

 上田 私が建設部長だった時代に遡りますが、そうした製品もみんな非常に意図はよいのです。チェーン間隔を広げて作業性を良くする。それは重要ですが、広げすぎると1部材当たりの重量が重くなりすぎ、足場施工時の安全性が損なわれます。またコストも少し高く感じました。

 そこで、弊社の工事から情報収集し、日本人の体格に合わせて、チェーン間隔と足場施工性の両立を図る画期的な足場を作ろう! と考えて開発したのがラピッドフロアです。


ラピッドフロア

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