能登復興事務所 60人の精鋭で局全体に匹敵する予算を執行
高盛土は総点検が必要
橋梁以外の盛土境部はCAE路盤の採用を検討
――今回の地震では切土と盛土間、カルバートと盛土間、でも大きな段差が生じていました。のと里山海道もそうですが、輪島市内や七尾市内でも車に乗っていると至る所でアスファルトの擦りつけが設けられていました。熊本地震で起きたことが、また能登半島地震で起きているわけです。これを2度と起こさないために、本復旧の際、段差に対して踏掛版を設置するなど、段差防止工を設置していく必要がありますが、どのように考えておられますか
杉本 構造物の耐震化のみならず舗装の耐震化も考えていかなくてはならないと思っています。舗装版自体は変わりませんが、路盤を強くするような手法です。
――スロープを作るための踏掛版の類を全数で設置していくという考え方ではないのですか
杉本 踏掛版も1案とは思っています。但し結局コンクリート構造物ですので、どこかで盛土と切り替わる部分が出てきます。
考えている案の1つはCAE路盤(セメント・アスファルト乳剤安定処理路盤材料)です。セメントを使用しているため適度な剛性があり、アスファルト乳剤を使用しているため変形に対する追従性があります。これを使うと舗装の耐久性が大きく向上し、段差が生じにくくなります。
橋梁であれば、大きな段差が生じやすいことから踏み掛け版の方が良いと思いますが、それ以外については生じる段差も小さいためCAE路盤も選択肢かな、と考えています。
高盛土は総点検が必要
壊れた盛土は現行基準に則って直していく
――2007年の能登半島地震の際に、あるコンサルタントからこういう話を聞きました。「ここだけ耐震盛土で直してもどうしようもないよ、他の所も手を入れて直さないと」。彼は全線的に弱いところを特定して直さないと 同じ地震が起きた時にまた被害が出るという指摘をしたわけです。そして17年後……、大きな被害が生じました
杉本 そうですね。
――その教訓を踏まえ、今回は被害が生じた箇所でだけでなく、最終的には全線の高盛土を 直していくのか、それとも今回の被災を受けたところだけ直すのか、どういう方針で臨もうと考えておられますか
杉本 本復旧の方針はまだ決まっていません。当事務所としては災害復旧費の元、工事を行っておりますので、一義的に言えば壊れた部分をしっかり直すということに限定されます。
ただ、言われたように、他の高盛土についても、今回の地震を踏まえてしっかり全部を総点検することが必要だと思っています。点検したものをどう直していくかというのは、しっかり国土強靭化計画などに位置付けて進めていくことになるのではないかと考えております。
――しっかりと直すというのは、原形復旧で治すのか、それとも今回の知見を考慮した格上げ復旧で直すのか、どちらで直すのですか
杉本 現行の新しい基準に則って直していきます。
中でも、排水機能をしっかりと設置することが高盛土の性能を維持する一番重要な取り組みであると考えます。土中の水分が盛土に悪影響を与えるということが一番大きく、最新の基準も土中の水をしっかりと抜けるようにすることがポイントになっています。
また、今回の地震において高盛土が崩れたのはもともと谷地であった個所が多くなっています。崩れた盛土をまた盛土で直すのかというのは少し考えなくてなりません。コストによっては、橋梁で飛ばす方が良い箇所もあるかもしれません。以前、橋梁を短くして、背面を盛り土した箇所が多くの場所で崩壊したり、大きな段差を生じたりしています。イニシャルコストを低減するためにそうした構造にしたわけですが、地震による盛土が崩壊した箇所や、段差が生じた際にかかるコストを考慮すれば、もうワンスパン橋梁を伸ばしてあげた方が安全かつLCC的にも安くなるかもしれません。そうした視野を持ちながら、コストが安く、安全な本復旧を目指していきたいと考えています。
――先ほど災害復旧が一義的なミッションと仰いました。今、お話しされたのは本復旧のことだと思いますが、本復旧も事務所のミッションの中に入るのですか
杉本 当事務所は本復旧まで行っていくことになります。
道路復旧については、7月末までに能越道やのと里山道路などでの応急復旧を完了させます。その後、本復旧をしっかりやっていきます。
国道249号は本復旧をやりながら、今まだ通れない箇所もありますので、そうした箇所の応急復旧を並行して進めています。本復旧についても所管するすべての道路において6月上旬までに工事発注を行いました。
――仮復旧工事ついては、スーパーあるいは大手ゼネコンが入って急ピッチで復旧を実現しています。本復旧工事はそれらの業者に対して継続工事という形で発注するのですか、もしくは別途発注されるのですか
杉本 本復旧工事は、道路については別途発注です。河川の方は応急と本復旧の工事的な境が付けがたいため、今年度分については随契で仮復旧工事を担われている業者に継続的に工事を進めていただきます。
河川の仮復旧状況③
技術検討委員会での議論と設計業務は並行して行う
――別途発注においては、設計発注して設計を1年ぐらいかけて工事発注するのか、設計施工一括的な発注を行い、スピード感を持った形で発注する体制にするのでしょうか
杉本 今年度発注したのは、設計を別途業務で行う形で、6月上旬までに工事発注しています。高次の受注は夏ごろ、契約手続きにはさらに数ヶ月かかる見込みですので、その間に詳細設計を進め、工事業者に正式な図面をお渡ししたいと考えています。
――盛土区間、とりわけ先ほど所長が指摘された谷部に構築され、崩壊した盛土など、極めて構造的に悪い部分は1コンサルが判断するのは非常に難しいと思います。そうした箇所を橋梁構造あるいはビッグカルバート構造にする、もしくは地盤改良して盛土を施工するなど、色んなアプローチがあると思いますが、そうした基本構造の選定については、国土交通省側ではある程度整理した上で設計発注する感じですか
杉本 令和6年能登半島地震道路復旧技術検討委員会を立ち上げており、金沢工業大学の川村國夫教授を委員長とし、国総研とか土研の専門家に委員になっていただいて、構造や施工方法の議論を進めています。トータルでやる部分と、橋梁・トンネル・盛り土など構造別のワーキングを作り、相談をさせていただきながら設計業務を進めていくという感じですね。
――復興をできるだけ早く進めていくには、設計に要する時間をできるだけ短く進めなくては工事進捗が遅くなり、復興に要する時間がどうしても増えてしまいます。技術検討委員会の議論は結構スピード感を持って進めていく必要がありますし、設計へのフィードバックも同様にスピード感が必要だと思います。議論の設計へのフィードバックについてもう少し詳しく教えてください
杉本 技術検討委員会の全体会議は、そんなに回数が開けませんのでその下組織となる各ワーキングを柔軟に開催していきます。各ワーキングは専門家が属しており、(発注者はもちろんコンサルタントや設計業者が)困ったことあればすぐ相談できるような形にすることで業務が停滞しないような形でやっていきます。各ワーキングで揉んだ議論がある程度形になってきたら、技術検討委員会の全体会を開催して、ワーキングで議論した内容を確認し、ワーキングに落として設計や現場に成果として反映していくという風にフレキシブルに進めていきます。
――わかりました。橋梁やビッグカルバートでスパンを飛ばし、弱点となる盛土区間を解消する考え方は非常に良いと思います。ただし、どうやって資材や重機を運ぶか、橋種はどのようにするか、現場打ちかプレキャストにするかで現場はだいぶ変わってくると思いますがどのようにお考えですか
杉本 そうした詳細は未定です。製作工場の距離や資材、人手の確保ができるかどうかなどあらゆる要素を考えていく必要があります。