Interview

新春インタビュー① 佐々木葉 土木学会会長インタビュー

2025.01.01

新しい時代に必要なのは多様性

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2025年新春インタビュー
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景観や安全に配慮した 被せるだけ! 接着剤、充填剤不要!

習慣モードからデザインモードに変わることが必要

習慣モードからデザインモードに変わることが必要

 ――日本もインバウンドなど観光が主産業化していく中、そういう意味でも土木が形作る景観というのが重要だと思いますがいかがでしょうか

 佐々木 インバウンドのような短期的な盛り上がりに左右されるのはどうかな? と思います。土木における景観はもっと深いところを見る必要があります。美しい橋にしても、大きなダムにしても、それは何かをなすための手段であることが第一の理由です。構造物として見るために作ったわけではなく、生活や産業に必要な用水を得るなどのために作ったものであるわけです。そうした観点から構造物はそれが生み出した結果をふくめて「見て」欲しいですし、作る側も、「見られる」ものとしてつくって欲しいと思います。

 ――最後に土木業界の担い手不足や若手研究者の意欲の喚起について土木学会がなすべきことは

 佐々木 習慣モードからデザインモードに変わることが必要だと思います。

 例えば人手不足に関しては、今までの仕事の量がおかしいのであって、「それを減らすように努力しようよ」、ということです。発想の転換です。人手不足は会社だけでなく、我々のような研究機関も同じような状況です。忙しさが常態化している結果、生産性はむしろ悪くなっています。

 仕事の出し方、もしくは受け方も「本当はおかしいのではないか?」と一度立ち止まって考えてみるべきなのです。「人手を補う」のではなく、無理をしない仕事を出す、あるいは受ける発想に変えていく。いきなりはそうできないかもしれませんが、少しずつ変えていく努力はするべきでしょう。これも「デザインモード」です。

 イベントで行われるパネルディスカッションもそうです。出る人は全員スーツ着てネクタイしなくてもいい、多様なファッションで出てもいいし、その結果スーツにネクタイを選んでもいい。小さい経験を積み重ねていくことが、実は重要なのだと思います。パーッと変えようとしても変わりません。


記念式典での成果発表の一場面 多様なファッションで出てもいい


 ――土木学会ってフリーなディスカッションができる場じゃないですか。つまり予算とか上下関係とか受発注という意味でも。本来は関係に束縛されず、色々な提言ができる会だと僕は思っています。

 佐々木 はい。

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提言をなすことも必要

カーボンニュートラルへの取組み

 ――九州北部水害の時、上・中流域の小規模橋が軒並み崩れており、極端に河積阻害となっている橋梁であったり、パイルベントの貧弱な橋脚であったり、あるいは耐震性でのみ基礎形式を決めており、水が入ると地盤がもろくなる基礎を直接基礎で施工している個所が崩れてしまっていました。以前、当時の土木学会でそうした箇所に、もっと必要性を喚起するよう学会として何かすべきではないのか質問しましたが、「予算の問題」を出されていました。私はこれには少し違和感を感じました。
 翻って、担い手不足の問題や働き方改革の問題についても、土木学会としても、会長が先ほどお話しした仕事の総量を減らすという改革は時宜を得ています。仕事は膨大で予算がついても労務費や材料費が高騰して、予算当たりの仕事量は減っています。あまりに効率的に働かせようとしすぎると、人は疲弊します。
 そんな状況ですが高速道路の大規模更新、4・6車線化のみならず防衛省の駐屯地施設のリニューアルまで出てきています。いずれも必要なことではあります。ただし、人的資源が払底しているこの状況では、いくら予算を付けても思う通りには進まない可能性があります。こうした際に、土木学会には忖度の無い提言をして欲しいと思いますが、どうでしょうか

 佐々木 10月にアメリカの土木学会の総会に招かれましたが、ちょうどその時、超大型のハリケーンがメキシコ湾沿岸部を襲い、ほとんど催しは行われず帰ってきました。アメリカの土木学会はロビー活動もしているとのことです。

 ロビー活動というのが具体的にどういうことなのか私は全く理解していませんが、日本の土木学会にもそうした面が必要なのかもしれないですね。これまでも土木学会はたくさんの提言を出していますが。

 実際に国や社会を変えていく実効力をもつ提言をなすためには、それを目的としたタスクフォースを組織していく必要があるかと思います。

 例えばカーボンニュートラルを考えてみると、国際コンクリート連合の会長も務めた春日昭夫(三井住友建設 フェロー)さんも仰られていますが、同取組みは建築学会に比べて、土木学会は非常に遅くなっています。建築はクライアントが「カーボンニュートラルでないと、うちのビルは駄目だ!」 ということを施主が要求しています。これはなぜかというと取り組まないと銀行融資などが止められる社会のメカニズムがあるわけです。

 対して土木学会は、個別にはCO2吸収コンクリートなど要素技術がいろいろありますが、ルールの確立は未だなされていないように見受けます。

 大阪湾岸道路西伸部の中でカーボンニュートラルの位置づけを聞いたのですが、「いや、あんまりない」と。一番大きな施主である国や高速道路会社がそれを、少なくともルールとして掲げていない。それでは進みません。これについてはもう少し声高に提唱していっても良いかと思っています。

なんかこれって楽しいなという思いを持ち続けて

 ――担い手不足の問題はどうですか

 佐々木 その問題は、実は土木学会の活動にも地味に影響が出てきていますようにおもいます。2024年問題における労働時間の短縮のため、特に企業の皆さんは仕事の一部として学会活動に参加する時間を確保することが難しくなるのではないでしょうか? 大学のメンバーも忙しすぎて、十分時間を割けなくなっている気がします。

 ――最後に若手技術者や学者の奮起について

 佐々木 安全で効率的な働き方や研究を皆さん選びがちですが、私はあえて、土木学会を通じて縁や偶然に出会った人々や経験を糧に開発や研究を行うというのも大事ではないかと考えます。


土木学会110周年事業として「20年後の土木技術者像を描く」の議論のために集まった30代の会員たち


 ――会長も建築業界から土木業界に入った方ですよね

 佐々木 そうです。もうフラフラと素敵な先生や技術者の皆様を知り、私を知っていただいた結果が今日となっています。何の苦労もしてないのですよ。本当に。効率やリターンなどは考えず、楽しいな、と思う研究分野や開発対象を見つけてきた。その中で楽しく仕事を続けてきたら、自然と道が見えてきた感じがしています。そういう生き方もある。そのためには、いわゆる権威とかお墨付きとかではなく、自分が感じて「なんかこれって楽しいな」というセンスオブワンダー的なものをどれだけ大人になっても持ち続けられるかなっていうことが、大事なんじゃないかと思っています。

 ――ありがとうございました

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