Interview

「高強度繊維補強セメント系複合材料の設計・施工指針(案)」(VFC指針(案))の詳細について

2024.11.12

繊維の配向性 施工時の詳細が大事 設計から施工全てが問われる材料

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UHPFRC VFC指針(案)
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>内田 裕市氏

土木学会 コンクリート委員会
高強度繊維補強セメント系複合材料の構造利用研究小委員会
委員長
(岐阜大学 特任教授)

内田 裕市

 土木学会 コンクリート委員会 高強度繊維補強セメント系複合材料の構造利用研究小委員会(委員長=内田裕市・岐阜大学特任教授)は2022年5月に発足し、従来のFRCとUFC、あるいはHPFRCCの間の領域を埋めるべく、様々な調査研究を行ってきた。その結実が先ごろ上梓された「高強度繊維補強セメント系複合材料の設計・施工指針(案)」(VFC指針(案))である。同指針では、UFC指針(案)では許容されなかった鉄筋の使用なども認められている。圧縮強度も60N/mm2以上というひび割れ発生後に繊維による引張分担(架橋効果)を期待できる最低限の数値以外、特に上限は決めておらず、設計の自由度を高めている。但し、既往の現場や調査結果から、性能に大きな影響を与える「配向性」および「配向係数」については詳述されており、また性能を発揮するための施工の重要性などについても「継目」など様々な注意点について記されている。その内容について内田委員長に聞いた。(井手迫瑞樹)

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VFC 圧縮強度が60N/mm2以上

VFC 圧縮強度が60N/mm2以上

従来のFRCとUFC、あるいはHPFRCCの間の領域

 ――指針(案)の策定目的。また、VFCの定義、HPFRCCやUFCなどとどう違うのか

 内田 VFCは「Very high strength Fiber reinforced cementitious Composites」の略称です。圧縮強度が60N/mm2以上であり、ひび割れ発生後に繊維による引張分担(架橋効果)を期待するものです。この図は、横軸が圧縮強度、縦軸がじん性を示しています。60N/mm2以上と定義したのは、60N/mm2程度までは従来の繊維補強コンクリート(FRC)でカバーできますが、繊維による十分な架橋効果を期待するためには、マトリクスにも強度が必要であり、そのために圧縮強度に下限を設定しました。

 土木学会からは、2004年に圧縮強度150N/mm2以上の超高強度繊維補強コンクリート(UFC)の設計施工指針(案)が出ています。また、引張応力下において非常に延性的な挙動を示す複数微細ひび割れ型繊維補強セメント系複合材料(HPFRCC)があり、2007年に設計施工指針(案)が出されました。


これまでに出版された指針


 HPFRCCに該当する材料の中には、圧縮強度が60N/mm2をはるかに超える材料もあります。例えば、NEXCO各社や北海道などで実績のある「J-ティフコム」がその例です。

 
J-ティフコム施工例


 しかし、高強度で複数微細ひび割れ型にするには、かなりの繊維量が必要となります。また、VFCでは粗骨材の有無は規定していませんが、一般的に粗骨材を使用すると、その部分には繊維が存在しないため、繊維の架橋効果が低下する傾向があります。


VFC適用範囲のイメージ


 この図から分かるように、従来のFRCとUFC、あるいはHPFRCCの間の領域が大きく空いており、この領域をカバーしようとしたものがVFCです。

CORE技術研究所 混ぜることで......強化 モルタルコンクリートの長寿命化を実現 超緻密高強度繊維補強コンクリート『J-THIFCOM』

粘性の高いマトリクスが製造可能

鉄筋の使用を認め、鉄筋を残しつつその量を減らすかたちでも使用

 ――短繊維を均一に分散させるためには?

 内田 短繊維をマトリクス(モルタルあるいはコンクリート)中に均一に分散させるためには、練り混ぜ時に繊維に対してせん断力を与えてバラバラにする必要があります。そのためマトリクスには高い粘性が必要です。繊維補強コンクリートが登場した当初は、粘性を上げるには細骨材率を上げることくらいしかできませんでしたが、最近の化学混和剤の高性能化により、セメント量を増やし、さらに粉体混和材を利用することで、粘性の高いマトリクスが製造可能となりました。その結果、細い繊維を大量に混入しても均一に練り混ぜることができ、ひび割れ発生後も繊維による引張分担が可能になったのです。

 UFCはその性能を最大限に発揮する材料と言えますが、材料特性を担保するために圧縮強度を150N/mm2以上とし、繊維の種類や混入量も限定しています。また、初期の熱養生を原則とするため、基本的にプレキャスト部材に使用され、鉄筋の使用も認められていません。現状ではUFC材料としてはダクタル、サクセム、スリムクリートの3種類しかなく、新たなUFCは開発されていません。

 VFCは圧縮強度の下限を60N/mm2としていますが、これは先ほどもお話したとおり最低限の性能を担保するためです。また、鉄筋の使用を認め、鉄筋を残しつつその量を減らすかたちでも使用できます。つまり、適用範囲が大きく拡大された訳です。

 例えば、PC定着部や部材の隅角部などでは、UFCを使用していても、用心のために鉄筋を入れたいという場面がありました。しかし、UFC指針では原則としてそれは認められていません。本指針の開発当初はUFCとの棲み分けのために圧縮強度の上限を150N/mm2とすることも議論しましたが、UFC材料の利用拡大も想定し、圧縮強度の上限は設定しないことにしました。さらに、熱養生も必要条件とはせず、現場打ちにも適用できるようにしました。

新たに配向係数を導入

コンクリート内の繊維が一定方向に並んでしまう現象

 ――これは大きいですね。現在、鹿島建設や大林組、三井住友建設などでは、現場打ち向けにUHPFRCのような高強度材料を使用しています。J-ティフコムやESCON、デイ・シイの材料もUFCほどの強度は出ませんが、それに近い強度を有しています。床版の継手部や、半断面PC床版の縦継目部、沓座コンクリートなど、薄く壊れやすい箇所や、床版上面の補修にも使われるようになっています。これは、指針より現場実務の方が先行している形になっていますが、VFC指針によってそれが明確に定義されるのは良いことですね

 内田 VFC指針は、闇雲に従来の制限を外したわけではなく、実際に試験をして確認したうえで適用することを原則としていることを忘れないでいただきたと思います。


ESCONの施工例 暑中時の施工のためコンクリートの打設面はエポキシ系接着剤を使っている(井手迫瑞樹撮影)

東日本高速道路の大規模更新における床版目地部の施工状況(大成建設提供)


 ――VFC指針(案)の章立てと、各章の大まかな内容について、特に読んでもらいたい部分を教えてください。

 内田 章立ては全17章です。特に読んでほしいのは、第1章「総則」の「適用の範囲」、第4章「性能照査の原則」の「配向係数」、第5章「材料」の「材料の設計用値」、そして第16章「施工」の「運搬・打込み・締固めおよび仕上げ」、「継目」です。特に、VFCおいて重要なのは繊維の配向性です。


VFC指針(案)目次


 ――具体的にはどういうことでしょうか?

 内田 先ほどもお話したとおり、UFCもそうですが、VFCは一般的に粘性が高く、高流動コンクリートとして使用されます。そのため、打込み時にはVFCが型枠内を流動します。その結果、コンクリート内の繊維が一定方向に並んでしまう現象が発生します。これが配向性です。


透明なモデルコンクリート中の繊維の配向
実際のVFC中の繊維の配向


 上の写真を見てください。これはVFCの引張特性を評価するための10×10×40cmの曲げ供試体を模擬した透明な型枠に繊維を混入した透明なモデルコンクリートを右端から流し込んだ状況です。型枠の底面では繊維が水平方向になっていますが、上部では繊維が進行方向に向かって下から上に浮き上がるようになっていることが確認できます。

 この供試体をそのままの向きで曲げ試験を行うと、下部では繊維が水平方向に配向しているため、繊維の架橋効果がフルに発揮されますが、上部では繊維が鉛直になっているため、架橋効果は期待できません。実際の材料試験では、供試体を長手方向の軸を中心に90°回転させて載荷しますので、断面の上下の配向の違いは解消されますが、幅方向の配向の違いは依然として影響します。設計では、このような配向を有する供試体から材料特性を求めてそれを使用する訳ですが、当然のことながら供試体中の繊維の配向と実際の部材中の配向は異なります。そこで、新たに配向係数を導入し、材料試験で得られた引張特性に配向係数を掛けて設計に使用することとしました。

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