国土交通省中国地方整備局 林正道局長インタビュー
概要動画Overview Video
中国地方は、自動車産業や造船といったの製造業を主とした瀬戸内海工業地域が広がっており、産業が盛んな地域である。一方、平野の少ない山岳地で干拓地が広がり、大雨による土砂災害につながりやすい地域である。さらなる地域の発展、また防災や災害への対応、さらにDXの活用等を林正道局長に聞いた(取材日令和6年12月5日)。
直轄国道1,938km、河川13水系約870kmを管理
斐伊川の治水事業での経験
ヤマタノオロチに例えられるような大河川大氾濫の多い河川でのプロジェクト
−−建設分野にご興味を持たれたきっかけと、大学時代に学んだこと、現在までのご経歴、心に残っている現場や業務について教えてください
林正道局長 土木に進んだきっかけは、分かりやすくて大きいものというところに魅かれて専攻を決めました。大学ではコンクリート工学の研究室に入り、岡村甫先生、前川宏一先生の下、有限要素法(FEM)で、コンクリートを破壊せず、解析で様々なことがわかるようなプログラムを作って、その末端の部分で、部材に圧力やせん断力を働かせたときに、どのくらいで壊れるとかいう実験を行い、データを取るというような研究をしておりました。
経歴ですが、外務省に出向して、サウジアラビアの日本大使館で、ヨーロッパやアメリカとか、違う世界を見ることができました。自然も文化も違い、「こういう世界があるのか」ということがとても勉強になりました。
心に残った現場は、平成20年から出雲河川事務所の所長をやっておりまして、斐伊川の治水事業を担当したのですが、斐伊川は宍道湖とか中海が河口にある、もともとヤマタノオロチに例えられるような大河川で大氾濫が多いところであり、河川工学的にも面白い現場でした。プロジェクトという意味では、その斐伊川から隣の神戸川に洪水時に水を抜く放水路をつくる建設がピークになっていたので、事業を進める上でも面白かったです。さらに宍道湖と中海の間を大橋川という川がつないでいるのですが、大橋川を拡幅するということに対して地元の合意が得られていなかったため、鳥取県、島根県や松江市との合意を得るなど、プロジェクトを進めるための合意形成を行いました。そのような現場を2年間経験させていただいたことが印象深いです。
直轄国道1,938km、河川13水系約870kmを管理
山が多く平野が少ない地形による災害リスクへの対策
−−次に中国地方整備局の2024年度の道路、河川、港湾の管理状況と、地域特性や予算規模と、概要と主要事業を教えてください
林 管理状況ですが、河川は江の川や太田川などの一級河川13水系約870kmを管理しています。太田川の上流に位置する太田川水系の温井ダムなど、11のダムを管理しております。道路としては山陽側を走る国道2号、それから山陰側を走る国道9号が東西の幹線道路であり、山陰側と山陽側をつなぐ中国横断自動車道尾道松江線など一般国道15路線、それから高速自動車国道2路線、延長1,938kmの管理を行っています。
港湾関係については広島港など国際拠点港湾3港、それから重要拠点港湾14港、地方港湾3港を管轄しています。基本的には、通常管理は自治体が行うのですが、大規模な工事は国の方で行っています。
予算の規模としては、令和6年度5,157億円(前年比1.02倍)というのが中国地方整備局全体の予算となります。そのうちの直轄事業については約1,808億円(前年比0.97倍)。補助事業費3, 349億円(前年比1.04倍)です。
中国地方整備局の管轄として鳥取、島根、岡山、広島、山口の5県と岡山、広島の2政令市となります。地域特性ですが、瀬戸内側には自動車産業や造船等の製造業、瀬戸内海工業地域が広がっており、産業が盛んな地域であります。中国地方は山地が東西に延びていて、山が多い地形であり、山が海のぎりぎりまで迫っていて、平野が少ない。その中で、少しでも平地を確保するため、干拓地が広がっていて、特に瀬戸内海側の岡山や広島などは干拓を一生懸命行ってきた。そのような歴史がある地域であります。
地質的にも脆弱で、花崗岩が幅広く広がっているようなところ、それが風化して大雨が降ると土砂災害につながりやすい、そういうリスクのある地質になっています。
限られた平野の中に人が点在しているというような状況の中で、災害に関して近年中国地方では、平成26年に広島市で土砂災害、平成30年西日本豪雨によって高梁川の支川小田川等が氾濫して、倉敷市真備町での大規模な水害や広島県呉市等で土砂災害がありました。平成30年・令和2・3年には江の川で水害も発生し各地で記録的な災害が頻発しています。
主要事業としては、新規着手として太田川総合開発事業があります。現在、治水機能増強検討調査に着手しています。太田川下流でデルタ域の市街地は、江戸期~明治期に干拓により形成されたいわゆるゼロメートル地帯となっており、「拡散型」の氾濫形態を有するため、洪水によりひとたび氾濫すれば甚大な被害となります。洪水氾濫における甚大な被害を軽減するため、樽床ダムなどにおいて、事前放流など既存ストックを最大限活用する事を検討した上で、さらなる洪水調節機能の増強が必要な場合には、ダムの整備について検討を進めてまいります。
太田川総合開発事業(中国地方整備局提供、以下注釈なきは同)
道路ですが、山陰地方では鳥取県から山口県に至る山陰道の整備を進めています。山陰地方の経済・産業の発展や観光振興・沿線住民の生活を支える観点からも重要な道路であり、今年度は出雲・湖陵道路、湖陵・多伎道路が開通します。
山陰道計画図
山陰道 出雲・湖陵道路、湖陵・多岐道路
岡山都市圏において、岡山環状道路の一部を構成する岡山環状南道路を整備しています。周辺は、笹ヶ瀬川流域であることから岡山市の洪水浸水想定区域に指定されています。岡山環状南道路は盛土構造であり、浸水等に強い構造になっているため、周辺道路と一体となり幹線道路ネットワーク機能の確保が期待されています。
一般国道180号岡山環状南道路
一般国道2号広島南道路の事業ですが、広島都市圏における交通の円滑化、都市機能の向上を図ることを目的とした延長23.3kmの自動車専用道路となります。こちらを整備することで、適切な交通分担や円滑な交通が確保され渋滞の緩和が期待されます。
一般国道2号広島南道路
一般国道2号西広島バイパスは、国道2号の慢性的な交通混雑の緩和、交通事故の削減、騒音などの沿道環境の改善を図ることを目的とした延長19.4kmの道路事業です。現在は広島市中心部に向かう高架延伸部が舟入出口で途切れており、舟入出口付近で朝夕通勤間帯を中心とした渋滞が発生しています。都心部高架延伸の整備により、新たに5箇所の出入口を設置し、現在の舟入出口に集中している交通を分散させながら、広島市中心部に円滑に流入させることで渋滞の緩和が期待されます。
一般国道2号西広島バイパス
最後に港湾ですが、広島港は、背後に立地する自動車産業をはじめとする多くの製造業及び地域の経済・雇用の成長を支えるため、重要な役割を果たしています。国際海上コンテナターミナル事業では自動車部品等のコンテナ貨物需要の増大やコンテナ船の大型化等に対応するため、出島地区において岸壁延伸や航路・泊地の整備等、国際海上コンテナターミナルの整備を行います。ふ頭再編改良事業では完成自動車を輸送する自動車運搬船の大型化や、災害時における緊急物資輸送に対応するため、宇品地区において老朽化が進んでいる岸壁の改良・増深と耐震化を推進します。
本事業の推進により、自動車部品等のコンテナ貨物や完成自動車などの効率的な海上輸送を実現し、地域基幹産業の国際競争力の維持・強化に寄与します。さらに、大規模災害時における緊急物資輸送が確保され、地域の安全・安心に寄与してまいります。