Interview

能登復興事務所 60人の精鋭で局全体に匹敵する予算を執行

2024.07.31

住民と対話しながら、かつ迅速に復旧復興を進める

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国土交通省
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住民の皆様方の議論に寄り添った形で本復旧も考えていく

発災した元日から予算について調整を開始

石川県出身 七尾市の土木課長も歴任

 ――話は変わりますが、発災から復興事務所発足までの間のことをお聞きしたいのですが、まず杉本所長の発災時の役職と、所長として着任し、現場を見た時の感想を教えてください。

 杉本 発災した元日時点は、東京の本省勤務でした。道路局の国道技術課において、道路メンテナンス企画室という部署があり、課長補佐として、全国の直轄災害を担当していました。元日はちょうど当番の日で、地震が起きてからはそのままずっと本省で働いていました。大きな災害でしたので、発災した元日から財務省と予算について調整を始めていました。あとは道路局長とかいろんな皆様に災害の状況や直轄の状況について説明していました。

 ――元日の段階から本省の方で今次の震災の担当されていたわけですが、所長として白羽の矢が立ったのはどういう理由でしょうか

 杉本 使いやすかったからじゃないでしょうか(笑)。私は石川県かほく市出身です。また、国道技術課に勤める前は、富山河川国道事務所の副所長をしていました。更にその前は、七尾市役所の建設次長兼土木課長でした。その前は金沢河川国道事務所で事業対策官を務めるなど、この辺のことをよく知っていたというのもあると思います。

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復旧道路を見て、感謝の念を改めて持つ

普通では考えられないところに道を通す技術力の高さ

 ――実際着任して、現場を見た第一印象はどんなものでしたか

 杉本 そうですね。行く前は、財務省との折衝や(被災地の)降雪や降雨の対応なども本省で担当していましたので、着任までは現場視察もままならない状態でした。そして着任し、現場を見ると、写真で見ていたはずだったのに、思った以上に酷い被災状況であると改めて認識しました。さらに着任までの間に、応急的に道路が復旧されている個所を見て、関わった業者さんの凄さを感じるとともに改めて感謝の念を持ちました。


緊急復旧には多くの会社が関わった


 ――どんな点を凄いと感じられたのですか

 杉本 技術力というか。崩れている個所のさらに上など、普通では考えられない場所に安定した地盤を見出し、応急道路を通していた。本当にあの知見がなければもっと応急復旧は遅れていました。

 ――千枚田より少し北に行った箇所で、崩れている岩塊の上に仮復旧道路を作っていました。私もあれを見た瞬間によくここを選んで通したものだ、と感心しました

 杉本 あれを見ましたか。この被災状況、道路の崩壊状況において、安全かそうでないかを見分けて道路を造る技術力は本当に凄いです。


崩れている岩塊の上に仮復旧道路(井手迫瑞樹撮影)


 ――千枚田の先に、海側で隆起した場所を利用して、道路を作った個所もありましたね。よく考えついたものです。

 杉本 あれは早く開けるにはあそこしかないと判断しました。



隆起した場所を利用して、道路を作った(井手迫瑞樹撮影)

事務所体制 60人強の体制 道路部門が約半分を占める

現状でも820億円強の事業を発注

 ――復興事務所発足から現在までの仮復旧状況について、どのような場所をどのように区割りして、仮復旧もないし啓開作業を進めているのでしょうか。また、復興事務所の体制はどのように構築しているのでしょうか。国、県はもちろん施工の管理の実施部隊として、NEXCO3社からも人員派遣があり、オールジャパン体制になっていると聞いていますが

 杉本 とりあえずある程度の区間に分けて悪い箇所を直すため、区割りしました。
 事務所の体制は道路・上下水道、河川の復旧を担っており、職員だけで59人います。さらに非常勤を加えると60人を超えます。少し細かく言うと、道路部門は能越道と国道249号の2つのチームに分かれています。つまり上下水道3つのグループに分かれて工事発注しています。また、それとは別に全体を統括して計画や設計を見ているグループもあります。この合計4つのグループで事業を進めています。

 また、河川・砂防・海岸を発注するグループも別に作り、発注を進めています。


海岸も所掌範囲内である(写真は珠洲市宝立町宗玄~鵜島の宝立正院海岸)


 ――それぞれの人員配置は

 杉本 道路に30人、河川に15人、そのほか上下水道や総務に15人といった配置状況です。

 ――道路事業は30人ですか、よくそのような少人数でこれだけの事業を捌けていますね

 杉本 恐ろしい状況ですよね(笑)。道路で500億円弱、河川で300億円強、合計800億円ぐらいを発注しています。今の予算規模でいくと。 昨年度に700億円ぐらいの予算が投じられ、今年度はまだ約120億しか増えていませんが、今後、道路予算を中心に増加が予想されます。北陸地方整備局は能登復興道路事務所を除くと約1300億円の予算規模ですが、一事務所だけで一時的には北陸地整全体を超える予算を執行していかねばならない状況になると考えています。それをしっかりと発注していかねばなりません。

 ――500億を30人。1人当たり20億円ぐらいを発注しなくてはなりませんね

 杉本 発注積算を行っている人はもう少し少ないですが、何とか頑張ります。

 ――熊本地震の際の復興事務所や球磨川水害の復興を担っている八代復興事務所では、ピークに向かって増員されていきました。能登復興事務所もそのように進むのではないですか

 杉本 PPPなどの手段も考えており、そうした人員を入れるとすぐに100人程度には達するのではないかと考えています。

 ――熊本地震は2016年に発災して、熊本復興事務所を設置し、2021年度末に業務を終えて解散しました。約5年です。能登復興事務所も5年間ぐらいでしょうか、それとも、もう少しかかる見込みでしょうか

 杉本 実際はもう少しかかるのではないかと思います。しかしいつまでもやるということはできませんので、ある程度のスケジュール感はいずれ示さねばならないと考えています。

全国から各部門のスペシャリストが参集

――能登復興道路事務所の発足にあたって配置された人員はやはり、発注のスペシャリストや構造のスペシャリストを北陸地整あるいは全国から呼んでおられるような状況でしょうか

 杉本 そうですね例えば副所長級の谷俊秀技術統括マネージャーは、国総研の勤務経験もあり、技術に強い人材です。国総研では基礎研に属していました。

 課長級はグループマネージャーと呼称していますが、彼らも設計や、地質や土質、発注手法などに詳しい人材を充てています。東日本大震災時に東北へ応援に行き、厳しい経験を有している人材も来ていただいております。全国の地方整備局からエース級の人が来ていただいており、北陸地整内でもエース級の若手を全部いただいている感じなので、他の事務所に対して若干申し訳なさを感じています(笑)。

 ――NEXCO3社からは何人ぐらい派遣されてきましたか

 杉本 3人です。

住民の皆様方の議論に寄り添った形で本復旧も考えていく

 ――本復旧の前段階として地元との話し合いはどのように進めていきますか

 杉本 難しい課題です、地震など災害に強い構造方針については、技術検討委員会でしっかり検討していくことになると思います。まずは本復旧の前にしっかり応急復旧で道路やライフラインを繋げて地域の方が地域に一旦戻れるようにしてあげることが喫緊のやるべきことです。そして戻った後、住民の皆様が、地域の復興をどのように考えるのか、ようやくそのスタート地点に立てることになります。その後の本復旧については、地域の方と再度話しながら、一緒に計画を作り上げていくことになると思います。

 例えば珠洲の方では、海岸の工事もやる必要があります。津波対策を考えれば、東北の時と同じくらいの大きな防潮堤作らなくてはならず、 その高さは5~6mに達します。安全にはなりますが、それが地域のためになるのか、そこまでして海沿いに暮らしたい人がいるのかっていう議論が生じます。

 それは例えば輪島も同じことが言えます。地域の人が望む復興とは何か? を議論しあい、地域、町づくりのビジョンを構築し、それを見ながら復旧復興の計画を作っていかなければならないと考えています。

 ――コンパクトシティという議論にも多分繋がっていくと思います。今までは面的な国土形成が基本でしたが、人口減少が進む中で地域を持続させていくかが問われる作業になっていくのではないでしょうか。また、津波による被災では、陸前高田や南三陸(志津川)などにも取材に行きましたが、そこでは職住分離を進めていました。住居は高台、しかし漁業などはやはり低地で働かなくてはいならない。そこで避難タワーを作ったり、早期に避難できる道路を作るなどの対応です。また、球磨川の水害後は一定規模の集落ごとに住民と対話し、そもそも大きな水害が起きたその地に住み続けるのかを話し合い、必要な箇所は復興し、全世帯移転を望んだ集落は、逆に人のいないことを前提とした河川計画を行っていました

 杉本 住民の皆様方の議論に寄り添った形で本復旧も考えていく必要が本当にあります。安全面だけ考えれば高い防潮堤を整備すればいいし、道路も極論を言えば被災可能性がある箇所は全て山側にトンネル掘っていけば問題ないわけです。しかし、地域の人たちも観光を楽しみに来る人たちも、やはり美しい海や棚田を見に来るわけで、七尾からトンネル抜けたら珠洲という道路計画は、たぶん誰も望んでいないと思います。

 道路は、その使い方を含めて議論して直さないといけません。

 直した道路や海岸に愛着を持ってもらわないと、戻りたい住民も戻ってこなくなります。安全を必要以上に重視しすぎた線形にすれば、観光面でマイナスになり地域経済に悪影響を与えてしまいます。だから合意形成が非常に重要です。復興事業としては1手間2手間かかってしまいますが、それでも地域住民の納得とその後の満足感を得るためには、必ず必要なプロセスであると考えています。

 ――スピード感という意味ではさじ加減が難しいですね。しかし仰る取り必要なプロセスだと感じます

 杉本 いくら議論しても全員の納得を得るのはなかなか難しいと思います。しかし、とりあえず丁寧にお話をしていくことは重要です。これをやることで工事に入った後に反対する人というのはほとんどいなくなると考えています。急がば回れで、計画時に時間はかかりますが、多分トータルの工期は短くなると考えています。

トイレはとりわけ重要

最盛期には膨大な工事量 輸送計画も考える必要

 ――本地震は、トイレなど避難に必要な設備の充実も改めて注目されています

 杉本 トイレや水の不足は実際大きな課題となりました。基礎自治体の負担は大きく、賄いきることは難しい状況でした。今後は県や国が考えて、備蓄基地をあらかじめ設けて対応することを検討していく必要があります。

 とりわけトイレは重要です。発災当時はトイレもなく、避難場所も少なかったため、車で仮眠をとって、やむを得ず山の中で用を足していた、という状況もあったようです。しかし、若い人はそうした用の足し方ができず、その対策としてご飯を食べない、水を飲まない、ということもあったようです。

 住民の健康を守るためにも、トイレの整備は最低限かつ必須であり、優先して考えていかなくてはなりません。また、その際は、高齢者のことを考えて、和式でなく洋式のトイレをできるだけ充実させていくことも重要です。今回は洋式トイレについて100%のニーズは満たせなかったにせよ、かなり多く送られていました。これはよかった例であると感じています。さらには、道の駅のトイレも含めた防災機能も、より高めていくことが必要です。

 ――飲み水(上水)も届かないということもありました。さらに電信柱の傾きや倒れにより復興が妨げられる状況を見ていると、電線の地下化も本当に進めていく必要があるのではないでしょうか。また、能登復興事務所の範疇ではないですが、内灘町では、地盤沈下が激しい地域があり、輪島と同じように道路にアスファルトは敷いたが、復興そのものは手つかずの地域がありました(撮影したのは3月中旬段階)。家屋に赤紙、黄紙は貼っていますが……

 杉本 内灘町の一部は地震による液状化が生じ、地盤は未だ動いている状況です。その動きを調査しているため、未だ復興の手が付けられない状態のようです。


液状化の被害が生じた内灘町西荒屋付近(2024年3月19日、井手迫瑞樹撮影)


 ――視認できるほどのその地盤沈下が生じています。また、横に川が流れていますが、一緒に現場に行ったコンサルタントさんに聞くと川の高さはこれほどではなかったと話されていました。その横の道路や家屋が下がり、川の位置が高くなっている可能性があるわけです

 杉本 もともと、あそこは沼地や砂丘地でした。そのため、水の作用にで、上の地盤が沈下してしまう現象が生じています。そうしたメカニズムはわかっていますが、その動きや地盤沈下量については詳細調査が必要なため、対策に時間がかかっているのだと思います。

 その地盤の動きが分からないため、上下水道の復旧に躊躇しているのだと思います。ただ上水道はおおむね回ってきているはずです。

 ただ、下水道の復旧に時間がかかっていることや、宅内の水道の損傷が大きいことからなかなか復旧が進まないようです。

 ――最後に今後の工事上の課題について、半島部の震災の復興ということについては初めてのケースになると思います。半島を貫く道路が少ない中でどのように復興していくのかというのは、半島部の多い日本にとっては試金石にもなると思います。多くの知見を期待されていると思います

 杉本 道路の負荷を減らすためにも、港湾を有効活用したいと考えています。がれきの撤去もそうですし、戻ってくる際は必要な資材の運搬を行っていただくことを期待しています。最盛期には1,000件ぐらいの工事がでますから、人も物も入り乱れて道路だけでは輸送が飽和してしまいます。そうした工事計画も今から考えていき、効率的な工事になるようにしていきます。

 ――ありがとうございました


着々と復旧は進んでいる

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