国土交通省 関東地方整備局 野坂周子道路部長インタビュー
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国土交通省関東地方整備局は、直轄国道22路線、道路延長約2,429km、3,547橋、107か所のトンネルの管理を行っている。関東地方は全国のおよそ1割の面積に、4割近い人口と経済が集積し、首都中枢機能を担っている。渋滞対策や災害対策、安全対策等、道路行政がどのように対応していこうとしているのか、野坂周子道路部長に詳細を聞いた。
災害に備える国土強靭化、道路ネットワークの整備を推進
国道20号法雲寺橋・台風時の河積阻害を低減
新善波トンネルの土砂災害対策
−−大規模な風水害や地震などが全国各地で生じています。管内でも先の西日本大水害などにより大きな被災が生じたことは記憶にあたらしいところです。そうした洪水や斜面崩壊に対して橋や道路が損傷しないため、施している構造上および工事上の工夫について教えてください
野坂周子道路部長 「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策(令和2年12月11日 閣議決定)」を受けて、道路橋の耐震補強およびのり面防災等を実施し国土強靭化を推進しています。
推進にあたっては、東日本大震災を教訓として、高速道路や直轄国道の高架区間および盛土区間等の道路を津波や洪水時の緊急避難場所として活用する取り組みを推進しています。なお、一時避難スペースの確保は地方公共団体と連携しながら進めております。
関東地方整備局では首都直下地震の発生に備え「首都直下地震道路啓開計画」(八方向作戦)を策定しており、計画に基づき発災後48時間以内に道路啓開を図るため国道298号より内側の橋梁を優先して橋梁の耐震対策を進めています。
台風災害の備えとしては、国道20号の法雲寺橋(1959年に建設 橋長64mの単純プレストレスト・コンクリート(PC)床版橋)で令和元年10月の台風19号による笹子川の異常出水の影響で7基の壁式橋脚のうち右岸側の河道内に立つ2基が沈下し、路面段差が発生しましたが、新設橋の架設において橋脚数を減少させることにで河積阻害を低減し、異常出水による橋脚の逸失や損傷が起こらないように工夫しています。また、新設橋の供用により、耐震性や道路幅員、線形が改善され災害に対する強靱化が図られました。
(関東地方整備局提供、以下注釈なきは同)
のり面災害に対する備えですが、令和6年8月の台風10号に伴う前線の影響により、国道246号の新善波トンネル(神奈川県伊勢原市善波地先)厚⽊側坑口付近にて法面崩落が発生しました。
被災箇所周辺では最大時間雨量53mm、発災までの24時間連続雨量315mmの記録的な豪雨となり、発災前の豪雨パトロール(時間雨量30mmを超過した際に実施)では、のり面に変状等の異常は確認されていませんでしたが、被災後の調査結果で、記録的な豪雨により背後斜面から雨水が土砂中に供給され、地下水位・水圧が上昇し、地盤の抵抗力が低下したことが原因となり法面崩壊が発生したものと考えられました。調査結果を受けて、関東地方整備局としては、同様の被害が想定される地形・構造物について緊急点検を実施しています。
今回の新善波トンネル坑口法面における応急復旧に当たっては、建設会社18社、建設コンサルタント3社の協力を得て、早期交通解放を目指し昼夜間施工を実施しました。夜間における土砂撤去作業では安全確保のため無人化施工にて作業を実施するなど、二次災害にも十分配慮いたしました。復旧にあたっては、排水機能を強化し、法面の安定を目的にアンカーを打ち込むなど、坑口法面の強化を図っていきます。
横浜国道事務所のHPには、発災から交通解放までの経緯と協力した企業が活動した資料を掲載しているhttps://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000893741.pdf

東関東自動車道水戸線(潮来〜鉾田)が令和8年度に開通予定
新山梨環状道路(桜井〜塚原)が新規事業化
−−2024年度の重点道路事業建設の計画と進捗状況、また新規事業化区間について(2024年度の区間、延長、構造物比率、特徴)教えてください
野坂 東関東自動車道水戸線(潮来〜鉾田)ですが、用地の明け渡しが順調な場合、全線開通は令和8年度の見通しとなっており、開通に向け、橋梁上部工事や改良工事など、全面的に工事を実施しております。また、北浦IC(仮称)~鉾田IC間は前倒しで令和8年度半ばの開通を目指します。
北関東における圏央道外側の高速道路で唯一の未開通区間ですので、当該路線の開通により、災害時のリダンダンシー確保や茨城空港や鹿島港などへの拠点アクセスが向上し、物流効率化やインバウンド需要に向けた観光支援に期待しております。
圏央道(横浜環状南線、横浜湘南道路)は大規模なプロジェクトです。横浜湘南道路における横浜湘南道路トンネルにおいては、2機のシールドマシンで工事を実施しており、1台は藤沢立坑で再発進の準備をしており、 もう1台は発進立坑付近において地中接合を施工中(11月19日時点)です。横浜環状南線釡利谷庄戸トンネル工事はNATM工法では世界最大級の大断面となります。周辺が住宅密集地のため、施行中の振動や騒音の低減など、環境に配慮した施工を行なっております。また、横浜環状南線は、栄I C・JCTで大規模橋梁工事を実施しており、100本を超える橋脚が建設されます。
圏央道(川島〜大栄)の4車線化ですが、施行中の2車線区間に関しては令和8年度までの開通を目指しております。全区間で工事に着手しており、各自治体の協力のもと土工工事、橋梁工事、舗装工事を実施しております。
首都圏中央連絡自動車道(川島~大栄)
東京外かく環状道路(関越〜東名)の工事は令和2年10月に発生した陥没事故を受け、シールドマシンの掘進作業を停止しましたが、令和3年12月に有識者委員会において再発防止対策等をとりまとめ、準備が整ったシールドトンネル工事から掘進作業を順次再開しています。再発防止対策が有効に機能していることを有識者に確認しており、安全に作業を進めているところです。

今年度の新規事業化区間ですが、国道20号新山梨環状道路(桜井~塚原)が事業化されました。新山梨環状道路は甲府市中心市街地から半径およそ5km~7kmの位置に計画された環状道路の一部をなす延長17kmの国道20号のバイパス事業であり、すでに7km区間が事業中となっていますが、令和6年度は新たに甲府市桜井町~塚原町までの延長5.5kmが事業化しました。全体の約9割がトンネル構造となる大規模事業です。
本事業の整備により、甲府市中心市街地の通過交通の排除や交通分散により、国道20号や周辺道路の交通渋滞の緩和や事故の減少が期待されます。また、リニア中央新幹線の整備との相乗効果により、東京圏だけでなく、名古屋、近畿圏との交流促進が期待されます。

設計中は橋梁6事業、トンネル3事業
今年度は国道4号東埼玉道路の橋梁設計を実施、国道 357号東京湾岸道路の有明地区で橋梁上部工事に着手
――2024年度の主要橋梁・トンネル事業の計画と進捗状況について、設計中のものから教えてください
野坂 主要な橋梁事業として、国道4号東埼玉道路の整備を進めています。東埼玉道路は自動車専用部と一般部が併設する延長約17.6kmの道路であり、自動車専用部は埼玉県八潮市から松伏町までの延長9.5kmが事業中です。東埼玉道路沿線では、土地区画整理事業や大型物流施設、大規模店舗が立地し、新規工業団地についても整備中であり、東埼玉道路の整備はこれら開発事業の支援、地域経済の活性化に寄与することが期待されます。東埼玉道路の自動車専用部は主に橋梁構造となっており、今年度は7件の設計業務を発注しています。
また、国道357号東京湾岸道路(東京都区間)では交差点の立体化を進めており、今年度は有明地区の橋梁上部工事(鋼3径間連続合成細幅箱桁橋、橋長150m)に着手します。

国道4号東埼玉道路(外環道から国道16号)
国道357号東京湾岸道路(東京都区間)
トンネル事業については、国道121号日光川治防災を予定しています。国道121号日光川治防災は、日光市五十里から川治温泉川治までの延長3.4kmの防災対策事業です。本事業で新設するトンネル工事は、既設の3つのトンネル(野岩鉄道葛老山トンネル、県道葛老山トンネル、導水トンネル)と交差し、それらと近接した施工が想定されるなど、技術的難易度が高いことから、直轄権限代行により着手しています。
これまでに測量調査、地質調査、トンネルや橋梁の概略設計等を実施しており、地質調査の結果、新たに五十里側のトンネル抗口部において、大規模崩落跡での地山の緩みが確認され、トンネル掘削時の崩落対策など技術的検討が必要なことを確認しています。
今後は既設トンネル交差箇所での施工計画等、工事着手に必要な技術的課題の検討を実施していきます。
国道121号日光川治防災
また、国道464号北千葉道路(市川・松戸)でもトンネル工事を予定しています。国道464号北千葉道路(市川・松戸)は成田空港と都心方向を結ぶ輸送の安定性が向上し、交通転換により国道464号の渋滞が緩和されるほか、国道464号から東京外環への最短経路となり、首都圏と各方面とのアクセス性の向上が期待されています。専用部(自動車専用道路、4車線)と一般部(一般国道、4車線)を整備し、専用部は区間によってトンネルとなるのですが、近隣は住宅密集地となるので施工難度も高い工事となる見込みです。
圏央道などで橋梁上部工事を施工、国道51号線神宮橋架け替えでは台船架設を予定
高速横浜環状南線ではCIMを活用し、上部工架設の施工計画を検討
−−2024年度の主要橋梁・トンネル事業の計画と進捗状況について施工中の橋梁を教えてください
野坂 現在、上部工に着手している橋梁については38橋あり、内訳は鋼橋が27橋、PCが11橋です。
圏央道利根川橋(4車線化)
R3圏央道利根川橋上部工事(橋長約886m、鋼10径間連続合成細幅箱桁橋、茨城県稲敷郡河内町)では、圏央道Ⅰ期線への隣接や、施工ヤードが河川内となる現場状況を踏まえ、送り出し架設、クレーン付台船片持架設を行っています。
台船架設においては、非出水期内での台船を用いた片持架設であり、桁架設段階ごとの変位計測による精度管理や圏央道4車化の供用に向けた工程管理を行っています。
圏央道利根川橋 稲敷市(撮影日R6.9)
国道51号神宮橋架替
R5国道51号神宮橋架替鹿嶋側橋梁上部工事(橋長約275m、鋼6径間連続非合成少数鈑桁橋、茨城県鹿島市)は、新神宮橋(Ⅰ期線)の既設橋梁と隣り合う位置のため、架設箇所は北浦(鰐川)上からの台船架設を予定しております。橋梁桁出来形管理システム(NETIS:QS-220036-A)を採用しており、台船上にセットした橋桁を橋脚上へ架設する際、橋桁を自動追尾計測し、所定の位置、高さ、方向(ミリ単位で自動調整)へ誘導しながら架設を行うというものです。供用中の国道51号新神宮橋(離隔:0.8m)に接触させないための安全管理や、狭隘な作業ヤード(台船・仮桟橋)における施工の効率化を図っています。
国道51号神宮橋架替 鹿島市(撮影日R6.10)
横浜環状南線栄IC・JCT
圏央道を構成する高速横浜環状南線では、横浜環状南線と横浜湘南道路が接続する栄IC・JCT(横浜市栄区田谷町地先)で大規模な橋梁工事を進めています。当該IC・JCTはランプが5層に輻輳する大規模な構造であり、整備する下部工は全124基、上部工は全30橋となっております。この内、令和6年3月末までに下部工120基、上部工9橋が完成しています。残りの下部工3基と上部工18橋(今後発注予定:下部工1基、上部工3橋)については、鋭意、施工を進めているところです。構造物が輻輳し、制約条件が厳しいなかでの上部工架設、さらに、上下部工に係わる複数の施工者が競合する状況のため、各工事間における綿密な工程調整・施工ヤード調整、CIMを使った上部工架設の施工計画検討(隣接橋梁、高圧線等の近接影響検討、ベント構造・配置検討など)を行っています。中でもR2横環南栄IC・JCT本線第4橋上部工事(橋長約178m、鋼3径間連続非合成箱桁橋、神奈川県横浜市)は大規模な工事となっております。
横浜環状南線栄IC・JCT (撮影日R6.10)、横浜環状南線栄IC・JCT 本線第4橋(撮影日R6.10)
国道357号塩浜立体猫実川渡河橋
R4国道357号塩浜立体海側橋梁他上部その2工事(橋長約222m、鋼6径間連続合成少数鈑桁橋、千葉県市川市)、R5国道357号塩浜立体山側橋梁上部その1工事(橋長約160m、鋼3径間連続合成細幅箱桁橋、千葉県浦安市)についてですが、供用中の首都高速道路(上り線:55,000 台/日)と国道357号橋(上り線:35,000 台/日)の間に位置し、狭隘な施工ヤードでの施工となりますので安全に注力してまいります。
国道357号東京湾岸道路(東京都区間)有明橋
R3国道357号有明橋山側下部工事(下部6基:鋼管矢板基礎112本、場所打ちコンクリート基礎杭6本、PHC杭基礎8本、江東区)、R4国道357号有明橋海側下部工事(下部6基:鋼管矢板基礎112本、場所打ちコンクリート基礎杭6本、PHC杭基礎8本、江東区)では、砂層、礫層及び軟弱な粘性土層が混在した地盤であることから、鋼管矢板基礎施工時においては、杭の傾斜や杭心のずれに配慮した施工を進めております。
また、こちらも首都高速湾岸線及び国道357号に挟まれた狭隘な作業空間であり、接触防止等の安全確保や効率的な施工に注力しております。
国道357号有明立体有明橋山側下部(撮影日R6.11)、国道357号有明立体有明橋海側下部(撮影日R6.11)
東関東自動車道水戸線(潮来~鉾田)
主要な橋梁として連続するR4東関道小泉第一高架橋上部工事(橋長約306m、鋼8径間連続非合成少数鈑桁橋、茨城県潮来市)、R4東関道小泉第二高架橋上部工事(橋長約335m、鋼9径間連続非合成少数鈑桁橋、茨城県潮来市)、R4東関道JR鹿島線橋上部工(橋長約304m、鋼7径間連続非合成少数鈑桁橋、茨城県潮来市)の3橋の上部工架設を行っており、いずれの工事においても国道51号やJR鹿島線を跨ぐ工法としてクレーンベント架設を採用しております。
左から東関東自動車道水戸線(潮来~鉾田)小泉第一高架橋、小泉第二高架橋、JR鹿島線橋(撮影日R6.11)
国道18号上田バイパス(延伸)神川橋
R5国道18号上田BP神川橋上部3外工事(橋長約122m、PC3径間連続ラーメン箱桁橋、上田市)では、渡河部のP8橋脚~P9橋脚間は非出水期間中に移動作業車による張出し架設を採用しており、約3mのブロックに分けて橋体を構築し、作業車を前進させ次のブロックの施工を行い、支間中央の桁を閉合する施工方法となっております。本橋の架設においては桁の鉛直方向の変形に加え、横断勾配と平面曲線の組み合わせによる影響から、桁のねじれによる3次元の変形の発生が予測されます。その変形量を考慮した桁の架設や、曲線橋ならではの影響を踏まえたPC鋼材の緊張管理を行っております。また本工事では3Dスキャン計測システム(NETIS:KT-180118-A)を採用。RC床板の平坦性を向上するため、仕上げ作業後に床板面の高さを面的かつ機械的に計測し、平坦性を確認。床板面に凹凸(設計値±3mm以上)がある場合は、所定の高さに修正するシステムとなっております。
国道18号上田バイパス(延伸)神川橋(撮影日R6.11)
−−続いて施工中のトンネルを教えてください
野坂 現在、着手しているトンネルですが4箇所になります。

国道20号 新笹子トンネル
国道20号は山梨県内の重要物流道路となっており、地域の産業・経済を支え、災害時には緊急輸送道路としての役割を担う道路となっております。現在施工中の新笹子トンネルについては、現道トンネルの隣接地に総延長約3kmのトンネル(NATM工法: 発破掘削)の整備を行っております。
国道20号新笹子トンネル(撮影日R6.11)
国道19号防災 山清路トンネル
山清路地区における国道19号は、犀川と山地に挟まれ、現道幅員が7.55mと狭いうえに線形不良箇所や落石等の発生もあり、通行が危険な区間となっております。山清路地区に災害が発生した場合には大きな迂回が必要となってしまうことから、防災事業の一環としてトンネル工事を促進しています。松本側に位置する山清路1号トンネルは既に完成しており、現在は延長約1.1kmの山清路2号トンネル(NATM工法:発破・機械併用掘削)の施工を鋭意、進めております。
国道19号防災山清路トンネル(撮影日R6.11)
国道246号 厚木秦野道路伊勢原第一トンネル
国道246号の厚木~秦野間においては慢性的な渋滞が発生しており、円滑な交通機能の確保が課題となっていることから、厚木秦野道路の整備によりバイパス効果が期待されているところです。
また、第一東海自動車道(東名)、第二東海自動車道(新東名)、さがみ縦貫道路と連結し、高速ネットワークと一体となって地域交通の強化・円滑化を図ることを目的としております。
現在、延長約500mの伊勢原第一トンネル(NATM工法: 機械掘削)の施工を進めておりますが、当該トンネルは、低土被りかつ脆弱な地山となるため、特に慎重な施工が必要と考えております。また、トンネルずりの運搬は、1日約80台のダンプトラックが現道を利用することになるため、周辺環境に配慮した施工を進める予定です。
国道246号厚木秦野道路 伊勢原第一トンネル(撮影日R6.11)
国道158号 奈川渡改良1号トンネル(権限代行)
奈川渡地区の国道158号は、梓川に沿った急峻な山岳地帯を通過しており、さらに防災危険箇所や線形不良箇所が集中していることから、道路利用者の安全性を確保するため事業を進めております。
改良事業工区の松本側においては、奈川渡2号トンネル、大白川大橋が既に完成しており、現在は、延長約400mの奈川渡1号トンネル(NATM工法: 発破・機械併用掘削)の施工を進めております。国道158号は、長野県有数の観光地である上高地への唯一のアクセス道路であり、工事実施にあたっては、地元関係者との綿密な調整が必要となります。なお、現地は急峻な地形やダム湖と近接していることから施工難易度が極めて高く、長野県より権限代行を受け事業を進めているところです。
国道158号奈川渡改良(権限代行)(撮影日R5.7)