Interview

国土交通省関東地方整備局 岩﨑福久局長インタビュー

2025.01.01

人口減少の中、災害やインフラの老朽化に対応するための体制の維持と確保

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2025年新春インタビュー 国土交通省
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予防保全を進めるだけでなく、八方向作戦での啓開を訓練

流域治水対策や気候変動を踏まえて河川の整備を重点に置きたい

 −−近年、水害による河川氾濫や土砂崩壊のリスクも無視できません。こうした状況に対し、道路や河川の損壊を防ぐため、どのような予防保全的対策を行っていくべきとお考えでしょうか。のり面や自然斜面、河積阻害率の高い橋梁の架替えなどのハードウェア的な対策や避難計画や孤立集落対策の充実などのソフトウェア対策なども含めてお答えください

  岩﨑 気候変動の影響に伴う自然災害の激甚化・頻発化によって、毎年のように全国各地で水害が発生しております。近年の水害の激甚化・頻発化や、将来的な気候変動の影響を踏まえますと、ハード対策に加え、流域のあらゆる関係者が協働する、「流域治水」の取り組みの深化が必要となっております。

 その中でハード対策としては、河川の整備だけではなく、流域に降った雨を上流で貯めたり、あるいは降った雨が河川へ流出する時間を遅らせるため、流域の中で貯め込んだりする等の取り組みを進めていきたいと思っています。

 

「流域治水」の取り組み


 

 ソフト対策においては、まずは避難してもらうことが大切ですので、そのための施策を行っています。近年、集中豪雨等による水害が頻発しており、洪水時の被害を最小限にするためには、平時より水害リスクを認識したうえで、氾濫時の危険箇所や避難場所についての正確な情報を住民の方々に知って頂くソフト対策が重要です。

 大雨が降った際に河川の水が今どのくらい上昇しているのか等を示すための「水害リスクライン」を整備するとともに、関東地方整備局では、住民一人ひとりが自ら考え命を守る避難行動をとるための一助として、自分自身や家族がとる標準的な防災行動を時系列的に整理する「マイ・タイムライン」作成が推進されるよう支援しています。

 また、河川の主要事業で中川・綾瀬川緊急流域治水対策プロジェクトのお話をしましたが、ハード対策だけでなくソフト対策も進めて頂くためには、首長に意識を持って頂きたいと考えており、令和6年8月にシンポジウムを行って「これから流域治水を進めていくぞ」と首長の皆様と一緒に宣言をしました。

 流域治水は、水害への備えを行政の取り組みだけでなく、地域の住民の皆様や企業など全ての関係者が自らの水災害リスクをしっかりと自分事として捉え、考え、行動することが重要です。

 


 

 また、国道20号法雲寺橋や国道51号神宮橋では、台風や地震による被災の復旧に合わせて架け替え対応しております。

 

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技術提案交渉方式(ECI)の活用

施工者の知恵を設計に反映

 −−熊本地震や、能登半島地震の記憶も新しいところですが、こうした地震災害の備えとして、道路や河川、港湾といったインフラのハードウェア的な対策、ソフトウェア的な対策をどのように進めていますか

 岩﨑 道路、河川、それぞれ地震対策というものをしっかり進めていくことが重要だと考えます。予防保全的に各構造物の耐震性を高めるということが大切です。施工条件が極めて厳しい渡河橋の橋脚補強や段差防止構造の施工にあたり、民間技術が活用しやすい技術提案・交渉方式(ECI方式)による発注の採用等にも取り組んでいます。



 

 耐震性を高めるということに加えて、今後、発生が懸念される首都直下型地震には,道路啓開計画(八方向作戦)を策定し、地震発生後48時間以内に都心への各方向最低1ルートの道路啓開を目標としています。また実行力を高めるために様々な訓練を繰り返して行っております。

 

道路啓開計画(八方向作戦) 


 


 

 首都直下型地震発生時における円滑な災害対応を目的に、昨年10月には実動訓練として、関係機関との連携を図る情報共有訓練、屋上のヘリポートからヘリコプターに搭乗し、被災状況調査を行う訓練、道路啓開の訓練等を協力会社も含め行いました。

 


 

 さらに通信状況が途絶した場合でも情報収集が行えるようKu-sat及び低軌道周回衛星を活用した衛星通信装置の設置訓練を行っております。また、災害時には小回りがきき、渋滞をさけ現場にいち早く到着できる三輪トライク乗車の訓練も行っています。

 

三輪トライク


 

 令和6年1月1日に発生した能登半島地震では、半島という地形的な条件から、災害対応における様々な課題が指摘されており、政府においても初動体制や被災地の現状把握、自治体への支援活動等について、検討が進められています。関東地方整備局でも、このような厳しい条件下にある地域において円滑な災害対応を実施するため、令和6年3月に「能登半島地震を踏まえた災害対応検討ワーキンググループ」を設置し、房総半島をモデルケースとした検討を進めています。

 


 

 海からという視点でいくと、命のみなとネットワークという取り組みがあります。大規模地震や豪雨による洪水・土砂災害等により陸路が寸断して孤立した被災地において、海上輸送を活用した緊急物資や生活物資、救援部隊や被災者の輸送等の事例が増えつつあります。こうした状況を踏まえ、“みなと”の機能を最大限活用した、災害対応のための物流・人流ネットワークを「命のみなとネットワーク」と名付け、このネットワークの形成に向けた取組を各地域で進めており、その訓練も行っております。

 

インフラメンテナンス国民会議

各自治体がメンテナンスと向き合うことが必要

 −−基礎自治体の財政力の低下とインフラの老朽化が進んでいます。関東地方整備局が点検代行や修繕代行を行なった現在進捗中の構造物について教えてください。また、今後の傾向や基礎自治体のインフラマネジメントの保全支援についても、整備局として行っている効果的施策や新しい取り組みなどがあれば教えてください

  岩﨑 直轄診断及び修繕代行では、関東道路メンテナンスセンターが中心となって自治体の支援等を行っています。

 



 

 各都県の道路メンテナンス会議にて支援策を継続して案内するとともに、いつでも対応できるように技術力も継続して向上を図っているところです。近年の事例では埼玉県秩父市が管理する秩父橋の直轄診断、修繕代行を行いました。

 


 

 インフラの老朽化対策については、産学官民の技術や知恵を総動員して解決する「インフラメンテナンス国民会議」(H28.11)が設立されております。

 


 

 自治体の課題解決に向けては、民間の技術を活用して自治体を支援する「関東地方フォーラム」(H30.3)、効率的・効果的なインフラメンテナンスをトップダウンで強力に推進する「インフラメンテナンス市区町村長会議関東ブロック」(R4.4)が設立され、活動が進められています。

 いずれの活動も、計画・構想段階から関東地方整備局が積極的に協力させていただき、企画立案の支援、会議やイベントにおける講演、関係機関との連絡調整、情報提供・情報発信などを行っています。

 


 

 このインフラメンテナンス国民会議の仕事は公共事業企画調整課長の時にも行っておりまして、関東の会員数は増えてはきましたが、全国的に見るとまだまだ少ないです。要望などに来られた首長には積極的に入っていただきたいとお誘いをしています。

 

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