国土交通省 関東地方整備局 野坂周子道路部長インタビュー
3,547橋、107トンネルを管理
国道246号 渋谷駅西口地下歩道工事では4Dシミュレーション、VR、ARを活用
国道20号新笹子トンネルでは3次元データを契約図書とした場合の効果・課題を検証
−−新設における新技術・新材料の導入事例について教えてください。
野坂 国道246号 渋谷駅西口地下歩道工事は、道路橋、歩道橋等の既設構造物や工事に必要な仮設物(山留・支保工)が多数存在し、限定的かつ狭隘な施工空間での作業となります。
また、国道上においては、夜間の車線規制時間内に作業が完了するよう、日々効率的な作業を行うことや、交通管理者、施設管理者、周辺開発事業者等、多数の関係機関協議が必要となります。以上の状況を踏まえ、4Dシミュレーションを活用した日々の施工量の確認、VRによる施工検討や施工段階前でのリスク抽出、ARを活用した工事進捗状況の共有を行いました。
国道20号 新笹子トンネル工事では、「3次元データを契約図書とする試行ガイドライン(案)」に基づき工事契約を締結し、3次元データを契約図書とした場合の効果・課題の検証を行いました。効果・課題の検証にあたっては、「監督検査」、「変更協議」の効率化を目的としており、対象範囲については、トンネル坑口部(坑門工)を計画しています。なお、坑口部(坑門工)の施工は令和8年度以降を予定していることから、3次元データを契約図書とした場合の効果・課題の検証についても令和8年度以降の実施となる見込みです。
設計プロセスの初期段階から幅広く対応案を
検討しておくことは事業管理する上でも重要
−−土木学会では2023年5月に「橋の計画と形式選定の手引」を発刊しました。新設橋の予備設計や道路計画段階時点で様々な形式選定や、リスク管理、新技術の導入などを検討し、しかもプロセスの過程を残しておくことで、後工程に資する橋梁計画や予備設計となることを目指したものです。予備設計段階では、地質や住民との合意形成など不確定要素があり、かつ同時点での新技術についても有望ながら信頼性の点で断念することもありました。しかし、予備設計段階から実際の工事に入るまでは通常でも3~5年程度かかり、その間で所与の条件やより詳細な情報、新技術の信頼性も向上することから、議論の過程を残し、予備設計の最適案も無理に1つにしないことで、後工程の選択の幅を広げるようにしたことが最大のメリットです。同手引きの活用についても今後行っていくか教えてください
野坂 関東地方整備局としても事業化後の事業費や工程に対するリスク管理が課題と認識しております。国土交通省では、昨年度からトンネルが大部分を占める道路等の大規模プロジェクトを対象に、工事着工前の調査・設計段階において重点的な調査を実施する取り組みを始めたところです。関係機関協議等の進捗に応じて明らかになっていく諸条件により、当初想定していた標準的な設計から現地状況に応じた設計に変更が発生し、結果として、事業費の上振れや工程遅延が懸念されることから、設計プロセスの初期段階から幅広く対応案を検討しておくことは事業管理する上でも重要だと考えます。また、人手不足により熟練の設計技術者が少なくなっていくなか、若手職員への技術力の継承も喫緊の課題となります。橋梁設計に初めて携わる職員が本手引きを参考とし、自主的に必要な知識を身につけられるような環境が整うことで、技術力向上だけでなく、働き方改革にも寄与するものと思っております。
3,547橋、107トンネルを管理
地域の特性上交通量が多く、Ⅲ判定の橋は増加傾向
−−次に保全についてお答えください。現在の管内橋梁・トンネルの内訳は
野坂 橋梁に関しては全体数は3,547橋、橋種別は鋼橋が約4割、PC橋が約2割、RC橋が約4割、供用後50年以上経過した橋梁は、1,351橋、供用後50年未満の橋梁は、2,131橋、100m以上の長大橋は681橋、最も橋の多い路線は国道17号となります。
トンネルの全体数は、107トンネル。形式別としては、山岳トンネル(NATM・矢板工法)が約8割、その他が約2割、供用後50年以上経過したトンネルは50トンネル。供用後50年未満のトンネルは57トンネル。1,000m以上の長大トンネルは11トンネル。最もトンネルの多い路線は国道127号です。
橋種別の劣化状況として特徴的なのは、鋼橋では主桁端部の腐食や亀裂が顕在化している傾向が見られることです。原因の主なものとして、排水枡が土砂で詰まったり、伸縮装置の止水が損傷して主桁の端部に雨水が流れ込むことによるものです。コンクリート橋(PC、RC)では雨水の浸入に伴う内部の鋼材の腐食膨張によるコンクリートの剥落が見られます。原因の主なものとして、経年劣化による舗装やコンクリートのひびわれからの雨水が浸入したことによるものです。部位別の劣化状況として特徴的なのは、重交通路線の鋼床版において、疲労亀裂や主桁端部における腐食した事例が顕在化してきています。亀裂は交通量に応じて蓄積した疲労によるもので、供用後に着実に疲労が蓄積された証左と理解しております。
2巡目の点検結果では新規にⅢ判定以上と診断された橋梁が全体の1割に上り、直近5年間で橋梁の老朽化による損傷が着実に進んだものと理解しております。地域の特性上、交通量も多く、Ⅲ判定で補修を施した箇所以外の箇所が次の点検においてまたⅢ判定になることもあります。一度で修繕完了とならない場合もありますが、補修を継続してまいります。
トンネルの劣化状況については、うき・剥離、路面の滞水、補修材の劣化が見られ、材質劣化に伴う損傷が多い傾向です。
有事平時を問わずに関東地方の交通インフラが機能するように
将来に備えた実践的な計画を策定し対策を進める
−−橋梁など耐震補強の進捗状況(耐震性能2)、および2024年度の対策予定についてお答えください。また、熊本地震や今回の能登半島地震に対応した耐震対策についても知見をもとにどのようなことが改めて必要になっていると考えているかお答えください
野坂 今後、発生が懸念される首都直下型地震には、道路啓開計画(八方向作戦)を策定し、地震発生後48時間以内に都心への啓開ルートの確保を目指しております。
そのための地震対策として施工条件が極めて厳しい渡河橋の橋脚補強や段差防止構造の施工にあたり、民間技術が活用しやすいECI方式による発注の採用等にも取り組んでいます。このように、有事平時を問わずに関東地方の交通インフラが機能するように、日々、道路事業を通じて災害対応能力を高め、将来に備えた実践的な計画を策定し対策を進めています。
熊本地震では、高速道路上に架かる水平方向の抵抗力が極めて低いロッキングピアを有する橋梁が落橋しました。この被害によりロッキングピアの耐震補強に注力しており、関東地方整備局が管理する道路橋のうちロッキングピア形式は15橋ありますが、現在残り1橋(国道1号 青木橋)を対策中です。
2024年1月の能登半島地震では、災害対応の課題を改めて認識しました。昨年の1月2日からTEC-FORCEを派遣し、北陸地方での技術支援や自治体支援を実施しましたが、救援や復旧に時間を要したことから、半島部における道路整備の重要性を改めて認識しました。道路構造物の観点では「のと里山海道」の土工部が多数崩落したことにより、盛土法面の点検に着手しています。能登半島地震の全盛土の被災状況を調査・分析した結果から、対象盛土を「高さ概ね10m以上、集水地形にある盛土」として緊急点検を令和6年11月までに実施しています。
剥落防止シートに透明タイプを用いることで表面の変状を把握
−−橋梁の長寿命化修繕計画にもとづいた対策の進捗状況についてお答えください。また具体的な損傷状況と補修補強内容についても例を挙げていただけましたら幸いです。トンネルの点検状況、トンネルついて橋梁のような長寿命化修繕計画を企図した補修補強計画の進捗状況を教えてください
野坂 各施設の個別施設計画を策定して逐次、修繕に取り組んでおります。 進捗状況は協議等により補修時期を見直すこともありますが、当該年の進捗は、整備局としても逐次確認しているところです。鋼橋に関しましてはあて板での補修、コンクリート部材の断面補修が主な補修となっております。 中にはセンサーをつけて管理することもあります。
床版の剥落防止は落下により社会的影響が大きくなる跨線橋等を中心に実施しており,部材を覆ってしまうことからその後の定期点検にも影響を少なくするため、橋梁によっては躯体表面の変状が容易に目視確認できる透明タイプを用いることもあります。
トンネルの措置内容は、剥落防止対策や漏水対策、断面修復が多くなっている傾向にあります。