国土交通省 関東地方整備局 野坂周子道路部長インタビュー
施行中の安全のためのDXへの取り組み
SFRCによる床版補強を実施
−−経年劣化や疲労などによる上部工補修・補強のここ3年の実績と2024年度の施工計画について、また鋼床版の疲労亀裂に関する詳細調査および要補強対策工について該当橋についてお答えください。また、コンクリート桁・床版部においてどのような損傷がでているか教えてください
野坂 上部工補修・補強および鋼床版の疲労亀裂について、過去3年間の実績と2024年度の計画は、東京国道事務所が2件(国道357号荒川河口橋、葛西高架橋)、千葉国道事務所が1件(国道357号舞浜大橋)であり、それぞれで詳細調査と工事を実施しております。
地形上の理由から支間が長い橋が多く、鋼床版が採用されています。補修・補強の内容は定期点検で確認された亀裂へのあて板と再発を防止するためのSFRC舗装による床版補強です。
これまでにSFRC舗装を実施した主な橋梁は荒川河口橋(海側)、荒川河口橋(山側) 、葛西高架橋(海側) 、葛西高架橋(山側) 、舞浜大橋(海側)です。
コンクリート桁や床版においては、前述のコンクリート橋の損傷および補修のとおり、断面修復や剥落防止等を中心に進めております。
−−加えて整備局が管理する橋梁における床版防水の施工状況、今後の施工方針、採用する工法などを教えてください
野坂 橋梁の保全にあたり、浸水対策は最も重要な対策の一つと認識しています。そのことから、橋面舗装の更新時に、床版防水層を施工することとしております。採用する工法(塗布系、シート系)については、施工性や経済性等を踏まえて総合的に判断しております。
−−支承取り換えや、ジョイントの取り替えおよびノージョイント化について今年度の施工予定個所数と取替える際の工法・種類をお答え下さい
野坂 順次必要に応じて取り替えを行なっております。今年度に支承を更新する工事は15件、ジョイントを更新する工事は20件を予定しております。
−−塩害、アルカリ骨材反応などによる劣化の有無。劣化があればどのような形で出ているか(劣化部位やその劣化程度、面積)、またその対策工法などを具体的な橋梁などを挙げてお答えください。
野坂 塩害とアルカリ骨材反応は定期点検にて確認されています。部位は、それぞれの特徴的な変状が確認されています。橋梁の箇所についても同様です。対策にあたっては、その橋梁の諸元やこれまでの維持管理、取り巻く環境を踏まえる必要があります。対策の検討や工法の検討にあたっては、塩害は補修時に内在塩分の除去について忘れないことや、アルカリ骨材反応への対策では、水の浸入を防ぐとともにその対策により水を構造物内部に留まらせない配慮も忘れないことなど留意点について、整備局主催の研修や講習等により指導しているところです。
2024年度鋼橋塗り替えは46橋、約27,000㎡を予定
耐候性鋼材を採用した橋梁は33橋、早期措置段階の橋梁は5橋
−−2023年度の鋼橋塗り替え実績(橋数と面積)と、2024年度の鋼橋塗り替え予定(同)は。また塗り替えの際の全体的・部分的な用途でもいいので溶射など新しい重防食の採用などについてもお答えください。
野坂 2023年度は36橋、約21,000m2を施工しており、2024年度は46橋、約27,000m2を予定しております。塗り替えの際に、金属溶射等の新しい重防食の採用はいまのところ予定はありません。
−−PCBや昨年の厚生労働省・国土交通省から出ている2014年5月30日に出た文書をはじめとした一連の文書・通達を受けて、鉛など有害物を含有する既存塗膜の処理についてどのような方策をとっているのか教えてください。
野坂 塗り替えにあたり、事前に塗膜調査を実施して、その結果により必要な対策(飛散防止対策や作業員の健康被害を防止するなどの必要な対策)を実施した上で施工しています。
−−耐候性鋼材を採用した橋梁で錆による劣化・損傷が報告されている事例が出てきていますが、整備局では採用事例が何橋あり、現状どのような健全度を示しているのか教えてください。
野坂 関東地方整備局が管理する橋梁では耐候性鋼材を採用した橋梁は33橋あり、そのうち耐候性を採用した部材(主桁や横桁)などで早期措置段階の橋梁は5橋あります。
耐候性鋼材は、色を選択できないことや保護性サビが安定するまでサビ汁が垂れて第三者へ被害を及ぼす等の配慮が必要なことから、都市部での採用は配慮事項も多く、結果として関東地方整備局における採用はそれほど多くありません。また、Ⅲ判定の橋梁は、耐候性鋼材の弱点である凍結防止剤を毎日散布する路線にて多く見られています。
斜面や盛土の対策については5ヶ年加速化対策にて法面対策
−−全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいます。河積阻害率の高い橋梁の改良や補修もしくは更新(架替)、道路に面する斜面や、古い法面、盛土構造などをどのように補強・補修して道路を守っていくのか具体的な事例や計画などがございましたら教えてください。また具体的な要対策箇所数と進捗状況などについても教えてください
野坂 河積阻害率の高い橋梁の改良や更新については、今のところ多くは取り組めていませんが、台風時に被災した橋梁の復旧にあたっては、河積阻害について解消するように努めています。
斜面や盛土については5ヶ年加速化対策にて法面対策等を進めています。
相武国道事務所では、国道20号相模原市吉野地先において、豪雨による土砂災害の発生を未然に防止するため、過去に発生した土砂崩落により被災した法面の対策としてコンクリート法枠工事を実施しています。
AIカメラを活用したスタッドレスタイヤ自動判別システム
利用者と職員の負担が軽減
−−新技術や、コスト縮減策または独自の新技術・新材料などの活用について
野坂 新材料の活用として、横断歩道橋の床版は痛みが激しく、更新することが最近増えてきており、その際にFRP等の高耐久性の材料を採用しています。
AIカメラを活用したスタッドレスタイヤ自動判別システムを宇都宮国道事務所が試験的に導入しています。従来は全ての車両に停止を求めて職員がタイヤのチェックを行っていましたが、本システムの導入により、約8割の車両は停車を求めることなく通過できるようになり、道路利用者と職員の双方の負担が軽減されました。
直轄診断では3件、修繕代行事業では2件の実績
秩父橋の直轄診断、修繕代行を関東道路メンテナンスセンターが中心となって対応
−−特殊・長大橋梁の架替や大規模修繕、長大トンネルの修繕事業等について。また権限代行で自治体が保有する橋梁などの構造物の点検や補修補強もしくは架替を行う事例の進捗中案件などについて教えてください
野坂 国の地方公共団体への支援策として、直轄診断・修繕代行事業があります。関東地整ではこれらの支援策について、直轄診断では3件、修繕代行事業では2件の実績があります。
最近では、埼玉県秩父市が管理する秩父橋の直轄診断、修繕代行を関東道路メンテナンスセンターが中心となって対応して、令和4年度に完了しました。これらは地方公共団体からの要請に基づき対応していく事業ですが、各都県の道路メンテナンス会議にて支援策を継続して案内するとともに、いつでも対応できるように技術力も継続して向上を図っているところです。
※関東道路メンテナンスセンターにおけるこれまでの地方自治体への技術支援実績は106件(令和6年11月30日時点)
安全安心の取り組みにDXを活用
省人化と施工の正確性の向上をするDX技術に今後も取り組んでいきたい
−−新設・災害復旧・保全問わず、安全性の向上、業務の効率化やDXの活用事例について教えてください
野坂 国道357号塩浜立体山側橋梁上部その1工事においては、DX技術を活用した建設現場における安全管理や現場管理の高度化手法を求め、工事発注を行いました。 橋梁上部工事に係わる安全管理について、これまでは安全監視員による目視確認等を実施しており、現場管理においては、図面と現場の整合性確認や計測管理手法がアナログ的に行われていましたが、3DモデルやICT技術等を活用することで安全や品質の確保ができます。これら技術の活用により、作業時間の短縮、立ち会い・検査(帳票等作成含む)の効率化、及び生産性の向上など、働き方改革に寄与していくことに期待しています。
また、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みとして(i-Constructionの一環)システム足場等の新技術を採用しました。墜落事故などから現場の方々の安全安心を守るため作業が危険である現場から採用を進めております。
今後も経済性にとらわれることなく、施工性の向上、適正工期の確保、及び確実な安全対策の実施等を総合的に判断し、より効果的な足場の選定を進めているところです。
保全分野は、全国道路施設点検データベースと連携して、過去の点検結果や補修の履歴等の活用が可能な環境を構築し、合理的かつ効率的なメンテナンスを推進しています。
省人化と施工の正確性の向上をするDX技術は今後も一層発展してほしいと思っております。そのような新技術にも貪欲に取り組んでいきたいと考えております。
−−ありがとうございました