横河ブリッジ 中村 譲社長インタビュー
売上げは1,000億円が見えてきた
売上げは1,000億円が見えてきた
大規模更新事業の受注増が必要
――1,000億円が見えてきましたね。
中村 発注単価が上がっていますが、やはり1,000億円というのは一つのステータスではあるので1,000億円を達成するための構想をしています。今年度はその足がかりにしたいと思っています。
――1,000億円を達成するのに必要なことはなんだと思いますか。
中村 保全事業の拡大が必要であり、特に大規模更新事業の受注増が必要と考えています。
研究開発はDXが大きなウエイト占める
鋼橋の補強ができる能力を大規模更新受注の強みとして生かす
――設備投資計画や研究開発予算についても教えてください。
中村 設備投資計画は大きな設備投資はひと段落しており、保有設備の更新・修繕関係が大きな割合を占めているため、前年並みの予算となっています。
研究開発費はここ数年上昇しており、今年度はDX関係(安全含む)が大きなウェイトを占めています。
建設DX (左)アバター会議システム (中)四足歩行ロボット (右)AI配筋検査
――近年ではゼネコンの受注が目覚ましいと思うのですが、今後鋼橋ファブとして大規模更新にどう向きあいますか。
中村 当社はこれまで単独で取り組んでいましたが、ここ数年は、大手ゼネコンとのJVを組んでいました。床版取替えは鋼桁の補強がつきものなので、その分は当社の出番もあるのですが、今後、売上を伸ばすことを考えると床版についても請け負える体制を整えなくてはいけないと考えています。
床版製作の自社工場も検討しなくてはならないと思いますが、工場を動かすために仕事を継続的に受注しなくてはならず、固定費がリスクとなる恐れがあります。今のところは工場を持つのではなくて、製作の部分は外注し、今まで培った現場施工のノウハウを武器に受注に重点を絞る方向で進めていきたいと考えています。
発注者からは鋼橋の本来の設計や蘊蓄がわかる会社に床版取替えをしてほしいという声を聞くこともありますので、床版取替えがコンクリートだから関係ないという訳ではなく、今後ますます案件が増えてくると思いますので、鋼橋製作・架設で培ってきた現場のノウハウを武器として受注していければと考えています。
プレキャスト合成床版(横河ブリッジ製品名:プレキャストパワースラブ)を牛久高架橋の一部で採用
継手は高力ボルトで、底鋼板を接合している
――壁高欄に関して、横河ブリッジは自前でプレキャスト壁高欄の研究を進めていますよね、床版に関してはそういう自前の、むしろつくってもらうのは地方のプレキャストを作るような会社に頼めば良いのですが、そのレシピというのは自分でつくらなければいけないと思います。また、いろいろな会社がここにきて様々な継手工法を床版取替えの技術として開発していますが、横河としてその辺はなにか展望はありますか。
中村 現在、圏央道の牛久高架橋で8橋を施工しています。床版はプレキャストPC床版でしたが、試行的に1橋のみプレキャスト合成床版が採用され、当社製品(プレキャストパワースラブ)で実験・検証して施工しました。
プレキャスト合成床版
見た目は通常の合成床版と同様で、継手部は高力ボルト接合になっています。事前にコンクリートと一体化されたプレキャスト合成床版を架設し、継手部の底鋼板を高力ボルトで接合して、鉄筋を配置してコンクリートを打設するだけなので、工程がスムーズであり通常のプレキャストPC床版と同様に生産性は向上します。
プレキャスト壁高欄の試験状況
プレキャスト鋼・コンクリート合成床版 コストはプレキャストPC床版とほぼ同等
NEXCO中日本発注稲荷坂橋で使用
――プレキャスト合成床版のコストは従来のプレキャストPC床版と比較して安くなるのでしょうか
中村 コストに関してはケースにもよりますが、ほぼ同等か若干安くできる可能性もあります。
コスト以外に、耐久性や施工性、また部分取り換えが可能というメリットもあります。プレキャストPC床版はどうしても横締めケーブルが入るので、その一部が傷んだりして、取替えが必要になった時にはケーブルがあるため部分的に切れません。プレキャスト合成床版は横締めケーブルがなくボルト接合のため、拡幅や取替などがあった場合、一車線だけを規制して取替えるということが可能なので、需要があると考えています。地方では、例えば下り線を施工する場合、上り線は全面通行止めに切りかえて工事を行なっていますが、都心部になると、片側の全面通行止めが行えずに車を通しながら工事を行う条件となることが多くなりますので、一車線ごとに取り替えられるプレキャスト合成床版は強みになると考えています。
開発は進んでおり、NEXCO中日本の更新工事の現場である八王子市内の稲荷坂橋で採用することが決まっています。中央分離帯付近を先に施工し、5回ほど車線規制を切りかえて床版を取り換えるため、プレキャスト合成床版が採用されました。
海外市場 下請工場の技術力向上、維持のためにも継続して仕事を受注することが大事
斜張橋など大型案件にターゲット
――海外事業についてはどのように考えていますか。
中村 ODA 案件では、三井住友建設さんとのJVで取り組んできたミャンマーの新設橋梁工事(18,000t)が無事5月に終わりました。当社が担当した事業規模としては、ストーンカッターズ橋と同程度となりました。
コロナ禍の影響もあり、多くのODA 案件において発注時期が遅れていたこともあり、今年度は大きな手持ち案件はなく、バヌアツのテオウマ橋などをサブコンとして施工しています。今後はバングラデシュやフィリピン、ケニアなどのODA案件を中心に取り組んで行く予定です。バングラデシュでは、今後の案件に取り組むためにダッカ支店の開設も視野に入れています。フィリピンにおいても複数のODA大型案件が見えており、受注に向けて営業活動に注力しています。
――横河ブリッジが製作工事を発注する工場というと、海外ではどこになるのでしょう。
中村 これまでの実績で最も多いのはベトナムですね。バングラデシュ案件については現地ファブでの製作も念頭に置いています。当社は海外工場を保有しないファブレスとなりますが、製作指導を通じて現地ファブの技術力向上を図り、案件ごとに複数の提携現地ファブを使い分けることによってコストダウンを図るといった強みがあると思います。ただし、海外の工場は、人が入れ替わってしまうとまた一から育てないといけないリスクもあります。そのリスクを減らすためにも、例え小さい物件であっても継続的に現地ファブに発注することが必要だと考えています。
海外橋梁施工事例(バングラディシュ・モドゥモティ橋)
中国池田IC〜宝塚IC間橋梁更新工事はほぼ完了
道央道メップ川橋東地区原形復旧工事 難しい塗替え、耐塩塗料を採用
――新設、保全、大規模更新で、それぞれトピックとなる現場を教えてください。KEROやcusa、耐震デバイスなどの付属物も育ってきていると思うのですが。
中村 新設では先ほどお話しした牛久高架橋の1橋でプレキャスト合成床版を施工しています。また橋脚と鋼桁の剛結構造でしたので、形状管理に配慮して施工しました。
大規模更新では、中国自動車道中国池田IC〜宝塚IC間橋梁更新工事です。現在の進捗状況ですが、最後の中央分離帯の付属物、地覆やガードレール等の工事を行なっており、年内ぐらいにほぼ目途がつく状況です。車線規制しながらの工事でしたが、正月とゴールデンウイークと盆休みには一旦交通開放しなくてはならない条件であったことが一番苦労した点です。
中国道の大規模更新
次に、道央道のメップ川橋東地区原形復旧工事ですが、現在、3径間のうち残り1径間が残っている状況です。メップ川橋は、海岸より近く海風による塩害を受けやすい環境に架橋されております。また、高架下に鮭の遡上するメップ川があり、水洗いによる作業ができないため、環境性を考慮した塗膜剥離工法が課題となりました。
着工前のメップ川橋
ブラスト施工状況および完了状況
塗装施工状況(左)および完了状況(中、右)
現地での様々な試験施工の結果、塗膜剥離には循環式ブラスト工法を採用し、照射時間を通常よりも長く照射させることで付着塩分を除去するとともに、残存塩分による再発錆を抑止する目的で耐塩害性塗料を併用採用した工法としました。
最後に東海環状自動車道岐阜IC東工事、西工事です。横河ブリッジとIHIインフラシステムとのJVで受注した現場です。通常、この規模のインターチェンジは4工区くらいに分割して発注されることが多いと思うのですが、今回は2工区で発注され、当JVで両工区を施工しています。細幅箱桁や鈑桁が採用されており、18橋で鋼重は約1万2000tに達するものでした 。工程は終盤に差し掛かっています。桁架設が終わり、床版も打ち終わって、壁高欄を一部、両方の工区で施工しています。架設はトラッククレーンベント工法でしたが、橋脚高が30m近くあり、複数の橋梁を同時に施工する必要があり、作業ヤードの調整に苦慮しました。この工事を複数のJVで施工していたら大変だったでしょうね。
保全に関しては首都高の神奈川2号三ツ沢線大規模修繕があります。横浜駅の北西口付近で常設足場cusaを河川上に2層構造高架橋に設置するというものです。同橋の桁下にはもともとルーバー(景観対策品)が設置されていましたが、これが支障となって、主桁間の高所作業車や機械足場による近接調査や点検が困難となっておりました。また、同橋は河川上に位置しており、防錆管理上の桁保護や、上層高架橋は下層道路の直上であり、点検の制約が大きく、これらの対策が求められていました。そのため、維持管理性の改善を図るためcusaが採用されました。cusaはアルミ合金製のフラットなパネルを敷き並べた構造で、通行性が良く、長期耐久性のある製品です。この現場の請負額は65億円くらいで、本年度内に終わります。
ちなみに常設足場cusaとは、橋梁の定期点検や維持修繕作業で使用でき長期間設置されるアルミ合金製の足場です。桁を覆い劣化因子の排除が可能なため、桁表面の劣化を防ぎ、健全な状態を保つ保護パネルという機能を持ち合わせています。そのため、鉄道上や河川・海上、道路立体交差の橋梁での採用が増えてきています。近年、コンクリート床版の劣化による剥落といった現象もあるようですが、その剥落片を受け止める能力もあります。また、壁高欄の点検が容易な側面パネル開閉ユニットや、裏面吸音板の機能を持たせたもの、景観性をたかめる側面パネルなど、ラインナップを増やしています。今後も橋梁管理者のニーズを伺いながら付加機能を整備していく予定です。
cusaの設置例
災害復旧面では球磨川の水害で流された橋梁の架替えにおいて、沖鶴橋などの製作・架設にも参画しています。
沖鶴橋(井手迫瑞樹撮影)